謁見
今月の投稿となります。
いよいよ日本上陸です。
そして……次回、またもドンパチをやります。
旭日たちは日も暮れ始めた中、エリナの案内を受けて魔導車の車内で揺られていた。
魔導車は『銀色のC11』といった風情の重厚な、しかし同時に派手な蒸気機関車に似たような存在だった。
「魔導車は軍艦同様に貴金属を合金させることで魔力の伝達効率を大きく上昇させているんですよ。帝国ではもっと新しい型もあると聞いていますが」
「召喚小説の自称最強の帝国の軍艦にそっくりだな……」
その組成と成り立ちから思わず『(ぽっと出の変な国家にやられなきゃいいんだが)』と旭日は心の中で人知れず嫌な予感を覚えた。
「扶桑、乗り物酔いとかは大丈夫か?」
「はい。海の上に比べればどうということはありません。凪ならばともかく、荒れる海はこの程度ではありませんから」
「そっか……俺は昔っからバスとか車高の高い車が苦手だったなぁ……」
その間に、エリナから大日本皇国の国土に関する説明があった。
形状は日本列島そっくりだが、大きさとしては日本列島にカムチャッカ半島とサハリンと朝鮮半島を足したより少し大きな面積を持つかなり大きな島国で、農業・漁業・造船業・鉱山業などの各産業が非常に盛んであること。
人口は約3千万人と、江戸時代最盛期の日本の1千万人の3倍もいる。
元々は強い精霊の加護を得ていたハイエルフの初代国王『タカマガハラ・ジンム』によって建国された国で、1万年を超える歴史を持つ。
国王が変わるごとに様々な種族と婚姻を結んできたため、王家はたまに種族の特徴が交じり合った『キマイラ族』として生まれることがある。
エリナはその1人らしく、『エルフの美貌と魔力』、『ドワーフの腕力と酒豪』、『獣人族の身体能力』、『ダークエルフ族の頭脳と肉付き』、『人間の繁殖力』を全て併せ持つという、この世界の個人基準で見ればとんでもないチート存在ということらしい。
華奢で可愛らしい見た目に反して、どうやら結構な武闘派らしい可能性が出てきたが、それすらも魅力に見えるのだから恐ろしい。
現君主はアケノオサメノキミといい、対外的には旧世界の日本と同じく『天皇陛下』と呼ばれているそうだ。
住人はヒト種・エルフ種・ドワーフ種・獣人種・水棲人種・ゴブリン族・オーク族などの多種族国家となっており、居住可能区画を除けばその多くが種族ごとに向いた職業に就いているとのこと。
職業の自由もあるようだが、種族ごとに向いた職業に就く方が効率もいい、便利であるという合理的な考え方が浸透しているようで、根性論・精神論ばかりの旧世界の日本とは異なる一面もあるらしい。
国土は大きく分けて4つに分かれており、それぞれに異なった精霊の加護が宿っている。
日本で言う東北の部分は鉱石と炎の精霊の加護で火山・鉱山区域となっており、マギカクロイツ基準で世界の5指に入るレベルの大量の鉱物が出土するほか、温泉街としても有名。
温泉と聞いて、風呂好きな日本人である旭日と扶桑は思わず『おぉ』と期待する表情になってしまった。
また、北陸の沿岸域では黒い油のようなベトベトした、しかし燃えにくいものが噴き出すという。
旭日はそれを聞いて、『油田があるのかもしれない』と判断していた。できれば後で陸軍の工兵隊に調べさせようと考えている。
幸いなことに、輸送艦や輸送船の中には採掘道具と加工機械の設計図も存在したため、油田さえ見つかれば色々な物が作れるのだ。
南東部分は大地と食物の精霊の加護で穀倉地帯・火山による温泉地帯となっており、日本的なコメから欧米的な小麦・大麦まで様々なものが育成されており、この国の食糧自給率を130%まで引き上げる要因となっている。
西部は樹木と水の精霊の加護で豊かな山林地帯となっており、魔力の宿る木『魔木』が育成している。こちらも精霊の加護によって樹木の生育が地球基準の10倍以上早い。
そして中央と言える港湾都市キイや首都であるアシタカノウミは地水火風、四大元素を司る精霊の加護で人々が平和かつ快適に暮らせる土地となっており、大日本皇国の人口の1割がここに居住している。
これらの精霊の加護は『精霊信仰』の考えに基づくもので、大日本皇国以外では世界最強と言われる列強国『アイゼンガイスト帝国』を含めてわずかな国以外には信仰していない。
しかしこの国のおかげで、大日本皇国は保護国でこそないものの、大切な取引相手と考えられており、弱小国でありながら世界最強国の庇護下(ある程度だが)にあると認識されている。
また、『全ての精霊たちを統べる存在』という意味で太陽を国旗としており、それが輝くという意味で旭日旗を海軍旗に用いている。
これを聞いて旭日は疑問に思っていたことをぶつけてみることにした。
「それと、気になっていたことがもう1つあるんだけど……国全体が、古い日本に似ている気がするんだ」
「はい。それは私も気になっておりました」
旭日に続くように、扶桑も言葉を発した。
それに対して、エリナは笑顔のままとんでもない事実を投下した。
「実はですね、この国は確かに日本と呼ばれておりますが、君主を含めて度々異世界の『日本』からの転生者が来ているのですよ」
「え、日本からの転生者!?」
「はい。度々日本人の転生者(日本人のまま転生してきたわけではないが)として松永久秀や織田信長、徳川家康という人物などが現れたのです。その結果、魔法を用いた文明で成り立っているものの、建築物や兵器の設計思想も魔法を使わなかったという日本寄りになっているという次第です」
メタ発言と言ってもいい話だが、どうやら、エリナは異世界の日本という国の存在も知っているようだった。
「そのために食文化として、この世界では珍しい米を主食としているほか、生魚を食べる文化があるんですよ」
「そういや、さっき日本的な米がどうとかって言っていたような……異世界の日本だって言われればむしろ納得だけどな」
長かったので少し頭から抜け落ちていた旭日であった。
「なるほど。かの梟雄と言われた松永久秀のみならず、信長公や家康公までもがこの世界に転生しておられたとあれば、様々なモノが似ていても不思議ではありませんね」
「じゃあ、『アヅチ城』ってのも……」
「はい。11代前の天皇陛下にお仕えしていた宰相、ノブナガ様の時代に建築されたものです。ノブナガ様はエルフ族に転生されたお方でしたが、大変派手好きでして……湖のど真ん中の孤島にアヅチの御城を築かれたのです」
「あ~それ聞いたことあるなぁ……さすがは信長公と言うべきか……」
滋賀県の琵琶湖はかつてもっと広かったらしく、信長の安土城はその湖上に立っていたと言われている。
なんでも、ヨーロッパのモンサンミッシェルの話を聞いてモデルにしたという逸話もあるそうだ。あくまで逸話だが。
派手好きで、西洋のあれこれに興味を強く持っていた信長ならやりかねないと思ってしまうのは、旭日だけではあるまい。
「また、現君主である私のお父様も前世は日本の皇族だったそうです」
「えっ、日本の皇族!?」
どの世代の、どの立場の人かはわからないが、とんでもないことを聞いてしまった旭日だった。
なお、今の元号は明治だと聞かされ、明治時代の人が付けたのだろうか、と考えもした。
「あっ、見えてきましたよ」
外を見ると、巨大な湖が眼下いっぱいに広がっていた。そして、その周囲に町が広がっているように見える。
「うおぉ、本当に琵琶湖みたいだ!」
「見事なものですね……」
旭日の隣では、扶桑も『ほぉ……』と息を吐きながら見惚れていた。
「あれこそが我が国の首都、アシタカノウミです」
見れば、街そのものは江戸の町の作り方に似ている。
先ほどの話から推定して、恐らく徳川家康が指揮したのだろうと旭日は推測していた。
「高層建築とまでは言わないけど、4階建て以上の建造物も結構多いな……」
「はい。魔木は魔素を浴びている限りは頑丈なので、大きな建造物にしても問題ないんですよ。あれで燃えにくいという特徴もあります」
「なるほど。それを利用して高層建築物も建てられた、ってわけか。結構魔法がチートな一面もあるな……」
どうやら、民生技術は想定より高いかもしれない。それが旭日の感覚であった。
やがて、英国風のターミナル駅へ列車は入っていく。
「さぁ、こちらです」
駅を出ると、舗装された路面にかなり大きめの人力車……いや、馬車が待っていた。ただし、車を引いているのは普通の馬ではなくケンタウロスだったが。
「姫様、お待ちしておりました」
「では、お願いします」
「はいっ‼」
ケンタウロスの男は力強く走りだした。どうやらサスペンション代わりの板バネが入っているようだがやはり結構揺れる。
それでも日本の人力車よりははるかに速いので、驚くばかりである。
街中では江戸時代のような服装に身を包んだ、様々な種族の人々が歩いている。
蕎麦屋の屋台もあれば、風車売りやお面売りなど、いかにも江戸時代の日本と言った風情である。
だがそんな中に混じって、『牛鍋』や『洋食』の看板も多数見られた。
恐らくだが、旧世界から輸入された文化が多数あるのだろう。
そんな街を疾走すること20分、今度は湖の沿岸にある港に到着した。
「では、こちらからは船になります」
見ると、帆船が1隻待機していた。見た目は江戸時代の北前船に似ている。恐らく、外洋で使えないタイプなのだろう。
旭日と扶桑が船に乗ると、エルフ族らしい男性が呪文を唱え始めた。
『来たれ風よ。精霊の名において、船を動かす力となれ』
すると、帆布が勢いよくはためいたかと思うと同時に、船がゆっくりと動き出した。
さらに加速するためなのか、両脇では獣人族らしい男性が何人もオールを漕ぎ始める。
「おぉ、一気に加速したな」
「はい。魔法と人力を併せているとはいえ、見事なものですね」
船は5km以上沖合にある城に向かって、悠然と進む。
意外と速度は出ているが、確か旧世界でもそういう船はあった。
手漕ぎでも本気を出せば16ノットくらいは出せる船が存在するらしい。
それはさておき、風と獣人族の男性が勢いよく漕ぎまくるおかげで、遅く見積もっても12,3ノットくらいの速度は出ているように見えた。
「あれが我が国の城、アヅチ城です」
「うおぉぉ……こりゃすげぇや」
近づけばわかる。とにかくデカい。
形状は旭日が昔見たことのある安土城のイメージ想像図によく似ていた。
近づく中でよく見れば、物見櫓のような建造物にエルフ族らしき人が、城の上空は有翼族や妖精族のような飛行可能な種族が見張りをしている。
少なくとも、対空戦闘という概念を理解しているように思えた。
これは文明水準からすると、考え方などはかなり高度かもしれない、などと思わされる旭日であった。
そして、船は30分と経たずに桟橋に繋がれた。桟橋も石造りで、想像以上にしっかりした構造である。
「(湖も広いし、城に乗り込む際は水上機を使えれば結構便利かも……)」
桟橋では、和服を着こんだ様々な種族の人々が待ち構えていた。
「姫様、お帰りなさいませ」
「ただいま、シュンスケ」
シュンスケと呼ばれたドワーフ族の男性は、ちらりと旭日たちの方を窺った。
「こちらの方が?」
「えぇ。魔法通信で報せた人。私たちの船を助けてくれたオオクラ・アサヒ艦隊司令よ」
「お話は伺っておりました。陛下がお待ちです」
いきなり君主との謁見ということで、旭日も緊張する。
扶桑も同じらしく、硬い表情をしていた。
妖精族の従者に城内へ案内されると、その多くはやはり日本的な造りになっているようだが、所々でそうでもない部分が見受けられる。
「(恐らく、このマギカクロイツに合わせた造り、ということなんだろうな)」
建築に関してはあまりわからない旭日なので、そこはそう考えるしかなかった。
天守閣の上へ、上へと上っていくと、さらに空気が厳かになるように感じられる。
緊張のせいで既に喉はカラカラになり、そのクセ冷や汗は流れっ放しという状態である。
「こちらが謁見の間になります」
襖1枚隔てたところに君主がいると考えると、体が固まってしまう。
そんな錯覚を覚える旭日だったが、不意に右手に柔らかい感触を感じたので横を見れば、緊張しながらも旭日の手を握っている扶桑の姿があった。
「扶桑……サンキュ」
「いえ。私も緊張してしまってつい司令の手を……失礼しました」
だが、旭日は気にしなかった。真面目な扶桑にもこういう一面があったのだと思うと、ギャップ萌えと言うほどではないが『可愛いな』と思わされるのだ。
「いいよ。俺だって緊張しているんだから、お互い様さ」
「司令……ありがとうございます」
扶桑がようやく笑みを見せた。普段は凛々しいだけに、かわいい顔をするとそれがより引き立つのである。すると、そのタイミングを見計らったかのように案内をしてくれた。
「どうぞ、お入りください」
従者の声を受けると襖が開き、旭日と扶桑はゆっくりと中へ入った。
中は想像以上に広々としており、所々に絢爛な細工が施されている。その最奥に、獣人族の耳を持つ壮年の男性が座っていた。
「お父様、エリナ、ただいま戻りました」
「エリナ、よく無事で戻った。海賊に襲われたと聞いた時は流石に肝を冷やしたぞ」
低いが、かなりよく通る声である。旭日が今まで見てきたアニメでは、聖○戦争を取り仕切っていた神父の声にそっくりだった。
彼こそが、エリナの父にして大日本皇国の君主たる天皇、アケノオサメノキミなのだろう。
「はい。私も一時はどうなるかと思いましたが、こちらのアサヒ様率いる艦隊に助けられたのでございます」
「ふむ……アサヒ殿、と申したな。朕がこの大日本皇国の君主、アケノオサメノキミである。まずは厚く礼を言いたい。我が愛娘を守ってくれたこと、感謝の念に堪えぬ。この通りだ」
「いえ。我らは太陽神様の神託に従い動いていただけでございます。礼を言われるようなことではございませぬ」
「なに、それはこちらも変わらぬよ。太陽神様より承った神託に従い、エリナを友好国との交流会に出席させたのだからな」
どうやら、向こうもほぼほぼ同じ状態だったらしい。
「エリナ様から聞いた話が確かならば、この国は精霊を信仰しているとのことですが……太陽神様とのご関係は?」
「あぁ。太陽神様は全ての精霊の母たる存在なのだ。表裏一体たる月光神様と共に、全ての精霊を見守ってくださっているという」
「では、軍船が掲げていたあの太陽の旗も?」
「いかにも。あの旗は太陽神様をお祀りする我が国の象徴である。また、太陽神様を旗の意匠に用いながら月光神様が存在しないのはなぜか、と気になるところであろう?」
旭日は自然にコクリと頷いていた。
「古き時代、かつて我が国は太陽神様と共に月光神様も崇めていた。だが、月光神様は大変に慎み深いお方であった。太陽の裏たる自分が強く扱われることを好まれなかったのだ」
要するに恥ずかしかったから大きく取り上げないでほしい、という神託があったらしい。
「故に、我が国は主信仰として太陽神様を崇めている、ということなのだ」
「左様でございましたか。よくわかりました」
「さて、次は私の方からも質問してよいかな?」
旭日はなぜか反射的に『は、なんなりと』と答えていた。
なぜそのように対応するのか自分でもわからなかったが、今は『そうするべき』という直感に従っていた。
「お主らも太陽神様の旗を……旭日旗を掲げているそうだが……やはりお主らも日本出身の者なのか?」
アケノオサメノキミが旭日旗を知っている、という時点で、彼が少なくとも明治時代以降の人間であることは確定した。
「仰せの通りでございます。私はかつて、日本国の一国民として生きていた人間です。とある理由から死後に太陽神様にこの世界への転生を認められ、神託で貴国へ向かうように誘導されたのだろうと思います」
「では、お主らは我が国に仕えてくれる、と考えてよいのか?」
『やはりそうなるか』と旭日は納得していた。
自分たちの埒外にある、とてつもなく力強そうなものを目の当たりにし、しかもその存在がどこにも所属していない部隊なのであれば、それを引き入れたくなるのも無理はない。
まして、エリナから聞いた話が確かであれば、大日本皇国は東方の島嶼国家群と第3世界大陸、さらに北方大陸を結ぶ貿易中継地点の国家として経済も豊かな国であるようだが、それでも文明圏に属さない国ということで各国からは基本的に見下されているらしい。
そんな中で、自分たちの理解を超えるほどの力が加わってくれるとなれば、これほど嬉しいことはないだろう。
「私たちとしても、可能であれば母港を得て、それでていて平和のために活動したいと考えております」
「平和のために、か。我が大日本皇国も基本的には平和主義の国であってな、攻められない限りは絶対にこちらからは仕掛けない主義なのだ」
「左様でございましたか。それは素晴らしい考えだと思います」
「もっとも、攻め入ろうという国があれば容赦なく反撃はするがな」
この辺りは現代日本と随分隔たりがあるようだ。
だが、令和に至るまでの日本国憲法というものは元々アメリカに押し付けられた平和憲法であるため、そろそろ時代にそぐわなくなっていることを直視するべきだ、と旭日は考えている。
「国家として、その程度は当然のことであると考えます。もっとも私は、戦争中は仕方なくとも、それが終われば皆等しく神の元に召されるという考えから、敵味方問わぬ供養をするべきだと考えておりますが、陛下はいかがですか?」
すると、アケノオサメノキミは相好を崩してニコリと笑った。
微笑みはエリナにどことなく似ている気がした旭日であった。
「その通りだな。我が国もその辺りは同じだ。貴殿も、つい先だって娘を襲撃した海賊を倒した後、その亡骸を供養してやったそうではないか?」
「その話までお耳に入っておりましたか……」
旭日は海賊との戦いの後、敵味方問わずに亡くなった者たちに対して祈りを捧げていた。
別にそれで自分の罪が許されるなどとは思っていない。むしろ、いずれ死んだ時にきちんと裁かれるであろうと考えてのことである。
某特撮風に言うならば、『さぁ、お前の罪を数えろ』といったところか。
だが、不思議と旭日は人を殺したという事実に嫌悪感や忌避感を抱いていなかった。
自分の指揮下にある艦隊が欲しかったということと、この世界ではそれが必要になることだから、と最初から割り切っていた部分もある。
自分でも驚くほど、ドライな一面があったと気付いた旭日だった。
「いや。確かに国家という存在は非常時こそ非情に徹する必要があるが、死んでしまえばもはや敵味方もない。貴殿の考え方を、私は支持するぞ」
「ありがたきお言葉でございます」
「本題に戻そう。どうだろう、我が国に仕えてくれるか?」
「願ってもないことでございます。太陽の旗を掲げ、日本人と関わるのみならず、平和のために来ている国を守れる一翼となれるのであれば、非才の身なれどもお国のために粉骨砕身働きましょう」
これに関しては、この国の基準からすると圧倒的な戦力をネタに、仕官したいという願いを旭日側から言い出すつもりだったのだが、いい方向で裏切られた気分である。
海の上でエリナから旭日旗の話を聞いた時から、既に陸軍や他艦の乗組員たちにも話は通してあった。
彼らとしても、『日本人の関わった場所、日本と名の付く国を祖国とできるならば』ということと、『元より日本国の信仰する天照大神様(太陽神なので日本人にはこう捉えられる)が御霊を任せた者のいうことならば』と考えてくれたことも幸いした。
すると、アケノオサメノキミの隣に座っていたドワーフ族の男性が『陛下、お待ちくだされ』と声を上げた。
よく見れば、先ほどエリナに挨拶していたドワーフの男性である。
「失礼。私は大日本皇国の『総理大臣』を務めるイトウ・シュンスケという。お主らの話はよく分かった。だが、正直言ってお主らがそれほどの力を持っているのか疑わしい部分もあるのだ」
一瞬、この人物は伊藤博文の転生者なのではないのかと思った旭日であった。
長州藩出身の伊藤博文は若い頃、志士時代に『伊藤俊輔』と名乗っていたからである。
「それも総理殿の仰る通りだと思います。では、力を見せよ、ということでしょうか?」
シュンスケは『うむ』と頷いた。
「お主らが退治した海賊はな、王国から南西方約300kmの海域の島を根城としている」
内燃機関を持つ艦隊の指揮官である旭日からすれば、意外と近い位置だった。海賊たちは東の方へ行った時にエリナたちの船と出くわしたのだろうと旭日は推測する。
そしてそこまで言われれば、なにをしてほしいのかはすぐに分かった。だが、早とちりでも困るので旭日は最後まで聞くことにした。
「我が国の軍船では、海流に逆らうこともあってか到達するまでにすら1週間以上もかかってしまうのだが……お主らの船は我が国の軍船よりもはるかに速度が出せるという。海流とてものともせんのだろう。そこでじゃ、お主らの船で、島に巣食っている海賊どもの主力を退治してきてはくれぬだろうか?」
予想通りの展開となった。だが、これで力を見せることができれば旭日たちは安住の地を得られるかもしれなかった。
「それは構いませんが……私共の実力を見る、というのであれば、観戦武官の方も乗られるのですか?」
「そうだな。陸海軍の軍関係者から人物を選りすぐり、お主らに同行させようと思う。何か不都合か?」
旭日は『いいえ、とんでもございません』と首を横に振った。
「陛下、よろしいですかな?」
どうやらイトウ総理は力を疑っている、というよりは他の面々を説得できるだけの材料が欲しい、というところらしい。
元々海賊を圧倒的な力で退けたという話は聞いているので、それをより確固たるものにしたいのだろうと旭日は何となく想像がついた。
「うむ。イトウの言うことももっともである。オオクラ・アサヒよ。お主の率いる艦隊にて、島に巣食う海賊共を見事叩き潰して見せよ。さすれば仕官の道、重く考えようぞ」
「ははーっ!承りましてございます‼」
旭日は旭日で、相手が戦国時代から江戸時代前後の文明水準であるとするならば、少々大仰な態度を取った方が分かりやすいだろうと考え、大声で了解を宣言した。
「元々海賊には手を焼いていたのだ。奴らは神出鬼没な上に我々では退治しにくい場所に巣食っておる。治安維持を担うはずの列強国も、あまり当てにはならん」
少し苦々しげな顔をしたアケノオサメノキミは、どうも知っている列強国にあまりいい印象を持っていないようだった。
と、隣に座っていたエリナがこそっと耳打ちする。
「我が国から最も近いところにある列強国、ヴェルモント皇国は覇権主義でして、領土拡大と属国・属領の獲得にばかり躍起になっているものですから、大陸周辺の治安維持は二の次なのです」
「なるほどなぁ」
どこの世界でも、覇権国家はがめついのであろう。某国や某国など、日本の近辺だけでも歴史を紐解いても枚挙にいとまがない。
本来であれば世界に列強国と認識されるような国となれば、国家周辺のみならず様々な治安維持もこなさなければならないはずなのだが……少なくともヴェルモント皇国はそれができていないらしい。
もっとも、旧世界でも某国や某国のように周辺国家への威圧を強めるばかりでまるで治安維持になっていない列強国があったため、旭日は『人間の本質は世界が変わっても変わらないもんか』と呆れるしかなかった。
「ではこれより港湾へ戻りまして、率いる艦を整え補給を済ませ……そうですね、明後日に出港して海賊を退治いたします」
「うむ。頼んだぞ」
旭日が立ち上がると、エリナがさも当然のように付いてきた。
「……あの、エリィ?なんで付いてくるの?」
「なぜって、この間は部屋の中で籠ってばかりでしたから、アサヒ様の艦隊の活躍を拝見していないのです!私も見てみたいのです!」
まぁ、海賊といってもこの大日本皇国の武力とさほど変わりがない水準であれば、付いて来ても問題はないだろうと考えるが、皇族に万が一のことがあれば切腹ものである。
「……陛下にきちんと許可はとってからにしてくださいね」
「はい!」
わかっているのかわかっていないのか、よくわからない返事であったが、ひとまず港湾へ戻って艦隊の編制をすることにした旭日であった。
次回は10月の28日ごろに投稿しようと思います。
また、私事ですがプラウザ版の艦これも今更ながら始めてみました。
ネームはそのまま、『笠三和大』です。
もし見つけたら、演習などお付き合いください。