王
そんなこんなで数日後、王の城へと足を運ぶことになり、マリが王への直談判をしている最中俺は一人で待っていた。
「この城…すごい豪華だな…」
高くそびえたつ城。絢爛豪華な城。私が王であると主張するようなとても立派な城に圧倒されていた。
しかし…
「一歩下がって周りを見渡してみれば質素な家ばかりだ…
王はこういうのをまず変えていくべきではないのか」
城下町は最初に通った通りよりも貧しい感じがした。
屋根には何重にも重ねられた布が貼られていたり家に穴が空いていたりしている…
貧富の差はあまりないと言っていた気がしたがあれはなんだったのだろうか…
見てもいないし来たばかりの俺が文句を言っても仕方ない。
王には王なりのやり方ってものがあるのだろう。
そんなことを考えているとマリが戻ってきた。
「待たせてしまったな。王も珍しい客人にお喜びだ。さぁ行こう」
王への謁見だというのにも関わらず護衛なども居なく至極当然のように通された。
通路はとても広いが掃除等はあまりされていないのか、ところどころ埃や蜘蛛の巣などがあった。
使用人や、護衛のようなものも見ないことから王の仕事などほんとにないのだろう。
この町の治安の良さがうかがえる。
そういえばさっきのことを聞いてみるか…
「それよりもこの辺はどうなってるんだ?この町に貧富の差はないと聞いたばかりだが…」
「あぁ…それについてだが、最近この辺で不可思議な現象が起きていてな…」
「不可思議な現象?」
「簡単に言うと家が爆発するんだ…原因も分からく、お手上げ状態だ…」
聞かされたのは少しミステリアスな話だった。
治安がいいと言ったばかりだが放火魔のようなものの可能性もあるだろう
「爆発する少し前から変な音がするらしいから住民に被害は出ていないが不安なことに変わりはないだろう」
今の話で放火魔がいたとしても村人を殺害しようとしてるわけではなさそうだ。
何か意図があるのかもしれない。
「放火魔の可能性はないのか?」
「無いとは言い切れないが可能性はひくいだろう…」
「それは『勘』か?」
「勘ではない。今まで全員と関わってきてそんなことをしそうなやつなどいなかったからだ」
ん〜まあ来たばかりの俺が考えたところでわからないだろう
「そうか………まあ何か力になれることがあったら手伝うよ」
「あぁ…ありがとう」
力になるよ。と言いたいが俺が関わったところで解決するとも思えない。軽はずみなことも言えず出てきたのは頼りない言葉だった。自分のことすらわからないようなやつに力になれることなどないだろう…
それからは沈黙が続いた。謁見の間まではとても長く今から王に会うのだという実感とともに少しの緊張感が出てきた。
まるで心の準備を歩いている間にさせてくれているかのような感じだ。
歩いている間もヒトというヒトには出会うことなく2人の足音だけがコツコツと響いている。
そして…
門が開いた先にいたのは2人の人物だった。
謁見の間は綺麗に装飾され、とても広かった。
「やぁ、君が噂の”ヒト”マカイ=ダヴじゃな?」
この広い部屋の奥から誰かが話しかけてきている。
「お、お初にお目にかかります!私がマカイ=ダヴです!」
俺は聞こえるように大きな声で名乗る
「マカイ、王はあまり堅苦しいのは好まない。もう少し肩の力を抜きたまえ」
「そうだぞマカイ。私はざっくばらんに話したいのじゃよ」
「わかりました…」
王の圧倒的な迫力(ついでに身体もすんごい迫力)にびっくりしてしまった。
部屋には合計で4人、王と俺とマリと王の護衛と思われる男。
護衛と思われる男は直立不動で立っていた。無表情なようで驚いている顔をしているように見える。ま、実際のところはよくわからない。
「自己紹介がまだだったな私の名はキオ=マツオじゃ。そして横におるのが護衛のココ=キシタじゃ。」
やはり護衛のようだ。1人だけと言うことはよほど腕が立つのだろうか。
横にいるココと呼ばれた男がお辞儀をしている。
「わしはこの町の王を代々やらせていただいておる。昔は民の”シキ”を判別することのできる唯一無二の存在として崇め立てられていたが現在はそうも言ってられん状況でな。
民が絶滅しかけて約1200年もあれば全員の判別も流石に終わってしまって今ではただ王として存在しているだけの役立たずだ。
そんな私にも久しぶりに仕事ができてとてもうれしい限りじゃ」
「ありがとうございます。それでどうやって判別するんですか?」
「もう判別は終わっておる」
「⁉早いですね。すごいエネルギーを使うとか聞きましたが大丈夫なんですか?」
「あぁ大丈夫だ判別をし始めるのには大したことはない。ただしばらくはもう”シキ”の判別はできんがな」
「それで俺に”シキ”はありますか?」
さて俺に”シキ”はあるのだろうか、楽しみだ。
めちゃくちゃ最強な”シキ”だったらどうしよう…
やっぱりそう言うのって憧れちゃうよね。
どんなのがいいかな。マリみたいなただただ強い”シキ”もいいと思う。
ケニとかウィルみたいにこの町を支える大黒柱みたいのもいいと思う。
「………」
「残念だがお主に”シキ”は宿っておらぬ」
「そうですか……」
残念。俺はやっぱり普通なんだな。
ま、現実はこんなもんか。
自分は特別になってみたいと思いつつも特別ではないことに安心している気がする。
でも案外これが真理なのかもしれない。
「まぁ落ち込むでないマカイよ。この町のほとんどの民も”シキ”を宿しておらぬのだからそれが普通なのじゃよ」
そんなことを考えていると落ち込んでいると思ったのだろうか、マツオ王に慰められた。
そう。
俺は普通なんだ…王にも言われてしまったがやっぱり特別なナニカになってみたかったよ…とほほ…
「わかりました。僕はとりあえずは助けてくれたマリやこの町の人々に恩返しをするために頑張って働きます。
その先記憶とかを思い出してくるかもしれないし、お世話になります」
「けっこうけっこう。この町はみんなで助け合って暮らすのが掟じゃお主も頑張りたまえ。
そうじゃお主は家が無かろう我が特別に家を用意してやろう」
んーなんて言おう…
一応マリの仮宿があるわけだし…
断るのも失礼だろうし…
返答に困っているとマリが一歩前へでて発言する
「キオ王。私に考えがあるので少し待ってはいただけませんか?しばらくして合わないなようならまたお願いするかもしれませんが…」
ん?なにかマリが考えてくれてるらしい。
この前相談していた就職についてかな?
「わかった。慣れない土地で1人暮らしなど大変じゃろうて。召使いの1人や2人つけることもできるからなんなりと申せ。まあお主も疲れているようだ。これくらいにして家で休むといい」
「ありがとうございます。たしかに疲れが取れていないようなので家で休ませてもらいます。
キオ王本当にありがとうございます。」
王はとてもお優しいですな〜
召使いとか最高だ。
マリさん?ぼくこっちに住みたいかも…
感謝の気持ちを込めて俺は深々と頭を下げた。
そして退出する際にもう一度頭を下げ、最後に王の顔をみた。
尋常じゃない量の汗をかいていた。
少し肌寒い日だった。
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外に出て仮宿にもどることになり道中で気になったことを聞いてみた。
「謁見の間を出る時に見たが王はすごい汗をかいていた。あれは大丈夫なのか?」
「それはわからない。なんせ”シキ”の判別を見るのは私も初めてだからな。
キオ王が”シキ”を判別をするのはおそらく初めてだろうし慣れてないからじゃないか?」
「ん~まぁそれもそっか。体調崩さないといいけどな」
「アンタが王の心配をしてどうする。それよりも早く記憶を思いだしてくれ。
あんたがどこかの町から来たとしたらそれはとても重要なことだからな」
「俺だって思い出したいけど俺の頭の中はまったく言うことを聞いてくれないんだよ…」
思い出そうとすると針でチクッとされるような痛みが走るのでもう思い出そうともしなくなっていた。
しかしこの町に居座られても迷惑なことだろうからたまには思い出す努力をしていこう…
「あぁ…すまない。そんな落ち込ませる気は無かったんだ。あんたさては豆腐メンタルだな」
「トウフメンタルじゃない!」
ここの人は同じ者ばかりを食しているので豆腐のようなものはないと思っていたがどうやらあるらしい。
驚きだ。おれも食べたい。
「あねさん!!大変です!!」
緊迫した声により豆腐を食べたい脳から一気に非常事態であることに頭が切り替わる。
「おぉ、どうした。ビックよ」
「外の調査をしていたらそこのマカイ=ダヴのような見知らぬ人間が発見されたため急いで救助をしようとしたのですが
マクロがとても凶暴で、我々だけでは大きな損害がでてしまうのであねさんの力を貸してください!」
「分かった。いますぐに行こう。場所は?」
「東の門からすぐのところです。現在はテッコ班とメタル班が交戦中です」
「おれもついていく」
「……分かった。ついてきてもいいが、手は出すなよ?」
「わかった」
俺と同じ境遇の町の外の人間なら同じ場所からきたのかもしれない。
俺の記憶につながるかもしれない重要人物だ。生きててくれよ。