第18話 支柱の英雄
王都に鐘が鳴り響く。
高い城壁の向こう、地平線を埋め尽くす黒い影が迫っていた。
「……来たか」
エレナが槍を握り、苦笑する。
「見ろよアレン。あれが大魔王軍ってやつだ。数、軽く万は超えてるぜ」
黒煙のような瘴気を纏った軍勢。
無数のリザードマンや闇狼がうごめき、さらに空には黒き飛竜が旋回している。
その先頭に立つのは――黒き鎧に身を包んだ男。
「ライオネル……」
俺は胸を掴まれるような感覚を覚えた。
彼はすでに完全に“堕ちた勇者”として蘇っていた。
背後に浮かぶ大魔王の影は、彼を操る傀儡であり、同時に剣でもある。
「王都を守り抜け!」
将軍の号令が響き、兵士たちが一斉に武器を構える。
だが兵たちの顔には恐怖の色が濃い。
数も力も圧倒的に劣る。
心が折れれば、それだけで陣は崩れるだろう。
「アレン様」
セリアが俺を見つめる。
「……今こそ、あなたの力が必要です」
イリスも頷いた。
「兵士たちの心を繋げるのは、祈りだけじゃ足りません。アレン様の支援があれば――」
「わかってる」
俺は杖を高く掲げた。
「支援魔法――全域展開!」
光が爆発し、城壁を覆うように広がる。
兵士たちの身体が軽くなり、恐怖が消え、胸に勇気が満ちていく。
「おお……力が湧いてくる!」
「まだ戦える……!」
歓声が上がり、兵士たちの目に光が戻った。
「これが……アレン殿の力か!」
将軍が驚愕と共に叫ぶ。
「そうだ」
俺は胸を張る。
「俺はただの従者じゃない。支柱の英雄だ。――この国を守るため、仲間と共に戦う!」
軍勢が押し寄せ、戦いの火蓋が切られた。
矢が飛び、炎が爆ぜ、剣戟が響く。
「突破されるな! 踏ん張れ!」
兵士たちの士気は高まり、必死に戦線を維持する。
「炎よ、全てを焼き払え!」
セリアの魔法が轟き、黒き飛竜を撃ち落とす。
「癒しの光よ、勇気を絶やすな!」
イリスの祈りが兵士の傷を癒し、絶望を払う。
「うおおおおっ!」
エレナの竜槍が突進し、敵陣を薙ぎ払った。
そして俺は、後方から全員を支え続ける。
支援魔法は仲間を強化するだけでなく、兵士一人一人を繋ぎ合わせる。
光の糸が無数に広がり、城壁を支える巨大な柱のように輝いた。
だが、その時。
黒き勇者ライオネルが一歩前に進み出た。
「アレン……! 見せてみろよ、お前の支柱の力とやらを!」
彼が剣を振り上げた瞬間、天地を揺るがす衝撃が走った。
闇の波動が兵士たちを吹き飛ばし、城壁に大穴が開く。
「うわあああっ!」
兵士たちが悲鳴を上げる。
「くそっ……!」
俺は即座に結界を展開し、瓦礫から兵士たちを守った。
ライオネルの力は桁外れだった。
もはや人間の枠を超え、大魔王そのものの化身と化している。
「アレン!」
セリアの炎がライオネルに降り注ぐが、彼は剣一振りで掻き消す。
「くっ……」
イリスの光も、闇の瘴気に弾かれる。
「ハッ、今の俺に聖女の祈りなど効かぬ!」
ライオネルが嗤う。
「ならこれだぁぁっ!」
エレナの槍が突き刺さる――だが、黒鎧に阻まれ、逆に弾き飛ばされる。
「ぐはっ……!」
エレナが地に叩きつけられる。
「エレナ!」
俺は急ぎ回復を送り込む。
「アレン……! こいつ……マジでやばい……!」
それでも彼女は立ち上がり、再び槍を構えた。
「どうした、アレン!」
ライオネルが剣を振り下ろす。
俺は杖で受け止め、全身に衝撃が走る。
「……まだだ!」
俺は仲間たちの力を再び集束させた。
「共鳴支援――全解放!」
光が兵士たち、仲間たちを一つに繋ぎ、城壁全体が輝きだす。
「うおおおおおっ!」
兵士たちが再び立ち上がり、闇の軍勢を押し返す。
「……これが、アレン様の力……!」
セリアが涙を流しながら呟いた。
「支柱……本当に国を支えているんですね……」
イリスの声は震えていた。
「当たり前だろ!」
エレナが笑う。
「こいつは……私たちの支柱だからな!」
光と闇が激突し、戦場は震えた。
ライオネルの剣と、俺たちの絆がぶつかり合い――
「ぐああああああああっ!」
ライオネルが膝をつき、黒鎧がひび割れる。
一瞬、彼の瞳に人間だった頃の光が戻った。
「……アレン……助けてくれ……」
「ライオネル……!」
俺は手を伸ばす。
だがその時、頭上に巨大な影が広がった。
空を覆うほどの漆黒の姿――大魔王ガルヴァスの本体が、ついに現れたのだ。
「……よくぞここまで持ちこたえたな、人間ども」
大地を震わせる声が響く。
「だが遊戯は終わりだ。次で、この国も、この世界も終わる」
王都の人々が絶望に震える中、俺は杖を握りしめた。
「いいや……終わらせはしない」
声が自然と出た。
「俺は追放された従者だ。だが今は――支柱の英雄だ!」
仲間たちが俺の隣に並ぶ。
セリア、イリス、エレナ。
そして、かつての勇者ライオネルも苦悶の表情で、かすかに頷いた。
「……アレン……最後に……俺の力を……使え……」
彼の剣が光を帯び、俺の杖へと重なった。
いよいよ、最終決戦の幕が開こうとしていた。
✅ 次話予告
「新たなる伝説」
大魔王ガルヴァスとの最終決戦!
支柱の英雄アレンと仲間たちは、国を、人々を、未来を守れるのか――。