接触
今月投稿の話になります。
やっと人との接触です。
月一にすると結構長く感じますね……でも、途切れない投稿のためにもこれを維持しようと思います。
旭日たちが航海を始めて、既に丸2日が経過していた。
「天城、葛城、なにか機器類に反応はあったか?」
『こちら対空電探、未だ反応なし』
『こちら対水上電探、同じく反応ありません』
この2日間、少し速力を上げて12ノットの速度で航海を続けていたのだが、とにかくなにもなかった。
初日にワイバーンに出くわしたことを除けば、本当になにもない。
「うぅん……まさか、神託が外れたってんじゃないだろうな……」
旭日の隣に立つ扶桑も、心配そうな顔をしている。
「私は確かに『北西へ迎え』と言われていたのですが……なにか間違えたのでしょうか……」
「まぁ、燃料も食料ももうしばらくは持つから、まだたどり着いていないだけ、って可能性の方が高いけどな」
実際、各艦を総合すればあと3日くらいは余裕で持つ。
だが、『あきつ丸』や『熊野丸』に乗っている人員(この場合は全員戦闘要員ではなく、戦時中に亡くなった技術者や科学者もいる)数千人分に加えて、特設輸送船に乗っている1万人を超える人々の食料や水が厳しかった。
「なんとかして、早く適度な能力を持つ文明と接触しないことにはなぁ……あ~、大鳳?彩雲は戻ってきたか?」
『はい。先ほど通信圏内に戻ってまいりましたので、なにかあれば報告があるでしょう』
「そっか。じゃあ彩雲の報告待ちだな」
この2日間、何度も彩雲を飛行させたが、それでも全く……向かった方角が悪かったのかもしれないが、陸地すら見えなかったのである。
初日のワイバーンの群れに遭遇する出来事がなければ、この静けさはもはや泣きたい気分であった。
「やれやれ……果報は寝て待てというものの、それにも限度があるよなぁ……」
すると、通信機が『ザーッ、ザザーッ』と音を立て始めた。
「お、やっとか」
「搭載されている通信機も一応能力の高いものになっているようですが……打電とどちらがいいのでしょうか」
大蔵艦隊の航空機には無線機もモールス信号も搭載されているため、好きな方を使えるようになっている。
『こちら偵察1号機!艦隊航行中海域より西に120km先に船団発見‼ただし、1隻の大型船に3隻の小型船が密集している!小型船に大型船が襲われている模様!』
旭日は相手の様子まで詳細に報告してきたことに『流石帝国軍人』と感心しつつ返した。
「こちら艦隊司令。船の特徴は?」
『小型船はいわゆる西洋的なガレー船の大型に酷似!なお、大砲は確認できず!大型船は黒く、鉄板を張り付けた日本の〈安宅船〉に酷似している!』
報告を聞いて、ある存在が頭に浮かんでいた。
「織田信長が村上水軍に対抗するために九鬼嘉隆に造らせたっていう鉄甲船みたいな船か……と言うことは、大砲や火縄銃があったか?」
『大砲は確認できた!しかし火縄銃の類は不明!』
だが、大砲があるというのならば火縄銃くらいはあるとみていいだろう。しかし、もし戦国時代相当の水準……いわゆるカルバリン砲であれば、当時の飛び道具は命中率が尋常じゃなく悪い。
恐らく、敵がちょこまか動き回っている間に弾薬を使い切ってしまったのだ。元々鉄甲船は尋常ではなく足が遅いため、移乗攻撃を仕掛けられているのだろう。
しかも、安宅船は本来外洋航行に向かない造りのはずだ。速度も出せないだろうし、どれほど持ちこたえられるか分からない。
「思ったよりマズいなぁ……」
「司令、どうされますか?」
旭日は一瞬で答えを導き出した。
「本当なら空母で流星を発艦させるのが一番手っ取り早いんだろうけど……扶桑、阿賀野と能代に通達。『最大船速、あるいはそれに匹敵する速度で当該海域へ急行し、小型船舶を撃沈せよ。なお、漂流する者あれば救助し、それと同時に大型鉄甲船の乗員を支援せよ』とな」
相手に航空戦力がないことは今の報告から明らかである。故に、上空から急降下爆撃か雷撃を見舞ってしまえば一瞬で片が付くのだ。
だが、恐らく今見つかった『襲われている方の相手』こそが、自分たちが接触するべき存在であると旭日は直感していた。
故に、『分かりやすく力を見せよう』と思うと、やはり同じ船舶、しかも砲撃の強力な軍艦を用いれば、相手もこちらがそれだけの能力を持っていると知るだろうと考えたのである。
「なぜ阿賀野と能代を?」
「相手は3隻だ。本当は阿賀野1隻だけでもお釣りがくるくらいの相手だが……救助に人が多い方がいい。それに、艦内の陸戦隊で大型鉄甲船を支援してほしいんだ。『助けに来た』って思ってもらえば、あとの交渉がやりやすくなるだろう?」
扶桑は『納得いった』という表情をした。
「それに、『阿賀野型軽巡洋艦』は、駆逐艦を除けばこの艦隊の中でもトップクラスのスピードを誇る。今はバルバスバウも設置されていることでより効率よく当該海域へ急行できるはずだ。燃料は後で輸送船たちから補給させる」
輸送船の中には旧世界における捕鯨船を改造した油槽船も存在するため、それなりにではあるが燃料の補給も可能になっている。
「畏まりました。直ちに増速を命じましょう」
扶桑は通信機を旭日に差し出した。
「阿賀野、能代の2艦は最大船速に近い30ノットまで増速し、当該海域へ急行、直ちに木造小型船舶を攻撃してこれを撃沈せよ。その後漂流している者を救助しつつ、陸戦隊を編成し、鉄甲船へ移乗し、敵味方識別の誰何の後に戦闘開始、敵を排除せよ‼」
『阿賀野、了解ですっ‼』
『能代、行きますっ‼』
旭日は『だが』と追加した。
「相手の具合からすると既にそれなりに追い込まれているようだ。雲龍から『烈風』を先行させ、小型船舶に対して機銃掃射を行わせろ」
雲龍からも通信が入る。
『誤射が出るかもしれませんよ?』
「そうだな。だから、鉄甲船から『一番離れている船』を狙え。機銃掃射で被害が出れば、それだけで相手は怯むだろう。その隙に被害者側が反撃を少しでも加えてくれれば、それだけで時間が稼げるはずだ」
『『了解‼』』
2隻はそれまでの12ノットから勢いよく増速し、3倍近い速さで海を疾走し始めた。
「……これでなんとかなるとは思うけどな……大井と北上じゃ万が一火炎魔法とかが着弾した時が怖いから無闇に使えないんだよなぁ……」
「それは……そうですね」
太陽神の話から、この世界には魔法が存在することをすでに聞かされていたため、それによる被害を恐れたのだ。
魚雷に誘爆しようものならば、5500t前後という中型軽巡程度の船体など、一瞬で木端微塵に吹き飛ぶだろう。
「悪いな、2人とも。水雷パーティはまだ後になりそうだ」
すると、通信機からボソボソとした声が返ってきた。
『いえ……』
『考えてもらえるだけでも嬉しいです……』
少なくとも、気を遣った甲斐はあったらしい。2人の返事に満足しつつ、水平線の彼方を見つめる旭日であった。
「頼むぜ、2人とも……」
それから30分後、大蔵艦隊から110km先(会話している間に10kmは進んでいた)で、静かなはずの大海原に金属のぶつかり合う音が響いていた。
大日本皇国海軍所属、皇族専用軍艦『シキシマ』では、様々な人種の兵士が海賊風の男たちと切り結んでいた。
海賊風の男たちは洋風の格好をしているが、大日本皇国の兵士たちは海賊たちとは裏腹に和服を着こんでいる。
そして種族もバラバラだが、皆アジア人のような顔立ちであった。
激しい斬り合いと、魔法が飛び交う混戦した状態であった。
「おのれ、海賊風情が‼」
大日本皇国海軍の海兵エルフが風属性魔法・『ライトニングアロー』を放つと、それだけで海賊2人があっという間に崩れ落ちた。
いくら鉄板に覆われているとはいえ、元は木造の船の上なので威力の高い炎属性の魔法は使えない。
土魔法は使った場合、残ったモノの撤去に時間と労力を要するため、自然と風及び水の魔法の二択となる。
元々海賊船は5隻襲い掛かってきていたのだが、そのうち2隻は搭載されている精霊魔導砲の砲撃で撃沈することができた。
さらに精霊火縄銃の連続射撃による激しい弾幕(あくまでこの世界水準)などもあり、海賊の人数は襲ってきた当初の半数近くにまで減っている。
しかし、それでも数の暴力はいかんともしがたく、遂に現在、移乗攻撃を仕掛けられて白兵戦となっていたのだ。
皇国海軍の指揮を執っているワーウルフ族のクキ・ヨシヨリは、屈強そうな顔を歪めながら海賊に対して毒づいていた。
「くそぅ、友好国との交流会に出席した帰りにこのようなことになるとはな‼」
「船長、ボヤいても仕方ないですよ」
この世界・『マギカクロイツ』は地球とほぼ同じくらいの大きさの惑星で、『基本的には』人類は北半球の世界だけで生きている。
その北半球には、第1大陸、第2大陸、そして第3大陸と呼ばれる大陸と、大陸群に属さない『非文明圏国』という枠組みが存在する。
大日本皇国は文明圏にこそ所属していないものの、第3大陸までわずか300kmと距離が近く、東に点在する島嶼国家群との貿易における中間拠点となっていたことと、『とある理由』により、非文明圏国でありながら文明圏の強国並みの国力を誇っていた。
しかし近年、第3大陸沿岸部の一部の国と領海において軍船同士がぶつかり合う事件が勃発しており、緊張感が高まっていた。
その国が運悪くも第3大陸に1国しか存在しない列強国の保護国だったことも災いして、大日本天皇国は他の文明諸国からも距離を置かれがちになっていた。
そんな状況を打開するべく、大日本皇国現君主・アケノオサメノキミは自国と同じ信仰を持つ強国へ使節団を派遣し、関係強化を図った……その帰りであったのだ。
「なにやってやがる!相手は少人数だ‼一気に押し潰しちまえ‼」
「で、ですが、結構な手練れ揃いですぜ‼こっちもだいぶ人数減ってるし……」
「ちぃ‼」
不幸中の幸いなのは、海賊も人数を大きく減らしていたことで『シキシマ』の攻略に多くの人数を割くことができず、防衛する大日本皇国側の方が有利になっている、というところであった。
そんな乱戦の中だった。
――ウウウゥゥゥゥ………
「ん?なんの音だ?」
耳の良いエルフ族や獣人族は空気を震わせるような音に耳を澄ませる。
「おっ、おい!東の空を見ろ‼」
海賊の叫びと共に全員が同じ方向を見ると、『ブルルルルルルルルルルッ‼』という音を響かせて大きな『なにか』が飛んできたのだ。
「あれは……さっき船の上を飛び回ってたやつに似てるな」
ヨシヨリの呟きに答える者はいなかったが、ヨシヨリはとある確信を持っていた。
「あの飛行物体……なぜ先ほどから偵察ばかりしている?」
飛行物体が船の周囲を旋回する動きから、それが偵察行為であるというのはなんとなく想像がついていた。
だが、なぜ自分たちを偵察するのか、まるで想像がつかなかったのである。
だが、今回の飛行物体は違った。
――ブウウゥゥゥゥゥゥンッ‼
いきなり急降下を始めたと思うと、唯一『シキシマ』に接舷していなかった海賊船に近づき、翼の一部をチカチカと光らせた。
遅れて『ダダダダダダダッ‼』という乾いた破裂音のような音が響くと、海賊船の上部甲板に多数の穴が開いていた。
「なっ、なんだとぉっ!?」
海賊たちはいきなり自分たちが攻撃を受けたことが理解できず、思わず固まっていた。
飛行物体は空の上で旋回してさらに2回同じ攻撃を繰り返すと満足したのか、またも東の空へと飛び去って行った。
海賊船は引火する物質に命中しなかったのか、なんとか撃沈はしていなかった。しかし、帆に大きな穴が開いたのみならず、乗員への被害も多数出たようだ。
「畜生!なにがどうなってやがる!」
海賊は毒づくが、それでなにかが変わるわけでもない。仕方がないので部下に命じて帆の穴を塞がせるくらいであった。
それから1時間ほど、膠着状態は続いていた。
だが、それが遂に終わりを告げる。
「お、おいっ‼なんだありゃぁ‼」
海賊のドワーフらしい男の叫びにまたも一同が東の方向を向くと、全長40m近くはある『シキシマ』の3倍以上の大きさはあろうかという灰色の船が、こちらに迫ってきていたのだ。
「なんだぁ!?日本海軍にあんな船があるなんて聞いたことねぇぞ‼」
一方、阿賀野と能代は海賊が気付く少し前にようやく敵を目視で発見していた。
電探上に動きはあったものの、ここまで来てようやく見張り所の見張り員が目視可能な範囲まで近づいたらしい。
既に距離は20kmを切っている。
一応60口径15.5cm連装砲(最上型巡洋艦で採用されていた60口径15.5cm三連装砲を連装に改良したもの)の射程に入ってはいるが、今回は誤射が許されないこともあって、もっと接近する必要がある。
阿賀野は艦橋に仁王立ちになりながら指揮を執っている。
「観測士、あと何km?」
「あと18kmです‼」
「じゃあ、5km……いえ、3kmを切ったところで砲撃を開始して。相手は電探に映りにくいから電探照準射撃は使えないよ。一応映ってはいるけど、ね」
「了解‼」
改装により強力なレーダーを搭載した各艦であったが、大型艦としては扶桑型戦艦、阿賀野型軽巡洋艦の2種類だけが、駆逐艦を除けば最新鋭のレーダー照準射撃をすることができるようになっていた。
しかし、今回の相手はレーダーに映りにくいかなり小型の木造船であるため、測距儀による観測、或いは目視照準が大きなカギとなる。
そして十数分後。
「艦長、相手との距離7kmを切りました」
「敵の速度は?」
「移乗攻撃を仕掛けるためか、ほぼ停止状態に近いです。おそらく1~3ノット」
「よし、総員、第1種戦闘配置!主砲、撃ち方用意‼」
「主砲、撃ち方用意‼」
ブザーが鳴り響くと、阿賀野と能代の前部連装主砲が音を立てながらゆっくり狙いを定める。
至近弾が出るだけでも喫水線下に破孔を生じさせて沈めることができるだろうが、できれば一撃で命中させたいところである。
「主砲塔観測測距儀より、照準よしとのことです」
「距離、間もなく3kmをきります」
「落ち着いて狙えよぉ……撃ちぃ方始めぇ‼」
「撃ちぃ方始めぇ‼」
――ドォンッ‼ドォンッ‼
阿賀野の艦首主砲が連続して火を噴くと、1発が海賊船のマスト付近の甲板に、もう1発が別の1隻の船首近くに命中した。
――ボォンッ!
木造船はあっけなく大破・炎上し、破断箇所からゆっくりと沈み始める。もう1隻は木っ端微塵に吹き飛んでいた。
どうやら火矢を撃つための油に引火したらしい。
「初弾命中ですな」
「距離もかなり近かったからな。これで外せという方がどうかと思うぞ」
乗員が感想を呟く中、阿賀野は厳しい表情を崩さない。
「残り2隻‼撃てぇっ‼」
――ドォンッ‼
だが、この1発は外れた。海賊船を飛び越えて300mほど離れた海面に着弾したのだ。
「修正‼」
「はっ‼修正、仰角マイナス2、右1度‼」
「修正よし‼」
「撃てぇっ‼」
――ドォンッ‼
2番主砲から放たれた砲弾は、まるで船に対して吸い込まれるように飛んでいき、海賊船のどてっ腹に命中した。
海賊船は一瞬の爆炎を見せた後で炎上し、そのまま沈んでいく。
残りの1隻も、見れば能代が沈めていた。
「能代、悪いけど救助よろしく‼」
『いいよ、阿賀野姉ちゃん!』
能代は速度を落とし、内火艇を下すと素早く救助を始める。
一方、阿賀野は襲われていた鉄甲船に近づいていく。
「陸戦隊、準備はいいかい?」
『はい!艦長‼』
『いつでもいけます‼』
艦内陸戦隊の手には九九式小銃が、腰には浜田式拳銃と海軍式軍刀が携帯されている。
ちなみに陸軍が採用していた興亜一心刀と異なり、海軍の刀は防錆のためにステンレスで作られているという特徴がある。
本当はより近代的なヘリコプターなどがあれば懸垂下降などで直接乗り込めるのだが、贅沢は言えない。
そして、船は遂に鉄甲船に接舷するかしないかという距離まで近づき、さらに減速した。
「よ~し……水雷魂で海賊を叩けぇ‼」
『オオオオオォォォォォォォォッ‼』
屈強な男たちの叫び声と共に、阿賀野の各所からカギ付きのロープが飛んでいく。
それを引っ掛けると、素早く陸戦隊がそのロープを渡って船に乗り移っていく。
背中には重い『九九式小銃』を、腰には海軍刀が下げてあり、そんな重量物を持ちながらも素早く縄を上り、鉄甲船に降り立ったものから素早く陣形を確保している。
ロープを引っ掛けていたのが最上甲板に繋がる場所だったことも幸いして、海賊たちが呆然としている間に数名が移乗を終えていた。
「な、なんだこいつら‼」
「やい、テメェらナニモンだ‼」
海賊たちは声を上げるが、そこへ降りたった指揮官が海賊を無視して奥にいるヨシヨリに誰何した。
「問おう。この船を守っているのはどちらか?我らはこの船を守る者に加勢するべくはせ参じた」
多くの者たちが驚きを隠せなかったようだが、ヨシヨリが素早く答えた。
「私は大日本皇国海軍所属将軍が1人、クキ・ヨシヨリ‼この船の守りを任されていた者だ‼大変に情けないことだが、海賊に攻められて危機的状況であった‼助力、感謝する‼」
ヨシヨリの発した言葉に海賊は『日本側の援軍か』と慌てたらしく、陸戦隊の方へ狙いを変えて襲い掛かってきた。
陸戦隊の数は12人。海賊はまだ20人近くいる。
だが、陸戦隊は誰も恐れていなかった。
「総員、和服を着ている者たちを味方とし、荒くれ者どもを敵とせよ‼」
「ふざけやがって!」
「なめんじゃねぇぞぉ‼」
海賊たちはカトラスを手に迫ってくるが、まだ距離がある上に敵の足も遅いために陸戦隊は慌てない。
「各自の判断で撃てっ!」
――パァンッ‼パァンッ‼
1人1発撃っただけで、海賊の大半がその場に倒れこんだ。残った者たちは、なにが起きたのか理解できていないようで立ち尽くしている。
「なっ、なんだとぉ!?」
「まだやるか?」
残った8人も、いきなり現れた意味不明な存在のあまりに素早く、強力な攻撃に怖気づいてしまったらしく、顔色が悪い。
後ろからは大日本皇国の海兵たちも迫っている。
帰るべき船もなくなり、人数もあっという間に逆転されてしまった。
もはや海賊側に、勝ち目はなかった。
「……くそっ、降参だ」
海賊を指揮していた男が剣を落とすと、他の7名も剣を捨てて座り込んだ。
ヨシヨリが素早く『確保せよ!』と叫ぶと、大日本皇国の海兵たちが素早く敵に縄を打っていく。
と、そこへ阿賀野が指揮を副長に任せて自身で綱を渡ってきた。なぜか背中には鉈のような大振りの刀を背負っている。
「よ~し海賊ども、この阿賀野が相手だって……あれ?もう終わった?」
「はい、艦長。既に制圧完了しました」
「えぇ~?あたしも暴れたかったのになぁ~」
「艦長がなに言ってんですか」
呑気な阿賀野の姿に陸戦隊の間からも笑いが漏れた。
すると、ヨシヨリが近寄ってきて頭を下げた。
「すまない、本当に助かった。しかし、貴殿らは強いな。一体どこの軍隊だ?」
阿賀野は『あ~』と言いながら頬をポリポリと掻く。
「す、すみません。あたしはそういうことを説明できる立場にないので……もう少し待ってもらっていいですか?あたしたちの司令官が到着しますので」
「なんと!貴殿より上位の指揮官がおられるのか!?」
女性であることにはナチュラルでツッコみを入れられていないようだが、阿賀野としても司令である旭日に説明してもらうほうが、都合がいいだろうと考えていた。
「わかりました。あとどのくらいかかりそうですか?」
「え~と……あと1時間……って言って伝わりますか?」
「無論。我が国は非文明圏国ではありますが、『時計』は持っております故」
どうやら時間の概念も一緒らしい。内心『助かった』と安心する阿賀野だった。
海賊たちを拘束してから阿賀野は一度船へ戻り、『海賊の拘束に成功した』と艦隊に連絡を取った。
返事としては『急いでそちらへ向かうので、待っててほしい』と返ってきたので、阿賀野としては待つしかできない。
「うぅ……旭日司令、早く来てよぉ~」
とは言っても、機関の馬力を上げてバルバスバウを設置した『扶桑型戦艦』でも29ノットが最大速度である。
さらに最大速度という点ではもっと遅い船も何隻もいるため、それに合わせようと思うとどうしても時間はかかるのだ。
それでも速力が上がるようにと神界の時点でそれなりに改装し、輸送艦を含めたどの艦も23ノットは出せるようになっている。
そして、遂に艦隊が姿を見せた。
「あっ、見えてきましたよ」
阿賀野の声に思わず望遠鏡を覗き込んだヨシヨリは、その船の大きさに圧倒されていた。
そして、改めて阿賀野と他の船を見比べて気づく。
「貴殿らの船……全て我が国の船と同様に鉄板を張り付けているのか!?」
「いえ。あたしたちの船は全部が鉄でできているんですよ」
そんな船があるなど、ヨシヨリの知識では一部の列強国を除いて聞いたことがない。
どうやら、自分たちがとんでもない相手と接触しようとしていることだけは確かだと、今更ながらに恐怖するのだった。
遂に文明的な相手と接触です。
名前に『日本』賀入った国……どうなるのかお楽しみに。
昨日から艦これアーケードのイベント海域が始まったのでプレイしたところ、なんといきなり村雨改の限定イラストが!……初っ端幸先いいっていうのが逆に不安になりますね。
次回は7月の23か24に投稿しようと思います。