[ルートA] 痛みなど
ブッチィッ
「...は?」
_________痛ったぁ
「カルロッタ側から来てくれたんだ。
長旅する手間が省けたぜ」
「てか誰だよそいつ」
「その黒い髪の。
そいつのせいでカルロッタに当たんなかったんだけど」
なんだこいつ。
何で攻撃してきた。
銃か?
いや違う。
爆発したんだぞ。
一体何で攻撃してきた。
その手に持ってるガラクタでか?
___紙のコーヒーカップにしか見えない。
だが間違いなくそれで攻撃したんだろう。
今の私には
右肩に5センチほどの風穴が空いているのだから
「_______」
「よせ、あざみ」
「誰だってんだよそいつはよぉ!!」
「......」
「......この子は私の護衛のベレだ」
「____やめろ、よせ」
「...」
「私はさ」
「この部屋、このベッドで目を覚ました時からずっと」
「ずっと考えてたんだ」
「なんで私は生まれた時からこんなに傷ついてきたんだって」
「そのクソみたいな環境から離れられると願い他の幸せなやつが指くわえて眺めるようないい大学も入ってやった」
「あぁ離れられたね。
クソ親や私にとっては地獄の地元も」
「でも結局はなんだ、顔の半分は失いオマケに女として生きる希望も無くなった」
「元より女として生きていこうなんて思わなかったけどな」
「でもこれからは」
「環境を変えようがキャリアを積もうが」
「結果的に自分の好きに生きれること自体に終止符が打たれた」
「一生幸せにはなれないんだよ、私は」
「...じゃあ私が________」
「だからさ」
「全員ぶっ殺すことにしたんだ」
「私を傷つけてきたありとあらゆるもの全てに」
「最後は私の快楽を得るためにみんな死んでもらうんだ」
「射精より100倍気持ちいいだろ」
「....おい」
「あ?」
「...その、手に持ってる....やつは..なん、なんだ」
「あぁこれ。
コーヒーカップの中に火薬入りのカプセルを入れて、そのカプセルの周りにめいっぱい釘を敷きつめた特性の釘爆弾」
「これいいよ。
命中率は低いがこんな風にドクターの顔面が吹き飛ぶほど威力が高い」
「そうなるように作った。
化学を勉強しといて良かったよほんと」
「....んで。
あんたはカルロッタを庇ったおかげで肩は重症だけど」
「...私を殺れると思ってんのか」
「...」
そいつの真っ黒な目玉は私を捉え、正に食物連鎖の瞬間に立ち会っているように感じた。
「ベレ」
「.....」
しょうもない
パァンッ
「あ?」
プシシッシュユユユユ
「(なるほど、蒸気管に当てて中の煙の水分で釘爆弾の使用を不可にしたか)」
「(おもしれぇ。
命中度が低いにもかかわらず一か八かでかけたって訳か。
相当骨が図太いな)」
「ただよぉ、私が銃を持ってないとでも思ったかボケが!」
「ベレ...!」
バァン
「...」
「....なっ.」
「(こいつ、煙の向こう側から...!)」
ブッゴォォオ
「ぶへぁっ____!!!」
「....残念だよ」
「残念だ」
「お前は頭もキレるしある程度の残酷さも兼ね備えてるってのに」
「私を殺せない」
「私を殺してくれない」
「(こいつ、煙に紛れてドロップキックを...いてぇ...)」
「蒸気管が目くらましの効果にもなってるとなぜ予測しなかった、なんでだ」
「当ててやる。
全部頭ん中で考え広げて経験を積んでないからだ」
「お前は、社会的には殺した方が為になるだろうが」
「....でもまぁ」
「ここは違う社会だし」
「お前も不幸な子供だった」
「悪に走りたくて走ったわけじゃない」
「だから見逃してやる」
「....???」
「さっさと失せろ。
この冷たいグロックで死にたくなければ」
「....へぇ」
「.......じゃあその厚意に預かって失礼するよ」
「またな」
「...あぁ、あと」
「帰りは歩いて帰れよ」
「あ?」
その瞬間
空爆のような音がした
ガガガガと室内が揺れチリやホコリが落ちてくる。
「.....」
「...エスカっ」
出口を飛び出し階段を駆け上がるカルロッタに私も続く。
外に出ると大炎上したエイトの近くに横たわる女が一人いた。
「....脈はある。
カスターニョ達を呼べ」
「....」
何言ってんだ。
間に合うわけないだろ。
「早く呼べ、電話を持ってるだろ」
私は知ってる。
1度としてこうなってしまった人間はもう元には戻らない。
全身の大火傷だ。
まず助かるはずもない。
カチャッ
「おい」
「何しようとしてる、お前」
「楽になる手伝い」
パンッ
「二度と仲間に銃を向けるな」
「...」
「分かったらさっさと呼べ」
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「ベレ。
そのほっぺ、どうした」
運転席のカスターニョは、さっきカルロッタにビンタされた私の頬のことに触れてきた。
あまりに真っ赤に腫れているからだろう。
「お仕置だよ。
それよりエスカの具合はどうだ」
「やっと心拍数が安定してきたところだな。
たまたまミラノに知り合いの医者がいたから道具借りて一命を取り留めたんだ」
「そうか」
「感謝するよ、カスターニョ」
「いやいや。
妹だし、こいつ」
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
カルロッタの家のベランダにて。
この家は見る角度によって自然豊かなシチリアとネオンなシチリアを見分けることができる。
この角度からは、ネオンなシチリアの夜景を見ることができるらしい。
ぽつぽつと時代遅れなオレンジ色の明かりが蛍のように消えてはつく。
そんな中、固められた肩を適度な春の温風で乾かしていた時に、1人の背の高い眼帯をつけた女が歩いてきた。
カスターニョだ。
この女は凛としていて、かつ揺るぎない精神を持ったような顔をしている。
性格はそんな感じではないけど。
「....たばこ、吸うか」
「私は吸わない」
「そうか」
「____しかしまぁ、なんだってそんなでかい手跡つけられたんだ」
「カルロッタの嫌がることでもしたのか?」
「...」
「...私はただ」
「楽にしてやりたかっただけだ」
「...」
「(...それはそうとやっぱかわいいなこいつ)」
「(この死んだ魚を焼き魚にしたみたいな顔好きなんだよなぁ)」
「...そうか」
「なぁ、この後仕事がなければ一緒にバーにでも」
「やだ」
「え!?なんで!?」
「下心丸見えなんだよ」
「そんなっ...ボスより仲良いだろ私達」
「あー」
「なんかやだ」
「......はぁ....」
「お前頼れる姉御キャラでいってんのになんで私の前でだけはそうなんだよ」
「教えねぇ。
振った相手とは干渉しないようにしてんだ」
「お前が振られたんだろ、ばか」
「あーそうかもな。お前には敵わん。
そんな調子でボスとも話してやればいい。
泣いて喜ぶぞ、きっと」
「...」
「....それもいやだなぁ、なんか」