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大日本皇国

今月の投稿となります。

いよいよ異世界の日本に上陸です。

 それから2日後のお昼過ぎ、皆でカレーを食べ終わった後のことだった。

 旭日がなにをしているのかと言えば、、食後の後片付けをしているのだ。なにも艦隊司令がそんなことをやらなくても……と皆には言われたのだが、本人も到着するまではほぼヒマなのでやりたかったのだ。

 仕事をしていると、香取の調理場の伝声管から声が響いてきた。

『司令!前方に巨大な陸地を発見‼』

 旭日は片づけを調理場の者たちに任せると、香取の艦橋へ向かった。

 艦橋では香取が情報を収集している。

「香取、誰から報告だ?」

「はい。今の報告は先頭を行く矢矧さんですね」

「あいつめ……慌てているのかもしれないがきちんと自分の名前くらい言えっての……まぁいいや。矢矧、陸地の詳細は見えるか?」

『まだ判然としません……あ?』

「どうした」

 なにかイレギュラーが起きたならば、すぐに事態を把握して全力で解決に臨まなければならない。

なので1秒でも早い、それでいて最低でも状況が把握できるほどの正確な報告が必要になるのだ。

もっとも、混乱する現場からすれば『それができれば苦労はしない』というところなのかもしれないが、それを言ってはおしまいである。

『曳航している鉄甲船とほぼ同じ規模の船舶が近づいてきます‼舳先には旭日旗がかかってます‼』

「なら、それが恐らく大日本皇国の軍船だ。くれぐれも失礼のないように応対してくれ」

『了解です‼』

 後は先頭を行く矢矧に任せるしかないが、最終的には自分とエリナが応対することになるのだろうと考えた旭日は緊張してしまう。

 すると、香取がツンツン、とつついてきた。

「司令、肩の力を抜いてくださいな。そんなにガチガチに緊張していては、逆に怪しまれてしまいますよ?」

「あ、あぁ。悪いな香取……」

 ニコリと穏やかに笑う香取の表情に、思わず照れて頬を掻く旭日だった。

「司令は扶桑さんのところへ戻られますか?」

「いや、今は戻らない方がいいだろう。戻っている間に接触したら間違いなく面倒なことになるからな。エリィも香取にいるし」

「畏まりました。ではそのように」

「あと、『お迎えが来た』って機関を見ているエリィを呼んでくれ」

「はい」

 エリナは日本の採用していた蒸気タービンエンジン・『ロ号艦本式缶』や『艦本式タービン』などにも興味を示しており、『釜の側は暑くて大変』という場所にもかかわらず機関員の話をわざわざ聞きに行っていたのだ。

 かなり好奇心の旺盛な姫様のようで、機械的な話にもある程度ついてこれているあたり、なにかしら基になる下地があるのかもしれないと旭日は感づいていた。

 10分後、エリナがパタパタと走ってきた。香取の艦内は『それなりに』広いこともあって着物姿(と言っても元々船の中で過ごすための服だったので十二単のような分厚いものではなく動きやすいもの)でも動きやすい。

「アサヒ様。参りました」

「すまないエリィ。君のところの軍船が、ウチの軽巡と接触しそうなんだ。なにかあったら、対応を頼みたい」

「はい。心得ております」

 それからさらに20分後、再び矢矧から連絡が入った。

『司令、矢矧です。相手は間違いなく大日本皇国の軍船です。そちらにいらっしゃるエリナ皇女に会わせろ、とのことです』

 要するに、『皇女様の無事を確認しなければ信用しない』ということだろうと旭日は考えていた。

「わかった。今からそっちへ向かうから、そのまま速度を落としていてくれ」

『了解しました!』

 旭日とエリナは香取の内火艇で矢矧へと向かう。

 見れば、矢矧の隣には大蔵艦隊が曳航している船とほぼ同じ、四角い箱のような上部構造物の鉄甲船が何隻か並んでいた。

 旭日は内火艇で矢矧に乗り込むと、急いで艦橋へ向かった。

「矢矧、待たせたな‼」

「司令、お待ちしておりました。こちらです」

 矢矧が素早く敬礼すると、矢矧の隣に立っているダークエルフらしい種族の女性が振り返る。

まるで戦国時代における日本の水夫か海賊のような服を着ているため、恐らく彼女が今の船の責任者なのだろう。

もっとも、そのせいで豊かな胸元がかなり強調されてしまっているので、結構な目の毒になっているのだが。

「こちらが、大日本皇国海防船団司令のツルさんです」

 ツルと呼ばれた女性は、旭日の後ろに立っているエリナの姿を確認すると、黒曜石のような目を輝かせた。

「姫様、よくぞご無事で!お帰りなさいませ!」

 ツルと呼ばれた女性が素早く跪く姿を見ると、エリナが祖国で大切に思われていることが窺えた。

「ツル、いつもご苦労様です」

「もったいないお言葉、このツル、感激の至りでございます」

 彼女が顔を上げるのを待ってから、エリナは彼女に頼み込むような姿勢を取った。

「ツル、この黒鉄の艦隊は私が太陽神様から『迎え入れるように』と神託のあった艦隊なのです。なので、『港湾都市キイ』に入港させてあげてください」

「太陽神様からの!?……確かに、これほどの艦隊を受け入れようと思えば、我が国ではキイしかないでしょうね……わかりました。幸い、今は帝国からの船舶も来ておりませんので、入港させましょう」

「帝国には、外務官を通じて報告させます」

「はっ。心得ました」

 旭日は色々と気になる単語が出てきたこともあって、ツンツンとエリナの背中をつついた。

「エリィ、その……帝国というのは?」

「この世界で最も強い国のことです。『アイゼンガイスト帝国』と言いまして、我が国以外で数少なく精霊の加護が残っている、精霊を大切に扱う国なんですよ。精霊と強大な魔導工学の力で、世界最強の軍隊を持っています」

 魔導工学、という単語を聞いて思い浮かべたのは、最低でも戦艦を建造するくらいの国力はありそうだ、という雰囲気だった。

 もっとも、あくまで旭日の勝手な勘なのでそれ以上でもそれ以下でもないのだが。

「(超弩級か弩級か、前弩級かは判断が付かないが……その点も含めてもっと調査が必要だな。腰を落ち着かせたらそういうことにも手を出さないと。情報は千金に値する)」

 旭日としては時間ができた時に是非調べに行きたい国である。

 もしかしたら、愛読していた日本召喚小説に登場する魔法文明の帝国の様な魔導戦艦が登場するかもしれないと思うと、胸が高鳴る旭日であった。

「それよりアサヒ様、海軍の者に誘導させますので、港へ入りましょう」

「ん?あぁ、そうですね。でも、海軍の船で速度は大丈夫ですか?」

「船ではありません。ツル、有翼族か妖精族の方は乗ってらっしゃる?」

「はい。有翼族が2名、妖精族が1名乗っています」

 エリナは一瞬考えると、すぐに結論を出した。

「では、1名は先行させて港湾部に連絡をさせてください。いきなり巨大な艦隊が現れれば、迎撃準備をしてしまう可能性がありますから」

「はっ」

「妖精族は艦隊の前を飛行して、優先的に停泊させる大型の非軍船(特設輸送船のこと)を誘導させてください。あの方々は飛行もその場での浮遊も得意ですから、うまく誘導してくれるでしょう」

 どうやら、ハルピュイアのような鳥に近い種族もいれば、蝶の羽を持つフェアリーのような種族もいるらしい。

 多種族国家ということは、それぞれの能力を活かして助け合って生きているのかもしれないと思う旭日であった。

「では、そのように伝えます」

 すると、ツルは腰につけていたトランシーバーのようなものを取ってなにかを呟いた。

「そうだ。この艦隊を先導してほしい。え?船が多すぎる?沿岸にもっと近づけば、お前の仲間も飛んでくるだろう。一緒にうまく誘導するんだ。いいな?」

 厳しい言い方に聞こえるが、旭日はその口調にどことなく部下への厚い信頼も垣間見える気がした。

「(魔法通信かなにかかな?文明水準の割に通信技術が発達しているってのは戦略的にも大きいな)」

「では姫様、妖精族の力で誘導しますので、船の者たちに従うように言ってください」

「はい。大きな船……空母や戦艦から順にお願いしますね」

 空母や戦艦と言われてもわかるのだろうかと一瞬考えたが、ツルはなにも言わずに『承知しました』と続けるのだった。

 やはり、戦艦や空母に近いなにかの概念があるのかもしれない。

「では、直ちに誘導の準備をさせますので、しばらくお待ちください」

 そう言うとツルは再び通信機を取ってあれこれと指示を飛ばし始めた。

その指示は手馴れており、戦艦や空母のような大型艦を見たこともあるという雰囲気である。

「扶桑や雲龍など、大型艦は本当に気を付けるようにお願いします。私のいた世界ではかつて、大型軍艦同士が激突することで喪失された事故や事例もありましたから」

 最上・三隈の衝突や、電・深雪の衝突など、そうした話はたくさんある。

 沈まなかったにせよ、『第四艦隊事件』で艦橋が圧壊した軽空母龍驤など、船にとって衝撃とは『危険が危ない』なのだ。

「えぇ、お任せください。我が国はその交流の都合上、多数の大型艦を誘導することもありましたから」

 ツルの『大船に乗ったつもりでいてほしい』と言わんばかりの態度には、旭日はもちろん、艦長として活動している船の化身たる矢矧も『ほほぅ』と驚いた顔をしていた。

 すると、最前列を行く矢矧の上空を、パタパタと飛行する『なにか』が見えた。どうやら、鉄甲船から飛び立った妖精族らしい。

『先頭の船はこのまま付いて来てくださーい‼』

「すごい大声ですね。魔法かなにかを使ってますか?」

「えぇ。風の精霊の力を借りて、拡声魔法を使っています」

「ははぁ……便利なもんですな」

 近年の魔法のイメージというと、発達した科学文明よりは劣るという感じだが、うまく使えば十分便利なのだろう。

 さながら、『ファンタジー舐めんな地球』と言ったところか。

 それから5時間近くをかけて、大蔵艦隊の全艦併せて115隻(輸送艦やあきつ丸・熊野丸に特設輸送船を含めて)全てを停泊させることができた。

 というか、改めて多過ぎである。

「(太陽神様もここまで至れり尽くせりにしてくれたのにはなにかわけがあるんだろうなぁ……まぁ、普通に考えればこれほどの戦力が揃っていても勝てそうにないほどの相手が現れる、ってことなんだろうけど)」

 港に降り立って見ると、コンクリートや石畳とはまた違った雰囲気の構造であった。

「ほわぁ……随分と広いなぁ……なるほどな。これなら確かに第二次大戦の艦隊はもちろんだが、現代の10万t級空母も停泊できそうだな……って言うか、本当に広い‼」

 その広さは東京湾などとは比較にならないほど広く、はるか彼方まで港が広がっているように見えるほどに広かった。

 よく見れば、地球では考えられない魔法の素材でできているらしいガントリークレーンのようなモノも見える。

 なお、接岸すると共に搭載されていた陸戦兵器や車両類も全て輸送艦から降ろされている。

 それらは神界でも確認したが、それだけでもかなり豪華である。

 ある程度だが利便性向上のために改良・改装もされているのだ。

 そして、神界にいた時点で確認はしていたものの、驚くべきは戦車として『四式中戦車』こと、チト車が搭載されていることである。

「30tもある戦車をよく搭載できたもんだな……それで二等輸送艦の荷台を2両で埋めてたわけか……」

 陸軍装備に関しては太陽神に任せっきりにしていたので、旭日も実態はあまり把握していなかったのだ。

 荷揚げしていた陸軍の兵士が誇らしげに胸を張っている。

「どうですか司令、これならM4重戦車にだって対抗できますって!」

「あ、そっか。シャーマンって日本からすると重戦車扱いなんだった……」

 戦車戦闘ではほとんど損害を与えられなかったと言われているが、沖縄で上陸したシャーマンも日本軍の肉薄攻撃を主体とした反撃で甚大な被害を出したという。

 当時の主力戦車『九七式中戦車(チハ)』と『九五式軽戦車(ハ号)』を中心とした帝国陸軍は、参謀本部の先見性のなさから対戦車能力が薄く(正確に言えば海軍の予算が優先的で戦車の改良・新開発が後回しにされていたという説もある……)、M4シャーマンが登場する以前にも、格下の軽戦車であるはずの『M3スチュアート』や、ウサ○さんチームでお馴染みの『M3リー』にボロボロにされるのみならず、それより以前のノモンハン事件ではソ連のBTシリーズにボコボコにされるなど、『ポンコツ』『ブリキのおもちゃ』のイメージが強い。

 海外では『普通』なくらいの能力であるシャーマンにすらチハやハ号が勝てない(ドイツのティーガーやティーガーⅡ、シュトルムティーガーなどがボコボコにしていたとか言っちゃいけません)ため、それほど手強いM4シャーマンを重戦車扱いしていた。

 なお、実際にシャーマンやM3などを撃破していたのは戦車よりも、対戦車砲の至近距離での射撃や肉薄からの特攻だったということだが、これはノモンハン事変で『対戦車砲より肉薄攻撃の方がより効果があった』ということから、軍部が対戦車攻撃に肉薄攻撃を重視した傾向があったためと言われている。

 実際には当時ソ連の戦車の装甲が薄く対戦車砲の砲弾が貫通してしまう事態が発生し、肉薄しての火炎瓶などの方が効果があったことがそのまま後の対戦車戦闘に大きく影響することになったのだ。

 せめて、対戦車砲の攻撃力・機動力を強化する方向で進めてほしかったものである。

 また、これによって特に出血を強いられたのが工兵隊だったりする。

「これなら、よっぽど手強いのが数で押してこない限りは‼」

「でもな、チハだって捨てたもんじゃないんだぜ」

「え?」

 年齢が10代後半と思しき若い兵士はポカンとしている。

「あ~……君、どこで死んだ?」

「自分はガダルカナルですが」

 帝国陸軍最大の激戦の1つである。彼もまた、未だに回収されていない御柱の一柱だったということだ。

「……そうだった。東南アジアの近くの戦没者の魂を受け取ったんだもんな。知らなくて当然だ」

 すると、近くにいた陸軍関係者も、荷揚げを手伝っていた海軍関係者も集まってきた。

「司令、どういうことですか?」

「皆も知っての通りだと思うが……チハは、確かに主砲も装甲も対戦車戦じゃ弱かった。でもな、最後にとてつもない衝撃を、ポツダム宣言受諾後に日ソ中立条約を破って攻めてきたソ連に与えているんだ」

「そ、そうなんですか!?」

「あぁ」

 そこから旭日は、ソ連が米英とのヤルタ協定を基に侵攻してきた際に、占守島を守るべく戦った人々がいたこと、上陸してきたソ連兵は戦車がいるとは思わずに、想定外の大苦戦を強いられたことを話してやった。

 確かにチハの主砲である18.5口径57mm砲は、当時の主力戦車の装甲と比較すると対戦車能力はないに等しい。

しかし、そんな風に酷評されるチハでも、歩兵支援用の榴弾を発射する『歩兵支援戦闘車両』としては十分すぎる威力を有していたのだ。

 ティーガーⅠに至っては100mm以上の装甲を有していたのだから、そんなモノがなければ勝てなかった独ソの戦車戦が色々とアタマおかしいのである(もっとも、独ソ戦の場合その中にシュトゥーカやシュトルモビクと言ったこれまたとんでもない航空兵器も加わっているのだが)。

「(靖国神社に行かなきゃ知らなかったことだが……知っておいてよかった)」

 それを聞いた男たちは、陸軍も海軍もなく皆が大粒の涙を流していた。

「そう、でしたか……」

「占守の奴ら、ソビエトの横暴に屈さず戦ったんだ……」

「でも、メリケンに停戦するよう言われて捕まってしまうとはなぁ……」

「あまりに酷いっ‼」

 皆、なにも戦争がしたくてしていたわけではない。

 それでも、守るべきもののためにと全身全霊をかけて戦ったのだ。

「だからこそ、この世界ではもう負けないように、我々の居場所を……この世界の日本を全力で……最後まで諦めずに守るんだ」

 旭日の言葉に、陸軍も海軍も目を輝かせて『はい!』と強い返事を返した。

 そしてそのまま散って再び揚陸作業に移る。

「司令、ありがとうございました」

 声がかかったので振り返ると、酒匂と北上、そして葛城が立っていた。

「私たちも戦後生き残り、復員船として従事しました。ですが、載せてきた人々の顔は皆、負けた絶望と悲哀がほとんどでした」

「そっか。葛城たちは生き残りだったからな……鳳翔とか龍鳳もそんな風に思ってたのかな?」

「今となってはわかりませんが……特に、鳳翔先輩は始まりから終わりまでの全てを港で見届けた方ですから。もしかしたら……私よりも無念だったかもしれません」

 大蔵艦隊の中で隼鷹は正確に言えば損傷していたせいで復員船にはなれなかったのだが、終戦を見届け、全てが終わってから解体されたという意味では同じかもしれない。

「まぁな」

 葛城も前へ出た。よく見れば、その目には涙が浮いている。

 旭日は『いきなり泣かれても困るぞ』と内心思いつつも、彼女から目を離さなかった。

「でも、なにもできなかったわけではない。例え防空砲台と呼ばれようとも……仲間が『なんでも持っている』強国の横暴に、一矢報いてやったんだと思うと、この無念が、少しは救われるような気がしました」

「私も……今度は……希望を運びたい……」

 北上でさえ、顔を真っ赤にしながらも涙を目に浮かべていた。

「あぁ。だから、今度は頑張ろう。絶対負けないように。もう誰も、できる限りで失わないように、な」

「「「はい!」」」

 3人は声高く返事すると、再び自分の艦を指揮し始める。

 すると、いつの間にか隣に『伊400』ことヨーが立っていた。

 平素はふっくらとした穏やかそうな顔は、今にも泣きそうな表情をしている。

「ヨー、どうした?」

「……正直に申しまして、復員船になれたことも、羨ましいと思ってしまって」

「そっか。お前は復員船にもならずにアメリカに接収されちまったんだもんな」

 『伊400』はその特異性から、敗戦後にアメリカに接収されてハワイまで回航されて隅々まで調べられてから海の底へ沈められた。

 『潜水艦に搭載した兵器で敵地を攻撃する』という発想自体は現代でこそ弾道弾を搭載した潜水艦が行っているが、当時としてはあまりに斜め上の発想だったのだ。

 アメリカ軍はこのトンデモ潜水艦に対して非常に高い興味を示していたらしいが、その後ジェット機の時代になったこともあって潜水空母は注目から外れてしまったという一面がある。

 彼女以外の賠償艦の一部であった長門や酒匂は水爆実験であるクロスロード作戦において水爆を受けて、今もなおビキニ環礁の水底に眠っている。

 それ故に、長門は海底にその身を横たえていることから『現在形を残している唯一のビッグセブン』という異名もあるのだ。

 それ以外のほとんどは海没処分か解体されてしまった者ばかりであった。

「私、ちょっと高望みが過ぎるのかもしれません。申し訳ありません」

「仕方ないって。ウルシー環礁へ向かったはいいけど、その最中に終戦になっちまったから初陣を飾ることもできずに終わっちまったんだ。そりゃ無念だろう」

「……同じ接収艦でも、響さんや雪風さん、酒匂さんもある意味艦としての生命を全うしました。長門さんも……『不条理な水爆なんかに負けるものか』っていう日本の意地を英霊の皆さんと共に見せつけたのに……それが……とても羨ましくて仕方なくて……」

 どうやら、無念が溢れるあまり気持ちが昂ってしまったようだ。ヨーはそのままボロボロと泣き出してしまった。

 考えてみれば、同じアメリカに接収された艦でも長門は真珠湾攻撃の旗艦として出撃し、『ニイタカヤマノボレ』の打電をしたことで有名であるし、そもそも大和型戦艦が極秘だったことから国民の間では大人気の戦艦だったという。

 そんな中で同じような境遇の仲間がいれば、傷を舐めあうという形ではあるが少しずつ癒していくことも可能だろう。

 だが、仲間すらいないのでは、誰にその無念をぶつければいいのだろうか。

 旭日は戦車の陰でこっそりヨーを抱きしめてやることしかできなかった。

 日本人女性としては少しふっくらとした、どこか愛らしさを感じさせるはずの体を震わせながら、ヨーは泣き続けた。

 扶桑と飛鷹が通りがかりにすすり泣く声を聞いて、止められている戦車の陰を覗き込んだが、泣いているヨーとそれを真剣な表情で抱き留めている旭日を見て、なにも言わずに去ろうとした。

 と、そこで扶桑が飛鷹に『ここにいて2人の様子を見てあげてほしい』とこっそり耳打ちしたのだ。

 変な冷やかしを受けるのは好ましくないと思った、扶桑なりの配慮だった。

「すみません、司令……私、今度こそ頑張りますから……今度こそ、大事な居場所を守りますから……」

「あぁ、頑張ろう。皆でな」

 背中をポンポンと叩いてやると、ヨーは少し安心したように笑うのだった。

 飛鷹は、自身が戦いの中で撃沈したという、ある意味軍艦としてはするべきことをして沈んだことも、それはそれとして無念が残っていた。

 それは、レイテ沖海戦で沈んだ扶桑や山城のみならず、他の戦没艦と、その乗組員たち全員どころか、志半ばで沈んだ特設輸送船に乗っていた者たち全ての思いだろう。

 だが、残された者たち、それも敗戦まで見届けた者たちの無念はもっと重かったと思うと、思わず目から涙をこぼすのだった。

 やがて、旭日とヨーが物陰から出てくると、そこに立っていた飛鷹に気づいた。

「おぉ、飛鷹!?」

「ひ、飛鷹さん!これは、その、あのぉ……」

「頑張りましょう」

 突然飛鷹が上げた声に、2人はポカンとしてしまう。

「今度こそ、沈まぬように、失わぬように……皆で頑張りましょう」

 飛鷹はそう言って頭を下げると、その場を離れていった。

「……飛鷹の奴、全部聞いてたな?」

「あわわ……わ、私、考えてみれば司令にトンデモナイことを……」

「いいって。皆の精神を考えてやるのも、艦隊司令の仕事だよ」

 慌てるヨーの頭を撫でてやりつつ、旭日も仕事に戻るのだった。

まぁ仕事と言っても、この後自分たちがどうするのかをエリナと話し合うのだが。

「エリィ、遅くなって悪い!」

「いえいえ。なにかあったんですか?」

「あぁ、ちょっと俺が道を間違えちゃって……で、この後はどうするんだ?」

「はい」

 エリナは地図を取り出した。見ると、この大日本皇国の地図らしく、やはりと言うべきか日本語で色々なことが細かく書かれていた。

 その中で、旭日は気になるものを見つけた。

「これは……(線路?そういえば、港湾部の感じも江戸時代くらいの水準とは思えないほど発展しているし……アイゼンガイスト帝国とやらが関係しているのか?)」

「アサヒ様と代表のフソウ様をお連れして、我が国の首都、アシタカノウミへと魔導車で向かいます」

「魔導車?」

「はい。魔鉱石を燃料にして走る車両のことで、魔導走行車両、略して魔導車というんです」

 それはどう考えても、最低で明治時代以降の技術である。

 確かに、この港湾部は少なくとも日本で言う大正か昭和初期レベルの技術はあるように感じられた。

 やはり、先ほどエリナが話題に出していた、『アイゼンガイスト帝国』というのが関係しているのかもしれない。

「(もしその帝国なる国が第二次世界大戦相当の技術を持っていれば……そして、大日本皇国と交流があって港を開発したり蒸気機関車モドキを整備してやるくらいの誼があるのだとすれば……その点も気になるな)」

 旭日が思考を巡らせていると、エリナの一言でぶった切られた。

「そして、我が王国の誇る城、『アヅチ城』にて父上と対面していただきます」

「ふぁ?安土城?」

 少なくとも、旭日の耳には織田信長が建築させたことで有名な『安土城』と聞こえたように感じた。

「はい。それからのことは、お父様や諸大臣と相談してほしいのです」

「確かに……食料や水が豊富な土地だって言っても、タダで頂戴なんて言えないしな」

 交渉が必要になるので、できればその辺りは扶桑に任せたいところである。

 旭日は自分のことを、お世辞にも交渉などの話術が上手な人間とは思っていなかった。

「わかった。じゃあ、他の面々は……」

「あ、このキイには帝国が建ててくれた宿泊施設があります。『自分たちがいない間は好きに使って構わない』と言われていますし、合計で10万人くらいなら余裕ですよ」

「すごいな‼」

 10万人以上を問題なく受け入れられるという時点で、この国は想像以上に『すごく、すごい』国なのかもしれない、と認識を改めつつある旭日だった。

「じゃあ、扶桑を呼ぶか……扶桑、扶桑?」

 指示を飛ばしていた扶桑が、旭日の呼びかけに応じて振り向いて寄ってきた。

「扶桑、そっちはどうだ?」

「はい。副長に全ての指示を任せてきましたので、問題ありません」

「よし。んじゃ行くとするか」

 こうして旭日たちは、エリナの案内を受けて魔導走行車両……魔導車に乗り、首都アシタカノウミへ向かうことになるのだった。

アーケードは間もなく水着月間が終了ですねぇ。今年は霞改二とリベの改装前が自力でドロップしました。

もっと頑張らないとなぁ……

次回は9月の24日に投稿しようと思います。

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― 新着の感想 ―
10万?!もう一種の超巨大リゾート施設では…? というか帝国かぁ…戦いそうですね。 向こうはどうせ大艦巨砲主義だろうし空母改装とかありですよねぇ。 …いっそのことイージスシステムまで突っ走って、魔…
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