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第6話

幸治こうじ達は道中、不気味な程に魔物に会わず無事に迷いの洞窟に着いた。

「異様なくらい魔物に会わなかったけど、この中は魔物の気配が異常に感じるな」

真帯は額に汗を流し皆も同様に本能的に警戒した。

どうやらこの洞窟に魔物が集まって蠢いているようだ。


「言うまでもないが皆、油断したら死ぬぞ」

幸治は皆と同じ気持ちを代わりに口にした。罠に対応出来るよう神経を研ぎ澄ます為だ。

「よし、行こう!」

幸治達は意を決して迷いの洞窟に入った。するといきなり耳鳴りがしてそのせいで周りの音も仲間の声も全く聞こえなくなった。


幸治達はジェスチャーで何とか意志疎通をとり更に奥に進んだ。今度は強烈な光が突然出て来て魔物達に囲まれた。幸治達は敵の気配を頼りに戦うが視覚と聴覚を封じられているせいで苦戦している。次に強烈な悪臭で嗅覚を、感覚が痺れて触覚を、そして口の中を出血して鉛の味でいっぱいになり味覚を失いとうとう五感全てを封じられた。


だが逆に五感の全てを封じられている分、神経が極限まで研ぎ澄まされどんどんこの状況に適応していった。幸治達がボロボロになった頃に魔物達は圧倒され魔物達は不利と見て逃げていった。


すると強烈な光も耳鳴りも悪臭も体の痺れも鉛の味もなくなりようやく周りを見渡す事が出来た。

「ふう、今のはかなり危なかったな」

真帯が一息付いて深呼吸をした。

「ああ、今ので全滅しててもおかしくなかった」

幸治が岩壁にもたれかかって息を整えた。


「ちょっと!その岩壁も何かの罠が仕掛けられてるかもしれないんだよ!気を付けて!」

星奈ほしなが幸治の軽率な行動を叱りつけた。

「いやいや、そんな訳ないだろ。考えすぎだって」

幸治がそういうと左右の岩壁が迫るように突然動き出した。このままでは4人とも左右の岩壁に押し潰されて死んでしまう。


「うわぁ!?ちょっちょっと早くここから出ないとやばいって!」

守途すずが切羽詰まった声で叫び、皆自動マップを頼りに出口を目指して走っていく。だが出口の間近まで戻ると先程の魔物達ー巨大な翼を持つ全長2m程のコウモリ、剛蝙蝠ごうこうもりと全長1.8m程の鋭利な爪をもつモグラ、刃土竜はもぐらと毒針の尻尾が3本生えた全長1.7m程の蠍、三針蠍みばりさそりーが待ち構えていた。


「「「「どけー!!」」」」幸治達は一斉に叫び、幸治は雷弾ー雷の弾を投げる技ーで怯ませ真帯まおびのピンポイントの衝撃波で吹っ飛ばしその隙に何とか迷いの洞窟から無事に脱出した。

一拍して態勢を整えた剛蝙蝠と刃土竜と三針蠍が一斉に襲い掛かってきた。


幸治達は先程の戦闘から感覚が研ぎ澄まされたままだったおかげでいつもより洗練された動きで難なく倒した。洞窟の方を見ると既に岩壁が元に戻っていた。

「ふう、何か調子が良いしこのままもう一度行くか」

全員が深呼吸をして感覚を研ぎ澄ませる。

「ああ、そうだな。一気に進もうか。その前に、守途さん回復をお願いします」

幸治が守途を見つめて回復術を促した。


「うん、今やるよ。治流環。どう?体の調子は」

守途が回復術をして皆の調子を確認した。

「ありがとう。元気満タンって感じだよ」

「こっちも大丈夫だサンキュー」

「おかげで体が軽くなった」

星奈がそう言うと真帯も幸治も同様に良くなったと礼を言った。


気を取り直して幸治達は再び迷いの洞窟に入って行った。その最中、突然目の前に現れた創玉に守途が気付きスッと拾った。


代理戦まで残り19日。


先程と違って洞窟の中は魔物の気配が感じられずそのまま何事もなく進んでいった。

奥の神殿が見えた頃、突然魔物達ー剛蝙蝠と刃土竜と三針蠍ーが出て来て完全に囲まれた。


「やっぱそう簡単には通してくれないよな」

幸治がそう言うと魔物達は一斉に襲い掛かってきた。

幸治達は足を止めることなく常に味方の位置を把握しつつ走り幸治は雷弾で牽制しつつ近づいた相手には雷拳をおみまいして守途は一定の距離を保ち中間距離から樹刃薙きばなぎで正確に斬り真帯は遠距離から斬撃波を繰り出し近付いてきた相手にはゼロ距離で衝撃波を当て吹き飛ばし星奈はピンポイントで凝縮した炎を状況に合わせて長距離、中間距離、近距離から放った。


一方魔物達は数の利を活かし絶妙なタイミングで攻撃を繰り返した。

その最中も幸治達の神経は研ぎ澄まされ極限の境地まで達すると流れるように動きが洗練されてあっという間に魔物達は全滅した。


「何か今なら負ける気がしないな」

幸治が一言呟き一瞬の間が流れた。幸治達はその間、万能感に包まれ夢見心地になっていた。

「おっといけない。早く先に進みましょ」

「「おう!」」「うん!」

星奈の一言で幸治も真帯も守途も気を取り直して神殿の中に入って行った。


神殿の中ではどの道を行くか迷う度に魔物が大量に襲い掛かって来た。だが戦闘を繰り返して皆メキメキと動きの練度が上がり自信に満ち溢れていた。神殿に入って2時間程でいかにも最奥部の門と言わんばかりの巨大な鉄の扉の前まで辿り着いた。

幸治達は前の試練と同様に守途に回復術をかけてもらった。


「皆、準備は良いか?」

「「「おう!」」」

幸治はその返事を聞くと意を決して最奥部に繋がる門を開けた。

「やっと来たか。我は待ちくたびれたぞ。まあ良い早速始めるか。」

門の先は300m四方の少し広めの石造りの部屋だった。その真ん中に二足歩行の体長5m程の翼の無い全体的にピンク色の鱗のスマートな体格の竜、陽仙ひせんがいた。


「デカいトカゲだな。まるで竜みたいだ。でも何か綺麗だな。」

「「「「・・・」」」」

「・・・いや竜だよ!見るのは私も初めてだけど」

幸治がサラッと陽仙に失礼な呟きをして皆一瞬見惚れつつ守途がハッとしてツッコミを入れた。

「何をごちゃごちゃ言っておる。いくぞ。ほら!」

陽仙がもう待てないとばかりに手を振り下ろしてきた。


「「うわぁ!!」」

「「きゃあぁ!!」」

幸治と真帯と守途も星奈も振り下ろされただけで突風が起き吹き飛ばされた。幸治達はさっきまでの余裕が失くなり完全に動揺している。


「「うおぉ!」」

「「はあぁ!」」

幸治はありったけの雷弾を浴びせ真帯は渾身の衝撃波を放ち守途は樹刃薙で精一杯斬りつけ星奈は最大火力の炎を放った。


「何だ?今のが攻撃のつもりか?そんな乱れた心では痛くも痒くもないぞ。ほれ、もっと力を研ぎ澄ましてみよ」

陽仙が物足りないとばかりに溜め息をついた。

幸治達は目を瞑り深呼吸をゆっくりと3回して心を落ち着かせ神経を研ぎ澄ました。そのまま目を開けると眼光が鋭く光り少し動いただけでその光の残像が線を描くように現れた。


(ほお物凄い速さで成長、いや進化しておる)

陽仙は相手に期待を抱き目を輝かせた。

「すまない。さあ仕切り直しだ」

「よいよい。では我も本気出しちゃうぞ♪」

幸治が陽仙に一礼して詫びた。その何気ない動きにも先程のような隙は全く無かった。


幸治が頭を上げるのを合図に激しい戦闘は始まった。

陽仙はその巨体からは信じ難いスピードで噛みつき尻尾で薙ぎ鋭い爪で切り裂こうとしたが幸治達はその全ての攻撃をすれすれの所で避けこちらも数え切れない手数で攻めていった。


陽仙は幸治達の攻撃を全て受け怯まず攻撃をし続けた。だがそのツケで徐々に動きが鈍っていった。

「はーはー・・・。負けぬ・・・。ガハッ」

そしてとうとう陽仙は膝をつき立てなくなった。

「お主達の勝ちだ。お主達が力を研ぎ澄ます技の名を仙磨せんまという。その能力は自分の無駄な動きの一切を排除し周りの者の心を無意識に読み最適な選択をするという技だ。さあ、そこの台座に創玉を置くが良い。そして、その輪の中に入り帰るがよい」


幸治達は陽仙の言う通り創玉を台座の上に置き祈った。そして輪の中に入ると迷いの洞窟の入り口に戻っていた。


代理戦まで残り19日。


幸治達は疲れで重くなった体を引きずり占いの館を目指して歩いている。だがその最中、行きは全く魔物がいなかったのに反して魔物達が休む暇もなく湧いて出てくる。その数は優に100を超えていた。


「こいつら何処から湧いてきたんだよ?気が遠くなるぜ!」

「おそらく帰りの弱ってきた所を狙っていたんだろうね。魔物にしては賢いね」

「感心してる場合かよ。とっとと片付けるぞ」

真帯が文句を垂れ守途が魔物達に感心をして幸治がそれをツッコんだ。


魔物達は徐々に数が減っていったが幸治達も限界が近付いてきた。

「落ち着け!力を研ぎ澄ませ。お前ら仙磨で逃げるぞ!」

真帯が必死の形相で言い幸治は雷拳で吹き飛ばし真帯は精密なコントロールの衝撃波でピンポイントに吹き飛ばし守途は樹刃薙で薙ぎ倒し星奈は魔物達の頭に炎でピンポイントに燃やしながらそのまま一目散に逃げた。


それでも魔物達の勢いは止まることなく逃げる余裕すら無かった。そこで、幸治達は獄素と天素を同時に使った。その負荷で体中が軋み死に物狂いで走った。

((((もう駄目だ))))

誰もがそう思った。だが幸治達から獄素の黒と天素の白の縞模様の手綱が両腕と両足に浮かび上がりそこから胸に向かって手綱が結ばれたような輝く紋様が発生した。その瞬間、幸治達はまるで無重力に入ったような錯覚をした。


いつの間にか幸治達は一瞬で占いの館が見える所まで来ていた。皆、訳も分からず混乱した。

幸治達はそのままがむしゃらに占いの館に入り倒れた。


「おい、大丈夫か?今、花湯に入れて傷を癒すからな。ん?この紋様はまさか!?双逆ふたさか手綱たづなか!?」

与澄はこうなる事が分かっていたようにてきぱきと幸治達を花湯に入れて治療した。


「……ん?ここは?」

「おう、起きたか?随分長い間眠ってたな。まあ、良い。それより気分はどうだ?」

与澄は目を覚ました幸治を見て微笑んだ。

「そうだ!確か待ち伏せしてた魔物の大群に襲われて。皆は無事なのか?」

幸治が勢いよく起き上がり与澄の肩を乱暴に掴み問い詰めた。


「安心しろ。皆、無事だ」

与澄の答えに幸治は旨を撫で下ろした。

「いい加減、痛いからその手を離せ」

「あぁ、悪い与澄さんが治療してくれたのか?」

「そうだよ。あんたら死にかけだったんだぞ。花湯まで運ぶの大変だったんだからな」

幸治は与澄に頭を下げ「すみません」と言い詫びた。


「有り難うございます。おかげで助かりました」

「おう、別に良いぜ」幸治が礼を言うと与澄は少し照れ臭そうに鼻を擦った。


「よお!起きたか。元気そうだな。お前が目覚めるのが最後だぞ。俺らも与澄に花湯に入れてもらったおかげで元気満タンだぜ」

真帯達が元気付けるように満面の笑みをこぼした。


代理戦まで残り18日。

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