シキ
外に出るとそこは多くの人が行き交う町だった。
ふと何か違和感を感じたが、マリに話しかけられる。
「特にあんたを拘束するつもりはないけど、はいご自由にじゃあまりにも可哀想だから色々と教えてやるよ。
まず、さっきも話した通りこの町は5000人くらいいる。一時期は100人も住人はいなかったらしいが我々は屈せずに戦い続けた結果ここまで繁栄することができた。
まずは町でも歩いてみるか?」
「そうだな。そうしてもらえるとありがたい」
歩いていると色々な人に奇異な目で見られたが、マリが横にいるせいか挨拶やらを軽くするくらいで、すぐにどこかに行ってしまう。
そんな中無神経に話しかけてくるものもいた。
「マリ!奇遇ね!こんなところでなにをしているの!?その横にいるのはだれ!?見たことない人だわね!わたしにも紹介して!この町にこんな人いたっけ!?」
小さな赤髪の少女は質問に質問を重ねて、仁王立ちをしていて少し怒っているようにも見えるが怖さや威圧感は全くない。
「少しは落ち着け。今はこいつにウェルカを紹介している。ウェルカの外で見つかったマカイという者だが記憶がないからとりあえずはこの町で暮らしてもらおうと思っている」
「そうなのね!この町はとてもいいとこだわ!記憶も戻るといいわね!」
「ありがとう!俺はマカイ=ダヴだ!よろしくな!あなたは誰なの!?俺にも紹介して!初めましてだわね!」
なんとなく俺も真似して怒涛のラッシュをしてみた
横を見るとマリはドン引きしていた
「わたしはメルー=カヤよ!」
メル―は全く気にせるそぶりもなく名乗ってくれた
「そうなのね!メルー!よろしくね!」
「よろしく!」
嵐のように現れた少女は去るときも嵐のようにそそくさと去っていった。
「奴はメルーだ。あいつは”シキ”を持たずしてもマクロを倒すことができるくらいに強い。シキがなくてもあれほど戦えるものなど歴代でも中々いなかった」
俺は何年か分の気力を使ってしゃべった気がするが誰もつっこんでくれない。
あの~マリさん?つっこんでくれてもいいんだよ?
「ヘェ〜あの少女がそんなに強いのか。意外だな。
それにしても歴代といってもマリも俺とたいして年齢も変わらないならなんか大袈裟すぎないか?凄いことに変わりはないんだろうけど…」
「フッ笑たしかにそうだな。わたしの生きている間でに訂正しとこう」
「ま、どっちでもいいけどな」
「は?」
マリがガチギレしている。
怖い……
「ごめんなさい…」
「冗談だ笑」
「冗談に見えないっすよ。威圧感ありすぎ…」
「まあ少しイラッときたのは事実だからな。
少しビビらせておいた。ちびらなくてよかったよ」
「ご寛大な対応感謝します…」
マリをからかうのはもうやめよ…
ほんとはすこしちびってしまったという事実は墓場まで持っていくよ。もちろんね。
「それよりもさっき言ってた”シキ”?だっけ?それについて教えてくれ。メルーの凄さも今のままじゃよくわからない。」
「そうだねあれについては持たざる者からするとさっぱりだろうな
先ほども説明した通り様々な能力がある。見てもらった方が早いだろう。
ちょうどあそこに”シキ”を持っている人物がいる。ウィル、ちょっとこっちに来てくれないか」
「お~あねさんどうしたんすか?」
ウィルと呼ばれた男は特に特徴のようなものもない普通のヒトだ。
「この者はマカイと言う。さっきウェルカの外で見つかった人間だ。記憶をなくしていてなにもわからないらしい。
ちょうど”シキ”について説明してたからあんたのをみせてやってほしい」
「へへ〜ウェルカ外にヒトがいたんですか!それは驚きですね〜
マカイだっけ?これからよろしくな」
「あー、これから世話になる。よろしく」
今回はちゃんと挨拶してみた
「あねさんの努力していた外のことがようやくわかるかもしれませんね!」
「そうだな」
マリは少し引きつった笑みを浮かべていた。
ウィルもそれに気づいたのだろうか、慌てて話をそらす。
マリは過去に外でやらかしてしまったのだろうか
「ええっと〜そうだ!”シキ”についてだったな!”シキ”についてだけど俺は光を創ることが出来る。手をだしな」
「こうか?」
片手を開いて前にだした
「そうそう、目をつぶってな」
目を閉じると、閉じていても分かるほど一瞬だけ光った。そして少しの重み
「もういいぞ」
目を開けると俺の手には光った固形物があった
少し温かくて気持ちいい。
「ウェルカでは夜になるとこの光に皆が助けられている
これが無ければ夜は常に暗闇になってしまい、まともに活動できなくなってしまうからな」
「つまりウィルはこの町をささえてるわけだ。それはすごいな」
「ありがとよ」
「ウィル、ありがとう。もういいぞ」
「じゃあまた機会があったら呼んでください」
ウィルはどこかへ行ってしまう。
「他にもいろいろあるぞ。あの建物を見てほしい。」
「病院か?」
「そうだ病院だ。少し見に行こう」
俺は次々と案内されていく
ウェルカ内見学ツアーだ。
中に入ると医療器具のような物は一切なく閑散としていた。
ここが病院?なんか変だ。
「仕事中すまない。少し変わった客が来ていてな、見学させてほしい。」
「あー姉さん。全然良いんだけど客なんて初めて見たよ。どこから来たの〜?」
「俺は記憶を無くしていてどこから来たかわからないんだ。
だが名前だけはわかるマカイって言うんだ。よろしくな」
「私はケニ=ハキヨって言うんだ〜。悪いけど眠いからちょっと寝てくる〜ゆっくりしていってね〜」
挨拶もそこそこにおっとりした小さな女はそう言って奥へと消えていった。
しばらくすると入口の扉が開き患者と思われる人が入ってきた。
「ケニさん、昨日から体調が悪いので治して欲しいのですが…
あれ?ケニは?てか、あねさんじゃないですか。こんな所でどうしたんですか?」
「おぉワリスじゃないか。今は客人が来ていてな」
「客人ですか!?僕が生きてきた中で初めて見ましたよ…
あ、挨拶が遅れました。ワリス=ワールスと申します。
以後お見知りおきを。」
「………」
きっちりとした一礼に口をぽかんと開けていた。
「あぁ、すまない。あまりにきっちりとした挨拶におっとりしてしまった。俺はマカイ=ダヴだ。よろしく」
「マカイさんはどこからかかられたんですか?まさか外のヒトの生き残りですか?」
「それが俺にもわからないんだ。俺は気づいたら外に倒れていた。その時には俺は自分の名前しかおぼててなかったんだ」
「それはお気の毒ですね…しかしこの町は良いヒトばかりですのでゆっくりしつつ、少しずつ思い出すのも良いかと思います」
「あぁそうだな。焦る必要はないな。心配してくれてありがとう」
んなことを話しているうちに寝起きと思われる顔でケニがやってきた。
「あれ?ワリスじゃん。どしたの〜?」
「おやおや、話すのに夢中ですっかり忘れてしまっていました。昨日から体調が悪かったので治して頂こうと思いまして」
「そかそか〜まかせたまへ〜」
症状について詳細を聞くこともなくケニは患者の目の前に立つ。
「はい、終了〜たぶんもう大丈夫だよ〜お金はそこら辺に置いといて〜」
「ありがとうございます。それではマカイさんまた機会がありましたら」
「おお、またな」
意味がわからなかった。何もしてないじゃん
医者に対してそんなことは言うのは失礼だろうかと考えているとマリが説明してくれる。
「これも”シキ”。ケニは治癒の神を宿す者だ。基本的には軽い症状なら簡単に治すことが出来る
重症の患者や治らない病気とかもあるからケニに頼んで治らなければ基本的に諦めるしかない」
「ケニ。邪魔したね。ありがとな」
「いえいえ〜姉さんも怪我したらいつでも治すけどあんまり暴れないでね?」
「わかっている。では失礼するぞ」
外に出るとマリはまた”シキ”について説明し始めた。
「”シキ”については正直なところ我々にも良くわかっていない。
先祖から受け継いできていることで当たり前のようにこの町には存在しているが起源などは誰も知らないだろう。
真黒に対応するために生まれた能力だと言うのが一般的な言い伝えだが何の根拠もない都市伝説のようなものだ。
先ほども言ったように基本的には先祖から受け継がれていく能力だから失った時は二度と”シキ”を取り戻すことはできない。
ごく稀に再発症する者もいると聞くがこれも都市伝説のようなもので私は見たことがない。
この町には”シキ”が使えない者が大半だ。大抵そういう奴らは真黒に襲われて子孫に受け継げずに歴代の先祖が死んでしまった者達かすでに継承者が存在する一族だ。
他にも持つ者同士の子も”シキ”を失ってしまい両方の”シキ”がなくなってしまうこともある。そうなると”シキ”は永久に失われてしまう。
また子を作ればいいという問題でもなく、一度引き継ぎの儀を行うと元の持ち主は”シキ”を使えなくなる。
誰に引き継ぐかはとても重要だ。この町では持つ者と、持たざる者達が家庭を築くことで確実に後世に”シキ”を残していく。
必ず”シキ”は1つしか扱うことができない。
子孫に引き継ぐために必要なことは引き継ぎたい”シキ”の血縁者であり、持たざる者の血縁者でもあること、”シキ”を既に宿していないことだけだ。
引き継いで”シキ”がなくなってしまった者は持たざる者と考えてもらって構わない」
なぜ俺にこんな話を?と思ったがマリにはマリの考えがあるのだろう。
「継承の儀と言うのはお互いの親指から血を流し、重ねる。そして継承したい一族と現在の王の名マツオを言うことだ」
「マツオ?」
「そうだ、現在の王キオ=マツオ様だ。王であるマツオ族は我々が”シキ”を持ち合わせているかどうかを判断してくれる。
あんたももしかしたら”シキ”を保持しているかもしれない。最近では”シキ”は判別する機会もめっきり減ってしまい王も暇を弄ばれてた。判別には相当量のエネルギーを使うがおそらくやってくださるだろう。私から王に直接頼んでおく」
「記憶を無くした俺にも何か”シキ”が宿っている可能性もあるのか?」
「そうだな。可能性はある。だが記憶を無くして自分が”シキ”を持っているかがわからない者など初めて見た。
だから使い方を理解していないと使えないのか、理解せずとも本能で使えてしまうのかもわからない。
我々はみな自分に使える能力を理解したうえで先祖から使い方も教えていただいている。自分で試行錯誤しながらやることはなかった。」
「ふむ、まあ使えない者もいるならそこまで気にする必要はないか。使えなくても職はあるのだろう?」
「安心しろ。いくらでもある。ただ生活に役立つ”シキ”を持つ者ほど良い配給があるのも事実。
だがこの町では争いなどもなく貧富の差も大きく開くことはない。みな協力して生活している。
もし貧しい者が出てこれば皆で協力して助けてあげるのがこの町での掟だ。」
情報があまりにも多い……
パンクしそうな頭。何も覚えていない空っぽな頭。
つまりまだまだパンクするわけない。余裕だ。
勘違いだろうけど……