第8話
時は遡り幸治と守途が目覚める現実時間10分前。
「ん…?ここは何処だ…?」
真帯が目を覚ますとそこは岩に覆われた広い砂漠のような所だった。
「俺等さっきまで戦ってて竜巻に巻き込まれて…?あ!おい起きろ星奈」
「……うーん。…ハッ!ここ何処なの!?」
真帯は星奈を見つけて頭に響かない程度の声量で星奈を起こした。
星奈も寝起きでぼやけた頭で考えたが真帯と同様にこの状況に理解が出来ずにいる。
「2人ともようやく目が覚めたようだな。初めまして。私は神殿の遣いの甲鳴と申す」
「「………」」
真帯と星奈の頭の中に声が響いて2人ともきょとんとした。その後真帯は直感的に理解して口元に人差し指を立てて星奈に甲鳴の話に集中するように合図した。
(分かってるって)
星奈は苦笑いをして頷いた。
「ここは夢と現実の狭間の世界である。今から君達を試させてもらう。この砂漠を進んだ所にある泉の水を一掬い飲めば合格だ。この世界は現実の時間より遥かに速く進むから安心すると良い。ただしここら一帯にいる魔物から逃げたら失格とみなす。ちなみに幸治と守途とやらも今頃は試練を受けている最中だ。では御武運を」
真帯と星奈は一呼吸して気を引き締めて砂漠を進んでいった。そこからは真帯と星奈は双逆の手綱を発動させた。すると黒と白の縞模様の手綱が両手足から胸にかけて伸び結ばれた紋様が浮かび上がった。朝から夕方は砂豹達と一息吐く暇すらなく戦っていった。その分夜は神経を研ぎ澄ましながらではあったが何とか休息を取り急激に強くなっていった。
「はぁー。もういい加減泉に着いてくれよ。疲れたぜ。本当に辿り着けるのか?」
「大丈夫だよ。確かに魔物はとんでもなく多いけど私達かなり強くなって余裕も出てきたし」
「そうだな。油断せず気長に進むか」
真帯の愚痴を聞いた星奈が励まし2人は再び進んでいった。
10日が経った頃ようやく泉が見えて2人は吐息をもらし万歳をした。だがよく見ると泉の奥の方に砂に溶け込むような茶色の体長50mはあろう大蛇がいるのを見つけた。これまでの魔物とは違い何処か品格を感じた。そこで真帯と星奈は直感的にそれが甲鳴なのだと理解した。
「ふっ。察しの通り私が甲鳴だ。久しぶりに骨のある者達だ。泉の水が飲みたければ私に君達の力を示しなさい」
甲鳴が嬉しそうに笑い前傾姿勢になって戦闘態勢に入った。その動きで鱗と砂の摩擦により金属の擦れるような音が響いた。
((双逆の手綱!))
真帯と星奈が双逆の手綱を発動するのと同時に甲鳴は凄まじい勢いで突進して真帯に噛みついた。真帯は甲鳴の上下の牙を器用に衝撃波で弾き甲鳴が一瞬だけ動きを止めたかに見えた。だが甲鳴はその直後に霧状の紫色の毒を吐き真帯はそのまま痙攣をした。
(俺は死ねない。こんな所で。まだ何も果たしていないのに!)
真帯はそのまま意識を失い動かなくなった。
「真帯!?よくも真帯を!うわあぁぁぁー!!」
星奈はあまりのショックに思考を止めただひたすらに甲鳴に刹那の陽脈を乱発した。だが甲鳴は強引に突進して毒牙で星奈の胸を噛みついた。星奈はそのまま痙攣をして数秒も経つと涙を流し意識を失った。
涙が地面に落ちるのと同時に真帯を中心とした半径100mの岩が爆発したかのように砕けた。そして真帯の胸の手綱の紋様がほどけて口から毒を吐き出し灰色に灯った瞳を開けた。それに連動するように今度は星奈の胸の手綱の紋様がほどけて体温が急激に高まり体が紅く染まりだした。そして星奈も口から毒を吐き出し青く灯った瞳を開けた。
「ヴォォォー!!」
「ヴァァァー!!」
真帯と星奈は獣のような雄叫びを上げて、真帯は両手首から3m程の鞭を生やし握り星奈は右の手首から薙刀を生やして握った。
甲鳴の笑みはより一層深まり爛々とした眼差しで真帯と星奈を見据えた。それと同時に真帯と星奈に物凄い重圧がかかった。甲鳴が息を吸い込んだ瞬間に真帯はその場で星奈は突進してそれぞれの武器を振り下ろした。
甲鳴は槍のように鋭い尻尾で2人の攻撃を受け止めその衝撃で地面が割れて直径20m程のクレーターが出来た。
「ぐうっ、重い!未完成の力でもこれ程のものなのか。これ以上は互いに危険のようだ。そろそろ目覚めてもらおう。渇!」
甲鳴がそう叫ぶと甲鳴の両目から光が放たれそれが真帯と星奈に命中した。
「…ケホッケホッ…!」
すると真帯と星奈は目を覚まして瞼を瞬かせた。
「 あれっ?なんだ?このでっかいクレーターみたいな跡は?確か俺は毒を浴びて…。そこからどうなったんだっけ?」
「分かんない。確か私の記憶だと真帯が倒れてそこから…?」
真帯と星奈は頭を抑えて状況を整理しようとするが何が何だか分からないという様子だ。
すると甲鳴が「うむ。そうだね…」と口を開いた。
「普段君達が無意識に抑えている力を解放させる為に君達には致命傷を与えて仮死状態にしたんだが少し賭けみたいなものだったんだ。というのも君達の死ぬ間際の強い生存本能が無ければ覚醒する事はなく一分も経たない内に完全に死んでいただろう。でも君達は見事賭けに勝って私に十分に強さを示してくれた。その力の名は創躯!見事合格だよ。さあ泉の水を飲むと良い」
甲鳴が説明を終えると真帯と星奈は深く頷き泉の方に目をやった。
「では、頂きます」
真帯がそう言うと星奈は甲鳴にお辞儀をして2人とも泉の水を手で救い上げ一口飲んだ。
代理戦まで残り17日。
真帯と星奈が起きると、何やら白い台に乗っていて生体電極が体中に付けられていた。台の横にはよく分からない羅列が表示されたモニターが4つ置いてある。どうやらデータを取られていたようだ。2人が横を見ると既に幸治と守途が起きていた。
「私、ここに見覚えがある。古代全盛の研究所って呼ばれてる所だよ。ここなら1分もあれば生体データの解析、保存、バックアップもできるんだよ」
「まさか、双逆の手綱のデータを取られたのか!?」
「そうみたいだね。取り敢えずこの電極を外そうか」
守途の発言で真帯が焦って急いで生体電極を外しているのとは対極的に星奈は冷静に生体電極を外していった。
「それにしても何で俺達以外に誰もいないんだ?」
「きっと私達が目覚めるのを察知して急いで避難したんでしょう」
幸治が疑問を言うと守途が何てことの無いように推測を言った。
「兎に角ここにいた研究者達を捕まえて俺達から取ったデータを消そう。まだ近くにいるかもしれないからな」
「うん、そうだね。悪用されると面倒だし」
「確かに、データを取られたせいで後々戦いに手こずるのは嫌だしな」
「まあ、そうだよね」
真帯が意気込み守途と幸治と星奈も賛同した。
幸治達は仙磨で意識を集中させてデータを取ったであろう研究者達の気配を探った。だが一向に研究者達を見つけられないでいた。
「おいおい、これじゃ捕まえようがないぞ。どうなってるんだよ?」
「やっぱりあそこにいるのかも。確かこの施設には地下通路があってそこは特殊な結界で隠されてるせいで気配が察知できないんだよ」
「じゃあ、そこに行ってとっととデータを破壊しよう」
「早く捕まえないと逃げられちゃうよ」
真帯が慌てていると守途が落ち着いた様子で心当たりを言い幸治と星奈が急ぐよう促した。
幸治達は走って守途の後に続いて地下通路に入り先を進んだ。すると研究者5人とその護衛4人とおぼしき人影を見つけた。幸治と守途が前に回り込み真帯と星奈と挟み撃ちにした。
「ようやく追い詰めたぞ。大人しくデータを消せ。さもなくば痛い目見ることになるぜ」
(((何か悪役みたいな台詞だな…)))
真帯が強引にデータの消去を要求するのを見て幸治と星奈と守途は複雑な心境になった。
「くっ…!任せたぞお前達」
「おう!任せろ。既に双逆の手綱を会得した俺等なら勝てるぜ」
研究者が声を張り上げると護衛全員が前に出て大見得を切った。
「俺の名は間流」
先ずは、黒髪でひょろひょろとした色白の身長180cm程ある男が名乗り出た。
「俺は岩彩」
次に筋骨隆々で白髪で褐色肌の身長が180cm程の男が名乗った。
「私は葉波」
それに続き緑髪で品格の漂う顔が引き締まった170cm程の女が名乗った。
「私は無結」
そして白髪で色白の163cm程のスレンダーな女が名乗った。
「「「「我ら未来の救世!いざ参る!!」」」」
代理戦まで残り17日。