第2話
守途は予め用意していた説明をしだした。
「良い?あっちに行くまでの時間が残り少ないから1つだけ説明するね。創現郷では自分に合った技を発想、又は学習や強い想いで会得するの。それは戦闘だけじゃなく仕事にも役立つ場合があるわ。勿論、成長する程にその限界は更新されるの」
「分かった」
幸治は真っ直ぐな眼差しで頷いた。
「じゃあこの輪の中に入って。良いって言うまで目をつむって」
守途が指差した場所にいつの間にか直径5m程の輪が出来ていて幸治は固唾を飲んで言う通りにした。その直後に輪が輝いた。
「もう良いよ」
幸治は目を開けるとそこは美しい樹や草花に囲まれた場所だった。その光景に見惚れて思わず溜め息を漏らした。
「ここは恵緑国といって私の故郷よ。見ての通りここは緑に恵まれた国なの。他にも酌炎国という火に覆われた国、至鋼国という鉱石に恵まれた国、涼風国という風の止まない国、潤水国という水に恵まれた国の4ヶ国の様々な発展した国があって今はそれらを巡って争ってるの。その20年も続いてる争いを終結させる為に貴方のような異世界の人達を各国で呼んでるのよ」
守途は複雑な顔で今の状況を語った。
「はい、じゃあ俺は何をすれば良いんですか?」
幸治は素直に訊いた。
「うん、だよね。まずは自分の戦闘スタイルを獲得して強くなって。そして30日後に行われる異世界人をリーダーとした各国の代表者の代理戦で優勝して。ルールは4人までのチームで直径20kmの島で最後まで脱落しなかった所属チームの優勝だよ。脱落の条件は戦闘不能になるか降参あるいは…死亡だよ…。そして優勝者の所属している国が世界のトップになることでこの20年続いた争いを終わらせるのが目的なんだよ。ちなみに優勝したメンバーは1人につき1つだけ何でも願いを叶えてもらえるんだよ。願いによっては代償を払わなければいけないけどね。それと、この催しのせいで各国で代表者を殺して自分達が代表者に成り代わろうとしてる組織、未来の救世のメンバー通称成り代わりがいるからまずは生き残る事を最優先にしないと。」
それを言い終えた直後に全長2mもある狼、ウルフォスに虚を突かれ幸治は圧倒された。そのまま肩を喰い千切られ思わず叫び声を上げた。
「幸治君!」
一瞬遅れて守途は青ざめた。
(何だ?俺はこんな所で死んでしまうのか?嫌だ…嫌だ嫌だ!俺がもっと強ければ速ければ、ちくしょう力が欲しい!)
幸治はそのまま気絶した。次の瞬間幸治の体に電気が走った。そしてみるみる内に抉られた肩の傷口が塞がりウルフォスが黒焦げになっていた。
「ごめん。今治すからね。治流環」
守途は急いで小さな枝を手から生み出しそこから緑色の雫を幸治に飲ませた。すると幸治の出血は止まった。だが幸治は初めて力を使った反動でそのまま暫く眠った。
その間、守途は幸治を守る為、周りの魔物を倒しながら浮導ー対象を綿で浮かせる技ーで運び近くの村樹包を目指した。
幸治はその途中で目覚めると何故か力が漲っている気がした。そしてもう夕方になっており守途は血まみれになりながら満身創痍だった。幸治は言葉に詰まり気付くと守途をそっと抱き締めていた。
「ごめんね。私がもっと警戒していれば幸治君がここまで傷を負わなかったのに」
「そんなになって何で謝る!?何でそこまでするんだ!?」
「君を守るって誓ったから」
2人は少しの間お互い言葉が出ずそのまま沈黙に包まれた。
代理戦まであと30日。
お互いに落ち着き幸治は守途に戦い方やその仕組みを教わりながら戦闘に参加した。まず、先程の雷は創型といって最初に使った技が各々の力の基礎となる。その源となるのがこの世界の全てに流れる創核という力だ。
そして創型を成長させるには訓練や実戦で練度を上げるか極限状態になる必要があるらしい。創型で武器を作ることも出来るが雷のような形を持たないものは物の造形には向いてないという。
また、夕方になり丁度戦いに慣れた頃夜は危ないので、そのまま宿屋に泊まった。
花湯という温泉に入ると、みるみる内に疲れと傷がなくなり幸治はそれに驚いた。花湯の仕切り越しで守途が自慢げに説明した。
守途が同じ部屋に泊まると言うのを聞いて幸治は胸に早鐘が鳴った。
守途がこれからの話があるし宿代を節約したいからと言われ幸治は2回頷き平常心を取り繕いつつ承諾した。
「さっき言ったこれからの事なんだけど、私の知り合いの仲間と合流して神殿の試練を受けてもらおうと思うんだ」
「どんな試練なんだ?」
「うん。私が知ってる範囲で言うと強い魔物が蠢く3つの場所で創玉と呼ばれる輝石を見つけて神殿まで行き祈るっていう感じなんだ。私の見込んだ仲間がいるから気を抜かない限り大丈夫だよ。ちなみに合流地点は神殿の近くにある輪羽っていう村だよ」
幸治は息を飲んで頷いた。
「分かった。俺も今の実力じゃダメだと思うしやるよ」
「じゃあ明日も早いしお休みなさい」
幸治の不安とは裏腹に緊張はすぐにほどけ、以外にも熟睡した。
翌朝、幸治と守途は朝食を食べ終えると、すぐに出発した。人喰い森と言われている森を歩いていると何やら若くスラッとした怪しい女性が踞っていた。
「どうしたんですか?」
幸治達は警戒しつつ尋ねると女は急に泣き出した。幸治はその様子を見て慌てた。
「実は輪羽に輸送していた積み荷から落ちてしまい困っているのです」
「そうでしたか。では一緒に行きませんか?ちょうど俺達も輪羽に向かってる所なんです」
女は立ち上がりゆっくりと振り向いた。女の顔は引き締まっているが穏やかで優しそうな雰囲気だった。
「ありがとうございます。私は絹代と申します」
幸治達は出発を再開した。するとそこから、不思議なくらい魔物が出ず出口付近まで行くと突然、絹代が「キヒヒ」と笑い獣のように唸り出した。
それと同時に百匹を超えるウルフォスが襲い掛かってきた。
振り向くと絹代は狐のような顔をした魔物になっていた。
「これは罠か!?」
幸治がそう言うのと同時に戦闘が始まった。
絹代は魔物達と火の玉を操り一方それらを避けて幸治は雷拳ー雷を纏わせた拳ーと雷弾_らいだん》ー雷の玉ーを放ち守途は樹咆弓ーしなやかで頑丈な植物で作った弓矢ーや樹刃薙ー頑丈な樹で作った薙刀ーを使い応戦した。
幸治は短い経験ながらも洗練された動きで相手を圧倒しあと少しで勝利するかに見えた。
だが「ヴォォォー」と目では視認できないがおぞましい魔物の咆哮が聞こえた。
魔物達は一斉に立て膝になり幸治達は本能で一目散に逃げようとした。
((!?))時に既に遅し。その魔物は既に目の前で怒気を纏い今にも噛み殺そうと牙を立てていた。
その容姿はウルフォスの一回り小さめで筋骨隆々な狼男であった。幸治達は死を直感した。それと同時に幸治は狼男に不意を突かれ胴体を切り裂かれた。
代理戦まで残り28日。
幸治は狼男に鋭利な爪で切り裂かれそのまま気絶したが何か違和感があった。それはまるで体が浮遊したような感覚だった。
「!?」
その直後、幸治に電撃が走り体が発光した。同時にそれを見た守途が呆然とした。
気付いたら幸治は誰にも反応できない速さで狼男に手刀で電撃を喰らわせた。それとほぼ同時に守途を抱え狼男達から離れた。
その衝撃で地鳴りが響き狼男は、そのまま膝を着き鋭い眼光で幸治を睨んだ。その時、幸治のすぐ近くに創玉が転がり守途は反射的に創玉を拾った。
焦ったウルフォス達は弱ったボスを守るように集まり吠えた。
幸治はそのまま糸が切れた人形のように倒れた。
(今しかない!)守途は狼男達が怯んでいる隙を突いて鼻を突くような煙幕が出る種を撒き散らした。守途はそのまま幸治を浮導で軽くして背負い森から抜け急いで輪羽を目指した。幸いにも狼男を守る為かウルフォス達は追って来ず、守途はほぼ無傷で輪羽に辿り着いた。宿に着くと守途はゆっくりと幸治を寝かせ治療をした。
「治流環…ふう、これでひとまず大丈夫のはず」
…3回夜が明けた時に幸治はゆっくり目覚めた。そのまま辺りを見回し守途が側にいるのが見えた。
「…ここは?…狼男は?」
「あいつは幸治君が瀕死にして、その直後キミは倒れたんだけど覚えてない?」
「なるほど、また俺は守られたのか。でも力が漲るのはともかく傷1つないのに体中が痛いのは何故なんだ?」
幸治は守途の説明を聞いて思わず違和感を声に出していた。
「その事なんだけど、ここまで急速に成長した創核に体が適応しきれないから今は体が急激に強化されてる途中で、その負荷を受けてるみたいなんだ」
「俺はどれくらい寝ていたんだ?どれくらいで強化は完了する?」
幸治は焦りを隠す余裕もなく身を乗り出す勢いで守途に聞いた。
「3日眠ってたけどこの調子だと今日中には完璧に仕上がると思うよ。大丈夫、あとは逃げた時に拾ったこの創玉を神殿の主を倒して神殿の台座に置いて祈れば今回の試練は完了するから」
守途は幸治を不安にさせないように落ち着いた口調でゆっくりと説明をした。
「やっぱり、あれは試練だったんだな。あの狼男に勝てばよかったんだな」
「それだけじゃなくて、あいつを倒す過程で閃核という技を会得してその後に現れる創玉を手に入れないとダメだったみたい。ちゃんと拾ったから安心して」
幸治は試練を乗り越えた事に少し安堵した。
「だから治ったら一緒に神殿に行こう」
守途は自分の胸を軽く叩き微笑んだ。
ぐーぎゅるるる…。(……お腹減ったなー)
幸治はぼーっとしながら自分が空腹である事に気づいた。一拍置いて幸治と守途は笑いあった。
「3日も食べてないから凄い音がしたね。待っててね。今朝食を作ってもらうから」
守途は急いでご飯の注文をして30分程して沢山の料理が運ばれてきた。おそらくご飯の総重量は3kg程あるだろう。
「おおーー!!美味しそうな料理がこんなに!いただきまーす」
幸治はそう言うとあっという間にご飯を全部平らげた。
「ごちそうさまでした。ふうー美味しかった。こんなに食べたのは初めてだ」
「凄い食べたね。おそらく強化の反動だろうけど、強化のスピードがもっと遅かったら財布の中がすっからかんになる所だったよ。あはは」
守途は少し冷や汗をかきながら軽く冗談を言った。
「ごめん。何か眠くなってきたからもう寝るわ」
幸治は手で口を覆いながら欠伸をした。
「うん。分かった。じゃあまた目が覚めたら呼んでね。またご飯を持ってくるからさ」
…そしてあっという間に夜になった。その晩、幸治は目が覚めて守途にご飯を持ってきてもらった。食べながら明日の予定を話し合った。
「明日は2人の仲間と合流して神殿に行くけど、その前の早朝に組み手しない?幸治君はもう少し閃核に慣れた方が良いと思うからさ」
「分かった。俺も戦闘の面では不安だったから良いよ。ていうか閃核ってどんな原理なんだ?」
「ああ、そうだね。簡単に言えば体の中の創核の流れを急激に加速させて自らのスピードを上げるっていう原理なんだよ」
「ふーん。そうか、ありがとうおかげでイメージが出来て助かったよ」
幸治はなるほど、と納得した。
「じゃあ明日に備えてもう寝よう。お休みなさい」
「ああ、お休みなさい」
代理戦まで残り24日。