せっかくヒロインに転生したのに、悪役令嬢が推しを攻略済みでした
引き取られた男爵家で、腹違いの姉に階段から突き落とされて気絶した。その衝撃で前世の記憶を思いだした。
どうやら私は前世でハマった乙女ゲーム「聖なる乙女は世界を救う」略して「セイセカ」のヒロインとして転生したらしい。
攻略対象は隠しキャラ含めて6人。メインヒーローの第一王子、宰相子息のインテリメガネ、名門騎士家の細マッチョ、商家の息子の腹黒ショタ、女嫌いのチャラ男教師、隠しキャラの隣国の王太子。
私の最推しはメインヒーローの第一王子、クリストファー様である。
明日は王立学園の入学式。
部屋にある鏡を覗くと、ヒロインがこちらを見ていた。
「わたし、かわいい……」
人生の勝利を確信した瞬間だった。
入学して半年。
現実には第一王子と平民育ちの男爵令嬢もどきなんて、住む世界が違う。クラスも違う。全く近づけない。
そして今日、ようやく遠目に見たクリス様は婚約者様と仲が良さそうだった。
なんでだ。「セイセカ」の中では、我儘な婚約者にクリス様はうんざりしていたのに。
婚約者に向けるクリス様の笑顔は、外面を取り繕うものではなく本物に見える。
じーっと見ていたら目が合った。
クリス様ではなく婚約者で悪役令嬢のセザンヌ様と。
そして次の日、セザンヌ様から呼び出された。
取り巻きもいない。二人っきりである。
セザンヌ様は無言で真顔でこちらを見ている。
そしておもむろに口を開いた。
「聖なる乙女は世界を救う」
えっ
「乙女ゲーム」
え、あなたも転生者?という顔をしてしまったのだろう。
セザンヌ様に転生者であることがバレた。
そしてセザンヌ様が転生者であることも打ち明けられた。クリス様とは幼なじみで、ゲームとは違って想いあっているから、どうか邪魔しないでほしいと遠回しに頼み込まれた。
ここはゲームではなく現実。クリス様は一人しかいなくて、そのお相手は一人だけだ。
まじかよ。せっかくヒロインに転生したのに、最推しが悪役令嬢によって攻略済みだなんて。
ちょっと待てよ。最近のラノベでは、悪役令嬢が主役で、ヒロインこそが悪役だった。え、つまり私が悪役?私が断罪追放エンドを迎えるの?
絶望し、バッドエンドを戦々恐々としながら待っているうちに、気づけば卒業し、何事もなく就職していた。
攻略対象たちと、恋愛のレの字もないまま、卒業。
あれ、ここって「セイセカ」の世界じゃないのかな。
でも私が「セイセカ」のヒロインと同じ、聖魔法が使える唯一の聖女ってことは間違いないらしく、今日も教会で不治の病を治したり、足を生やしたりしている。
「聖女様、どうされました。お疲れですか」
「イアン神官、わたしってヒロインじゃなかったんでしょうか」
「ヒロインというより聖女ですね
はい、聖女様の好きなメロンソーダをお持ちしました」
「わーい、アイスクリームも乗ってるー!
わたしこのまま結婚しないで生きていくのかなー」
「いえ、私と結婚しましょう」
「へ?」
「クリームが付いてますよ」
「あ、ありがとうございます
って、あれ?え?」
「聖女様は私にとってヒロインです
あなたのおバカなところも愛らしく感じてしまうので
私が一生お側にいてお守りいたしますね」
私は「セイセカ」では攻略対象外の人のヒロインだったようです。
お読みいただきありがとうございました。
みあみあ