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ヴェリタの岐路

「_____あざみ」


「____あざみ」


「...あざみ」


朝が来た


誰かが私を呼ぶ声がする


今まで無かった、家族では当たり前の光景がそこにはあった


耳から通り抜けるくらいの気持ちのいい声だった


多分カルロッタだろうな


でもなんだか凄い股間がぬるぬるして変な感じがする


「____ツッ」


「...いや、何してんだよあんた...!」


「_____ぅッ」


「おはようあざみ。

こうすれば、簡単に起きるかと思って。

なかなか悪くない味だよ」


「ふざけんな...この...」


「...くッ................そが.......っ」


「へぇ、あざみは豆を集中攻撃されるのが好きなんだね」


「いいよ、好きなだけイっ............グフッ」


「いたぁ...」


「はぁ...はぁ...今は気分じゃない」


「わかったよ、ごめんね。

朝ごはん出来てるから、着替えたら一緒に食べよう」


「はぁ........はぁ...........」


「...っ」


切れた息を整え、


ベッドから出る。


昨日は三人でここで寝たと思うと、なんとも言えない気持ちになった。


だが心地は悪くなかった。


それだけは言える。


「...(朝を除いてな)」


落ち着いた茶色のフローリングをペタペタと踏んで歩き、風呂場まで歩く。


シャワーを浴びに行くのだ。


自分の家だと、電気代やら水道代やらを考慮して、中々朝からシャワーを浴びる行為は難しい。


でもまぁ、今回は他人の家の費用だし、カルロッタが払うんだし、別にいいかとシャワーを浴びながら思った。


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



「....って」


「なんだよこれ」


風呂から出ると、テーブルの上になにやら高級感のある衣服が用意されていた。


犯人は横にいたのですぐに分かった。

カルロッタだ。


「見ての通り、カシミヤ100%のスーツだ」


「色はブラック、濃いブラウンの牛革ベストに私とお揃いのストライプシャツ」


「さらにトスカーナの仔羊の革を使用した革靴もオマケしといた。これからイタリアに滞在している期間はこのスーツを着ているといい」


「待てよ。

私は組織に入らないって言ったし、あんたも入れる気は無いって言ったのを忘れたのか。

これを着るってことは組織の一員って証拠なんだぞ」


「私がそれを理解してないとでも思ったのかい。

別にあざみを組織に入れる気は無い」


「....じゃあなんでこんな_______」


「愛情だよ」


「は?」


「血の掟だとか、ファミリーだとか。

所詮今のマフィオソでは形式上で愛なんかない」


「_______」


「自分の子に愛情を注ぐのはおかしいことかな」


「______さ、早く着替えて。

朝ごはんもう出来てるから」


「...」


そう言ってカルロッタは部屋を後にした。


「...あんたの子じゃねぇよ」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



階段を降りる途中。


1人、タバコを蒸かしている私と同じくらいの歳の女が手すりに寄りかかってくつろいでいた。


短髪で少しばかり少年のようにも見えたが、丁寧に髪が揃えられていたし、なにより胸元が少し膨らんでいたのが視界に入ったので私は女と解釈した。


マンドリンの音色を流せば the Mafia映画と言った感じの印象の彼女だったが、タバコの臭いが強烈すぎた為

眺めてたい気持ちよりも早く離れたいという気持ちが勝ってしまった。


「(家が広いのはいいけど、ヤニ臭いのはちょっとな...)」


そう思いながらその女の前を通り過ぎようとした。


「ちょっと待てよ」


「あ?」


「お前、昨日ドットを殺したアジア人だよな」


「...なに」


「困るんだよなぁ、殺されると。

一昨日あいつが負けた掛け金まだ回収してないんだよ」


「その額およそ2680ドル」


「明日払うから、って。

クズもいいとこだぜほんと」


「知ったことじゃないな、そんなこと」


「私にとっては知ったことなんだよボケ。

とりあえず、奴を殺して私を困らせた分も含めて払ってもらおうか。一昨日の掛け金の二倍よこせ」


「なるほど。その為だけに私が階段から降りてくるのを待ってたって訳か。

...生憎、汚ぇコックローチに払う金はない」


「へぇ、中国人にしては肝座ってんな。

いいぜ。朝の準備体操ぐらいにはなるだろ」


「アジア人の区別も付かないようなバカに負けるかよ」


「そうかよ、じゃあ死ね」


そう言い放ったその女は、全力で走りながらナイフを取り出して突っ走ってきた。


「おま、汚ぇぞ!」


「バカが、この世界ではこれが普通なの」


「...っ!」


なんとかナイフを持つその女の手を掴み受け止めた。


反動で少し後ろに押されたのが、私の背筋を凍らせた。


「お前、本当に殺る気かよ...」


「言ったろ、これがこの世界の常識なんだよ。私もよくばあちゃんに言われたぜ、相手が銃出してきたらバズーカ使えってな」


「なにわけのわかんねぇことを...っ」


「これが最後だ。

さっさと金をよこせ。じゃねぇと...」


「...おい、何考えてる」


「クソっ」


私は意を決して階段からその女を下敷きにして落ちていった。


その女は落ちる前にごちゃごちゃと何か言ってたが、

私はそんな脅しの言葉より相手を倒すことの方に頭を使った。


「...このクソ女...背骨が...」


「背骨がどうした。

さっさと医者にでも見てもらったらどうだ」


「は...それはお互い様だろうが」


スーツをまくり左の横腹を見てみる。


私のもらったストライプシャツが紅く滲んでいたのがわかった。この女のナイフが刺さったのだろう。


「このぐらい怪我するのは分かってた」


でも痛いなこれは。


「じゃあな。

これから朝食なんでね」


「ちなみに、私は中国人じゃない。日本人だ。

覚えとけゴミが」


「...っ」



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



「____せーのっ」


「"いただきます"」


何故か日本語のいただきますで食事が開始された。


カルロッタとアリーが気を使ったのだろうか。


そんなことよりも、もっと気になる...というより、目につく問題があった。


「っておい、なんでこのゴミがいんだよ」


そう、なんとさっき私を殺そうとしてきたあの女がこの食卓に同席しているのだ。


よって計4人による食事になる。


「ゴミって、シャロのこと?」


「名前聞くより前に殺されかけたんだ。

シャロって言うのか、こいつ」


「あぁそうだぜシャロシャロ。

あボス、目玉焼きとって」


「____はい、どうぞ」


「ん、あんがと」


「は?口の利き方に気ぃつけろ」


「まぁまぁ、今はご飯中だからね」


「はい、あざみも目玉焼き」


そういって、気の立った私にアリーが目玉焼きを取ってくれた。


「...悪いな」


「それで、あざみが殺されかけたっていうのはどういうことか教えてくれるかい」


「こいつが私にナイフ持って突っ込んできたんだ。

本当に死ぬかと思ったぞ」


「おいおい、あんたがドット殺したのが悪かったんじゃねぇか。おかげでせっかくの掛け金がパーだぜ」


「ドットを処分したのは私の意思だ」


「...え」


「金輪際二度とあざみにナイフを向けるな。

あざみは家族でこそないが私にとっての大切な人間だから」


「あ、はい、ごめんなさい...」


一時食卓が凍りついたが、私は少し嬉しかった。

このふざけた女が萎縮して敬語を使って謝ってるのが見てて快感だったからだ。


ついでに顔も真っ白だ。


思わず口角が上がりかけたが、カルロッタの方へ視線を移すと今まで見た事のなかったカルロッタの"マフィアの顔"が見えたので、自然と口元は直線に戻っていった。


「(怖ぇ)」


「いい子だ。罰として今日一日あざみにシチリアを案内してきなさい。アリーも連れてね」


「やった、トラメジーノ食べに行っていい?」


「いいよ。好きなだけ食べておいで」


「悪いが、カルロッタ。

なんでこの包帯ぐるぐるの女と____」


「大丈夫だよ、イタリア観光するだけだから。

それに、アリーもいるからこの子も野暮な真似はしないよ」


「...ほんと、カルロッタが何を考えてるのかつくづくわからない」


「これから君達も長い付き合いになるだろうし、

あざみたちの為になるようにしてるだけだよ」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


もらったボルサリーノのハットを被り、玄関先まで向かうとひとつの時代錯誤の車が駐車されてあった。


深紅のカラーに派手すぎないエアロウィング。


ピカピカのその車を私は知っていた。


「____ランチア・デルタ」


「よく分かったな」


「こんないい車お前が乗ってるとはな。

少し気の毒に思えてくる」


「誰が」


「この車がだよボケ」


「口を慎めよ。別に私に罵詈雑言浴びせんのはいいが、お嬢が見てんぞ」


「...」


「じゃ、行くか。アリーっ」


「はーい」


シャロってクソ女が名を呼ぶと、玄関先からそれはもう文句の付けようがないほどのかわいい女の子がでてきた。


「クソっ、かわいいな」


「あぁ、ありゃ島一番の天使だよ」


そんなアリーが私の目の前に寄ってくると、キツすぎない爽やかな香水の匂いが感じ取れた。


「あのね、今日はチャイナ風の服にしてみたんだけど、どうかな」


「かわいい」


「え?」


「あ....なんでもないわ。

早く車乗れよ」


「...うん」


アリーが後部座席に乗り、私が助手席、そしてクソ女は運転席へと入ってった。


すると、クソは自前のホルダーから丸サングラスを取り出して付けた。


鍵を回しエンジンを掛ける。


すると、とても力強いエンジン音が車内に響き渡った。


この車でイタリア観光か。


少し楽しみだ。


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


「着いたぞ、ここはボスとアリーのお墨付きのジェラート屋だ」


「____なんだこれ、うめぇ...」


「それはコッコだよ」


「コッコ?なんだ、それ」


「ココナッツ味のジェラートのこと。

カルロッタは毎回それ頼んでるんだ」


「へぇ...」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


「ここがさっきアリーの言ってたトラメジーノが食える店だ」


「トラメジーノ...店の中で食うわけじゃないんだな」


「そんな構えて食べるものじゃないって。トラメジーノはただのサンドイッチだよ。

でもね、ここのトラメジーノはサラミと大量のチーズとマスタードが入ってて美味しいんだ」


「うぉ、チーズが溢れるほど入ってる上にサラミも大量だ。辛いかと思ったがこのマスタード、あまり辛くない...!」


「気に入ってくれて何より、だね」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


「んで、ここはモンデッロ。心置き無く遊んでこい」


「海か。透き通るくらい綺麗だな」


「うみだーーー!」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


「最後に、ここが映画館だ」


「なんで映画館なんだよ」


「お母さんと遊びに行く時は毎回ここに来るの。

お母さん映画大好きだから」


「自宅にホームシアター設置するほどの人だぜ。

週に5・6回の頻度で行ってるそうだ」


「今日はローマの休日やってるって!

早く見に行こ!」


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


古い映画で人気がないのか、劇場には私たち含め5人

しかいなかった。


こんなに空いてるなら特等席の真ん中辺りを座ればいいのに、端っこや左下等に点々としているのだ。


「(完全に暇人のたまり場だなこれ)」


そんな中、アリーは目を輝かせてスクリーンを眺めている。


なんというか、


最初は本当にヤバいやつかと思ったけど、ただただものを知らないだけだったんだな。


じゃあ、仕方ないのかもな________


そう思った後、私でもわかるあの名シーンに切り替わった。


あの真実の口に手突っ込んでじたばたするシーン。


改めてでかいスクリーンで見るとなんか新鮮で___











「...(なんか、後ろが騒がしいような)」











































「あばよ、スカラファッジオ」

























パァン








































「...は?」


途端。

爆竹のような破裂音が劇場に響き渡る。


雷のようなスクリーンの明かりで、ふと、アイツの顔が見えた。


アイツ、あの、ゴミの。


シェロ?あ、いや、シャロだ。


シャロはいつか見た漫画のキャラクターみたいに目を点にして薬物をやった時みたいなキマった目をしてた。


スクリーンでは、丁度真実の口に突っ込んだ男がじたばたと暴れている。


2回目の雷でそれは薬物じゃないとわかる。


「......ゔッへぇ...」


シャロは口から何かを出した。


僅かな光で何かが見える。


血だ。


血が出てた。


腹からも湧き水みたいにドボドボ出ていた。


スクリーンでは暴れていた男が冗談で暴れていたのがわかる。


それを見てやっとわかった。














































こいつは撃たれたんだって









________________________


A.反撃する


B.アリーを連れて逃げる


C.一人で逃げる


________________________

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