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第16話 勇者との再会

 王都南門。

 夕暮れの陽が城壁を赤く染める中、そこに立つ男の姿を見た瞬間、胸がざわめいた。


「……ライオネル」


 かつて共に旅した勇者。

 だが今、その姿は見る影もなかった。

 赤黒く濁った瞳、黒い瘴気を纏った剣。

 英雄ではなく、魔王の眷属の一部に成り果てていた。


「来たか、アレン……!」

 ライオネルの声は掠れていた。

 怒りとも嫉妬ともつかない激情が混じり合い、耳を刺す。


「お前さえいなければ……俺は、今も人々に讃えられていた! 王女も、聖女も、竜騎士も……すべて俺のものだった!」


「……違う」

 俺は静かに首を振った。

「お前が英雄でいられたのは、仲間がいたからだ。俺も、その一人だった。それを自ら捨てたのは――お前だ」


「黙れぇぇぇッ!」


 ライオネルが吠え、黒剣を振りかざす。

 闇の衝撃波が走り、石畳を砕いた。

 兵士たちが悲鳴を上げて後退する。


「アレン様、危険です!」

 セリアが詠唱を開始する。


「いや……」

 俺は手で制した。

「これは俺が受け止めるべき戦いだ」


「……アレン」

 イリスが悲痛な声で呼ぶ。


「心配するな。支柱は倒れない。……だから、信じてくれ」


 三人が頷き、後方で援護の構えを取る。

 俺は杖を握り、ライオネルと対峙した。


「行くぞ、アレン!」

 ライオネルの突進。

 黒剣が空を裂き、凄まじい衝撃波を放つ。


「支援展開!」

 俺は自身に魔法を重ね、瞬時に動きを強化する。

 身体が軽くなり、視界が広がる。

 かつては守るだけだったこの力を、今は自分自身の武器にも変えられるのだ。


 剣と杖が激突し、火花が散る。

 圧倒的な力。

 だが、押し潰されることはない。


「……ライオネル、お前は変わった。だが――俺も変わったんだ!」


 闇に抗うように、光を放つ。

 衝撃が弾け、二人は互いに後退した。


「なぜだ……なぜお前ごときが俺に立ち向かえる!」

 ライオネルの怒号。

「俺は勇者だぞ! 選ばれし存在だ! アレン、お前はただの従者だろうが!」


「そうだ。俺は従者だ。仲間を支える、それが俺の役目だ」

 胸を張って答える。

「だが今は違う。仲間が俺を必要としてくれる。……だから俺は、従者でありながら英雄でもある!」


 その言葉にライオネルの瞳が一瞬揺らぐ。

 だがすぐに憎悪がそれを塗りつぶした。


「ならば証明してみろ! 俺が……勇者であることを!」


 再び剣が振り下ろされる。

 今度は闇の瘴気をまとい、地面を裂き、炎のような黒い光を撒き散らす。

 人間の力を超えた一撃。


「アレン!」

 セリアたちの声が飛ぶ。


「……任せろ!」


 俺は三人から流れ込む“信頼”を力に変えた。

 セリアの魔力、イリスの祈り、エレナの闘志――それらすべてが俺を支えている。


「支援魔法――共鳴解放!」


 光が爆発し、仲間と俺を繋ぐ絆が形を成す。

 その瞬間、俺の杖は眩い光槍へと変わった。


「なっ……!」

 ライオネルが目を見開く。


「これが……仲間と共にある“支柱”の力だ!」


 光槍が黒剣を受け止め、激突する。

 闇と光がぶつかり合い、轟音が王都に響いた。


 数瞬の拮抗。

 やがて、黒剣が砕け散った。


「ぐ……ああああああッ!」


 ライオネルの身体を包んでいた瘴気が弾け、彼は地に叩きつけられる。

 剣は消え、ただの男へと戻りつつあった。


「ライオネル……」

 俺は息を切らしながらも、彼に歩み寄った。


「まだ間に合う。戻れ。お前は本来、勇者だったはずだ」


「……俺は……」

 赤黒い瞳が揺れる。

 その中に、一瞬だけかつての光が戻ったように見えた。


 だが――。


「甘いな」

 闇の声が響いた。


 突如、ライオネルの身体から瘴気が噴き出し、彼の意識を再び飲み込んでいく。

 大魔王の影が、背後で不気味に笑った。


「この者はもう我が手の中だ。次に会う時、完全なる“堕ちた勇者”として立ちはだかろう」


「やめろ……!」

 俺の叫びも虚しく、瘴気はライオネルを飲み込み、その姿を闇の中に消し去った。


 残されたのは、静まり返る王都の広場と、胸に残る痛みだけだった。


「アレン様……」

 イリスの声が震える。


「……必ず、取り戻す」

 俺は握り拳を震わせながら誓った。

「勇者ライオネルを。闇に堕ちたままにしておくわけにはいかない」


 追放された従者と、堕ちた勇者。

 運命の戦いは、まだ始まったばかりだった。


次話予告


「闇に堕ちた勇者」

ライオネルは完全に大魔王の僕として蘇る。

かつての仲間が敵となり、アレンたちに最大の試練が迫る――!

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