討伐隊、出港!
今月の投稿となります。
いよいよ本格的な人相手の戦いの始まりです。
それから2日後、戦車や榴弾砲などを搭載した二等輸送艦とあきつ丸の準備も終え、出港準備が済んだ旭日たちは王国から派遣されてくる予定の観戦武官の到着を今か今かと待っていた。
「そろそろ到着のお時間なのですが……」
扶桑が懐中時計を見ながら呟く。隣では大鳳も若干不安げな表情をしていた。
「なにか異常事態でも発生したのでしょうか?」
「それはなんとも言えないな……こんな世界だから、急になにかが起きたとしても不思議じゃないし……逆に、ただ遅れているだけ、と言われても不思議じゃないからな」
そんな話をしていると、駅から4人の男女が降りてきた。
だが、その1人を目の当たりにして、旭日は思わず叫んでいた。
「って、エリィ!?なんで君がここに!?」
それは、またも水夫のような格好に身を包んだ大日本皇国の皇女、タカマガハラ・エリナだった。
「アサヒ様。私も行くといったではありませんか。もしかして、忘れてしまったのですか!?」
確かにそんなことを言っていたので、半ば冗談のつもりで『陛下の許可はとってね』とは言った旭日だったが、まさか本当に来るとは思わなかった。
「えぇと……陛下の許可は……」
「はい。もちろん取りましたよ。置き手紙で」
「それは事後報告で許可取ったとは言わねぇぇぇぇぇ……」
思わず崩れ落ちた旭日だったが、ここまで来てしまったからにはもうどうしようもない。
「大丈夫です。私が無理矢理付いていくことにしたというのは事細かに手紙に記しておきましたから、アサヒ様にはなんの咎めも来ません」
「お気遣いどうもありがとうございます……」
旭日としてもそう返すのが精一杯であった。
よく見れば、後ろに控えている男女が苦笑いを見せている。
「初めまして、オオクラ殿。私は陸軍に属する大佐のサイゴウ・ツグミチという者だ。姫様が大変世話になったようだな」
ドワーフ系の、身長は低いながらもがっちりした体格の人物で、背中には斬馬刀とでもいうような大きな刀を背負っている。
旭日としてはてっきり尉官クラスが来るのかと思っていたら、まさかの陸軍のお偉いさんが来たという話で驚かされる。
というか、さりげなく尉官制度が敷かれているあたり、やはり明治時代以降の軍制に近い制度が執られているようだ。
すると今度は竜人族の女性が前へ出る。
年齢は20代半ばに見えるが、たおやかな見た目にそぐわぬ圧倒的な強者のオーラを放っている。
ついでに言うと、ボン・キュ・ボンだ。
「私は海軍大佐のサイタニ・ウメコと申します。貴殿らの艦隊の実力、しかと拝見させていただきましょう」
「失礼ですが、お幾つで?通常のヒト種よりは長生きのように見えますが……」
他国の人にはよく言われることらしく、クスクス笑いながら返した。
「私は82歳です。竜人族は通常のヒト種の5倍以上の寿命を持つ種族でして、まだ私はかなりの若輩です。父の跡を継いで海軍に就任したばかりですので、色々勉強もさせて頂くつもりです」
『人間五十年、下天の内をくらぶれば』と信長が歌った『敦盛』の年齢を基準とすると、推定250歳くらいまでは生きるということである。
その三分の一くらい、と考えると、まだ精神年齢的には10代半ばくらいなのではないかと思わされた。
そして、ハルピュイアの女性が挨拶する。
「空軍所属、偵察隊中佐のサカイ・ナミエと申します。本日は列強国のように空を飛ぶ機械を見られると聞きましたので、とても楽しみにしております」
こちらは逆に小学生くらいにしか見えないが、種族的特徴なのだろうと旭日は納得した。
「それでは皆さん、お荷物などはよろしいですね?間もなく出港いたしますので、どうぞ、それぞれの船にお乗りください」
サイゴウ・ツグミチはあきつ丸に、サイタニ・ウメコは香取に、そしてサカイ・ナミエは大鳳に乗る予定である。
「扶桑、悪いが留守番よろしくな」
「はい。ご武運をお祈り申し上げます」
今回旭日は山城に乗艦する。平成生まれの男なので、大口径砲の艦砲射撃など見たこともない彼にとっては、改装扶桑型戦艦の45口径41cm三連装砲と連装砲が火を噴く姿はとても楽しみなのである。
旭日が艦橋の指揮所へ上ると、山城が既に仁王立ちで艦橋に立っていた。しかも、きっちりと軍帽を被っているのでかなりカッコいい。
「司令、お待ちしておりました」
普段は蓮っ葉な口調でタメ口に近い言葉遣いの山城だが、戦闘開始、あるいはそれに準ずる状態ともなれば、言葉遣いを一変させるだけの感性は持っていた。
「よぅし。全艦に通達!『海賊討伐艦隊』、出港‼」
ラッパ手が景気よくラッパを吹くと、山城、香取、鹿島、香椎、夕張、大鳳、あきつ丸、そして二等輸送艦5隻が出港するのだった。
人々は歓声を上げてそれを見送る。
自分たちを苦しめてきた海賊に、強烈なる鉄槌を下すのだと意気も高かった。
巡航速度として13ノットで(二等輸送艦も改装で主機関を強化して最大速度22ノット以上を出せるようになっている)進んでいる艦隊だが、南西へ距離300kmのポイントだという。
空母から艦載機を出撃させてしまえばそれだけで敵の大半を駆逐できるのだが、今回は目視できる戦闘を行う必要がある。
そのため、空母の艦載機として3名が搭乗できる偵察機の彩雲に観戦武官を乗せることになっていた。本来は通信員の席になるのだが、もう1機出撃させることでそこはカバーするつもりらしい。
空母に乗っているナミエは、甲板上に係留されている彩雲の姿を見て目をキラキラと輝かせていた。
「こっ、これはすごいです!こんなものが空を飛ぶなんて想像がつきません!こんな技術、世界最強のアイゼンガイスト帝国にしかないはずなのに‼」
彼女は先ほどからずっと興奮しっぱなしで、『興奮しすぎでぶっ倒れやしないか』と大鳳とその乗組員たちを心配させていた。
他にも、艦長である大鳳から九八式65口径10.5cm連装高角砲(長十糎砲)や、25mm三連装機銃、飛行機を上げ下げできるエレベーターや艦載機の各種兵器の説明を受けていた。
「こちらは艦載機『流星』と言いまして、60kgの爆弾を6発、または800kg爆弾と、同じ重量を持つ魚雷という兵器を搭載することができる爆撃機兼雷撃機……旭日司令曰く、『攻撃機』だそうです」
「すみません。魚雷とはなんでしょうか?」
まだ江戸時代前後の文明水準では、当然のごとく概念もないだろうと考えたので説明する。
もっとも、もし仮に明治時代以降の人間が転生してきていれば知っている人もいるかもしれないが。
「簡単に申し上げれば、水の中をスクリューという羽根を回して推進し、船の喫水線下に命中させることで大爆発を起こして大穴を開ける兵器です」
それを聞いて、ナミエは衝角のことを思い出した。要するに、自走して命中したら爆発する衝角のような物なのだろうと当たりをつけた。
そして想像した。自軍の鉄甲船は鉄板で覆われているため、焙烙玉や火矢はほとんど受け付けない防御力を持つが、それはあくまで『上部構造物に』限った話である。
確かに、水の中に浸っている喫水線下の防御などというものは考えたことがなかった。
水の中に鉄板を張るわけにもいかなかったので、当然と言えば当然だが。
「(これは……命中すればとんでもない威力を発揮しそうね)」
自軍の船はもちろんのこと、ヴェルモント皇国の最新鋭軍艦とて耐えられないだろう。
「かつては艦爆と艦攻は分けられて考えていた時代もありましたが、少なくとも、我が艦隊においては流星で一本化されております」
「その、先ほど言っていた爆撃……爆弾を落とすというのは、大きいのを1発落とすだけではダメなのですか?」
威力が高い物を落とした方が効果は高いのでは、そう思ったナミエだった。
「では、言い方を変えましょう。『歩兵100人が密集している場所に落とす』ならば、800kg爆弾1発と60kg爆弾6発と、どちらの方がよいと考えられますか?」
「えっ……あぁっ‼そういうことですか‼」
気づいたらしい。大鳳はここで少しだけ笑みを見せた。
「歩兵の集団や騎馬隊を面制圧するなら、小さくても数をばらまくことで効率が良くなる!そういうことですね!」
どうやら列強国にして交流のあるアイゼンガイスト帝国から多少の概念は入っているようで、すぐに理解してくれた。
「その通りです」
一方、香取の艦内では香取がウメコに主砲や対空火器について説明していた。
「こちらの65口径10.5cm連装高角砲となっておりまして、有効射程は5kmを超えます。発射速度も1分間に10発以上を発射することが可能となっております」
最大射程は機密事項なので教えられないが、有効射程だけでもこの世界の大砲の基準からすれば異常である。
多くの国が採用している大砲は先込め式のカルバリン砲モドキで、列強国ではアームストロング砲以降に近い後装式を取っているが、それでも発射速度はそれほど早くない。
「しかも、この高角砲と言う兵器は、水上への攻撃が主ではなく、空を飛ぶ敵を撃ち落とすために仰角を大きくつけ、さらに砲身を長く設定した大砲です」
「た、大砲で飛行目標を撃墜できるのですか!?」
「正確には、大砲の砲弾を空中目標に命中させるのは人力では至難の業です。対空機関銃という、連射できる対空向けの鉄砲を撃ちまくったとしても、1千発撃って数発直撃すれば『いい方』と言われます。なので、本来は牽制の意味合いが強いですね」
香取は『しかし』と続けた。
「我が艦隊には砲弾が物体への接近を感知し、自ら破裂して至近距離の敵を爆風と砲弾の破片で殺傷する仕組み『近接信管』と呼ばれる機構を採用しております。これにより命中率は劇的に向上したのです」
正確には旧日本軍のレーダーに関する技術は終戦直前時までかなり貧弱だったのだが、この艦隊は旭日の神界における改装によってその能力を得ているのだ。
「恐れ入りました……このような戦法や兵器が存在するのであれば、確かに海賊共も鎧袖一触、相手にならないでしょうね」
すると、ウメコが『ワシの生きてた時代にこんなもんがありゃあなぁ』と呟いたのを大鳳は聞き逃さなかった。
もしかしたら、彼女もまた転生者なのかもしれないと大鳳は考えたが、今はそれどころではなかった。
「ですが、物事は全てにおいて慢心があってはなりません。前世界での我らが仲間たちにも、それで海の底に沈んだ艦(仲間)がいました」
潜水艦の魚雷による浸水から沈没した金剛然り、敵の制空権から離脱したと思って警戒を緩めた結果、これまた潜水艦の魚雷で撃沈された加古然りである。
そしてなにより、急降下爆撃への対策は万全と言っていいほどに強化したにもかかわらず、これまた潜水艦の雷撃が原因で爆沈した大鳳しかりである。
というか旧軍の対潜哨戒能力の低さには涙が出るレベルである。
それもこれも、当時の日本におけるエレクトロニクス技術があまりに低すぎたがゆえに、電子機器の精度が欧米はおろかドイツと比較しても『はるかに』劣っていたという点から仕方のないことなのだが。
結局終戦間際になって、ドイツからの提供や、鹵獲した米英の兵器をコピーする形である程度カバーしてはいたが……間に合わなかったのだからしょうがない。
もっとも、アジアの国でレーダーはもちろんだが軍艦・戦車・航空機を自国で製作できた国が日本だけだったことを考えると、『造れた』というだけでもすごいことなのかもしれない。
「……肝に銘じておきます」
そして、こちらはあきつ丸の中。こちらでは陸軍兵1千人が武器の点検を行っていた。
九九式小銃や一〇〇式機関短銃などに加えて、大発動艇に乗せられている九六式15糎榴弾砲や九〇式野砲も見事なものであった。
それらは全てゴムタイヤが使用されており、特に九六式榴弾砲は『ロング・トム』並みの状態となっているために旧軍時代より運用能力が大幅に上がっている。
だが、それらと一線を画す装備が、この船とは別の船に乗せられている。
「あれが……大砲を乗せた走行車両か」
ツグミチがあきつ丸の甲板から見ていたのは、航行する二等輸送艦に乗せられていた『四式中戦車』だった。
アイゼンガイスト帝国には魔鉱石と貴金属を混合した合金でできている『魔導装甲戦闘車』と呼ばれる兵器が存在するとは聞いていた。
だが、その主砲は50mmほどだったはずである。あの戦車の主砲は70mmを超えるという(一応機密なので正確な数値は教えなかった)。
しかも機動力も高く、泥濘の多い土地柄(この場合は現実の日本国)で使用することを想定していたため、そういった場所でも問題なく使えるように信頼性の高い機器を用いていたという話であった。
「こんなものが我が国の味方になるのか……すごいな」
そして、山城の艦橋ではエリナが改めて主砲を見て嘆息していた。
「やはり大きいですね。このような大砲がこの世にあるなど、アサヒ様に出会うまでは考えたこともありませんでした」
「列強国には大口径砲を搭載した軍艦もあると聞きましたが?」
「私の知る限り、アイゼンガイスト帝国の戦艦でも40cmには届いていなかったように思います」
「へぇ……そうなんですか」
最強の国が超弩級戦艦規模を有しているかもしれないという思わぬ情報が入ったため、記録しておく旭日であった。
「アサヒ様」
不意にエリナに呼ばれたので振り返ると、エリナはニコニコと明るい笑顔を見せていた。
「我が国に仕えて下さるとのこと、誠にありがとうございます」
「いやいや。俺たちだってエリィのお父さん……陛下からあのように言ってもらえるとは想像もしなかったから」
「お父様も熱心な精霊信仰の方ですから。その母たる太陽神様の願いとあれば、たとえ我が国より弱い存在だったとしても受け入れていたと思います」
「そういうもんですか?」
「はい。そういうもんです」
オウム返しに笑顔で返されてしまい、その蠱惑的な笑顔に逆にドキリとさせられてしまう旭日だった。
「だから……今後も末永くお願いいたします」
「……はい」
艦隊は西南へ、悠然とした航跡を残しながら進む。
そして翌日、予想ポイント沖合50kmまで迫ったところで、旭日は大鳳に偵察機を飛ばすように指示した。
「今の時点で飛んでこないってことは、ほぼ100%の確率でワイバーンはいないんだろうけど……ま、念のためってことで確認頼む」
『了解しました』
通信を終えた大鳳は直ちに艦上偵察機『彩雲』2機を発艦準備させる。エンジンを暖機運転させ、調子を確認する。
エンジンを始動させ、カタパルトに機体をセットする。
『こちら1号機、発艦準備完了』
『同じく2号機、発艦準備完了』
誘導員の指示に従い、エンジンの出力を上昇させる。
――ブルルルルルルルルルルルルルルルッ‼
「発艦せよ‼」
――ブルルルルルルルルルウウウウウウウウウウウウウウウウッ‼
大鳳の鋭い指示と共に、彩雲2機はカタパルトによって射出されて飛行甲板を滑走し、蒼空の中へと飛び出していったのだった。
「まぁ『お客様』への遊覧飛行には十分すぎですね」
大鳳は堅そうな表情を崩さずに涼しげな顔で述べるのだった。
こうして大空へと舞い上がった彩雲は、あっという間に高度3千mにまで上がっていた。
その彩雲の後部座席の一角では、空軍卿のナミエが大はしゃぎしていた。
もっとも、翼を広げると邪魔になることはわかっているので縮こまっているが。
「すごい‼私たちハルピュイアはどんなに頑張ってもこんな速度は出せないのに‼内燃機関とそれがもたらす出力ってすごい‼」
パイロットたちが本当に空軍の幹部なのかと疑いたくなるくらいはしゃぎまくっているが、これはハルピュイア族特有のものなので現地の者ならば誰も気にしないのだ。
「お喜びいただけたならば何よりです。間もなく敵本拠地の上空に達します。少し降下して、様子を窺いましょう」
「はい!」
彩雲が降下すると、そら豆のような形をした島が見えた。
「なるほど……砂浜は少なく、その砂浜から山肌に囲まれるような形で1本道が伸びていて、島の奥に砦らしき構造物……これは、同水準の相手であればかなり苦労しそうですね」
「大丈夫ですか?」
ナミエは不安げに聞くが、隣に座っていた観測員は余裕の表情を崩さなかった。
「問題ありません。我が艦隊と陸戦隊ならば、やはり鎧袖一触でしょう」
こんな話をしている間にも、もう1機の彩雲2号機から通信が送られている。
内容はこうだ。
『敵航空戦力見当タラズ。ナオ、構造ハ艦隊ヲ基準ニシテ北部ニ砂浜僅カ、砂浜奥ニ一本道アリ。一本道進行約2km地点ニ砦ト思シキ構造物アリ。歩兵ラシキ影、約300人。ナオ、船舶及ビ航空戦力ノ類ハ確認デキズ』
この報告を、旭日は山城の艦橋で受け取っていた。
「……思ったより少なくね?」
「もしかしたら、この前沈めた船団が主力で、船も残っていないのかもしれませんね」
実際、この間エリナの船を襲撃した海賊は5隻で1千人近くいたらしいが、そのうち2隻は鉄甲船の砲撃で撃沈し、残りも阿賀野と能代が沈めてしまった。
「なんじゃあそりゃぁ……じゃあ普通に空母と揚陸部隊だけでよかったかもなぁ……」
「しかし、艦砲射撃を見せる必要はあると思いますが?」
山城の言葉に『まぁな』と頷く旭日だった。
「じゃあ……皆さんに見ていただく、という意味でも砦に山城の砲弾を撃ち込むか。砂浜にも敵が現れるだろうから、それを香取たちと夕張の艦砲射撃で吹っ飛ばして、輸送艦とあきつ丸に頼んで陸軍を揚陸してもらおうか」
「それでよろしいかと。作戦名はどういたしますか?」
「作戦名ねぇ……『晴天の霹靂』作戦、ってのはどうだ?」
なにもできずに空から降り降ろされた破壊によって葬られる……そういうことであった。
「突如上空より振り下ろされた雷霆と、電撃的な攻勢……いいと思います」
旭日は自分にネーミングセンスがあるとは微塵も考えていなかったが、ひとまずこれでいいか、と考えたのである。
「それじゃ、もっと接近しないとな。どこで撃つ?」
「それなのですが、もう間もなく島まで30kmになりますので、そこでよろしいのではないかと。また、砦を砲撃する際は観測機を飛ばしたいので、観測機の発進許可を願います」
「よし、零偵を発進させろ」
山城以下、砲撃可能な船が島に対して横腹を向ける。
「零偵、発進します」
そして、『山城』に搭載されている零式水上偵察機がカタパルトから打ち出されて空を舞う。
砦上空に到達した偵察機は早速と言わんばかりに報告を始めた。
もっとも、本来弾着観測射撃は『目視圏内よりはるか遠くで動く船』に対して行うのが主で、15km前後という比較的至近距離でやることではない。
だが、山城はできる限り正確を期したかったのだ。
改装された扶桑型戦艦には砲塔に測距儀も搭載されているため、動かない砦への砲撃ならば、本来それで充分であった。
なので、測距儀も用いることで、さらに正確な砲撃を叩きこんでやろうということである。
『山ノ高サハ約50m前後。砦ノ広サ及ビ頂上面積ハ直径約2kmホドト考エラレル』
さらに追加で打電される。通信機もあるにはあるのだが、まずはこちらを使うということのようだ。
ちなみに、今のところ無線や打電を使う国がいるとは聞いていないため、暗号化はされていないのも特徴である。
「うへぇ、砦のデカさの割に山はちっこい」
「こりゃ……アタシの砲撃だけで粉々になっちまうな」
山城が思わず普段の口調に戻ってしまったほどの驚愕だった。
「やっぱ爆撃はいらなさそう……だな」
「ドイツに居たっていう伝説の魔王大佐ドノは文句言いそうだけどな」
この名前を聞いて誰かわかった人、挙手。
ま、『あのお方』なら文句言うでしょう。『急降下爆撃できる機体があるのにしないなんて何事だ‼』と。
「ま、大丈夫かな」
すると、通信機のブザーが鳴った。
『司令、夕張でーす』
「おぉ、夕張。現在地報せよ」
『現在島まで8km区域まで接近しました~。そしたら砦からわらわら人が出てきましたよ~』
「人数は?」
『100人くらいですかねぇ?』
かなり少ない。もはや艦砲射撃を砂浜に見舞おうかどうか悩ましいレベルだ。
『あ、でもぉ、なんだか変なのいますよぉ?』
「変なの?」
『はい~。なんて言うんでしたっけ?チョ○ボ?』
「なんでそんな俺からすると古いけどお前からすると未来のゲームのネタ知ってんだっ‼」
思わずツッコみを入れてしまった旭日だったが、夕張は『まーまーいいじゃないすか』とお気楽である。
あまり真面目に付き合ってもしょうがない(報告そのものは真面目に聞いているのだが)ので、気を取り直した旭日が指示を飛ばす。
「恐らく陸鳥とかそういう奴だろうな。機動力を生かされると面倒だ。やっぱ艦砲で吹っ飛ばせ」
『了解っす~』
通信が切れると同時に、夕張を含めた4隻が主砲を旋回させる。
4隻とも砲の口径は同じなので、統制はしやすいだろう。
夕張は改装によって10.5cm連装高角砲と単装砲を計6門、香取型も改装によって連装高角砲を2基4門搭載している。
これが今回の上陸地点に対する艦砲射撃の戦力だ。
「さて、と。始めるか」
旭日は通信機を取ると、今までにない表情と強い語気で指示を飛ばした。
「各艦、攻撃を開始せよ‼」
『『『『全砲門開け!撃ちぃ方始めぇ‼』』』』
――ズドォン‼……ズドォン‼
今回は交互撃ち方にするつもりらしく、1発目を撃った直後にもう1発を撃つという方法をとっていた。
――ガアンッ‼ガアンッ‼
砂浜で勢いよく土煙が上がると、海賊と陸鳥と言うべき生き物があっという間に吹き飛ばされてしまった。
海賊たちは上陸してくるであろう相手を待ち構えると同時に、陸鳥の機動力で振り回してやろうと待ち構えていたが、いきなり沖合から強烈な爆裂魔導砲の攻撃を食らったのだ。
「なんだよぉ‼いったいなにがどうなっているんだよぉ‼」
「アニキ、あんなヤベェモン持ってる連中なんて……」
直後、アニキと呼ばれた男の側で爆発が発生し、そのまま還らぬ人となった。
海賊たちに対する地獄は、まだまだ続く。
「うおぉ、これが艦砲射撃かぁ……すさまじいもんだなぁ」
実際、揚陸部隊の上陸時における軍艦からの艦砲射撃というものは非常に有効な支援となる。
現代軍艦は主砲の口径こそ127mmと小さめだが、それでも下手なものより的確な支援となるが、それに近い火力である。
大戦中でもヘンダーソン飛行場攻撃の際に『金剛』と『榛名』の35.6cm砲が火を噴き、日ごろ海軍と仲の悪いと言われている陸軍のガダルカナル司令部からは『野砲千門の威力に匹敵する』と称賛されたほどの破壊力を見せたのだ。
それはさておき。
砂浜からは連続した爆発が上がり、その度にその場にいた存在が千切られ、空へと放り投げられる。
旭日はその光景を目の当たりにしながら、自然と手を合わせていた。
「司令、大丈夫か?」
山城の声に、意を決した表情で顔を上げた旭日だった。
「さぁ、今度はお前の番だぞ。山城。弾種は三式弾だ」
「了解‼全主砲旋回!三式弾装填‼目標、山頂の砦‼」
艦内から次々と報告が上がる。
『仰角よし‼』
『座標把握、確認した!』
『装填完了!いつでも発射できます‼』
直後、艦内にブザーが鳴り響く。41cm主砲を発射するため、甲板上の人員を退避させているのだ。
主砲発射の衝撃で甲板上の人間を殺さないための措置である。まぁ、そうならないように対空火器には防盾を設置してあるわけだが。
「主砲発射準備、よし」
山城がチラリと旭日の方を窺うと、旭日はただ一言、『やれ』と命じた。旭日の目にはもう、迷いはない。
「主砲一斉射、撃ちぃ方始めぇ‼」
そして遂に、山城の45口径41cm三連装砲と、同口径41cm連装砲が空気を震わせながら火を噴いたのだった。
次回は12月の24日に投稿しようと思います。
ここから色々加速していくと思いますので、よろしくどうぞ。