驚愕の列強
世界序列2位の国に対しての兵器お披露目……果たして吉と出るか凶と出るか
昼食を摂った一同が鎮守府から外へ出ると、目の前に停泊している扶桑の巨大な艦影がレイモンドと使節団員にインパクトを与える。
「うぅむ……近づいてみるとアンバランスぶりがよくわかる……」
「見苦しいもので申し訳ありません」
扶桑が頭を下げると、レイモンドが慌てて首を横に振った。
「い、いえ!そういうわけではありませんっ‼その……あれほど大きな艦上構造物を載せていては、さぞ大変だったのだろうな、と思いまして」
確かに、扶桑は建造当初から装甲が薄く、攻撃力はともかく速力も満足のいくものではなかったなど欠陥戦艦扱いされたこともあった。
1930年から1934年にかけて、大規模な近代化改装を2度も行っているのはそれが理由である。
しかも、太平洋戦争では航空兵力が主役となったために、鈍足で問題の多い扶桑型は戦場に出ることすらままならなかった。
その結果、練習戦艦としてレイテ沖海戦までずっと本土にいたわけだが。
もっとも、速度に関しては高速戦艦であった金剛型戦艦を除いた戦艦のほぼ全てに問題が言えることなのだが(え、大和型?『公式の最高速力』は27ノットなので……)。
もちろん、レイモンドがそんな事実を知っているはずはないのだが、扶桑は気を遣ってもらったということに気づき、思わずニコリと微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。ですが、私は戦艦です。どのような理不尽な戦場であろうと最後の瞬間まで戦い抜き、お国のために尽くすこと……それが役目です」
扶桑は太平洋戦争におけるレイテ沖海戦に妹の山城と共に『西村艦隊』として参加したが、扶桑はレイテ湾を目指す最中に米海軍の魚雷4本を食らって、その後真っ二つになって轟沈してしまった。
姉が轟沈した後、山城は単独でレイテ湾に突入するものの米海軍の集中攻撃を受けて機関が停止してしまう。
船体は多数の命中弾を受けて溶鉱炉のように燃え上がったという話もあるそうだが、それでも最後の瞬間まで砲撃を続けたと言われており、山城の激闘ぶりがうかがえる話であった。
そんな彼女たちだからこそ、『たとえどのような理不尽があろうとも最後まで諦めないこと』を強く心に誓っているのだ。
「そうでしたか……重ね重ね、失礼な発言をお許しください」
「いえ、お気になさらないでください」
扶桑の甲板に上がると、鎮座する45口径41cm砲が威圧感を放っている。
「この主砲……やはり我が国の『ダイタオン級戦艦』よりはるかに大きいですね……失礼ですが、口径を教えていただくことは可能でしょうか?」
戦艦を主力兵器として保有する国にとって、主砲の口径とは、その国の最重要国家機密と言っても過言ではない。
その情報からそれ以上の主砲を作られるようなことになれば、建艦競争が加速して、際限のないものになってしまうからである。
もっとも、地球では東の島国が列強と言える北の国家を破ったことから欧米諸国が警戒を強め、第一次世界大戦後にはその島国に不利と言える軍縮条約を突きつけられたような話もあるので、一概には言えないが。
「それは……司令、よろしいでしょうか?」
扶桑が旭日の方を見て意見を聞く。
「構わない。そもそも、我が国における戦艦の役目は変わりつつあるからな」
しかし、そんな戦艦の主砲口径とは、旭日の第0艦隊にとっては秘密でもなんでもない。
なぜならば旭日の考え方としては、『戦艦は艦隊決戦の主役ではなく、上陸作戦の際の支援砲撃に強みがある』からであった。
日本軍の金剛型2隻によるヘンダーソン飛行場砲撃然り(実際にはここに大和型を投入していればもっと大戦果だっただろうという説もある)、英国海軍のウォースパイト及びラミリーズ等によるノルマンディー上陸作戦の際の遠距離艦砲射撃然り、南仏上陸作戦『ドラグーン』然り、沖縄に対する砲撃然りである。
戦艦、それも超弩級戦艦の砲撃はその大口径砲の長射程ゆえに、制空権(と、潜水艦が近付けない制海権)さえ確保できていればの話だが、当時の技術では陸上からの反撃を受けにくいという特徴がある。
陸上の榴弾砲や要塞砲でも大口径かつ超長射程と言えるモノでなければそう簡単には届かず、艦砲射撃は余裕で敵陣地や重要拠点に届く、などということが第二次大戦時は起こったのだ。
もっとも、戦いによっては要塞砲などの陸上砲の支援を受けて戦った場合もあるため、一概には言えないのも事実だが。
特に、ヨーロッパ上陸作戦の要であったノルマンディー上陸作戦では先述のウォースパイトとラミリーズの砲撃が苛烈だったと言われており、15インチ砲弾(38.1cm)を大量に叩き込んだため、ラミリーズなどはその後本国で予備砲身に換装したと言われているほどであった。
あくまでとある一説だが、戦艦の艦砲射撃は四個師団のそれに匹敵すると言われている。
そんなものを地上への上陸支援のために使われたら、使用された相手側はたまったものではないだろう。
まして、ノルマンディー上陸作戦の際の制海権は既に連合国軍側にあったのだから(でなければ足の遅い戦艦が多数展開するという状態は作れない)。
とはいえ、戦艦の大口径砲を対艦戦闘に用いる機会が少なくなるのであれば、制空権の確保という形で相手を叩き潰すことが戦闘のメインになるため、旭日は『教えても構わない』と言ったのだ。
「では……この主砲は建造当初こそ45口径35.6cm連装砲を搭載していましたが、改装の結果さらに口径を大きくしておりまして、45口径41cm砲となっております」
レイモンドは驚く。自国の主力戦艦はもちろん、噂に聞くアイゼンガイスト帝国の戦艦の主砲に近い口径であった。
「よっ、45口径41cm砲!?そ、そんな大口径砲だったのですか……」
「はい。貴国の戦艦は……見たところ35.6cm連装砲と見ました。主砲口径は45口径。いかがですか?」
「み、見ただけで分かったのですか?」
「主砲の直径と長さの雰囲気からある程度は。それだけではありません。先ほど皆様をお迎えした敷設艦『津軽』から、私の記憶にあるとある戦艦によく似ているという報告がありました。そこから推測したまでです。ただ、自分の記憶にあるその戦艦の形状に比べると速力はかなり優足のようですが」
まさかそこまでわかってしまうとは思わなかったレイモンドは、開いた口が塞がらないと言わんばかりの顔をしていた。
もっとも、旭日からすれば前世の知識が役に立っている部分が大きいのでチートもいいところだが、それは言わないでおく。
「あの戦艦は私の記憶では6万馬力ほどの出力しか出せないはずなんですが、津軽からの報告から、ウチの計算に強いのに試算させたところ、ざっと13万馬力……とてつもない出力を発揮しているんじゃないかって言ってましたね」
「なっ……そこまで想像がついているというのですか……」
これについても言わないが、この出力を速効で計算したのは姉の撫子と工作艦の明石であった。
元々撫子は頭脳明晰で計算能力が高く、工作艦の明石と組むことでその能力をフルに発揮していた。
「我が国には優秀な技術者もいますので、そういったこともある程度であれば可能です。では次に、『薩摩』をご覧いただきましょう」
旭日たちについていくレイモンドは、旭日に質問をしていた。
「旭日殿、先ほどから気になっていたのだが、扶桑殿とは何者なのですか?戦艦と同じ名前といい、自身がまるで船であったかのように語られていることと言い……とても常人とは思えないのですが……」
素早く扶桑の存在に疑問を呈してきたレイモンドに、旭日はニヤリと笑って見せた。
「まぁ、そこはそれ……色々と我が国にも事情があるのですよ。そう考えていただけると幸いです」
どうやらそれ以上は触れてほしくないようだとレイモンドは理解したが、同時にある可能性に行きついた。
「(まさか扶桑殿は……いや、扶桑殿だけではない。それを従える旭日殿は、もしや転生者なのでは?)」
そう、レイモンド・チーフテンは転生者であった。
前世は日本の昭和半ばの造船会社の技術部に勤める人物だったが、死後転生してレイモンド・チーフテンとなり、グラディオン王国に生を受けた。
彼が産まれた当時のグラディオン王国は明治中盤のイギリスと同じ程度の技術を持っていたため、既に『富士型戦艦』や『敷島型戦艦』に近い構造の戦艦(対空機関銃の装備や主機関の若干の強化など異なる部分は多数あるが)を実用化していた。
彼は前世での知識を活かしたかったが、彼は残念なことに軍事関係にはあまり詳しくなかった。
なので彼はその時代の軍事知識を猛勉強の末に取入れ、軍の技術士官として入隊してからは戦車の製造及び『ダイタオン級戦艦』の建造に大きな力を発揮した。
飛行機に関しても本で読んだことを思い出しながら、それを取り入れた戦闘機として『ワイバリオン型艦上戦闘機』の完成に大きな役割を担った。
彼が存在したことで、グラディオン王国の軍事技術は勢いよく向上したのだ。
その結果、長年対立状態にあるクレルモンド帝国にもある程度の差をつけることができたために、軍上層部及び政府からも彼は高い評価を得ていた。
彼は次の段階として『金剛型』を超える超弩級戦艦に近いものを建造させようとしていたのだが、いかんせん彼の知識には著名な『長門』、そして戦後に名が知れた『大和』しかなかったため、その道筋は困難を極めた。
ここでせめて『伊勢型』の構想に至っていれば、それほど苦戦せずに済んだのだが、それは彼も知らないところ。
だが、そんな彼だからこそ旭日たちのことを転生者ではないのかと考えたのだ。
「(できれば後で2人きりで話したいものだ……)」
そう考えながら歩いていると、旭日がふと足を止めた。
「ご覧ください。これが我が国の最新鋭巡洋戦艦・『薩摩』です」
「「「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ……」」」
扶桑型を上回る船体の大きさと、高いながらも優美な艦橋、そして長砲身の主砲に目が行く一同であった。
だが、レイモンドはすぐに気が付いた。
「あれ……あの主砲、扶桑型よりも口径が小さいような?」
「え?」
「あれほど長砲身の大砲がですか?」
鋭い。
旭日はレイモンドに対する評価をさらに一段階上昇させた。
「仰る通りです。あの主砲は50口径38.1cm三連装砲となっております。扶桑型の45口径41cm三連装砲に比べると、口径は小さいのです」
砲身長こそ50口径とかなり長砲身(19.05m前後)なため、砲弾の初速が速いことからそれなりに威力はあるのだろう。
だが、大砲の威力は口径の三乗に比例すると言われている。
それが3cmも小さくなっているのだから、砲弾そのものの威力低下は著しいものに違いない。
「な、なぜですか?扶桑殿のような大口径砲を装備すれば、威力はかなりのものだと思うのですが……」
「それには事情がありまして……まずその一、対艦戦闘に大砲は必要なくなりつつあるから、と言わざるを得ないからです」
使節団の面々はポカンと口を開け、一部の武官は『え!?』と言わんばかりに固まってしまった。
だが、レイモンドは素早くその可能性に行き当たった。
「やはり、貴国は航空魚雷を実用化しているんですね」
「おぉ、魚雷のことをご存知でしたか」
旭日の小説から得られた知識では、魔法を主体とした文明では魚雷が発達していない、存在しないという一定の『お約束』が存在した。
実際、水準的に原始的魚雷があってもおかしくないヴェルモント皇国でその存在が確認できなかったことから、やはりこの世界に魚雷は無いものだと思っていたのだ。
「はい。我が国でも最新兵器として実用化されたものでして……基本的には艦載型なのですが、現在は航空機を進化させて、魚雷を搭載できるほどの搭載力を持つ飛行機を研究開発しているところなのです」
レイモンドとしては自国の重要情報を明かすのは躊躇われたが、相手は自国より優位な技術を多数持っているらしいということから、こちらが敢えて手の内を明かすことで相手の情報を少しでも引き出せれば、という考えに至っていた。
少しでも自国の参考になる技術があるならばそれを取り入れ、自国を更に発展させたいと考えていたのだ。
そして、それが理解できない旭日ではない。
「おぉ、それは大変素晴らしい考え方ですね。我が国では既に800kg魚雷を実用化して飛行機に搭載しております。その飛行機は急降下爆撃機としても用いることが可能になっておりまして、爆撃機と雷撃機の一本化に貢献しております」
「なるほど……多用途化することで同時運用を可能とし、量産することで費用を抑えることができるのですね」
旭日の言っている『流星』は爆弾倉に800kg魚雷、あるいは爆弾を1発、500kg爆弾を1発、あるいは60kg爆弾を6発搭載できるという性能を持っている。
もっとも、正確には他にも様々な機体は作っているし、雷撃機は大型爆弾を搭載することも可能(ただし、流星のような一部の例外を除けば、ダイブブレーキのない急降下爆撃は難しい)であった。
単に大蔵艦隊に集められた兵器がクセのあるモノなだけだ。
烈風然り、四式中戦車然り、そして艦隊の船のほとんど然りである。
その話を聞いた時、レイモンドは今後海戦の局面を左右するのは戦艦ではなく航空機なのだと実感した。
「(やはり……だとすれば、この戦艦の役目は……)」
そして閃いた。
「そうか。艦砲射撃による対地支援ですね」
ノーヒントでそこに辿り着く辺りは、さすがグラディオン王国の一級技術士というところだろうか。
旭日は『(金剛型だと舐めていると痛い目を見るな)』とレイモンドに対する評価をさらに上げていた。
「はい、正解です。大口径砲でありながらそれなりの速度で発射することが可能でありならば……その投射力で地上部隊の上陸を支援することができます」
「それならば……敵地への上陸作戦や、離島防衛などに大きな戦力となりますね」
もしそうであれば、逆に大口径化し過ぎても扱い辛い部分がある。
ある程度の速射性と砲撃力を確保しようと思うと、どうしても『程々』を追求しないといけなかった。
「なるほど……戦艦の役目は変わりつつある……ですか。我が国も早急に航空機の強化と空母の強化を図るべきですね。大変参考になりました」
その後舷側を歩いていると、レイモンドが見慣れない物を見つけた。
「あれは……何ですか?」
レイモンドが指さしたのは、箱のようなモノに収まった兵器だった。
「あぁ、あれは28連装12cm噴進砲と言います。簡単に申し上げれば……火薬や特殊な燃料を燃焼させることで勢いよく噴射した……」
「もしや、ロケット砲ですか!?」
レイモンドの言葉に、旭日は『ロケットの概念があったか』と考えた。
「はい。我が国では噴進砲と呼んでいますが、いわゆるロケット砲ですね。まさかロケット砲の概念があるとは思いませんでしたよ」
「は、はい。我が国では命中率は悪い上に燃料も特殊なので使い勝手は悪いと言われていて、歩兵の集団を戦闘の始まりの際に吹き飛ばすための兵器ですが……まさか艦載するとは……」
「確かに弾道は安定しませんし、命中率も悪いですが……一斉に発射することによって、航空機の爆撃・雷撃に対する挙動を不安定化させることができます。我が国では特殊な機構を搭載することによって、航空機に対する命中率を上げることにも成功しております」
まだ実戦での出番はないが、これまでの演習では流星に対して大きな命中率を(既存の兵器に比べればだが)叩き出している。
旭日としては『サイドワインダー』のような対空誘導弾を作りたいところなのだが、まだ誘導機能についての研究が上手く行っていない部分があるため、実用化にはまだまだ時間がかかりそうであった。
なので、当面は近接信管を搭載した高角砲や機関砲、ロケット砲で防空網を形成するしかない。
航空戦で制空権を確保できればそれが最高なのだが、戦場に絶対はない。
故に、様々な場合を想定しておかなければならないのだ。
「なるほど……必要なのは弾幕を張ることでしたか」
当然近接信管のことを教えるわけにはいかないため、ただ『弾幕を張ること』という認識を与えてしまったが、旭日もそこまでお人好しではなかった。
そして射撃指揮所や高射装置の解説も進めていく中で、レイモンドはメモを取りながら考えていた。
「(この船体の設計構造……砲の配置……やはり我が国よりも進歩しているな。我が国でもこのような船を作り出したいものだ)」
特に、対空機関砲はともかく、小口径で高初速の砲を用いる高角砲の設計が似通っているという概念は驚きだった。
陸軍の高射砲に関してはグラディオン王国でも考案中で、最初は75mmほどの大砲を口径延長することで高初速にできないかと考えていた。
また砲弾が高初速ということを考慮すると、砲弾そのものの装甲貫徹力も上がるため、その高射砲を戦車砲に転用した、次世代戦車も作れないかと発展的なことを考えてもいた。
その疑問を旭日にぶつけてみると、『それはいいことです』という答えが返ってきた。
「私が知るとある国でも、88mm高射砲を対戦車戦闘に利用したところ、高い威力を発揮した事例がありました。その高射砲を戦車砲に転用した結果、『ティーガー』、『タイガー』と呼ばれる非常に強力な主砲と装甲を持つ戦車が完成しましたよ」
「ティーガー!今、ティーガーと仰いましたか!?」
いきなりズイと近寄ってきたレイモンドに旭日は思わずのけ反った。
「え、えぇ。確かにティーガーと言いましたが……それがなにか?」
「やはり……旭日殿は地球からの転生者なのですね!」
レイモンドの放った『転生者』という一言に、旭日は以前エリナから聞かされていたことを思い出した。
『この世界で精霊の加護を受けている日本国とアイゼンガイスト帝国は転生者が生まれやすい国だが、それ以外の国でも稀に転生者が誕生することがある』
つまり、レイモンドも転生者なのだと旭日は気付いたのだ。
「……レイモンドさん、あとでじっくりとお話ししましょうか」
「はい。望むところです」
2人はニヤリと笑い合い、握手を交わしたのだった。
その後一同は『薩摩』を降りると航空母艦『雲龍』へと向かった。
艦長として出てきた雲龍が高校生くらいの女の子だったため、またも一同を驚かせたのだが、レイモンドだけは『転生者だしそういうこともあるのだろう』と逆に開き直ってしまった。
そんな『雲龍』の塗装や構造を見た一同は、またも驚きつつ甲板を見て回る。
「おや?あの甲板に装備されている装置……もしかして、射出機という奴ですか?」
「ほぅ。カタパルトをご存知でしたか」
「はい。確か、油圧や蒸気の力で飛行機を加速させる機構でしたね」
「はい。この雲龍は改装の結果、油圧式カタパルトの運用が可能になりました。そして……」
旭日が合図すると、エレベーターが持ち上がって格納庫から『烈風』でも『流星』でもない機体が浮き上がってきた。
その機体……大日本天皇国初のターボジェット戦闘機・『橘花改』が姿を見せた。
「あ、あれは……もしかして、噴式機……いえ、ジェット機ですか!?」
レイモンドが生きていた昭和の中頃と言えば、既にジェット戦闘機の時代であった。
国産の機体については全くと言っていいほどに知らなかったが、東京オリンピックの際に『Fー86』セイバーのブルーインパルス部隊が披露した五輪マークは、今でも脳裏に焼き付いている。
「まさか……既にジェット機まで開発しているとは……そう言えば、先程の『閃電』もプロペラが無かった……あれもジェット機だったんですねっ‼」
「はい。技術は常に進歩を求めなければいけませんからね。その時の最高傑作で満足していちゃダメなんですよ」
「なるほど……」
もはや驚き疲れてきたが、とても重要なことなのでメモを忘れない。
「もっとも、このジェット機という奴は低速・低高度での運動性に大きな難がありますので、高度を活かした一撃離脱と、その急降下速度を利用した爆撃、雷撃などが当面の運用方法ですかね」
「一長一短、という奴ですね」
「私が生きていた頃の時代では、マッハ2.5まで出せる超音速戦闘機も『当たり前』になっていましたが……この世界では、遷音速に近づくだけでもまだまだ一苦労だと思いますよ」
レイモンドが生前最後に見たアメリカの空母艦載機『Fー14』トムキャットは確かにそれに近い速度を出していたが、旭日のいた時代の地球には、それより速い戦闘機が存在するらしい。
「(気になる……非常に気になる……後で探りを入れねば!)」
旭日から情報を得ることができれば、今後進むべき技術的方針が見えてくるかもしれない。そう思うと、旭日には山ほど聞きたいことがあったのだが、今は解説してもらっているのでもうしばらく我慢することにした。
下船したところで、レイモンドはもう1つ思い出したことがあった。
「そう言えば旭日殿。貴国には『戦車』があると思うのですが……厚かましいとは思います。しかし、どうか戦車も見せていただくことは可能でしょうか?」
旭日としては『現在の』戦車を見せることはそれほど問題なかった。
何故ならば、既に次世代を見据えて戦車開発をさせているからである。
既に足回り……車体と履帯、駆動装置などの車体は完成しているため、あとは砲塔と主砲、そしてサスペンションであった。
旭日としては戦後第一世代ほどということを考えて、発展性を残すことを考慮して『74式戦車』レベルの車体に『61式戦車』レベルの90mm砲を装備した戦車がいいと思っていた。
というのも、口径の小さな砲弾ならばその分携行できる弾が増えるという利点もあるので、今の時点ではこれでもいいと判断されているのだ。
そのため、75mm砲装備の『四式中戦車』であれば、今公開することはそれほど問題ではない。
幸い、陸軍機甲部隊の演習場もそれほど離れていない(距離的には郊外15km地点)なので、案内することは問題なかった。
だが、問題は時間であった。
「すみませんが、明日にしてもよろしいでしょうか?もう時間もだいぶ遅くなりましたので……」
見れば、西の空が夕焼けでとてもキレイなことになっていた。
「そ、そうですね。本日はこれで休ませていただきます……」
さすがのレイモンドも夕焼けを見て興奮が静まったのか、恥ずかしそうにモジモジしたのだった。
その夜、港湾内部の食堂『間宮』へ向かうと、旭日が取っておいた予約席で飛鷹と隼鷹が待機していた。
この食堂は基本的に外へ出ることが少ない間宮が、自分の料理技術研鑽のために旭日に頼んで立ててもらった食堂である。
ここでは間宮の乗組員たちが日々料理の修行を積んでおり、週に一度は新しい料理(この世界基準で)を生み出している場所でもある。
ただし、そこはお試し料理もあるため、たまに英国面的な外れもあったりするのだが、それはご愛敬。
「「グラディオン王国使節団の皆様方。長旅ご苦労様でした。今宵はごゆっくりお楽しみくださいませ」」
メイド2人の流れるようなお辞儀に使節団一同もお辞儀で応える。
シェフ姿の料理長……間宮が合図すると、前菜からスープ、サラダ、ドリンクと様々な料理が運ばれてきた。
「おぉ。日本食と言えば米に漬物や焼き魚、煮物などの質素なものが多いと聞いていたのだが……これはおいしそうだ」
魚料理は鮭の味噌バター焼き、肉料理はキレイな牛肉の赤身ステーキ・醤油タレなど、日本の味わいに洋風の料理方法というものである。
「これはなんとも……懐かしい味付けですね。とてもおいしい」
レイモンドも昭和中期の日本に生きていた人間なので、レストランで食べていた和洋折衷の食事が懐かしいようだ。
「それでは本日のメインディッシュ……ホロホロチャーシューのチャーハンになります」
使節団の面々は異様な米料理にポカンとしているが、レイモンドはこれまた懐かしいものが出てきたと喜色満面であった。
レイモンドが務めていた造船所の近くにあった中華食堂では、ラーメンと半チャーハンのセットが大人気だったのだ。
レイモンド……前世では高野健一という男だったが、彼もまたその料理をこよなく愛する1人であった。
「まさかこの世界に来てチャーハンが食べられるとは……あぁっ‼全体的に香ばしくて肉がホロホロでその上米がパラパラしていてっ……最高です‼」
「お気に入りいただけて良かったです。今日のは特に自信作なんですよ」
それを見た間宮は『うふふ』と微笑んだ。
レイモンドが美味しそうに食べているのを見た使節団一同も恐る恐る食べ始めると、その美味しさの虜になったのか、皆黙々と、しかしパクパクとチャーハンを食べ始めたのであった。
使節団一同は満腹になるまで料理を堪能すると、最後に来客用のホテル『紀伊』へと向かい、明日を楽しみにするのだった。
……はい。この世界は様々な転生者がいるという設定になっています。
なので、レイモンドのように知識から活躍の場を与えられるような人物もいるわけです。




