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第15話 勇者の堕落

 王都の片隅にある古びた酒場。

 昼間から酔客が騒ぐその一角で、ひときわ乱れた姿をした男がいた。

 かつて人々に“勇者”と讃えられたライオネル。


「……アレン、アレン……!」


 酒瓶を掴んでは飲み干し、濁った目で虚空を睨む。

 その姿は、もはや英雄ではなくただの落人だった。


「くそ……どうしてだ。なぜ俺じゃなく、あいつなんだ……」


 拳を握りしめても答えは出ない。

 街で聞こえるのは「支柱の英雄アレン」の名ばかり。

 自分の名は人々の口から消え、ただ酒場の片隅で嗤われる存在になり果てていた。


「……勇者様も落ちぶれたもんだな」

「聞いたか? この前の討伐も結局失敗したらしいぜ」

「アレン殿がいれば違ったんだろうが……」


 酒場の噂話が耳に刺さる。

 ライオネルは立ち上がり、テーブルを叩き割る勢いで拳を振り下ろした。


「黙れぇぇぇ!」


 酔客たちが一斉に凍りつく。

 怒り狂う彼の姿は、かつての勇者の面影を失い、ただ惨めな哀れみを誘うだけだった。


 夜。

 酔いにまかせて王都の裏路地を歩いていると、不意に声が響いた。


「……力が欲しいか」


 冷たい風に乗って、どこからともなく届く囁き。

 闇の中から姿を現したのは、黒いフードを纏った異形の影だった。


「誰だ……?」

 ライオネルが睨みつける。


「お前の渇望は聞こえている。アレンに奪われた栄光を取り戻したいのだろう?」


「……ッ!」

 図星を突かれ、息を呑む。


「ならば簡単だ。大魔王ガルヴァス様に仕えよ。そうすればお前に再び“勇者以上”の力を与えてやろう」


 ライオネルの胸に、甘い囁きが広がる。

 思い出すのは人々の嘲笑と、アレンの名を讃える声。

 あの屈辱を晴らすことができるのなら……。


「……俺は、勇者だ。俺が……英雄でなくてはならない!」


 その叫びと共に、ライオネルは差し出された闇の手を掴んでしまった。


 翌日。

 彼の仲間たち――魔導士リュカや戦士ガルドは、異変に気づいていた。


「ライオネル様……その身体……!」


 彼の瞳は赤黒く濁り、皮膚の一部から黒い瘴気が漏れていた。

 握る剣は禍々しい光を帯び、見る者を震え上がらせる。


「ふふ……これが本物の力だ。アレンなど比べものにならん!」


「やめてください! その力は……!」

 リュカが必死に叫ぶが、ライオネルは耳を貸さなかった。


「裏切り者どもが! 俺を見捨てたのはお前たちだろう!」


 仲間たちにまで剣を向け、狂気に呑まれていく。


 一方その頃、俺たちは王城で新たな任務の準備をしていた。

 だが、伝令が駆け込んでくる。


「報告! 勇者ライオネル様が……人前で闇の力を使い、仲間に刃を向けたとのこと!」


「なに……!?」

 セリアが蒼白になる。


「やはり……彼は嫉妬と絶望に囚われてしまったのです」

 イリスが悲しげに瞳を伏せた。


「チッ、愚か者め」

 エレナは槍を握りしめる。

「もう勇者じゃねえ。敵だ」


 胸の奥が痛む。

 だが、俺も理解していた。

 ライオネルは、もはやただの英雄ではなく――大魔王の眷属へと堕ちかけている。


「……俺が止める」

 俺は低く呟いた。


 かつて同じ隊にいた仲間。

 自分を追放した張本人。

 だがその彼が、今は闇に堕ち、人々を脅かす存在になろうとしている。


「アレン様……」

 セリアが不安げに見つめる。


「大丈夫だ。俺は支柱だ。みんなと共に――必ず止めてみせる」


 胸の奥で熱が燃え上がる。

 追放された従者と、堕ちた勇者。

 二人の運命は、もう避けられない場所で交わろうとしていた。


次話予告


「勇者との再会」

かつての仲間との再会は、友情でも和解でもなく――刃を交える戦いだった。

アレンとライオネル、二人の運命がついに衝突する!

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