海の詠み手
……この波は、遠くからやってきた旅人
……この波は、たった今ここで生まれた希望
……この波は、クジラが潜った時に現れた奇跡
……この声は、海獣のラブソング
……このしぶきは、魚が舞踏会を開いている証
……この泡は、恋に破れた人魚が消えた時に残したもの
……この枝は、遠く離れた国から逃げ出した弱虫
……この亀は、満月の夜に人を助けた気まぐれやさん
……この光は、太陽が水面を焦がそうとしたなごり
……この光は、月が己を映して見惚れたなごり
広い、広い海を見て……詩を詠む
誰も、誰もいない海の上で……詩を詠む
いつまでも、いつまでも……歌を詠みたいから
私は、一人……海を望む
私は、一人……海と在る