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ストーカー王子の撃退方法  作者: 若葉香羽
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第四話

書き方が迷走しております……温かい目でご覧いただけると幸いです……。










「おはよう、エステル。今日はかくれんぼがしたい気分なのかな?」




シミひとつないカーテンをジャッと開けられ、美しい金髪が視界に入る。若干ホラーを味わいながら引き気味で挨拶を返した。




「お、おはよう…ございます」





ーーどこかに隠れてみよう作戦、失敗。





***





「エステルは足が速いね、でもスカートをたくし上げて走るのは流石に怒られちゃうんじゃないかな」




気づけば隣から爽やかな声が聞こえてきていた。



「っどこまで!追っかけてくるんですかっ!」


大理石でできた廊下を走り抜け、階段を駆け上がり、真っ赤なカーペットを足蹴に猛ダッシュ。のはずが、いつのまにか並走状態。その上私は息が切れていて向こうは澄まし顔である。





ーーとにかく走って逃げてみよう作戦、失敗。





***





吐息が近づき、ほんのりと花のような香りが胸いっぱいに広がる。



「…今日は随分積極的だね。僕とそんなに話したいのかな?それとも、その先の何かを……」



「…ま、まま間違えましたっ……!」


決心して、壁にもたれかかる長身の頂点にグイッと近づくも腰を引かれ速攻で逃げた。

追ってこなかったということは、きっと肩を震わせて私の真っ赤な顔を笑っていたことだろう。






ーー引いてダメなら押してみろ作戦、失敗。




あれ、そもそも離れたいのに近づくの意味なくない?と気づいたのは終わってからである。


どっちにしろ、見事に作戦は全部失敗だった。流石ストーカーは伊達じゃない。






「はぁ……全部失敗だったわ、テリビア」


向こうの窓を拭くテリビアに、ため息をつきながら言う。返ってきた言葉は、そう、流石ね、だった。まったくもって同意見である。





昨日ティティアにまんまと言い逃げされた私は悶々としたまま一夜を過ごした。

彼女に言われた言葉が離れず、なんか殿下と会うのが微妙に恥ずかしくて会う気にならなかったので、メイド仲間にいい避け方聞いてなんとか避けようとしたのだが……結果は先ほどご覧の通りである。





これが、あれほど自分には無関係だと思っていた恋の悩みなのだろうか?



ーー私は、殿下に恋を……?




「っ!」



先ほど追いかけっこをしてこちらに微笑んだその笑顔を思い出し、身体中が熱を持った。その顔が拭いていた鏡にうつり、いけないいけないと首を振る。



殿下は由緒正しい王族の血筋である。いくらストーカーをされているからと言って、自分のような男爵家の娘が近づいていい相手ではない。それに私みたいなものが恋だなんて、してはいけない。



ーーこれは違う。そんな甘ったれた気持ちを、私が持つはずがない。持っては行けないのだから…



そう、これはただ殿下のキラキラスマイルに当てられただけだ。いつもと同じ、みんなと同じ、発作だ。ティティアだって、きっと私をからかってーー……






ーー誰にだって、恋の自由はあるのよ。




「っ……」



ふと思い出した昨日の会話。


あのとき、ティティアは何を思っていたのだろうか。今年で23歳になる彼女にもきっと、初恋の経験があるはずだ。


しかし、この長い付き合いの中でティティアから色めいた話は一度も聞いたことがない。





ーーあの真っ赤な瞳は一体、何を見つめていたのだろうか?




「真っ赤になったり青くなったり。随分と忙しそうだね、エステル」


「きゃあぁぁぁっ!」




耳にふっと息を吹きかけられ、私は文字通り飛び上がった。

その反動で硬直した手を、布巾ごとガッチリと掴まれる。


私は今、デジャヴュを体験しているのだろうか……?




「あの、殿下、私はまだ逃げてないのですが……」


「ん?だって逃げるつもりなんでしょ?」


図星である。まだ、とか言っちゃってる時点でバレバレだ。ていうかちょっと待とうか。殿下が来てからテリビアの姿が見えない。


「あぁ、彼女には席を外してもらったよ。僕は君に話があったからね」


まるで心を読んだかのように殿下は言う。エスパーですか、と言おうと口を開きかけーー…




ーーハッ!




()()を感じ取った私はさっと視線をずらし先手を打った。おかげでばっちり、視界の端でキラキラスマイルを捉える。


斜め左下を凝視しながらそっと胸を撫で下ろした。


「そう何回も食らったら身がもたないもの……」



「え?なんか言った?」



「いえ!何にも!」


うっかり出てしまった心の声に慌てて首をふりつつ、無事スマイルの奇襲を避けることに成功したところで、私は殿下に一つ提案をした。



「あの…申し訳ありませんが、殿下。明日の舞踏会の準備というものがありまして、まだ掃除が……」


「そう、舞踏会のことで君に話したいことがあったんだよね」




「…え?」


舞踏会のことなら無視できないだろう、とたかを括って利用したはずが、どうやら墓穴を掘ってしまったようである。


なんだか嫌な予感がし、冷や汗が背中を流れた。


ちなみに逃げようとはしている。しているのだが、殿下のその細身のどこにそんな力があるのかってくらい腕はビクともしない。剣術を嗜んでいるそうだし、見えないだけでたくさん筋肉はついているのだろうか。




ーー現実逃避をしているうちに殿下が口を開いてしまった。




「今度の舞踏会、エステルには男爵令嬢として出席してもらう」


「え……」


「そして僕が君をエスコートする」



「はぁっ!?」


あまりに突拍子もない話についメイドにあるまじき大声をだしてしまう。そして慌てて口を押さえた。


「ど、どういうことですか!?私が舞踏会に……しかも殿下がエスコートって…!」



もう、心の中が軽くパニック状態である。





メイドになったからにはいかなる身分を持とうと貴族令嬢であることは忘れ、誰かのそばに仕えることに専念しなければならない。

だからお茶会や舞踏会、パーティーなどにはあまり出席してはいけないという暗黙のルールがあるのだ。


そもそも忙しくてそんなこと考えてる暇もないのだが。



その上宮廷付きともなれば、主人は国王ならびに王族の方々となる。どこかで粗相をすれば、それが主人である王族の評価にも繋がってしまうことは必然。メイドたるもの余計なことはせず、醜聞は立てず、結婚するまで真面目に働けばいい、はずなのだが……




「明日、楽しみにしているよ」



「へ……?」





掴まれていた私の手が、ゆっくりと離された。代わりに顎を優しく掴まれる。



「あぁ、僕が迎えに行くまで逃げちゃダメだよ。それからーー……」



スローモーションのように近づく碧色の瞳をどこか他人事のように見つめていた。





「当日殿下って呼んだら、ペナルティでキス一回ね」


柔らかな感触とあたたかな温もりを感じ、同時にちゅっと右耳にリップ音が入り込む。

そして私の視界の外側から殿下の美しい顔が現れた。



「エステルー、エステルー?……ふむ、ちょっとやりすぎたか。ふふ、明後日を見てる君も可愛いよ」



ーーじゃあね、という声を右から左に聞き流したのを最後に、私の記憶は切れた。










気づいたら部屋にいて、ティティアに何があったか聞かれたとき一瞬、自分は何をしていたんだっけ、と呆けてしまった。





そうして思い出した私は、ボフンッと染まったゆでだこのような自分の顔を枕に叩きつけて眠り、朝どっかから帰ってきたティティアが事情を知ったと聞いたときは布団に潜って身悶えていた。








***




「針と糸!白い糸はどこ!?青も黄色もお呼びじゃないのよ!」


「待って!化粧準備ストップ!乳液が足りないわ!」


「早く言ってよ!っていうか下地の色も合わないわ!もっと薄いのないの!?」


「お風呂担当誰よ!?少し枯れかけた薔薇なんて入れないで!花は慎重に選んでって言ったでしょう!?」




慌ただしく動く人、人、人。

その全員と顔見知りであり、その中にはもちろんティティアとテリビアも混ざっている。


本来なら私もそこにいて彼女たちと一緒に、やれ何が無いだのやれあれはどうしただのと騒いでいるはずだった。時間に追われ、令嬢を時間で追い詰め、なんとしてでも最高傑作を生み出すために奮闘する。それが仕事のはずだったのに、どうしてーー




「お湯加減はどう?熱くないかしら……前に花の香りがきついって言ってたから、薔薇は匂いの少ない品種にしたのよ」


「だ、大丈夫よ……」


テリビアが私の髪にオイルをつけながら笑った。それに引きつった笑みを返す。





ーーどうして私がお世話される側になっているのだろうか。



「テリビアまだー!?予定通りでいくならお風呂の時間あと2分もないわよー!ドレスはエステル用に少し修正入れたいらしいから、試着時間多めに取りたいって!」


広い賓客用の部屋の中で、遠くからティティアの声が聞こえてきた。忙しなく動いているのか、若干声の聞こえが悪い。そもそも、


「早くして!化粧水が気化するわ!」


「しないわよ!ちょ、そこどいてちょうだい!あなたは向こうでも作業できるでしょう!?」


「もう、グダグダするならあっち行ってよ!ここは忙しいの!」



360度全方位から怒号の嵐なので、全部聴こえていて全部聞こえていないのだが。


「ねぇ、大丈夫?テリビア」


心配になって声をかければ、いつもと同じ笑顔が返ってくる。



「え?ふふ、終わらないなんて許されないもの。大丈夫よ」



否、ちょっといつもより腹黒かった。





ーー数十分後。





「さぁ、エステルさん。締めますわ、覚悟してください!」


「ひぎゃっ!」


ギギィィと締められるウエストにつられて絞られていく叫び声。臓器という臓器がこれでもかと縮められて生きた心地がしなかった。


もう、もう充分じゃない?と思った時にもうちょっと、と声をかけられて青白い顔がもっと青白くなった気がした。


「……もうちょっと頑張ってください〜!」





「…は、い……」



自分の声が亡霊か何かのように聞こえたのは生まれて初めてである。


今度令嬢の着替えを手伝うときはもうちょっと気を使おうと心に決めた瞬間だった。





ーー二時間後。




「あぁっ、もう、動いちゃダメですよ!エステルさん!」



「ご、ごめん!普段化粧なんて滅多にしないから、つい……」



そうして謝ろうとして首を振ってしまい、後輩にまた怒られてしまった。


化粧をし慣れないために、肌がゴワゴワすることに違和感を感じなんだか落ち着かない。その上目元にラインをさらっと引かれ、何かに引っ張られているような気分になり早速化粧を落としたくなった。

前に一度だけ社交界デビューをした時よりもかなり大掛かりな準備に、自分でもどんどん疲れが溜まっているのを感じる。




「もう少しじっとしててくださいね!今日はしっかりおめかししないといけないので!」



そう言って気合を入れた後輩に、そろそろ座り続けたお尻が痛い、なんて言える雰囲気ではなかった。






ーー三時間後。



「エステルー?生きてるかしらー?すごい顔してるわよ、鏡で見せてあげたい」



「……左前にも右前にも鏡があるのよ。見たくなくても視界に入ってるわ……」


「あぁ、そうだったわね」



昨日より十倍老けた気がする私に、ティティアはからからと笑いかけた。



正直もう色々きつい。お風呂入ってエステしてウエスト締めて、ドレス何着も試着してあーでもないこーでもない。今はようやく決まったドレスを着せてもらいながら化粧がまだ続いているところだ。

着るときに顔に布を被せていたし、そのあと化粧でずっと目をつぶっていたのでどんなドレスかはまだわからない。



それから体感二十分たったころに、ようやくその声が聞こえた。




「はいっ!終わりましたぁぁ!目開けても大丈夫ですよ!」



「本当に、いいの……?」


「はい!ほらほら、早く見ちゃってください!」



いいよ、と言われるとなぜか渋ってしまい開けたくなくなってしまうが、背中をぐいぐいと押され、ゆっくりと瞳を開いた。








「え……」




ーーそこには、なんとも儚げな雰囲気を醸す、美しい青色のドレスの貴婦人が立っていた。



「うそ…」



驚いて口をついて出た言葉を、鏡の女性も発している。

その姿が自分の姿であるということは、疑いようのない事実であった。


しかし、あまりの変化のしように幻か写真と目を疑う私。まだドレスは調整が行われているし髪も結われている最中だが、今まで給仕の仕事をしながら見てきた令嬢たちとなんら変わりのない娘になっていて心底驚き、胸が高なった。


そんな私の肩をティティアが叩く。



「びっくりしたでしょう?あなたは素材がいいんだから、きっと会場でもいろんな男性たちを虜にできるわ」


「そうですよ!せっかく可愛くできたんですし、ご家族や親戚の方にもお見せしたいくらいです!」







ーーしん、せき……?




「はっ……は…っ…」



自分の呼吸の音が、変わった。



「ーール?ーーテル?」





ーー本当に行くのか?そんな格好で?…ハッ!全員の笑いものだぞ!そんな時代遅れな格好してさぁ、ピンクとかお前にはにあわねぇよ。なあ?




ーーせめてもっと流行にのっとったフレアな感じのー……あぁ、そっか、お前そっちのほうがにあわねぇもんな。うん、お前には地味なほうがお似合いだよ。





ひゅっ、と聞いたことのない音が喉から出た。過呼吸になっているはずなのに、頭の中はこんな音も人間出せるんだな、と結構冷静だ。


「エステル!大丈夫!?ねぇーー」


何かが聞こえたけれど、はっきり聞き取れない。視界もぼやけてきて、なんとなく手を伸ばしたらガシャンッと何かを倒してしまった。





ーーあぁ、本当、どうしようもない。


兄様の言う通りだわ。

あの日、兄様の静止を振り切って会場に行けば、もらえたものは嘲笑だけだった。




ーー美しい青色の貴婦人。そんなものは存在しない。


私に似合うドレスなんてない。似合うのはメイド服だけ。




いつもなら仕方ない仕方ないって切り替えができるはずなのに、今日はなぜか止まらなかった。

考えれば考えるほど、どんどんと沼に沈んでいく。




なんで引き受けてしまったのだろう。無理を言ってでも殿下の誘いを断るべきだった。あのとき、足を踏むか急所を蹴ったりして逃げれば良かったんだ。



私なんて






「わたし、なんて……」






ーー消えて、




「エステルっ!!」










そのたった一言だけが、私の耳に大きく響いた。





四話目もご覧いただきありがとうございます!


数字の表記が他の話とずれてしまっているのですが、年は算用数字、時間等は漢数字ということに一応しています。ちゃんと意識してないので、漢数字にまとめて直すことも考えています。


見辛かったら申し訳ないです……!

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