レスキューエスパー
1
その女の子は、まっすぐ僕の方に歩いてきた。
「テレビで見たわ。あなたが探島君ね。いっしょに来て」
「お断り。見てわかると思うけど食事中だし」
小学校の昼休み、僕は花壇横のベンチに座って
菓子パンを食べて、ペットボトルの水(薄めた茶)を飲んでいた。
僕の持ち物はショルダーバッグ1つ。
僕と同じくらいの10才ぐらいの女の子は荷物は持っていない。
「奈良県のキャンプ場の事故、知らない?」
「・・・知ってる。1週間前。
大雨で川が氾濫、ボーイスカウトの団体が利用していたキャンプ場が洪水に襲われた。
行方不明者が10人ほど出たって」
「あなたは人物探知のできる超能力者でしょう、なぜ警察に協力しないの?」
「そのせいで怪物扱いされてる。家族にも迷惑が、かかってるし。
住み込みで働きながら通える学校を探してもらって転校準備中なんだけど」
「新聞配達でもすると?」
「ああ」
「それはあなたの勝手ね。でも妹が行方不明なのよ、助けて、お願い!」
「行方不明の10人のうちの一人?」
「ええ、そう」
「それは救助活動している人たちに言ってくれないかな?」
「彼らはあたしの言うことを信じてくれない。
見当違いの方向を探してる。もう捜索を打ち切るつもりよ」
「君には妹の位置が分かると?」
「生きてるのはわかる。でも位置は大雑把にしか分からない。死にかけてる。
もう1日持たないと思う」
「だからそれを捜索隊に」
「彼らでは助けられない。助けられるのはあなただけなの、お願い!」
必死だが暗い表情。何かに憑かれたような危ない目つき。
「つまり現場まで行ってくれ、と?」
「大雑把な位置、200メートル圏内ぐらいまでは案内できると思う。
そこからはあなたに位置を絞り込んでほしい」
「君もそういう力があるなら」
「あたしのはそういうのじゃないの!
あの子は弱って死にかけてる、すぐ助けに行かないと!」
「・・・・わかったよ」
とりあえず手に持っているパンを口に押し込んで水で流し込んで。
2
携帯電話で有坂さんを呼ぶ。
「えーと、探島です。今いいですか?」
「事件絡み?」
「そうです」
「聞こう」
女の子から妹を探してくれと頼まれた件を話す。
「ふうむ・・・面白そうだ。私が行こう。勤務中だが代わってもらえる。
そっちが優先事項だ」
有坂さんは警察官。僕の家と近い場所に住んでるので事件の時の足になってもらっている。
職員室で担任に説明して早退、自動車が来て女の子が助手席、僕は後ろの席に。
3時間後、現場に着いた。それまで有坂さんと女の子は時々、話していた。
捜索隊とは別の場所に3人で歩いていく。
女の子が先頭。森の中へ。山道。
1時間ほど歩いて。もう夕暮れで暗くなってきている。
「このあたりだと思う」
僕は横になり、自己催眠をかけて意識を広げた。
女の子が示した方向に向けて。
人の意識の気配が微かにあった。それにイメージの糸で輪をかける。
糸を伸ばしてこちらの体の手に持つ。
催眠術を浅いレベルに戻す。起き上がる。
その状態で道をはずれてゆっくり歩き出す。
20分後、茂みの中で倒れている5才ぐらいの女児を発見。
ひどい衰弱状態。有坂さんが女児を両手で持って運ぶ。
すでに真っ暗。
女の子が先導して元の山道へ。そして捜索隊の場所へ。医者に引き渡した。
3
女の子がいない。途中で疲れて休んでるのかと思って捜索隊に話すと。
「その子のお姉さんも行方不明者でね、1日前に発見されたけど、
その時は、もう息をしていなくて・・・」
「いや、幽霊ではないですよ。
僕は霊は見えないですけど、あれほどはっきりしたのは実体でしょう。
ドッペルゲンガーってことはあるとしても」
「あれは何だ?」
月明かりの上空。真っ黒い煙のような物が生き物のように飛来してくる。
僕「黒姫、黒坊主とか呼ばれる妖怪では?」
捜索隊の自衛隊員、土木作業者たちに覆いかぶさっていく。
彼らの口から侵入、倒れてもう一度起き上がる。
「こいつらは取り付きやすい・・・。あの女のガキはどこだ?」
僕「君たちは何だ?」
「言ってもわかるまい。邪魔するなら殺す」
黒いナイフを出す。
刃物ではなくカーボン製の刺す武器。
女性の救急隊員2人がさっきの女の子を持って逃げてくる。
どうやらまともな人間には取り付けないらしい。
取り囲まれる。
「どきなさい!」「ぎゃっ!」
光が走り、当たった悪霊つきが倒れる。
案内してきた女の子と有坂さん。
女の子は手のひらから、有坂さんは手刀から光を出して
鞭のように伸ばして悪霊付きを叩くと、電気で痺れたようになって倒れる。
その場の30人ほどを全員倒す。
僕「これはいったい?」
有坂「まだ終わってない。油断しないほうがいい」
倒れた30人の口から黒い煙が出て一つに戻っていく。
「悪霊呪縛!」有坂さんが両手からの光る網で動きを止める。
女の子は、手のひらから光線を出して黒い煙を溶かしていく。
有坂「どうやら片付いたか」
「いいや、まだまだ」気味の悪い声が遠くで答える。
ゴゴゴゴ・・・と黒い煙が四方から押し寄せる。
有坂さんが指を組み合わせて呪文を唱えると。
円状のバリヤーが、有坂さん、僕、救急隊員2人、女の子2人を囲む。
煙が押し寄せて牙に変わってバリヤーを破ろうとする。
僕「えーと、どういうことでしょう?」
女の子「私はチャネラーよ。バシャールの通訳のようなもの。
今は宇宙人の私が表に出てる」
「それで?その子は、妹ではないってこと?」
「そう、この子の家族は亡くなった。姉も。事故ではなくて
この黒い連中に殺された」
「なぜ?」
「この5才の女の子は将来は救世主になる。クロス教の最初の教祖に。
世界から争いを無くす・・・その過程でノーマル、超能力を使えない者たちと
戦争になるんだけど」
「えええっ!救世主ってメシャ・・・そんなメシャクチャな事をくっちゃべられても」
「この黒い煙は未来から来た敵の想念の集合体」
「君や有坂さんも未来からこの女の子を守りに来た、とか?」
「いいえ、私たちは現在の人間。でも未来からテレパシーを受け取って
この女の子を守ることにした」
「ターミネイターか、幻魔大戦のような・・・」
黒い煙はティラノザウルスの頭部に姿を変えてギシギシとバリヤを圧迫する。
「その状況をどうにかできるんですか?」
「ミカルちゃん!」5才の子が起きる。
「あたしたちとテレパシーでつながって状況を把握している。
まかせて大丈夫だと思う」
5才の子から光が出て、恐竜の首は崩壊、黒い煙は消えていく。
鼠ほどの大きさの子鬼が50匹ほど周りにいるが目を押さえて倒れ、苦しんでいる。
女の子が中身のなくなったペットボトルの飲み口を向けると50匹は中に吸い込まれていく。
フタを閉める。中は真っ黒な煙。
有坂さん「これは私が封印しよう。さて、ではいいかな?」
女の子二人はうなずく。
「え、何が?」僕が聞いたが。
「有坂忍法、時戻し!」
ゴオ、と天地が揺れて僕は意識を失った。
4
その女の子は、まっすぐ僕の方に歩いてきた。
小学校の昼休み。「探島君、わかる?」
「え、何が?・・・えーと、ごめん、誰だっけ?」
「じゃあ強引に」
上に引っ張り出された。
幽体離脱!
幽霊の僕は下で倒れている自分の体を見下ろしていた。
「・・・・おお!なんと!水鳥拳・・・あ、記憶が」
さっきの出来事を思い出した。
「今の君は、5才の女の子?」
「そう。チャネラーの10才の女の子の体を借りて喋ってる。
これがあたしの能力。「むりやり幽体離脱」。
助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。ええと、時戻しと言っていたけど・・・」
「1週間前の事故は起こらなかった。あたしの家族は無事。
でも私はエスパー同盟に加わって家族とは別れるけど。
未来からの殺し屋たちは、あの時空間で封印できた。
とりあえずの敵は片付けたわ」
「そうなんだ・・・大変だね・・・」
「じゃこれで」
「ああ、えーと、お疲れ様」
しばらく幽体離脱を検証してから元の体に戻った。
体に玄関口のドアがあっていつでもドアの外に出れるような感覚。
1週間後、僕も家族と分かれて、住み込みで、
人物探知バイトを警察経由で行うことになった。
手本は海外ファンタジー作家達の短編集「誰も寝てはならぬ」。




