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初会敵……?

今月の投稿となります。

今回は初めての実戦相手です。

果たしてこれを実戦と言っていいのかどうか……

 かくして異世界の大海原へと航海に乗り出した旭日たちだったが、まず真っ先に確認するべきことがあった。

 各艦に食料と燃料、そして弾薬はどのくらい搭載してあるかだ。今旭日と艦長である女性たちは、会議室のある香取ヘ集まっていた。

「えーそれじゃ、各艦より報告」

 旭日の声に、まずは扶桑が手を上げる。

 扶桑は旭日の座乗艦になったことから、皆の間で相談され、旭日の秘書みたいな存在として扱われることになったらしい。

 秘書艦ってゲームじゃないんだからいいのに……と、旭日は内心思っていたが、このことが後に思わぬことをもたらす。

 だが、なにが起こるのかは、この時まだ誰も知る由はなかった。

 それはさておき……。

「既に各艦の報告を集約してまとめました。その結果判明したのが、『食料燃料及び弾薬類は満載状態にある』ということです」

「じゃあ、とりあえず数日くらいは経済速度……10ノットちょいくらいの航海は問題なさそう?」

「そうですね。特設輸送船もありますので、計画的に使用すれば、の話になりますが……2週間くらいはなんとか持ちます。ですが、陸軍の物資などのこともありますので、できれば早めに補給できる拠点を見つけたいものです」

「やっぱそうかぁ」

 この場合は燃料よりも、食料と真水の確保が問題だ。大海原の上では真水なんて雨が降らなければロクに手に入らないのだから当然だが。

 海水を真水に蒸留する装置もなくはないが、昭和時代(それも前期)の設備ばかりの艦隊ではあまり望むべくもない。

「とにかく、対空電探も対水上電探もつけっ放しでよろしく頼む。一番出力が強いのは?」

 これに答えたのは装備に詳しい明石だ。

「一応最新鋭空母ってことで一番出力を出せる雲龍さんたちですね。一番発電量も多いですし、装備自体も旭日司令の改装で米国式の、私たち世代の水準からすれば最新鋭のものを搭載していますから、空の目標なら300kmくらい、水上目標でも100km近くは探知できます」

 俗にいう『SGレーダー』と呼ばれる対空レーダーが最も新しいものとなっている。

 『ただ』、と明石は付け加えた。

「1艦で両方起動していると電力的な意味で燃料をバカ食いしますんで、できれば2艦に分けた方がいいかと」

「そうか……じゃあ天城、葛城、2人にそれぞれ対空と対水上目標の探知を頼む。なにか引っかかったら、すぐに報告してくれ」

 現場で活躍する機会のなかった2艦に頼んだのは、旭日なりの彼女たちへの配慮だった。

 これで彼女たちが少しでも前向きになれば、と思ったのだ。

「「了解しました」」

 2人が敬礼すると同時に、旭日はパン、と手を叩いた。

「よし、ひとまず本日の会議はここまで。これから飯にするから、皆しばらく待っててくれ」

 思わぬ言葉が出てきたことに驚いたらしく、矢矧が声を上げた。

「え、司令が作るんですか?」

「あぁ。こう見えて料理は得意だぜ。と、言っても流石にこの人数分を1人で作るのは難しいから、間宮、飛鷹、隼鷹、悪いけど手伝ってくれ」

「はい、わかりました」

「お任せください」

「誠心誠意お作りします」

 自己紹介の時に『料理が得意』と言っていたので、間宮はもちろんだが、飛鷹と隼鷹も併せて召集する。

「よっし、んじゃ厨房行こうか」

 旭日たちは厨房へ行くと、食材を確認する。

「……野菜は結構あるけど、肉類少ないな」

 旭日が真剣な表情で食材を見つめていると、横から飛鷹が恐る恐ると言わんばかりに声をかける。

「旭日司令、いかがいたしますか?」

「うぅん……とりあえず肉が欲しいけど……こんな洋上じゃロクに手に入らないだろうしなぁ……海獣でも狩るか……いや、そんなのソナーでもわかりづらいし……そもそも食えるかどうかわかんないしな……でも、なにか採らないとな……」

 色々的外れなことを考えていると、扶桑が調理場に飛び込んできた。

「司令、失礼いたします」

「どうしたの、扶桑?」

「そ、それが、先ほど対空電探を起動して監視を始めていた天城からの報告なのですが……」

「ん?」

「……巨大な鳥の群れを捉えたそうです」

「は?」

「先ほどの時点で既に100km内に入り、刻々と近づいてきています」

 これは思わぬ話だった。だが、それを聞いた旭日は『これは使える』と考えを改めた。

「……総員、対空戦闘用意。訓練と高角砲に搭載されている近接信管のテストも兼ねて、鳥の群れを撃ち落とす、って伝えてきて」

「了解しました」

「あと、間宮とその乗組員に肉の加工準備を進めておいて、って」

「はい。それも直ちに」

 扶桑は再び走って出て行った。旭日はニヤリと笑いながら、ポカンとしている飛鷹と隼鷹の方を見る。

「聞いたね、2人とも」

「「は、はい……」」

「2人も自艦の乗組員に伝えておいて。対空戦闘用意って」

「「ははっ」」

 どうやら、料理そのものは少し時間がかかりそうであった。

「……焼き鳥にするか、それとも蒸し鶏もいいかな?」

 旭日はそう呟きながら内火艇に乗って扶桑の艦橋へ戻った。

 艦橋へ戻ると、既に各所で人が動き始めていた。

 旭日の代理で指示を飛ばしていた扶桑が通信機から離れて振り向く。その時、彼女の豊満な胸元がプルン、と揺れたが旭日はあえて無視した。

「扶桑、準備は?」

「はい。本艦があと3分で配置完了です。他の艦も同じくらいでしょう」

 戦闘員と言うのは常に配置についているわけではない。ただし、戦闘準備の号令がかかればものの数分もなしに配置につくのが当たり前だ。

「相手の位置は?」

「高度500m付近を、時速120kmほどでこちらへ向かってきています。また、方角は当艦隊より2時の方向です」

「距離は?」

「先ほど天城から入った報告では、既に50kmを切りました。相対速度もありますが……あとも30分もなく会敵するでしょう」

「思ったより速いなぁ……っていうか、時速120kmで飛び続けているって言ってたけど、それって本当に鳥か?」

 ここで初めて扶桑の顔が曇った。

「それに関してはなんとも……あくまで電探に『鳥の群れのよう』と映っただけにすぎませんので……」

 いくら終戦頃の日本より優れていたとはいえ、搭載されているレーダーはどれも現代(2020年代)の電子機器よりも古いため、どのような存在なのか判断に困る部分が多々存在する。

 末期の米英軍のレーダーは、ドイツ軍艦の発射した20cm砲弾までもを『捉えていた』というらしいが、細かく『識別』するのは難しかった。

 それをどう判断するのかが、『乗組員の腕』と言う訳だ。

 もっとも、『人の腕』に頼り過ぎたのがかつての大日本帝国だったのでその点は十分に注意しなければならないのだが、今はそうも言っていられない。

「そりゃそうか……よし、とにかくそのまま。あ、だとすると高角砲は撃っちゃダメだな。近接信管とはいえ爆圧でバラバラになりかねない。大型鳥類に25mm機関砲なら穴が開いたり表面が焦げたりはするだろうけど、可食部位を傷つけにくい」

「はい。総員に徹底させます」

「あ、でも不慮の事態に備えて撃てるようにはしておいてって追伸、頼むぞ」

「はい」

 扶桑が通信機に向かって喋っている間に、旭日は艦橋から双眼鏡で2時の方向を見る。

「……お、あれか」

 点のような黒い粒々が、間違いなくこちらへ向かってきていた。かなり遠くまで見られる双眼鏡を使っているとはいえ、それなりに大きく見える。

「っていうか、ずいぶんデカいな……うん?」

 よく見ると、鳥と違って『羽毛』がなかった。それに、シルエットはもっと細長い、流線型に近いように見受けられる。

 旭日は予想される存在から、思わず呟いていた。

「ありゃぁ……ドラゴン?」

 多数のドラゴンが群れを成して、こちらへと飛んできていた。大きさも小型飛行機……現代のセスナや三式指揮連絡機並みはあろうかというもので、翼長十数mはある。

 体長も6m以上はありそうだ。

 ついでに言うと、『前足と翼が一体に』なっていた。

「いや、ワイバーンだ‼うおぉ、正に異世界って感じだっ‼」

「司令、ご指示を」

 扶桑がいつの間にか側に立っている。だが、旭日はそれに驚くこともせずに扶桑に命じた。

「対空戦闘用意そのまま!飛来する鳥の群れ改め、『飛竜の群れ』を撃墜・回収せよ、とな‼」

「ははっ‼」

 扶桑は素早く通信した。最初こそ『鳥じゃなくて竜』と言うところに混乱が生じたが、旭日がすぐに竜は竜でも『キングギド○のような強力なもの』ではなく、爬虫類の延長線上にある『空飛ぶトカゲ』のようなものだと伝えると、各艦から安堵のため息が聞こえてきた。

 いくらなんでも伝説になるようなヤバい存在と戦うのはご免であろう。

「こりゃ高角砲も……長十糎砲も使った方がいいかな?」

「その判断は司令にお任せします。なお、対空観測をしている天城からの報告ですが、数は25匹だそうです」

「よぅし……流石に全部は食いきれないだろうし、間宮に保管しておける量も限りがあるだろうからな。高角砲も使って、程々に撃ち落とす。頼んだぜ」

「はい」

 そして、遂に天城から報告が来た。

『こちら天城‼飛竜の群れ25匹、艦隊外延部航行中の〈矢矧〉の8cm高角砲の射程に入りました!なお、駆逐艦も既に対空戦闘準備は完了しております‼』

 『阿賀野型軽巡洋艦』には『65口径8cm連装高角砲』と『25mm三連装・単装機銃』が備わっている。

 艦隊は今間宮や明石、そして輸送艦や空母・輸送船などの、直接的な戦闘能力が低い艦を守るように輪形陣を敷きながら10ノットの速度で航行している。

 天城と葛城はその中でも中心部分の縁で航行している。

 そして、旭日は天城の報告を受けて笑いながら叫ぶ。

「対空戦闘開始ぃーッ‼」

『撃ち方始めぇ‼』

 矢矧の鋭い声が響くと同時に、自分の指示で戦闘が始まると思うと、どこか心が滾る旭日だった。



――ドンッ‼ドンッ‼



 旭日の叫びと共に、矢矧の右舷から高角砲が発射される。

軽巡洋艦の片弦に高角砲は2基4門しかないが、駆逐艦からも一斉に多数の高角砲弾が発射される。

 日本海軍には存在しなかった近接信管を備えた高角砲弾はワイバーンの近くに飛来するだけで大きく爆発し、ワイバーンの羽を焼いたり、頭を吹き飛ばしたりして撃墜する。

 ワイバーンが墜ちていく姿を見た旭日はさらに指示を飛ばす。

「撃墜したら内火艇を出して回収だぁ‼急いで間宮に持っていけぇ‼」

 さらに近づいてきたことで、今度は25mm三連装機銃の出番であった。



――ドンドンドンッ‼



 次々と火を噴いた機銃弾(榴弾)はワイバーンに着弾すると小さな爆発を起こしてワイバーンを海へと落とす。

 百発百中とはいかないが、それでも相手が遅いからか、旭日が想定していたよりもかなり高い割合で命中弾を出している。

「末期の状態で物量と科学技術のバケモノだった米軍相手にも一歩もひかなかった人外の巣窟、大日本帝国海軍は流石だぜ」

「えぇ。人間の持つ身体能力の水準でここまでの命中率を磨き上げるのには、相当な苦労があったでしょう」

 ちなみに、太陽神は戦没した者たちの中でも凄腕を選りすぐってくれたらしく、今の時点で既に4匹が落水していた。

「あ、ワイバーンが速度を上げました」

 どうやら、こんなヤバいところから一秒でも早く逃げ出そう、ということらしい。まぁ当然だろう。

 好き好んで爆発が起きるような現場にいたくはないはずだ。

「逃げるか……まぁいいか。んじゃ、対空戦闘終了。戦闘用具収め。墜ちたワイバーンを回収して直ちに間宮へ運んでくれ」

「はい。わかりました」

 旭日はワイバーンが食べられるかどうかというのは知らない。だが、物は試しである。

「よくあるファンタジーものだと、ワイバーンってすごく美味いか逆に肉が硬くてマズいかの二択なんだよなぁ。まずは間宮のとこで味見をしないと……」

「間宮で加工してから香取に運び込むのでは?」

 扶桑の問いに、『まずは』と続ける旭日。

「そもそもの味見をしないとな。食用にできそうか、できなさそうかを確認しないとダメだ。毒見しないことには始まらない」

 旭日は個人的に鶏肉が好物だったこともあり、そこはしっかりと確かめたかったのだ。

 かなり食い意地の張った男なのである。

「なるほど、そういうことでしたか」

「そういうこと。悪いけど、内火艇を出してくれ」

「了解です」

 ワイバーンを回収した内火艇についていき、間宮に乗り込んだ。ちなみに、調理担当なので飛鷹と隼鷹も一緒だ。

「おぉ、まるで戦場だな……間宮、加工できそうか?」

 中では、間宮とその乗組員たちが巨大なワイバーンと悪戦苦闘していた。あちこちで怒号が鳴り響いている。

「あ、司令。これすごいですね。鱗は固いですけど、鱗と皮を剥いだらキレイな鶏肉に似たお肉が出てきました」

「食えそう?」

 一番気になるところを聞くと、間宮もニッコリと微笑む。

「見た感じは。あとは湯通しして、さらに味見してですね」

「もしかして、今湯通し中?」

「はい。もも肉を」

 もも肉は鶏肉の中でも人気の高い部位である。もしワイバーンが爬虫類系として似た存在ならば、おいしくないとは考えにくい。

 毒でもあれば別かもしれないが。

 旭日はどんな味なのだろうかと想像するだけで口の中に涎が溢れる。

「艦長、湯通しできました」

 調理員の軍人が声をかけてくる。旭日たちは切り分けられた肉にひとまずと言わんばかりにかぶりついた。

「む」

「これは」

「おぉ」

「おや」

 噛み締めるや否や、4人とも目が輝き始めた。

「(はっきり言おう。美味しい。鶏肉に近いということでしっかりと湯通ししたが、それでも失われていない弾力と、肉本来のうま味。それに、筋張っていない)」

 本来はちゃんと毒見をさせるべきで、そもそも間宮であれば毒の有無を調べる機器も多少はあるのでそれを使えばよかったのだが、旭日はなぜか『これは大丈夫』と感じていたのだ。

 勘、と言ってしまうとそこまでだが、そう思ったのだから仕方がない。

「司令、私は唐揚げにしたいですね」

「私は焼き鳥で。もも肉がこの美味しさならば、手羽先もイケそうですね」

「腿がこの美味しさなら、むね肉をフライにしたり、テール部分も使えたりしそうです」

 思い思いの意見を出すが、料理に使えそうなほどの美味しさ、ということは分かった。

 そして少なくとも、毒の類もないようであった。

 そもそも論で『毒見もせずに偉い人が食うな』とか言われたらそこまでなのだが。

「んじゃ、悪いけど鱗と皮も取っておいて。どこか国と接触したら売れるかもしれないから」

 間宮の乗組員は『わかりました』と言って、剥ぎ取った鱗と皮を干し始めた。

「間宮、こいつを香取に運び込んでさっそく調理だ。でも、さすがに4匹は多いか?」

「いえ。艦長クラスと言うだけでも相当な人数がいますので、恐らくなくなってしまうのではないかと……」

 どうやら、ゲームほどではないようだが皆それなりに食べるらしい。

 まぁ、旭日は女の子が美味しそうに食べる姿を見ているのが楽しいタイプの人間なので、なんの問題もないのだが。

「じゃ、今日はワイバーンのフルコースだな」

「唐揚げ、タレ焼き、ポン酢煮や手羽先、色々できますね」

「飛鷹姉さま、フライドチキンのようにしても美味しいはずです」

 こうして、香取に運び込んだワイバーンは次々と調理されることになった。

 結局、通常の鶏肉よりも大きな肉に悪戦苦闘した結果、さらに2時間以上調理に時間を費やしてしまったが、出来上がった時にはそれだけでかなりの満足感であった。

「皆さん、お待たせしました~」

 香取の中に設置された幹部向けの食堂へ赴くと、既に山城以下の艦長クラスが勢揃いしていた。

 間宮のかけた声に、皆明らかに嬉しそうな表情をしている

「っていうか、改めて大所帯だよなぁ……」

「私を含めて、57人。司令を入れれば58人ですので」

 商船構造ということで余裕のある『香取型軽巡洋艦』でなければ、これほどの人数が一堂に会することは難しかっただろう。

 いや、『大和型戦艦』のような超巨大艦であればそうでもないかもしれないが、あれとて一部の幹部となるとほんの一握りしか存在しない。

「……どこかに本拠地を構えることができたら、こんな狭い場所ではなくて、皆でゆったり座れる場所が欲しいです」

 結果として食事処となった香取が申し訳なさそうに呟いた。

「そればかりはボヤいても仕方ないさ。いずれ考えればいいって……さ、冷めないうちに皆で食べようぜ」

 旭日と間宮たちで、素早く料理を並べていく。

 肉が多めなこともあってか、阿賀野たち血の気の多そうな連中や、朝潮たち年少組(と言っても、見た目があくまでそう見えるだけなのだが)はどことなく嬉しそうであった。

「皆、席についてるな?じゃあ、この世の全ての食材になってくれた存在に感謝を込めて……いただきます‼」

 旭日の元気な声に、全員揃って『いただきます‼』と声を張り上げるのだった。

 それぞれ好みの料理に手を伸ばし、モグモグと食べていく。

「うおぉ、うめぇ‼扶桑姉ちゃん、これうめぇな‼」

「えぇ。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出て……その肉汁の味も絶品です」

 扶桑姉妹は『バクバク』と言わんばかりに食べ進める。普段は大人しく見える扶桑も、資材及び燃料のバカ食いで常に悩まされる戦艦の化身と言うだけあって、食欲はかなり旺盛のようだ。

 お堅そうな大鳳や、普段は元気のなさそうな雲龍姉妹、それに北上たちも嬉しそうに食べているのを見て、旭日はなんとも言えない満足感を得ていた。

「それにしても、司令がこれほど料理上手とは思いませんでした」

「はい。この飛鷹、感服するばかりでございます。あのモモ肉のタレ焼きはお見事と言うほかないです」

 あまり信じていなかったらしい飛鷹姉妹の謝罪の言葉を受け、旭日は照れ隠しをするように肉にかぶりついた。

「煽てるのはやめてくれ。元々姉さんとの2人暮らしだったけど、外食以外でも美味しいものを食べたいと思って、自分なりにあれこれと試行錯誤していたらいつのまにかうまくなっていたんだよ」

 すると、旭日の謙遜を聞いた雲龍が微笑んで声を上げた。

「その試行錯誤、というところが大事なのだと思います」

「はい」

「雲龍姉さんの言うとおり、だと思う」

 そんな雲龍に天城と葛城も同意したので、いよいよ旭日は照れるしかない。

 実際、料理に限らず試行錯誤を繰り返すことで人類は発展してきたのだから、当然と言えば当然だろう。

 ちなみに、その試行錯誤を変な形に昇華させると『英国面』だの『日本面』だのと言われるようになる。

 もっとも、だからこその人類だ、という意見もあるのだが。

「まいったなぁ……そ、それよりも、天城と葛城も、探知任務ありがとうな。2人が探知していなかったら、ワイバーンの接近に気づくのが遅れるところだった」

「もう、司令ったら」

「私たちを口説こうとしても、そうはいきませんよ」

 つい先日まで暗そうな雰囲気と弱々しげな雰囲気を放っていたはずの2人は、すっかり元気になったように見えた。

 なんとなく旭日もいい気分になる。

「明石、ワイバーンの鱗と皮はお前のところに預けておいていいか?ついでに少し分析を頼みたいんだが……」

「あ、いいですよ」

 もも肉をもしゃもしゃと頬張りながら明石が答えるが、その姿はまるでリスかハムスターのようである。

 思わず旭日は苦笑する。

「頼むぞ。もしかしたら、文明と接触すれば金になるかもしれないからな……あと、大鳳」

「はい」

「もう少ししたら偵察機を飛ばしてくれ。主に西にな」

「西……太陽神様の神託に従われるのですね?」

「あぁ。『彩雲』があるだろう?あれがいいな」

「畏まりました」

 彩雲と言えば、『我ニ追イツクグラマンナシ』の打電で有名な、大日本帝国が誇る高速偵察機である。

『元々の』最高速度は609kmと、大戦時の『実用化された』偵察用航空機の中でもかなり速い(そもそも専用の偵察機を作り出したこと自体が大戦中では珍しく、他の国では爆撃機などを改装・改修して偵察機にする場合が割と多かった)。

 しかもこの機体は高オクタン価(当時のアメリカ並み)の良質な燃料に加えて、太陽神の計らいで過給タービンの装備、さらに各部に最良の部品を使用されていることもあって、なんとビックリ、時速670kmを出すことも可能であった。

 実用化されなかった、あるいはその前に終戦を迎えてしまった飛行機の中には彩雲より遥かに速い航空機も多かった。

 ジェット機である橘花然り、キ87やキ94、震電や秋水、そしてこの艦隊の艦載機となっている烈風もそうだ。

 だが、それらのほとんどは実用化までこぎつけていない。

 それを考えれば、あまりに一級品を求め過ぎたがゆえに、現場での運用実績はあまり思わしくなかったそうだが『旧日本軍が実用化できた、高性能な機体』という意味では、当時彩雲の叩き出した601kmと言うのはかなりの速さである。

「頼むぞ……ん?」

 周囲を見渡すと、朝潮たち駆逐艦女子は骨にまでしゃぶりついている。目をキラキラ輝かせながらしゃぶりついている辺り、かなり気に入ったらしい。

「うまいか?骨回り」

「はい」

 夢中になっているらしく、返事も最低限だが、年の離れた妹のような年齢の見た目をしている女の子(あくまで精神年齢的に)が美味しそうに食べ物を頬張っている姿を見ると、それが逆に可愛らしく見えるので不思議である。

「よしよし……んじゃ、あとは『果報は寝て待て』と洒落込むべきかね」

「余裕ですね。司令。普通ならもっと急ぐところじゃありませんか?」

 堂々としている旭日の態度に、足摺が目をパチクリさせる。

「まぁな。だが、『急いては事を仕損じる』とも言う。第一、こんな大海原の上じゃ、焦ったってなんにもいいことなんてありゃしないからな」

「正に、海原のごとく広い心を持て、と言うことでしょうね」

 足摺に続くような間宮の言葉に、他の面々も『なるほど』と言わんばかりに頷くのだった。

 見れば、4匹ものワイバーンはもはや骨しか残っていなかった。なんともはや、あっという間の出来事であった。

「よぅし。腹はいっぱいになったし、各員小休止したら自艦へ戻って作業を続行してくれ。大鳳、偵察機のこと、改めてよろしくな」

「はい」

「皆、改めて頼むぞ」

 こうして、大蔵艦隊はさらに航海を続けるのだった。

というわけで、今回は少し短めでした。

次回はもう少しボリュームがあると思うのですが……待っていてくれると嬉しいです。

次回の投稿は6月の25、6日のどちらかにしようと思います。


ちなみに、pixivの小説も少しずつ広まっているようで嬉しいですね。

初めての二次創作なので若干不安だったんですが……今後もよろしくお願いいたします。

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