第1話 役立たず従者、追放される
「アレン。――お前はもう、いらない」
石造りの広間に、勇者ライオネルの冷たい声が響いた。
王から直々に選ばれた“勇者パーティ”の一員。その従者として雑務を担ってきたのが、俺――アレンだ。
十年近く、食事の用意から装備の点検、地図の作成、仲間の体調管理まで、あらゆることをこなしてきた。
だが今日、唐突に告げられたのは――追放。
「待ってください! 私たちはアレンに何度も助けられて……」
唯一かばってくれたのは、僧侶の少女ミーナだった。
しかし、勇者ライオネルは鼻で笑い、俺を見下ろす。
「支援魔法? そんな地味な術、俺たちには不要だ。剣も振れず、魔法も撃てず、ただ後ろでブツブツ唱えてるだけの無能。お前がいなくても、俺たちは最強だ」
「……っ」
胸が締めつけられる。
だが、否定はできなかった。俺の唯一のスキル〈支援魔法〉は、味方の力をほんの少し底上げするだけ。派手さもなければ、一撃必殺の威力もない。
だから、ずっと軽んじられてきた。
「この先は大魔王との決戦だ。足手まといは連れて行けない。これは全員一致の決定だ」
広間の壁際に並ぶ仲間たち――魔導士、戦士、弓使い――誰も俺を庇おうとしなかった。
俺は唇を噛みしめ、最後の希望を口にする。
「……では、せめて最後に言わせてください。どうか、皆さん――」
俺が口を開きかけた瞬間、ライオネルは手を振った。
「出て行け。もう顔も見たくない」
突き放すように言われ、兵士たちが俺の腕を乱暴に掴む。
引きずられるようにして、王城の門の外へ。
冷たい夜風が頬を打ち、暗い街並みが目に映る。
――こうして俺は、十年間仕えてきた仲間から追放された。
小さな宿に身を潜め、荷物を整理する。
残されたのは、古びた鞄と、魔力を少しだけ帯びた杖。それに――
「……支援魔法、か」
無意味だと罵られた唯一のスキル。
けれど本当は――俺だけが知っている。
この〈支援魔法〉は、単なる補助ではない。
対象の成長速度を何倍にも引き上げ、潜在能力を極限まで引き出す。
勇者ライオネルが短期間でここまで強くなったのも、戦士や魔導士が驚異的な力を得たのも――すべて俺の支援の結果だった。
「……まあ、もういいさ」
悔しさと同時に、どこか肩の荷が下りた気もする。
仲間に裏切られた以上、俺が彼らを思いやる理由もない。
「明日からは、自由に生きよう。辺境にでも行って、のんびり暮らすか」
そう呟いたとき、不意に宿の扉が叩かれた。
――コン、コン。
「……誰だ?」
恐る恐る扉を開くと、月明かりに照らされて立っていたのは、一人の女性。
豪奢な衣服に、夜の湖のように澄んだ瞳。
「あなたが……アレン様ですね?」
「え?」
声をかけてきたのは、この国の第一王女――セリア・フォン・アルトリース殿下だった。