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お風呂タイムからの作戦会議

はい。今月の投稿となります。

いきなりですが、お色気シーンです。

いよいよ次回、ドンパチパートとなります。

 その日の内に港湾都市キイに戻った旭日は、早速艦隊の編制を始めていた。

「そうだな……相手が木造帆船を主体とした海賊であることを考えると……旗艦として指示を飛ばすために扶桑か山城のどっちかは連れて行きたいけどなぁ……でも燃費がなぁ……でも乗員の安全を考えると……」

 ブツブツ言いながら旭日は編制を考えているが、この場所はアケノオサメノキミの厚意で用意してもらった、港のすぐ近くにある宿である。

 傍らでは扶桑と山城が座っており、旭日の話を聞いている。

「正直、木造帆船相手に我ら戦艦2隻はやりすぎな気もしますが……私たちも出撃しますか?」

「その点は扶桑と山城の意見も聞きたいな。まずはそもそも、出撃して戦闘に参加したい?」

 すると、山城が胡坐をかいている太ももをバシン、と強く叩きながら『当たり前田のなんタラでしょうがぁ‼』と威勢よく答えた。

「戦艦は大砲を撃ってナンボの存在っすよ!大砲を撃たない戦艦なんて、飛べない豚と同じじゃないすか‼」

 要するに、タダの木偶の坊だと言いたいらしい。

「それ戦後のアニメ映画な。って言うか知ってるのね。あれイタリアの話だけど……」

「こまけぇこたぁいいんですよ‼」

 冗談はさておき、やはり戦艦として大砲を発射する機会があるということは逃したくはないらしい。

「まぁ、そうだよなぁ……扶桑、悪いけど今回は留守番頼んでいいか?」

「私の代わりで妹に活躍の場をもらえると?」

「要はそういうことなんだけど……」

 扶桑は少しだけ考えていたようだが、居住まいを正すと『分かりました』と端的に述べた。姉というだけあって妹に譲る想いが勝ったようだ。

「んじゃ、まずは山城ね。後は……やっぱ巡洋艦いた方がいいよなぁ。でも阿賀野型4隻のうち1隻でも連れて行ったらそれだけでオーバーキルになりそうだしなぁ……」

「というか、我が艦隊の場合魚雷戦を主体とする潜水艦である伊400型ですら1門とはいえ14cm単装砲を搭載していることを考えると、大砲を載せているかどうかすら怪しい木造帆船に負ける気がしないのですが」

 扶桑が涼しい顔で放った言葉ももっともで、練習巡洋艦である香取たちや、重雷装巡洋艦として砲撃力はダウンしているはずの北上や大井、果てには一等輸送艦ですら、相手が非装甲の木造船であることを考えると十分すぎる火力を有しているのだ。

「……正直言って、どいつを連れて行っても演習程度にしかならなさそうだな」

「はい。空母の高角砲ですら俯角が足りなくなる可能性を除けば……逆に言えば、距離さえきちんと取っていれば十分に仕留められますので」

 逆に言えば、これをいい演習だと捉えるのもアリである。

「よし、香取型3隻には参加してもらうか。あいつらは練習巡洋艦だけあって、武官の方にもわかりやすく解説してくれるだろうし。長十糎砲だとちょっと艦砲射撃と言うには威力が不足するかもしれないが……ま、なんとかなるだろう。後は……」

 こうして、編成が決定した。

 燃料の節約という意味でも、少数精鋭でいきたいと旭日は考えた。その結果が、以下のようになる。



○扶桑型戦艦・山城

○香取型軽巡洋艦・3隻

○夕張型軽巡洋艦

○大鳳型航空母艦

○あきつ丸

○二等輸送艦・5隻



「……二等輸送艦を5隻、ですか」

「あぁ。陸軍の兵器を不整地に上陸させたくて輸送するなら、二等輸送艦の方がいい。ついでに、チト車の実戦もしっかり見ておきたいからな」

「陸さんはチヌもそうだけど、試作車両のみの戦車だもんなぁ」

 山城の言うとおり、四式中戦車チトは試作車両だけが作られた、『アリ○イさんチーム』でお馴染みの三式中戦車チヌと同じく実戦を経験していない戦車である。

 カタログスペック的には、ドイツのⅤ号パンターに若干劣る、或いはM4シャーマンの後期型くらいの能力と言われているが、昭和当時の日本における劣悪と言っていいような道路環境でも使えることを想定した戦車であるため、環境への適応率という点ではむしろ優秀という考えもある。

 というか、ドイツの戦車がパンターを含めて攻防共に優秀な代わりにエンジンや変速機などに問題を抱えていたのが多いのに対して、日本の戦車は軽量で豆鉄砲、その上ブリキの紙装甲だったことを差し引いても、エンジンなどの信頼性は『意外に』高かったらしい。

 いい例として、緒戦におけるマレー半島でのイギリスとの戦いでは『九五式軽戦車』ことハ号が戦線突破の間にほとんど故障することがなかったという信頼性だったらしい。

 もっとも、日本陸軍が採用していたディーゼルエンジン自体には問題も多かったらしいが、その辺りは調べる人、考える人によってかなり意見が分かれている面もあるため、一概には言えない。

「ま、陸軍部隊1千人も連れて行くから、よほどのことがなければ白兵戦が発生しても基本的には大丈夫だと思うけどな……」

「いざとなれば、アタシも上陸して援護に回るつもりだぜ」

 山城が手に持っていた海軍刀の柄を床に『ドン』と突きながら頼もしげに言う。

「それはさすがにやり過ぎな気もするけどな……」

 どうやら2人は剣術も強いようで、暇な時は素振りをしている姿を見るが、達人と思わせるほどにスキがないというのが旭日の見立てであった。

「空母として大鳳を連れて行くのはどういうことですか?」

「万が一、ってとこかな。万が一相手にワイバーンみたいな航空戦力がいた場合、いくら対空戦闘能力を強化してあるって言っても山城と夕張と香取型だけじゃ防空能力は不安なんでな。相手が奥の手って感じで出してきて、対応できずに死者を出したら情けない」

「なるほど。その点大鳳ならば甲板に装甲も施されていますから、生半可な攻撃では傷もつきませんね」

 相手の戦力をしっかり評価しつつ、必要最低限の、しかし絶対に勝てるであろうと考えられる戦力で済ませようということらしい。

「確かに、燃料補給の手段を確保できないことには、最低限の艦艇で臨むべきでしょう。ですが、陛下から既に鉱山地帯及び油田があると思しき場所の調査許可はいただいたんですよね?」

 旭日はアケノオサメノキミとの会談の後、燃料関係の補給ができるかどうかということを考えて、油田のようなものがあるかどうかを聞いたのだ。

 その結果、『油の沼のクセに燃えにくい沼があり、開発できない場所がある』という情報を得たので、軽油を含んだ油田があるのではないかと推測した旭日は、あきつ丸に乗っていた陸軍工兵隊及び特設輸送船に乗っていた科学者に命じて皇国側の兵士と共に調査に向かわせたところである。

 幸い、その場所の近くに鉱山があることから、そこにも鉄道が敷かれていたのでそれほど時間をかけることなく行けるらしい。

 2、3日中には答えを出してくれるだろう。

「では、そのように通達してきます」

「特に、夕張は本人の意向もあって今後ほとんど戦闘には参加しないだろうからなぁ。逆に少しでも実戦で集められるデータを集めてほしいよ」

「本人は研究や開発をしたいという要望が強いようですからね。流石は実証実験巡洋艦といったところでしょうか」

「ま、優秀な頭脳が多いのは助かるよ……っと、もうこんな遅くなっちまったか」

 旭日は前世の世界から持ち込むことが許されたものの1つ、電波ソーラーウォッチを覗き込んだ。

 時間は既に午後10時を回っている。

「2人は風呂、まだだろ?もう入ってきたらどうだ?」

「ちなみに、ここの宿の風呂は混浴だそうですよ」

 その辺りの観念は戦国時代から江戸時代初期に近いというだけあり、現代日本人からすると『大丈夫かな……』と思わされるところがある。

 そんな旭日の心中を察したのか、扶桑が『でしたら』と声を上げた。

「もし不安なら、司令も一緒に入られますか?」

「……それ、大丈夫?」

 この場合の『大丈夫』とは、『男の自分が一緒に入っていいのか』ということと、『不特定多数の視線に晒されることになるが構わないのか』という2つの意味を持っている。

「はい。むしろ、司令が一緒にいて下さることで、失礼な言い方にはなると思いますが、悪い虫よけになるかと思いまして」

「なるほど、虫よけか」

 あからさまに男の側にいれば、変な輩からナンパされるようなこともないだろうということらしい。

「司令がお望みとあれば、お触りから本番まで致しますが……司令本人が、相手の好意なしにはそういうことをし辛いという難儀な方ですからね」

「司令は固いんだよなぁ。アタシなんかはもっとはっちゃけていいと思うぜ?せっかく好きにできる女たちがいっぱいいるんだからなぁ。変な心配もいらないしさぁ」

 能天気な山城の言葉に苦笑しつつ、旭日も持論を述べる。

「モノには限度、節度ってものがあるからな。俺としてはそれを忘れちゃいけないと思うぞ」

「はい。司令の仰る通りだと思います」

 旭日はそこでようやく腹が決まったらしい。というか、なにかあったらという思いが勝ったと自分に言い訳もしているのだが、そこを言うのは野暮というものだろう。

「じゃ、皆で入るか。扶桑、悪いけど皆に声をかけてくれ」

「はっ」

 扶桑は立ち上がると、他の艦長クラスを呼びに部屋を出て行った。

「山城は入浴の準備を……」

「つっても、浴衣は用意されてるし、タオルもあるから下着さえ持っていけばもう大丈夫だぜ?」

「あ、そっか」

 元々艦隊司令として持たされた荷物の中に下着類(なぜかきちんと現代のトランクスだった)も入っていたので、その点は問題ないだろうと愚考する旭日だった。

 こうなってくると、早く風呂に入りたくて仕方なくなってくるから恐ろしい。

「んじゃ、異世界初の陸地でのお風呂と行きますか」

 宿の一階へ降りると、同じく風呂場へと向かう津軽と大鳳といういかにもお堅そうな2人が現れた。

「おや、司令も一緒に入られますか?」

「あぁ、嫌なら後にするけど……」

 旭日の遠慮がちに言い方に、津軽はフルフルと首を横に振った。

「いえ。むしろ側にいてください。変な男に声をかけられたくないので」

「大鳳も?」

「はい。私も津軽さんと同じ意見です」

 少なくとも、一緒に風呂に入っていいと思われるくらいには信頼はされているらしいと分かり、なんとなくホッとする旭日だった。

「さすがに脱衣所は別れていると思うけど……」

「どうすかね?案外一緒くたかもしれませんよ?」

 山城の言葉は正しかった。脱衣所に入ると、北上と大井が全裸になってタオルを持っている姿に出くわしてしまった。

 旭日は一瞬で顔を背けるが、2人はいきなり現れた旭日にかなり驚いたようだ。

「キャッ、あ、旭日司令!?」

「ひっ」

 大井は旭日のことを呼ぶだけの余裕があったが、北上は顔を真っ赤にしてしまい、その場にうずくまってしまった。

 見れば、咄嗟に抱え込んだ胸が『ムギュッ』と押し潰されるようになってむしろ色っぽく見える。

「ちょ、ちょっとお姉!司令に主張!主張!」

「む、無理。司令にこんな貧相な体を見せるとか、無理……」

「も~お姉ったらぁ‼」

 大井は姉のヘタレっぷりに呆れるものの、意外と冷静だった。

「悪い。声くらいかければよかったか?」

 だが、大井は先ほどの津軽と同じように首を横に振る。

「いいえ。元々混浴で脱衣所も一緒とは聞いていたので、そこは問題ありません。ただ……」

 大井は足元にうずくまる姉を見ながら嘆息する。

「お姉がこんな風にカチコチになっちゃうから、次からはお姉に関しては声をかけてあげてください」

「あ、あぁ……」

 旭日があまり大井たちの方を見ないようにしながら手際よく服を脱いでいくと、大鳳や津軽、山城も服を素早く脱いでいく。

 大人っぽく豊満な容姿を持つ(津軽は若干スレンダー気味だが)3人を見た北上は、さらにブツブツと呪詛を吐くがごとく呟くのだった。

「ほらぁ……あんなのと比べる方がおかしいんだってぇ……うぅ、せめてもうちょっと排水量(胸とお尻)があればぁ……」

 そんなネガティブな思考に陥っている北上を見た旭日は、恥ずかしがったり欲情したりするよりも先に『仕方ないなぁ』と言わんばかりの顔をして、『ヒョイ』と彼女の手を取って立ち上がらせた。

「ふえっ、し、司令?」

「ほら、そのまんまじゃ風邪ひいちまうぞ。風呂入ろうぜ」

 そのまま北上の手を引くと、浴場の中へ入っていったのだった。

「ヒュウ、司令もやるねぇ」

「あんな男前なことをされては、年下の女の子は惚れてしまうじゃないですか」

「なんでも司令、前世ではお姉様がいたとか。自分もそうしてもらったということで慣れているんでしょうね」

 山城たち3人が後ろで好き勝手に言っているが、無視した旭日だった。

 とはいえ、実際旭日は前世で姉を持つ弟だったのだが、そんな姉からはとても大事にされていた。

 甘やかされたというか、周囲にはブラコン扱いされていたほどである。

 成人しても彼氏を作らずに弟にべったりだったのだから、それを考えればかなりのブラコンである。

「(ごめん、撫子姉さん。姉さんの花嫁姿見る前に異世界転生なんかしちゃって、おまけに女の子の裸まで見ちゃって)」

 相手が年下に見える北上なのでなんとなく違うような気がするものの、心の中で詫びる旭日だった。

 浴場へ入ると、既にほとんどのメンバーが集まっていた。

 肌色の強い、桃源郷とでも評すべき光景である。

「って言うか、ほぼ俺たちの貸し切りだな」

 すると、湯船からお湯を汲んで体にかけていた香椎が寄ってきて耳打ちした。

「なんでも、お客さんのほとんどは既に寝ているそうです」

「ま、最低でも戦争の心配がない治安のいいという国で、夜遅くまで働く必要がなければそうなるか」

 実際、江戸時代までの日本は晴耕雨読が中心の生活で、夜は食事してしばらくしたら寝るものだった。

 そう考えれば不思議なことではない。

「っていうか、それだったら俺は後でもよかったんじゃ……?」

 旭日が問いかけると、全員目を逸らしたのだった。どうやら確信犯だったようである。

「それにしても……壮観な眺めだな」

「うふふ。酒池肉林ですね」

 今度は鹿島にからかうような声で言われてしまったが、事実その通りなので旭日もなにも言えない。

 鹿島の隣では明石と足摺、塩屋もニヤニヤしている。

 彼女たちに恥じらいがないというわけではなく、あくまで『旭日が特別』なのである。

 また、ここにいる面々で明石以外の3人は中学生から高校生くらいの見た目なので、年の離れた妹ができたような気分であった。

 旭日自身の見た目が今は18歳にまで若返っているのでそんなに離れているわけでもないのだが。

「まぁいいさ」

 旭日は前も隠さずに椅子に座り込むと、お湯をかけて体を洗い始めた。

「っていうか、石鹸はあるんだな……」

「なんでも、列強国の一角であるヴェルモント皇国という国の魔導師が作り出した、魔力回復の効果もある石鹸だそうです。素材自体は手に入りやすいもので作られているせいか、意外とお手頃価格なんだそうで」

 もっとも、旭日は転生する際に『あなたは魔法が使えないので』と言われているので、体がキレイになること以外は意味がないのだが。

「そ、そうか……」

 旭日の隣に座っていた大鳳が情報をくれる。だが、そう言いながら旭日の方を振り向いた時に豊満な胸元が『プルン』と揺れるので目のやり場に困る旭日であった。

 すると、扉が開いて扶桑と飛鷹と隼鷹、伊400型3人に間宮、あきつ丸や熊野丸や駆逐艦娘など、残りの面々もどやどやと入ってきた。

 もはや旭日以外は全員女性しかいないという状態である。

 兵士や副艦長以下の存在は別の宿に宿泊しているため、この宿はほとんど旭日たちだけと言っていい。

 つまり、扶桑たちの言う『悪い虫よけ』は、半ば方便だったのだ。

 そして、遅まきながらそれに気付いた旭日であった。

「そ、それはそうと、王国はよく数万人以上の宿泊場所をあっという間に確保できたな」

 旭日が気恥ずかしさから話題を逸らそうとすると、意外にも皆も同じ意見だったらしく、ざわざわと話し始めた。

「確かにそうですね」

「いくら神託があったって言っても、用意がよすぎる気が……」

 すると、エリナと話をして事情を聞いていた扶桑が旭日に『それなのですが』と声をかけてきた。

「元々この宿を含めた港湾部の宿泊施設はアイゼンガイスト帝国から軍艦が訪問した際に艦長や幹部級、さらにそれ以下の人間を宿泊させるためのものなのだそうでして、我々は太陽神様のお告げにあった人物だからということで特別に宿泊させていただいているようですね」

「なるほど。しかも艦長クラスは全員船の化身だからな。そういうこともあって優遇されているわけか」

「ここは古き良き日本の旅館を思わせる場所ですので、我々日本の軍艦の化身としても居心地がいいです」

 それはその場にいる艦長全員の総意らしく、皆で『うんうん』と頷いていた。

「ま、皆が気に入ってくれたならありがたいけど……もし本格的に拠点を構えることになったら、どこがいいか考えておかないとな」

 旭日の言葉に追従するように、津軽が『それならば』と声を上げる。

「日本の内部に詳しい人との会議も必要だと思います」

「あぁ。間宮や明石、夕張たちのための場所も確保しておかないとな」

 旭日としては平時の際は間宮には飛鷹や隼鷹と一緒に食堂でもやってもらおうかと思っており、明石と夕張には技術開発のための工廠を立ち上げてもらうつもりである。

「でも司令、そんなに広い土地って確保できるんですかぁ?」

 明石の声に旭日も『そこなんだよなぁ』と唸り声をあげた。

「まぁ、さっきの扶桑の言葉じゃないが、エリィや陛下、それに担当者の方々とも話し合って、だな」

 体を洗い終わった旭日は、ゆっくりと湯船に浸かった。

扶桑の内部でも風呂には入っていたが、こんな風にのんびりできるムードではなかったのも事実だ。

「くぅ~……染み渡るねぇ」

 それに続くように、山城と大鳳、津軽も入ってくる。

「ふほぉ……こりゃいいやぁ」

「あぁ……体のコリがほぐされていく気がします……」

「お2人は大きいだけに大変でしょう」

 津軽の珍しく茶化すような言い方に、苦笑する山城と大鳳であった。

津軽のこの言葉には雲龍型3人や飛鷹型2人、さらに意外と大きい間宮やあきつ丸たちも苦笑していた。

 自分の隣で繰り広げられるギリギリな女子トークに、若干照れつつも楽しんで聞く旭日であった。

 すると、霞と清霜が旭日の手をグイグイと引いてきた。

「司令、露天風呂もあります」

「一緒に入りましょう」

 どうやら外の露天風呂へ行きたいらしく、キラキラと目を輝かせていた。子供とはそういうものである。

 え、彼らは見た目だけだって?いいじゃないですか、細かいことは。

「おぉ。行こう、行こう」

 旭日が移動し始めると、たちまち他の女たちもぞろぞろと付いてきた。

 旭日は『別についてこなくてもいいのに……』と内心思ったものの、そんなことを口にしようものならば『野暮は言いっこなしですぜ、司令』と山城あたりに窘められてしまうであろうことは容易に想像できてしまったので、黙っておくことにした。

 外へ出ると真っ白な月が強く、しかし優しく光り輝いていた。

 もっとも、オタクの旭日からすると『某特殊と書いて変態な刑事課の刑事が〈月光〉に乗って現れそうな夜だな』と思ってしまうのだが。

「おぉ……いい月だな」

「はい。とても美しいです」

「絶景かな、絶景かな、なんてなぁ」

 皆口々に月の美しさに見惚れていた。

 すると、天城がポツリと呟いた。

「月をこんなに美しく感じる日が来るなんて、夢にも思いませんでした」

「月は、嫌いか?」

 旭日の質問に天城は首を横に振った。

「嫌い、ではありません。ですが、煌々と輝く月を見てしまうと、どうしても無念ばかりが募ったもので……」

 すると、天城と妹の葛城だけでなく北上や隼鷹なども唇を噛み締めるような、どこか悔しそうな表情を見せた。

 つまり、そういうことだ。

「……そうだよな。皆は出撃できない、あるいは大破着底した姿で見たことの方が印象に強いか」

 揚陸作業の際の話では皆吹っ切るように頑張るつもりだったようだが、そう簡単に吹っ切れるほど人生(艦生か?)というものは単純ではない。

 旭日は一番近くにいた天城と葛城の肩をグイっと引き寄せた。

「きゃっ」

「し、司令?」

 2人は顔を赤らめつつも旭日の顔を見ると、旭日はまっすぐ月を見据えていた。

「これからはさ、我が国(日本)の象徴たる太陽だけじゃなく、太陽と表裏一体の関係を持つ月のことも、大切にしていこうぜ」

「え?」

「それって……」

 旭日は月を見据えたまま続ける。

「お月見や月見酒、一句読んだり歌を作ったり……そんな平和なことができるようになればいいな、なんて思うんだが……それじゃ、ダメかな?」

 滅茶苦茶なことを言っているという自覚はある。だが、それでも彼女たちを元気づけてあげたいと思った旭日なりの心からの言葉であった。

 もっとも、旭日自身が今までそんな風流な生き方をしてこなかったという経緯がある中で彼なりに必死に考えて絞り出した言葉なので、無理もない話である。

 すると、山城が後ろから抱き着きながら笑顔を見せた。

「そうだよなっ!くよくよしてたってなんにもなりゃしねえ!アタシだって月を見ながらフルボッコにされて明け方に沈んじまったけど、別にお月さまは悪くねぇからなぁ‼」

 山城の元気な言葉に、その場にいた面々の顔に笑顔が戻った。

大鳳や津軽という真面目が服を着て歩くような性格の者たちですら、思わずクスリと笑いだしてしまったほどだ。

 そんな様子を見た旭日はさらに続けた。

「それでいいんだ。思い出すのも仕方ないし、憂鬱になるのも当然だ。でも、俺たちには新しい今日と明日ができた。それを『満足した』と言い切れるように、生き抜きたいって思うね」

 こうして、夜は更けていくのだった。

余談だが、風呂を上がるまで旭日に肩を抱き寄せられていた天城と葛城に関しては、布団に入ったところでその時のことを思い出してすさまじく悶絶し、一晩中布団の中でゴロゴロしまくるのだった。

ちなみに姉の雲龍はそんな妹たちの様子に気づいてはいたが、見て見ぬふりをしたのであった。

優しいお姉ちゃんである。

 彼女たちが海賊退治のメンバーに含まれていなかったことは、大きな幸いというべきだったかもしれない。

 この2日後、彼らは海賊退治へと向かうのだった。

表現が大丈夫なのかどうかは不明ですが……これまで読んできたなろう系小説も結構ギリギリなネタ多かったし、大丈夫、な、はず。

次回は11月の26日か27日に投稿しようと思います。

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