第4話
「ん?…」
幸治は目が覚めると体が軽くなった事に少し驚き強くなった事を実感して噛み締めた。
それからこの体に早く慣れなくてはとバシッと顔をたたいて気を引き締めた。
「遅かったじゃない。早く出発の準備をしなさい」
待ってはいられないという焦燥と期待に満ちた表情で星奈が急かす。
「まあまあ皆疲れてたんだし優しくしてやろーぜ。俺らだって1時間ぐらい前に起きたばっかなんだしさ」
星奈を真帯が軽く注意をする。
「うぐっ…。ゴメン急いでてつい…」
「いいよ。逸る気持ちも分かるし。早く今の体に慣れたいよな。でもちょっと落ち着こうな」
幸治が星奈を軽い調子で優しく注意をした。
「うん…ありがと…」
星奈が赤らめた頬を隠すように素早く俯いた。
「ねぇ…?じゃあ準備が整ったら出発しようかぁ?ねぇ!?」
「は、はい!」
守途が嫉妬を込めた声でそう言うと皆、背筋をビクッとして返事をした。
幸治達が食事をとっている間に既に食事を終えていた守途達は外に出て準備運動がてら3人で組手をしていた。
出来るだけ町から離れてやるべきだというのと本気を出したら周りに被害が出るという判断で町から3km程離れた開けた場所で創型は使わずに体術だけでやった。
星奈と守途はヒット&アウェイで一定の距離を保つスタイルに対して真帯はガタイを活かして丁寧にガードをして相手が近付いた瞬間を狙ってインファイトに持ち込もうというスタイルで応戦した。
組手は10分程で終わり3人はクールダウンをとった。
その間に幸治は朝食を食べ終え出発の準備を整えた。
「今更だけど何処に行くんだっけ?」
「次の試練の場所が分からないから山奥にある占いの館に行って場所を聞きに行くんだ」
「試練の場所って危険だから本来、秘密にされてるんだよ。占いの館も秘密にされてるから地図に載ってないけどね」
「まあ、国に実力を認められたら1つ目の試練の場所と占いの館の場所を教えてもらえるんだけどね」
真帯が行き先を淡々と説明して守途と星奈がその説明を補足した。
(この人達、国に認められる程って…思ったより凄いんだな)
幸治は守途達の説明を聞いて改めて頼もしく思った。
支度が済んだ幸治達は占いの館を目指して出発した。
道中、ハイエナのような見た目の体中に毒の毛が生えているハイリン(雌)と雷を纏ったハイエナのようなハイルト(雄)の群れに何度も遭遇した。
幸治達は最初は毒と雷に手こずっていたが徐徐に自らの体にも慣れていき5戦目からは3分以内に倒せるようになっていった。
幸治達が自らの体に慣れきった頃、大きな門の前に着いていた。だがそこで待ち伏せしていた4人組の成り代わりに囲まれた。
1人は金髪で身長が190cm程の高めの筋骨隆々な大男で、もう1人は銀髪で176cm程のスリムな体格の男で、もう1人は黒髪の160cm程のスラッとした女で最後の1人は銀髪の150cm程の小柄で華奢な女である。皆、一様に肌が真っ白だ。
代理戦まで残り20日。
「やあ。俺は相谷。早速だが君達にはここで消えてもらう」
まずは金髪の筋骨隆々な大男が名乗った。
「僕は元内」「私は刀香」「私は使織」次に銀髪のスリムな男、黒髪のスラッとした女、銀髪の小柄で華奢な女の順に名乗っていった。
「何でわざわざ自己紹介してるんだ?」
幸治は抱いた疑問を率直に言った」
「「「え?」」」
一拍間を置いて星奈と真帯が呆れたように無言で守途を見た。
「あの…詳しく言ってなかったのですが成り代わりっていのはですね…国からの試練という体で王に認められた者が自ら名乗ることで国に黙認されてですね…つまり名乗ってさえいれば手段を問わず私達を殺しさえすれば大会の出場権を奪えるんです。…言い忘れててごめんなさい」
守途は叱られた子供のようにしょんぼりして幸治に謝った。
「まあ最初が暗殺じゃなかったし、あんまり気にしなくていいよ。」
(危ねぇぇー。下手したら死ぬとこだった。まあ、偶然にも不意打ちじゃなかったし良しとするか)
幸治は内心、動揺しつつも、それを誤魔化すように軽い口調で言った。
「敵の目の前で堂々とつっ立って会話とは油断が過ぎるぞ!」
相谷がもう我慢ならんと言わんばかりに一瞬で間合いを詰め幸治に掌低打ちをしてきた。それを幸治は体を一回転して受け流しながら左に動きその勢いのまま左の裏拳をして相谷はそれを受け流し幸治に回し蹴りを放ち幸治はその回し蹴りをしている方の脛にミドルキックを当て止めた。
「ヒュー。やるねぇ」
元内が面白いといった風に口笛を吹く。
「凄い反射神経だね」
刀香が感心したように呟く。
「じゃあ私達もおっ始めますか」
使織が鋭い目付きで言うと全員に緊張が走り空気が重くなる。
全員がそれを感じるのと同時に真帯は元内と、守途は使織と、星奈は刀香と、幸治は相谷と各々が相手の創型の連携を警戒して敢えて散り散りになりサシの勝負を選んだ。その為、互いの仲間達との距離は優に5kmはある。
幸治と相谷は開けた野原を選びそこで戦いが始まった。
「「獄素!」」2人は同時に獄素を発動させ黒い炎のようなオーラに包まれる。お互いに短期決戦を臨んでいるようだ。
幸治が雷拳を振るう。拳を振るう度にその威力を示すように轟音が響いた。
それに対し相谷は相手の癖を分析しつつ全ての攻撃を最小限の動きで避けたり左右の手で雷拳の軌道を反らしている。
「そろそろ使うか」
頃合いとばかりに相谷の動きが爆発的に速く鋭くなった。
(何だ!?さっきまでの動きと明らかに違う。これがこいつの創型か?どう対処する?)
「考えたって無駄だぞ」
相谷は幸治の表情を読み取り余裕の笑みを見せ考えるのを邪魔するように更に攻撃のギアを上げた。
そして幸治は徐々に追い詰められていき倒れた。
「もう終わりか?呆気ないものだな」
幸治は相谷が勝ったと確信して微笑んだ一瞬の隙をついて慎重にそして素早く急所に雷を放った。それが相谷に直撃した。
(こいつ!?もう虫の息だった筈!?見誤ったか?)
「くっそ!くたばりやがれ!」
相谷は幸治に止めを刺そうとしたが体の痺れで動きが鈍りその攻撃は皮一枚で避けられた。
「うおおぉぉぉ!」
幸治はここぞとばかりに相谷に雷拳の連打を浴びせた。相谷の方は必死にガードを上げ耐えた。だがその状況は10秒ともたなかった。
「雷波伝流!」
幸治が渾身の雷を分散させてシャワーのように包み込むように放った。相谷はそれを避けきれずかすったがニヤリと笑い恐ろしく鋭い蹴りを入れた。
幸治は反応が間に合わずそのまま30m程吹っ飛んだ。
「俺の隙を狙って勝機を手繰り寄せようとしたようだが無駄に終わったな。俺の創型は対象の身体能力を上げるものだが相手の創型までは使えない。だがその代わりに回復力も上乗せできるのさ。だからもう体の痺れは完全にとれたぜ。仕組みは分からなくても動きを鈍らせれば勝てると思ったか?」
バリッビシャアッ。
「がぁっ!?」
(ちょっとでもかすって助かったぜおかげで上手く追尾して喰らわせれたぜ)
相谷は突然の衝撃に不意を突かれ一瞬だけ動きが止まった。先程幸治が放った雷が追尾して相谷を直撃したのだ。
幸治はその隙を逃さず相谷が倒れるまで雷拳を浴びせた。
「油断が過ぎたな。あんたの負けだ」
幸治は相谷が完全に動けなくなったのを確認し安堵して微笑んだ。
「あぁくそっ!勝ち方に拘るんじゃなかった!俺に勝ったんだから絶対に優勝しろよ。じゃあな」
相谷はそう言うと倒れて眠るように力尽きた。
(ふえー…。さすがに獄素を使いすぎたな。数分はまともに動けそうにないぜ。)
代理戦まで残り20日。