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3歳の春

 シャインは3歳になった。これまで父母兄姉に囲まれ愛情一杯に過ごした。こんな満ち足りた時は前世では過ごせなかった。七之助は戸惑いながらも現状を享受していた。


兄ユリウスは6歳になって小学校に入学した。シャインのこの世界の知識は大抵兄の本だった。兄はかなりの天才肌で学校入学時から将来博士か大臣かと期待されまくりだ。一方身体を使う武闘とかは苦手で脳筋の父・マグナスを嘆かせている。


一方天才格闘家だともてはやされているのは姉のジーンだ。5歳だが身体を使う競技は何でも得意の超体育系。それでいて弟のシャインを構うのが大好きなので力任せに引っ張り回してはシャインを泣かせる。


いきなりだが彼らの種族は空を飛べる。だいたい5、6歳から幼稚園で『飛行体操』というものを習い、大人監視の中で安全策を講じた空間で飛ぶ練習をする。

シャインは毎日幼稚園で飛行体操を覚えたジーンに庭に引きずられるように訓練に突き合わされた。


「いい、シャイン。こうやって身体に光子力を巡らせて飛ぶのよ」


3歳のシャインは光子力がこの世界の住民に宿る力である事は本を読んで知っていた。

それから毎日試行錯誤して体内の光子力を人知れず鍛えている。

だがシャインは知らなかった。この世界の人間の光子力含有量がどのくらいのものなのかを。知らずに鍛えていた。調子に乗って。普通乳幼児はそんな事やらない。


身体を巡る血液のようなエネルギー。

それを使えばこの世界の住民は空を飛べ、念動力で物を動かせ、挙げ句は粒子ビームまで発射出来るのだ。


(まるで某巨大ヒーロー特撮の世界だな)


七之助は前世のテレビ番組を思い出す。


その結果、シャインは歩き始めるより先に空中浮揚を覚えた。家族には見せたことはないが。


姉に付き合わされ初めてのふりをしてフヨフヨ浮いてるとそれを見たマグナスとリリィが驚いていた。


「うちの子は天才か?!」

「普通5歳を過ぎないと浮くコツは覚えないものよ?!」


歓喜するマグナス、青い顔をして絶対に家族以外の人の前で飛んではいけません! とシャインを叱るリリィ。

飛行は飛んでる時より着陸時が圧倒的に危険だ。林や岩石に頭から突っ込んだら大惨事だ。ちゃんと幼稚園で飛び方を習うまで飛んではいけません!そう言って母リリィが本気で叱るのをシャインはむくれながら聞いていた。


「ねーねのせいなのに…」



シャインは兄の本を読んで過ごしたこの三年で自分の生まれた世界の仕組みをなんとなく知った。



この星サウザンニウムは単一国家。一応王家が存在するが王政ではなく、選挙で選ばれた人民が政治を取り仕切る合議制だ。

国民は科学技術の進みすぎた過去を反省し行き過ぎた商業主義や資本主義を否定した。その結果この星の文化レベルは地球の19世紀辺りに押さえられている。交通網はだいたい馬車である。


星の中央核に埋め込まれたサウザンニウム・コアの力で星の生命エネルギーは尽きることなく農畜産物への恵みはすばらしく星の住民は飢えることがなくなった。

だが、空を飛べ、光のエネルギーを身体から産み出せる超人となってもサウザンニウムの住民は人間だった。人間には人間の暗部がある。欲望、嫉妬、暴力、犯罪…

社会ルールを作り、高いモラルを守って生きていこうとする中央政府に逆らう自由と権利を口にして我が物顔で振る舞う集団も存在したのである。

この星の歴史はそういった人々の対立で成り立っていた。


なので住民の治安を守るマグナスの仕事は国民に重要視されていたし誇りある仕事であったが同時に犯罪者には常に睨まれる仕事であった。

そしてその家族も常に狙われていたのである。



その日はシャインの生まれて初めての外出だった。母と姉と共に買い物に出たのだ。半ば姉に無理矢理引っ張り出されたようなものだったが。


「ねーね、ぼくおうちでご本読んでいたい」

「いい加減おそとに出なさいシャイン!! いつまでもおうちの周りだけでせいかつできるわけないじゃない。いつかはしゃかいに出るのよ?」


5歳の姉ジーンは5歳らしからぬ正論を持ってシャインの閉じ籠り性格を嗜める。姉である自分が引っ張り出さないとこの引っ込み思案の弟は何もしないと思ってるのだ。

ため息をつきながら姉に強引に手を引っ張られ馬車に乗るシャイン。

 馬車はロボットだ。行き過ぎたテクノロジーはこういう隠れた所に使われているのだ。


前世が社畜なサラリーマンだったシャインは今世では気を張って生きるのだけはやめようと決めていた。のでこの三年自宅でひたすら読書をして1日をすごしていた。そのため家族からは末っ子はグータラ坊主だと思われていたのだ。

実際身体を使うトレーニングは家族の前では見せたことがない。怒られる、と思ったからだ。母に叱られるのは堪えるのだ。


姉ジーンは自分が引きずり出さないとこの子はダメ人間になる、と危惧していた。真人間にしなければ、と義務感に燃えていた。なので鬱陶しいほどシャインの世話を焼くのだ。


 馬車は街の商店街に差し掛かる。なんのことはない、母と姉の買い物に付き合わされるのだ。一人で公園にでも行ったほうがいいと思ったシャインだが言わない。姉のゲンコツが飛んでくるからだ。姉は口より手が早い。


 そんな馬車の中でシャインは不自然な光子力の澱みを感じた。同時に母も気付いたらしく瞬時に馬車の周りに光子力バリアーを張る。一瞬遅れてバリアーに無数のビームが当たるがバリアーに当たった瞬間霧散する。

 ビームを跳ね返すと周りの商店に被害が及ぶので吸収性をバリアーを選んだ母のセンスを正直すごいと思う。

 すると街角から数人の男達が馬車に駆け寄り剣やハンマーを振りかざし襲いかかって来た。ビームが吸収されたので直接攻撃に出たらしい。ロボット馬が真っ先に潰されて馬車が立ち往生する。やばい、囲まれたようだ。ビームを吸収するバリアーは柔らかい強度のないバリアーなので衝撃には弱いのだ。

 リリィは仕方ない、と声を上げる。

  

 「ジーン‼︎やっちゃいなさい‼︎」

 「うん!」


 飛び出した姉は凄まじい格闘術で武器を手にした成人の男達を薙ぎ倒していく。また5歳なのに。我が姉はチート戦士でした。

 姉の暴れっぷりを呆然と眺めるシャイン。その死角からヌッと1人の男がナイフを片手に現れる。


 「シャイン、危ない‼︎」

 

 シャインは思わずビームを放つ。人に向けて始めて放つ光線だった。男は反射的にバリアーを張ったようだがそのバリアーを紙のように突き抜けナイフを持った手に当たると小さな爆発を起こしその手は肘から先が消滅していた。


「「「‼︎」」」


 その場にいた全員がビームの威力に驚いていた。放ったシャイン自身もビックリしていた。なんだこの威力⁉︎

 シャインは己の光子力を鍛え過ぎたのだ。世間を知らなかったから加減がわからなかった。


 腕を失くした男はショック状態になったのかその場に崩れ落ち、シーンが叩き伏せた刺客達は全員リリィに拘束されマグナスの部下、街の衛兵隊に連れて行かれた。


 自分の放ったビームにまだ驚くシャインをよくやったと褒め称える姉ジーンと呆れるようにシャインを眺めるリリィ。シャインの眼を見つめるように屈んで両肩を掴む。怒られる、と身をかがめるシャインだったが


「やり過ぎよシャイン。これからはちゃんと力の制御を覚えましょうね」


 そう言って抱きしめられ頭を撫でられた。


 腕を吹き飛ばしたがあの程度の欠損は治療できると後で聞いた。

 ああ、殺さなくてよかった。

 この母を悲しませるところだった。


 シャインは心から胸を撫で下ろすのだった。


次話は未定です…。

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