[ルートA] Vamonos
「....やべぇな」
「あ?何が?」
「.....いや、あざみのその顔」
「あぁ、これ。
撃たれたんだよ」
「痛くないのか?」
「あんたも撃たれてみればわかる」
「.....笑えねぇ」
車を走らせること30分。
私は家、というより廃工場に到着した。
もう誰も使ってないしここに住むことに決めたのだ。
面積はカルロッタの家ほど広く、今にも倒壊しそうな具合であったが今の私はここに身を隠して傷を癒す他なかった。
正直言って、未だに劇場での襲撃による傷口は癒えていない。
ドクターも死んじまったし、代わりにこのポロという男に薬を運んでもらっている。
月々500ドル出すと言えば簡単に引き受けてくれた。
こいつは家庭を持ってるらしいが、経済状況が厳しく私に助けられてるらしいんだと。
「じゃあ、俺はもう行く。
まだ仕事があるんでな」
「またよろしく」
そう言ってポロは車に乗って帰っていった。
60年式のボロいルノーで乗って帰っていった。
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「...さてと」
薄暗い空間に置いてあるはずのランプにマッチで火をつける。
かつてこの工場の作業員が使っていただろう事務室に帰ってくる。
今では私の私室だ。
というのも、扉をさらに奥に突っきれば連結して仮眠室がありベッドもあるからだ。
マットレスをひっくり返せば腐ったコンドームと血の着いた染みがあったが、寝れるなら正直どこでも良かった。
歪んだスチール製のグレーの事務用デスクに座る。
昨日と今日と続き、私は殺害リストを作り上げていた。
ポロに紹介してもらった裏の世界に詳しい女に莫大な金を掴ませて莫大な情報を得た。
家族構成、ペット、愛人友人婚約者住所。
私に害を与えてきた奴らの情報を女は依頼した翌日にひとつのノートにまとめて渡してきた。
ご丁寧に、読みやすいように英字でまとめられていた。
そして今はその情報を頼りに、完全かつ絶対に殺す方法を考えているわけだ。
それと、ポロに途中でノートとペンを買ってきてもらった。
今日の、あのベレとか言うやつの助言をまとめる為だ。
要するに、今日あいつが言ってきたことはこうだ。
想像だけじゃなく経験を積め、と。
____確かに、思考のインプットだけではその真価を発揮できないということは受験で痛いほど学んだ。
だが、これは受験とはまるで違う。
殺し合いだ。
その経験を得ることは即ち、自分が殺されてもおかしくないということだ。
だがその経験を得なければ、確実に目標を仕留めることは出来ないだろう。
つまり、インプットした知識をアウトプットするのにも一苦労という訳だ。
その事もノートの片隅にメモしていった。
後は残りの死んでない奴らの殺害方法を考えて____
ざっとあと1日はかかるだろう。
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「ふぁ...」
両手を上にあげ腕を伸ばす。
3時間は集中していただろうか。
尻も痛くなりヒリヒリする。
が、努力にも比例せずそのノートは完成しない。
まぁ、仕方ない。
日本の奴らも含めてざっと100人いる。
「復讐ってのも辛いもんだなぁ....」
1人、愚痴を漏らす。
基本的に大変なのは承知の上だったがこうもしんどくなるとは思ってもいなかった。
特にマフィア系統の組織は組織全体を壊滅させる必要があるし。
それが重荷の原因だったに違いない。
「でっけぇバルサンでも作ってくれねぇかな」
そう言って、外まで気分転換に行く。
今時期のイタリアは外が冷えるのでコートを忘れてはいけない。
あいつの奪った金で3000ドルの高級なのを買った。
誰だっけ、あの、病室で一緒に寝てたヤツ。
忘れてしまった。
どうやら脳神経もやられてきたらしい。
「これからはしっかりメモとっとかなくちゃな...」
そう言って外に出る。
あたりは真っ暗である。
ここは町から離れているからだ。
だか足場が見えないという訳では無い。
満天の星空が照らしてくれているからだ。
「....はぁ........」
青白い光が私を照らし、いくつかの群を成している。
かのミケーネ文明の古人は言った。
この星を 「年寄りの羊たち」、と。
あるギリシア人の思想だ。
名前は忘れてしまった。
だがそんなこと、この地から見る星達がどうでもよくした。
金色の光、銀色の光。
雲を引き攣れる青紫の天の川さえも。
そして赤い光も私を包み込む________
「_____は?」
突如
それは星の光ではなく
いくつもの赤いサージライトだった_____
「_______っ!」
逃げろ、と頭の中で警報器が鳴らされ足を動かした瞬間。
後頭部から鈍い音がした。
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「...あ、油は200度に」
声が
「器具は、そのテーブルの上」
声が聞こえる
霞んだ視界が徐々に明細になってくる
黄色い暖かいライトが私を包む。
なんだ、ここ。
普通に暖炉が置いてあって普通に椅子や机が置いてある古民家みたいな場所だ。
ただ、普通じゃないのは私は木の椅子に縛られているという事実だった。
それだけじゃない。
目の前に何人かの男と、紺色のストレートロングの髪をした中くらいの背丈の女がいた。
そいつは黒のpコートを着ていて、笑ってた。
「....め、目が覚めたかな」
「...うわ....」
こいつの微妙に高い声が脳に響く。
吐き気がすごく、かつ気持ちが悪い。
それに伴い後頭部が痛くてぐわんぐわんしている感じ。
心底気分が悪かった。
「....ぁあ....」
「悪いな、気分悪いだろう。
部下が頭ぶっ叩いたんだ、こう、木材でバンッと。はは」
「誰だテメェ...」
「あー、知らないか。はは。
この辺だったら誰でも知ってるよ」
「サリエリだよサリエリ。
ドン・サリエリ」
「あぁ...あのクソッタレの.....」
「私がか?」
「は....?」
「私に言ったのか、それを」
「聞こえてなかったかよ、当たり前だろうが。
頭のネジ外れてんじゃねぇのか気色悪ぃ髪色しやがって」
ジャァァァアア
「うぁぁぁあああっ!!」
「舐めやがって、
私に敬意を払わないカスは200度の油攻めだ」
「お前それが全力かよ!もっと叫べクソ女が!」
「あ!?何がクソッタレのサリエリだ!?
サリエリっていうのは私が最も敬愛する人の名だぞ!」
「もう一杯行くか!?あ!?
骨が見えるまでいくぞこの....」
「この、アバズレが!!」
「あー、もう完全にキレちまった。
バーチャスっ」
「はい」
「悪いんだけど大釜持ってきてくれないかな。
なんかあったよね、人5人くらい入るやつ」
「それはいいんですが、ドン」
「ん、どうしたの」
「話を聞くだけと言ったのに、このままでは死んでしまうのでは?」
「あー、まぁ」
「あー」
「そっか」
「ありがと、気づかせてくれて」
「いえ、お構いなく」
「でもさ」
「?」
「拷問中はさ、意見とかそういうの一切言うなって言ったよね」
「もしかして舐めてる?私の事」
「え?」
「ごめん本当にアドバイス助かったんだけど腹立ってしょうがないんだよね、今の」
「あーやば、」
「そこに膝ついて」
「....はい?」
「はやく膝つけよ」
「...」
「そうそう、そこの位置.....」
ブズゴッ
メキッ、メキッ
「私を舐める奴は全員死ね」
「.....」
「....もう誰にも私を傷つけさせない」
こいつ
ホンモノじゃん。
俗に言うキチガイってやつだろ、これ。
部下の頭を斧でかち割りやがった。
さらにもう一発。
半分以上裂けた男の頭に斧をぶち込む。
そうして、サリエリは男の頭を綺麗に真っ二つにした。
「フォウワッ!
バモノス、バモノス、バモノス、バモノス!!!!」
「舐めてるやつの脳みそ見るのは最高だぜ!
欠陥だらけの穴あきチーズみてぇでよォ」
「......ふぅ...」
「...よし、そいつを川にぶち込んでこい」
そういって血まみれの斧を置き、顔についた脳みその破片や血を部下に差し出されたタオルで拭いていた。
そして近くにある椅子を持ってきて完全にキマッた目をして私の正面に座った。
「_______ふぅ.....ともかくだ。
この私を舐めてかかったクソ共は全員そこの川の底に埋まるって訳だ」
「君もその中に入りたいか?」
「....はぁ..っ......ぁ」
「はは、安心してくれ。
まだ君を殺さないし、聞きたいことが沢山あるんだ」
「最初の質問だが」
「カルロッタを殺そうとしたんだって?」
「......」
「答えろよ、もう一回油いくか?」
「....殺そうとした」
「ははっ」
「やっぱイカれてるよ、君。
ついでにベレも殺そうとしたんだろ?」
「.....ベレ....?
あぁ...あいつか....
...あんなやつが、ポッジョーリ家にいる情報は...聞いてなかった」
「まぁ君が知るわけが無い。
ベレストダーレ・ロッカー。
所謂ポッジョーリ家のリーサルウェポンだ」
「退役軍人で、元国連軍大尉。
さらなる昇進も望めたが、どうも途中で軍人を辞めたらしい」
「そんな奴に、よく殺されなかったな」
「情けをかけられたか。
運が良かったな」
「あの女が何人殺したか知ってるか?
軽く200人は殺してる」
「全く恐ろしい話だよ、ほんと」
「....おい」
「なんだ」
「さっさと本題に、入れよ、クソッタレ...
なんのために私を連れてきた____」
「___君にカルロッタを殺して欲しい」