見学
おはようございます、今月の投稿です。
今回は艦艇と航空機の見学が中心になります。
艦隊と空母を見学したグラディオン王国使節団一同はその日、アイゼンガイスト帝国が建設したホテルを小改良した新装ホテル・『紀伊』に宿泊した。
外交使節たちは彼らの想像以上に居心地のいいホテルのソファーに座り込んでのんびりしているが、レイモンドだけは違った。
彼だけはテーブルに向かいながらメモ帳にガリガリと様々なことを書きなぐっている。
「すごい……あの『扶桑型』と呼ばれる戦艦であれば、あの巨大艦橋は無理でも船体・主砲配置だけならば再現することができるかもしれない‼しかし、今後の洋上決戦において重要になり得るのは飛行戦力……その点で言えば『薩摩型』の方が、対地・対艦・対空の全ての面から言っても根本的なバランスがいいか……?あれほどの大きさがあるのなら、もう少し大きな砲を搭載しても高速を発揮できるだろう……問題は、15万馬力もの高出力を発揮する強力なタービンエンジンを我が国の技術ではまだ作れるかどうか怪しい、ということだな。今のダイタオン級戦艦でも13万馬力強ということを考慮すると……」
先ほどからずっとこのような調子で、自国の発展に必要になるであろうと考えられることを書きなぐっているのだ。
さらに驚いたのは、自国ではようやく量産方法が確立され始めた『R式対空電探』とほぼ同じモノがこの国では多用されている、ということであった。
『R式対空電探』は日本人からすれば『一三号対空電探』によく似ており、戦時量産型でありながら軽量で持ち運びがしやすく、しかも『太平洋戦争時の日本製にしては』性能がいいということでありがたがられた対空レーダーであった。
日本ではそれより能力の優れたレーダーを実用化しているので、技術協力をすればいい製品が作れそうだとレイモンドは考えていた。
「我が国はクレルモンド帝国との緊張が高まる中で、クレルモンド帝国の魔蟲を早期に発見できるようにと対空監視を強化する必要性にかられた。その結果『R式対空電探』が生まれたわけだが、この国では既により高性能な電探の量産機構が設立されている。我が国はテレビジョン放送のアンテナからヒントを得たわけだが……日本はどうやって確立したのか……」
先ほどからずっとこの調子であり、他の使節団一同は『やれやれ』と言わんばかりに彼の方を見ていた。
明日は海軍工廠と民間の造船所、さらに飛行場を見学させてもらう予定なので、とても楽しみである。
「……まさか、ここまでワクワクするとはな。こんな気持ち、生まれて以来だ」
レイモンドは目を血走らせつつも、終始笑顔を崩さないのだった。
翌日、ホテルで朝食を済ませると昨日も案内をしてくれた軍人、旭日と扶桑、大鳳の3人が、レイモンドたちの食事が終わったのを見計らうかのようにホテルのロビーへ現れた。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
「えぇ。まさか我が国とアイゼンガイスト帝国以外のベッドでここまで安眠できる日が来るとは思いませんでした」
つまり、今の日本の文化は列強国のトップに匹敵していますよ、とレイモンドなりに褒めたのだ。
もっともそう言いつつ、レイモンドは相変わらずギラギラと目を血走らせつつも輝かせている。
「では皆様、本日は1時間後の午前8時30分に出発いたしますので、それまでにご準備を」
「はい、ありがとうございます」
グラディオン王国使節団は自室へ戻り出かけるための準備を進める。
レイモンドは自国で開発された科学式カメラやたくさんのメモ帳をカバンに詰め込んでいた。
今日はどんなものを見せてもらえるのだろうかと、今の時点からハッスルしまくっているのだ。
50分後、使節団はホテルのロビーに集まった。
そこには1時間前と同じように旭日、扶桑、大鳳の3人が立っている。
「皆さん、準備はよろしいですか?本日も色々とお見せすることになりますので、どうか心の準備だけはよろしくお願いいたします」
使節団一同が頷くと、旭日は先導するように歩き出した。
表には車が止まっており、次々と乗り込んでいく。
「この車……先日のモノとは違いますね?」
「はい。現在軍で使用している輸送用トラックを改良したモノでして、座席を多数設けることによってバス代わりとしております。本物のバスに比べると車高が高いので揺れやすいのが難点ですが、そこはご了承ください」
「なるほど……兵員輸送車としても使える、と言いたいわけですね」
「実際に兵員輸送に用いようと思えば、これほどしっかりとした座席を付ける余裕はありませんけどね」
機械化による迅速な輸送は重要であり、かつて補給が途絶えたことで多くの将兵が死亡したことを知っている旭日としては、輸送艦の充実や、海外遠征した場合にシーレーンをどのように確保するかなどを考えるのは一苦労であった。
陸上においてはトラックなどで一気に運べるようにするのが命題である。
トラックはできる限り揺れないように速度を抑えつつ走っていく。
しばらく走っていくと、大きな客船の艤装をしているポンツーンが見えた。
その側にあるドックの大きさは、グラディオン王国で最も大きな客船の建造ができるほどの大きさであった。
やはり日本は、とんでもない技術を有しているようだ。
「おや、あの客船……客船なのに大砲を搭載するのですか?」
見れば、客船の甲板で開いている部分に65口径10.5cm連装高角砲や、ボフォース40mm機関砲、さらに25mm三連装機関砲が艤装されていた。
「なにせこの世界は不安定なようですからね。クルーズ中に海賊に襲われたり、大型の水中生物……クラーケンのような生物に襲われたりすることを考慮してある程度火器を積んでいるのです」
「……本音は?」
どうやらレイモンドには、旭日の狙いわかってしまったらしい。
「有事の際は徴用して兵員輸送船として使用するのみならず、仮装巡洋艦として船団護衛や海路防衛に使用できるように、というのが狙いです」
仮装巡洋艦や特設巡洋艦などの商船改造艦艇と呼ばれる艦種は、戦時中に徴用された客船や貨物船を改装し、大砲(主に旧式の14~15cm単装砲)や10cm高角砲、さらに20mm機関砲などを装備した存在である。
もっとも、元が客船や貨物船であるゆえに速力や機動力は本物の戦闘艦と比較してしまうと劣悪そのものであり、さらに防御力も装甲がないことから皆無に等しく、本格的な軍艦との戦いは、たとえ駆逐艦が相手であろうとも無茶も紅茶もないほど危険なことだ(それでも第二次世界大戦時には味方の貨客船を逃がすべくドイツのドイッチュラント級装甲艦やシャルンホルスト級巡洋戦艦2隻に挑みかかった勇敢なる仮装巡洋艦もあったが)。
そのため、主な役目は通商破壊やシーレーン防衛である。
中には空母に改装されたものもあり、日本で有名なのは大蔵艦隊にも所属している『飛鷹』と『隼鷹』や、それより速力の遅かった『大鷹』、『冲鷹』、『海鷹』、『神鷹』が存在する。
特設巡洋艦という意味では、日本は『報告丸型』と呼ばれる商船改造巡洋艦を3隻保有していたが、『護国丸』を除いて2隻が戦没している。
それ以外の特設巡洋艦や特設砲艦はほとんどがシーレーンの警備や早期警戒のために用いられたという。
また、他国ではアメリカが貨物船をベースに改装した護衛専門の空母を配備して対潜哨戒や船団護衛にあたり、イギリスでは特設巡洋艦による船団護衛もよく行われた。
ドイツも仮装巡洋艦などを使用しているのだが、ドイツはそもそも海軍力が貧弱(あくまで日米英と比較して。『ただの海軍力』ではイタリアの方がマシと言えるレベル)であったため、相手となったイギリス海軍に対しては軍艦に加えてこれら特設巡洋艦とUボートを用いた通商破壊作戦が主体であった。
駆逐艦くらいならばまだしも、重巡洋艦(この場合はポケット戦艦とも言われるドイッチュラント級)や巡洋戦艦(この場合はシャルンホルスト級)まで通商破壊に用いている辺り、戦艦や空母を多数保有していたイギリスとの戦力差が物悲しいまでのものであることがうかがえる。
なお、日本はアメリカを仮想敵国に据えたうえで日露戦争以来の伝統である『誘いこんでの艦隊決戦』をしたかったために、艦隊決戦向けの船ばかり作っていたのは言っちゃいけないお約束。
「なるほど。兵員輸送船であろうとも無防備にはできず、武装するならば使えることに使いたい、ということですか……」
現在建造している客船は飛鷹、隼鷹の船体に近い構造と、同レベルのタービン機関を用いており、さらに魔法陣学による機能強化が見込めることから、『加賀』並みの27ノットから28ノット前後までは出すことができるだろうと旭日は踏んでいる。
輸送船としてももちろんだが、ある程度の武装を施せば特設巡洋艦としては十分すぎる武装を施せるだろうと旭日は考えていた。
例えば、旧海軍は14cm単装砲に53cm魚雷発射管、そして13mm連装機銃に水上偵察機という内容だったが、これを扶桑型が搭載している50口径15cm砲を流用した、『阿賀野型軽巡洋艦』と同じ砲塔付きの連装砲か高角砲にできれば、かなり強力になる。
魚雷発射管は報告丸のことがあるので搭載するのはよしとは言い難いのだが、そこは大型の船体を利用して水上偵察機兼爆撃機である『瑞雲』を搭載することである程度解決できるだろうと考えていた。
優秀な水上機である程度制空権さえ確保できれば、攻撃を有利に進められるからである。
或いは米英のように強力な対水上電探を搭載することで相手の探知をより早急にするのも大事だろう。
飛鷹型より小型の船舶ならば、爆雷やヘッジホッグなどの対潜迫撃砲を搭載することで対潜哨戒に用いるというのもアリである。
旧海軍は大戦中、アメリカの潜水艦にとても悩まされた(もっとも、それは日本海軍が艦隊決戦に特化していたせいでシーレーン防衛などをおざなりにしていたという一面もあるが)経験から、戦後の海上自衛隊では対潜哨戒に対して尋常ではないリソースを割いている。
対潜哨戒機の『Pー3C』を例に挙げると、日本は最盛期で100機近くを保有していた。
これはアメリカの最大配備数からすると約半分に近く、日本が中露の潜水艦をとても警戒していたことがうかがえる。
冷戦期という大国・列強国の間に緊張溢れる時期だったことを差し引いても、世界の米軍の半分近い対潜哨戒網を敷いていた、というのは国力と国土の差からすると尋常ではない。
もっとも、『Pー3C』は対潜哨戒機であると同時にハープーンなどの対艦誘導弾を4発搭載することができたため、有事の際の対艦攻撃機としての意味合いもあったようだが。
閑話休題。
「あ、あの……もしよろしければ、あとで……あとで構いませんので、海路防衛に関してもご教授いただけませんか?どのようなものが使えるか、どのようなものが転用できるかが分かるだけでも、これまでとは雲泥の差です」
レイモンドの必死な眼差しに、旭日も強い視線で答えた。
「もちろんです。逆に私の方も色々と教わりたいですよ。これほどの空母機動部隊を、わずかな年数で作り上げたという天才殿のことを」
旭日が続けて案内したのは、郊外にある飛行場であった。
「先日の『閃電』も、ここから飛んできたのですか?」
「えぇ。お、いいモノが見れますよ」
旭日の視線の先を見ると、大型の双発機が離陸しようとしていた。
「あ、あの機体は……一式陸攻に似ている?」
異世界の人間が一式陸攻を知っていることに扶桑や大鳳は驚いているが、旭日はなにかを感じたのかニヤリと笑っている。
「いいえ。ただ、雰囲気はちょっぴり似ていますね。コイツは『東海改』と言いまして、我が国に数少なく存在していた対潜哨戒機と一式陸攻を足して2で割ったようなものですよ」
『東海』は、アメリカの潜水艦の脅威の高さに驚いた旧軍が数少なく保有していた対潜哨戒専門の機体で、250kg爆弾2発か機雷を搭載することができる機体だった。
だが、登場した頃には既に本土の制空権も奪われたに等しい状態だったこともあり、最高時速がわずか320kmとかなりの鈍足であった(ただし対潜哨戒には低速で滞空能力が高い方が有利)この機体は大きな損耗を強いられたのだ。
実際には一式陸攻の方が大きい上に速度が速く、航続距離が長いのだが、この機体に関しては制空権のある場所で運用することを想定しているので、一式陸攻並みの紙装甲しかない機体として旭日が『東海』の設計図と一式陸攻の設計図を参考に作らせた機体である。
「対潜哨戒機?」
「海の中に潜むモノを探すための飛行機、と言えばお分かりいただけるのではないかと思いますが?」
「!」
先述した通り、レイモンドはかつて日本人であった。
そんな彼は、『潜水艦』の存在も知っていた。というか、冷戦期で米ソが原子力潜水艦というトンデモない兵器を次々と就役させているのを見て、造船業に携わる者として震えあがったのは記憶に新しい。
そんな潜水艦という兵器は、この世界では少なくとも確認されていなかった。
レイモンドとしてはなんとか潜水艦を作ることができれば軍事的イニシアチブを握ることも夢ではないと考えていたので、その存在を技術部に伝えることで建造してもらおうと思っていたのだ。
しかし、元々邪竜シーサーペントやクラーケン、カイオウイカといった強大な存在が海に跋扈していることもあって水の中に潜るという考えそのものが難しい世界であった。
そのため潜水艦に関してはかなり難航しており、造れたとしても実用化には程遠いと考えられていた。
だが、この言葉が正しいのだとすれば……。
「ま、まさか……旭日殿の艦隊には、潜水艦があるのですか!?」
「ま、『ある』とだけは言っておきましょう。具体的なスペックは一切秘密ですけどね」
「そ、それは……そうですよね」
実際のところ、大蔵艦隊に存在する『伊400』型潜水艦は、潜水空母と言える特異な存在であったが、そこは所詮日本海軍の潜水艦なので、静粛性というものは皆無に等しい。
ドイツやイギリスからすれば、日本とアメリカの潜水艦を指して、『海中で和太鼓とティンパニーとドラムを叩きながら進んでいるようなモノ』と言わしめるほどうるさかったらしく(筆者もそんな話を聞いたことがあるくらいで実際のところは不明だが)、潜水艦の強力な国(主に独英)からすると『ナニコレ』レベルのシロモノだったらしい。
なので、旭日は潜水艦の強化も行おうとしているものの、こちらは車と違ってドイツ人の技術者がいないこともあってかなり苦労している。
戦中のUボートや、日本にも渡された呂500の設計図やエンジンを参考に静粛性の高いディーゼル機関を作れればかなり有効なのだが、元々ディーゼル機関に悩まされた(旧軍は船舶向けディーゼルに苦労しており、工作面で弱かった一面も)こともあってか、船体はともかくエンジン作りが難航しているのだ。
それもあるので、レイモンドにはそれとなく潜水艦があることだけは匂わせたが、詳細な性能を明かすと『幽霊の正体見たり枯れ尾花』的な状態になってしまうので黙っておく。
本当ならばそもそも秘密にしておくべきなのだが、相手の正体を探るためには多少の開示はやむを得ないと考えたのだ。
「ですが、航空機があれば潜水艦を探しやすいのは事実ですよ。『とある国』は、敵対国の潜水艦を探すのに、その頃には制空能力的には時代遅れになっていた複葉機を使って潜水艦狩りを行ったんですよ」
「『とある国』……複葉機……」
「えぇ。まぁ詳しくは……またあとで」
思うところがあるらしく、レイモンドは真剣な表情で頷いた。
その時、エンジン音を上げながら『東海改』が滑走路を進み、飛行を始めた。
――ブルン、ブルン、ブルルルルルルルルルルルッ……‼
「今は我が軍の潜水艦を標的に訓練を行っていましてね」
「なるほど……」
すると、格納庫から別の飛行機が出てきた。
「あ、あれは?」
「あぁ。あれは我が国が新開発している機体です。あの機体は試験機でしてね。飛行具合や搭載量の限界、さらに高高度性能などを検証するための機体です」
「名前はあるんですか?」
「名前は……『試験大型戦略爆撃機 富嶽』と言います」
「爆撃機……ど、どれくらいの爆弾を搭載できるのですか?」
「一応ですけど……9tくらいですね」
「な、なななっ!?」
富嶽とは、日本において中島飛行機が作ろうとした『太平洋を横断してアメリカ本土を爆撃し、そのまま大西洋を経てドイツで補給、アメリカを再攻撃して日本に帰る』というアタマのおかしな計画の下に計画された、最大20tの爆弾を搭載することを想定した超重爆撃機である。
陸で言えば超重戦車マウス、海で言えば大和型戦艦やモンタナ級戦艦といったような、『デカすぎる』兵器の1つである。
この中で実現したのが大和型戦艦とマウスだけ、という辺りに、当時の技術どころか、物理技術の壁を感じると言えよう。
もっとも、搭載量を聞いてわかると思うが、この『富嶽』は名前だけのもので、どちらかと言えばこの見た目と能力は『Bー29』に近い。
もっとも、旭日が知る『Bー29』はエンジンの排熱などに問題があったため、まず試験機は設計図のまま作らせた。
なお、既に2度の実験飛行によって判明したことだが、『Bー29』はエンジン周りの部品におけるマグネシウム合金の多用と、エンジンカウルがぎりぎりまで絞られた構造が作用しての排熱不良の2つが絡み合って不調が発生したため、旭日に命じられた明石と夕張が設計を変更することにした。
エンジンに使う合金については、明石の意見でマグネシウムはやめた。
明石の勧めもあって、魔法陣学を加えた耐熱合金を採用することにしたのだ。
加工こそ難しいものの、今の大日本皇国で産出する良質な資源と、魔法陣学を組み合わせることで当時のアメリカより発展した金属加工技術があれば、できなくはない。
検証の結果、エンジンのフェアリングを5mmほど拡大して、ターボプロップの排気管のように排気をエンジンナセル後端から排出できるようにしてみた。
これで、エンジンの過熱問題もどうにかなると考えられた。
元々の『Bー29』は帰投する度にエンジンを換装することで補っていたそうだが、資源が自国で産出し、工業規格を統一させられるアメリカならではの物量プレイである。
ちなみに、この『Bー29』こと『富嶽』は旧海軍の技師が設計を手掛けていることもあって、9tの爆弾のみならず、800kg魚雷を爆弾倉に4発搭載することも可能となっている。
『だからそんなに雷撃がしたいのか。四発機にまで雷撃させるなっちゅうねん』
と、旭日が呆れ顔でツッコミを入れたところ、技師及びパイロットに加えて、重雷装巡洋艦2隻に乗っている雷撃員から帰ってきた答えは……
『なにを言いますか‼このヒリヒリするような雷撃なくして帝国海軍とは言えませぬぞ‼』
『いくら司令でも言っていいことと悪いことがある』
『水雷屋怒らせると、司令の○○○に酸素魚雷ぶち込みますよ‼』
……実は現在、大蔵艦隊に配備されている酸素魚雷も改良を進めているところなのだが、旭日はこの答えを聞いて頭を抱えたのだった。
ただでさえ射程の長い酸素魚雷をさらに長くして、さらに隠密性と音響による誘導性を付けられないかと考えているのだ。
魚雷バカ、ここに極まれり。
とまぁ、そんなことはさておき。
この『Bー29』モドキはいずれ来るジェット時代にはターボプロップエンジンに換装することで燃費の向上及び航続距離の延伸を見込めるシロモノである。
もっとも、その頃までこの機体が活躍できるかどうかは不明だが。
また、大容量と膨大な搭載量は物資を『安全に』運ぶのにも役に立ちそう(特に人員)なので、旭日としては爆弾倉の部分を胴体内と繋げた、空挺降下用の輸送機、さらに短砲身の榴弾砲と機関砲を搭載したガンシップとしても使えないかと思い技師たちに提案をしているところでもある。
「我が国としては、貴国と本格的に交流を結ぶことによって、今の我が国では手に入らない科学技術も得られれば、と思っております。もちろん、我が国から輸出できるものも多数あるでしょう」
それはレイモンドも見ればわかる。
少なくとも、潜水艦や『Bー29』モドキなどという存在は現在のグラディオン王国の技術ではそうそう作れそうにない。
今の日本と交流が進めば、これらの技術も手に入るかもしれないと思うと、技術者としてはぜひ日本と交流を結んでほしいと思っている。
「では、他にも色々見せていただけますか?」
「えぇ、もちろんです」
旭日が飛行場の奥……広場におかれた陣地の前へ向かった。
「あっ、司令!お疲れ様です‼」
兵たちのいるところを見れば、対空砲らしき兵器が多数並んでいる。
「お疲れ様です‼」
「お疲れ様。新兵器の具合はどうですかい?」
すると、兵たちはニヤリと笑っていた。
「バッチリですよ‼先ほど大型輸送機を試験標的として使ってみたら、すごい威力と命中率でした‼」
「今までは疑っていましたが、レーダーの力ってのはすごいですね!」
兵たちがいい笑顔で旭日と話していると、レイモンドはその長砲身の大砲と思しき物体を眺めていた。
「あ、旭日殿……これは……高射砲ですか?」
「はい。旧世界では五式一五糎高射砲と呼ばれておりました」
「じゅ、15cm砲!?神龍種でも相手にするつもりなのですかっ!?」
「まぁ……それに近いレベルの危険なヤツ、ですかね」
五式一五糎高射砲。
それは日本が大戦末期に開発した、『Bー29』に対抗するための高射砲であった。当時主力であった三式一二糎高射砲では『Bー29』に対して力不足だったため、陸軍は予定射高を2万mに設定した、56.4口径150mmの高射砲を作らせた。
砲弾は薬莢を含めて180cmもあり、重量も84kgとかなりの大重量であった。
「こちらもまだ試験用で2門しか存在しませんが、もし量産されれば、強力な高射砲になるでしょう。先ほどの『富嶽』ですら一撃で叩き落せます」
「!……そ、そうか!この高射砲は重爆撃機を相手にすることを想定しているんですね‼」
「気づいてくれましたか」
よく見れば、他にも四式七糎半高射砲や二式二〇粍高射機関砲、さらに設計図からコピー生産したボフォースの40mm機関砲などがずらりと並んでいる。
「こ、これほど分厚い防空網を敷いているとは……」
グラディオン王国にも7.5cmの高射砲や7.7mm対空機関銃があるものの、これほどのものではない。
「これでは……航空機もそうそう近づけそうにないような……しかし、私が以前見た軍の演習が確かなら、目視照準で狙う対空兵器は基本的には『当たらない』もののはずですが……」
レーダーと近接信管が開発されるまでの対空兵器というモノは、『当たれば幸運。基本的には時間稼ぎや牽制』が目的だったと言っても過言ではない。
しかし、大蔵艦隊にはアメリカと同水準のPPIスコープ方式レーダーや高射装置、近接信管が配備されているため、その命中率は本来の旧海軍とは比較にならないほどに上昇している。
近接信管のことはあえて言葉にしていないが、グラディオン王国とは比べ物にならない防空網に、レイモンドはゴクリと唾を呑んでいる。
「……これほど多数の兵器が配備されているのを見ると、我が国がまだまだ発展途上だと思い知らされてしまいますね」
「いえいえ。我が国もまだまだ道半ばどころか、その道に終わりはないものと思っております」
「終わりはない……そうですね。そう思っていないと。『満足』してしまったら、そこで終わりですからね」
レイモンドが力強く頷いたのを見た旭日はニコリと笑うと、続いてレーダーのところへ案内した。
「これは……アンテナのようなものが回転している?」
「これが電探の受信アンテナです。あちこちへ照射した電波を、あのアンテナで受けて解析しています」
「なるほど……これなら360度全てを見渡せるわけですね……」
「貴国にも電探があると聞きましたが?」
旭日も事前に明治天皇や情報局から、『グラディオン王国は空を飛ぶ相手を機械的な手段で捕捉することができるらしい』という情報は得ていた。
「はい。我が国にも『R式対空電探』というモノがありまして、元々はテレビのアンテナを改良したモノなんですが、これが計量でありながら性能が良いというなんとも使い勝手がいいモノで……今となっては多くの船や、航空基地に搭載しているんですよ」
旭日は『軽量で持ち運びが楽』、『しかし性能がいい』というところから、日本が開発した『一三号対空電探』に近いものではないかと推測を立てていた。
そして、その推測はほぼ正しい。
そして、テレビがあるという話は旭日にとって朗報であった。
大蔵艦隊の持つ技術では、テレビ放送を実現できなかったのだ。
もしそれをグラディオン王国から輸入できれば、大きな情報アドバンテージを国民に得させることができると考えていた。
「いやぁ、いいモノを見せていただきました。えぇと、次は……」
「次は陸軍の装備をお見せしましょう。戦闘に用いる車両をとくとご覧ください。さ、こちらへどうぞ」
旭日の案内を受けた使節団一同は、再び車に乗って移動を開始する。
向かうのは、港湾都市キイ北西部郊外にある、陸軍演習場である。
……B-29モドキは流石にやり過ぎだったかと思う。
だが、後悔はしていないっ(キリッ)
次回は4月25日に投稿しようと思います。




