表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

良い夜を

作者: 遠

気軽に読めるように短く。 簡単に。 書いてみたら簡単に書き過ぎて設定全然出しきれてないという……まぁそんなお話。

 街の灯りがほぼ消え繁華街を除き寝静まる深夜に、夜の闇が形を成したかのような黒髪を腰まで伸ばし顔立ちは美しく上はボア付きのコートにキャミソール、下は太ももを強調するホットパンツにニーソックスという出で立ちの女がコツコツとブーツを鳴らしながら一人誘蛾灯に吸い寄せられるかのようにコンビニに入っていく。 視界の隅に何か困った顔をしてブツブツと呟いている男が映ったが特に気に留めなかった。

 女は数分物色し買うものを決めると買い物かごに入れレジで会計を済ませ店の外へ。 男は女が入る前と殆ど同じ体勢で同じようにブツブツと呟いている。

 立ち止まり、あまりにも打ちひしがれている姿を哀れに思ったのか女は項垂れている男へ声をかけた。


「あのぉ……どうされました?」

「――っかく買ったのによぉ……まだ――しか乗ってねえんだぞ……」

「……あのぉ!!」

「ひゃい!?」


 呼びかけに気づかず、再度大声で声をかけるといきなり耳元で大声を出されて裏返った声で反応する男。


「さきほどからずっとそうやってたので気になったので声をかけたんですが、どうかされたんですか?」

「それが……つい先日バイクを買いまして慣らしを兼ねて人気の少ない時間に出かけてここで一服してたんですが、トイレに行ってる隙に誰かが盗んで行ってしまったみたいで……警察には連絡したんですが……」


 男はよく見ると若く二十代前半といった中肉中背、髪を短く切りそろえて活発な印象を受ける青年だった、そして足元にはヘルメットとグローブが置かれていた。青年は事情を女に話し始めた時から目が潤みだし、話し終える頃には頬を涙が伝っていた。


「……そうでしたか」

「すいません、情けない所をお見せしてご心配までして頂いて……話聞いてもらっただけでも少し気が晴れました。 あとは警察にお任せしてどうなるかってところですかね」


 青年は見るからに無理やりな造った笑顔を浮かべ女を心配させまいとするが、見ていて痛々しいにも程がある笑顔だった。


「私、探すの手伝いますよ」

「え? でもこんな時間ですし、それにもう探すったって……」


 女は自分の唇に人差し指を当てながらニコリと笑い口を開く。


「いいからいいから。 目を閉じて貴方のバイクを思い浮かべてください」

「は、はい」


 女の笑顔と自信満々な態度に絆され男は言われた通り目を閉じる。 そこへ女が右の掌を男の頭に乗せ自身も目を閉じる。


「……見つけた」

「えっ!?」


 男は女の言葉に驚き目を見開く。


「それじゃちょっと取りに行ってきます……あ、でも私運転できないや……んー私に掴まってもらっていいですか?」

「へ? 掴まるって……ええ!?」

「ほら早く、今なら追えるからっ!」


 女は男にコートを預けつつ急かし正面から抱き着くような体制になる。 男は急にこれがドッキリか何かなんじゃないかという考えが脳裏を過ぎったが次の瞬間には思考が停止した。


「ひゃああああ飛んでるぅぅぅぅ!?」

「じっとしてて! 落ちるわよっ!」


 女はなんと男を抱えたまま背中から蝙蝠のような羽を生やし空を飛んだのだった。 数分飛び続けると眼下を指さし女が男に声をかける。


「見つけたっ! あれでしょ貴方のバイク」

「うえ!? うそ、ホントに見つけちゃった!?」


 女は高度を落としていき盗人のバイクの数十メートルの交差点に手のひらを向けると信号をいきなり赤に切り替え停車させ、その目の前に降り立ちハンドルを抑え盗人に声をかける。


「ねえ? 盗んだバイクで走るのは楽しい?」

「な!? なんだおめえっ!」


 女は男に目配せしバイクを支えてもらい盗人の胸倉を掴み持ち上げ路肩に歩いていき降ろす。男はその後ろをバイクを大事そうに支えながら付いてくる。


「げほっげっほぉっ! はぁ……はぁ……なんなんだよおめえは!」

「人の物を盗るのはいけない事って習わなかった?」

「はっ! 鍵付いたまんまにしておくアホが悪いんだろうがよっ!」


 盗人はむせ返りながら怒鳴り散らし女は説教をかまそうとするが聞く耳を持たないと判断したのか男にこいつどうする? という目配せをする。


「鍵をつけたままにしていた俺にも非があったけど、それ以前にこの女性が言ったように人の物を盗むのはいけない事です。 もう二度とこういう事をしないでください」

「良かったわね、私だったら半殺しにしてその辺のゴミ箱に捨ててるところよ? さ、何処へなりと行きなさい。 ああ、その前にこれだけは覚えときなさい――」


 女は一度言葉を切り盗人の耳元で続ける。


「もし、今後似たような事をしたら今私が言った以上の事をしてあげるわ。 の街で好き勝手出来ると思わない事ね」


 盗人は女の脅しに震えあがったのか一目散に走り去った。


「あ、あの……ほんっとうにありがとうございました。 勿論さっきの空飛んだ事とかは秘密にしますねっ! あ、ていうか警察に連絡しなきゃっ! ああっ!? ヘルメットとグローブコンビニに置きっぱなしじゃんかぁ……」


 忙しなくあたふたする男の身振り手振りに吹き出しそうになるのを堪えながら女は男に微笑みながら口を開く。


「良い夜を」


ちょっとした空き時間のお役に立てれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ