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第8話 火傷しそうな愛情

「──さて、今日のホームルームは終了だ。さようなら」

「さようなら!」


 空は夕暮れを迎えようとしている。


 エドガーは初めての教え子に戸惑いつつも、何とか切り抜けた。

 その達成感は計り知れない。


 多くの教え子は談笑をしながら教室を出ていく。

 一部の生徒は掃除当番として、教室の掃除を始めていた。


 椅子と机を全て移動させ、ほうきで掃いたり雑巾で拭いたりしている。

 そうしてみるみるうちにホコリや汚れは落ち、教室は少しばかり綺麗になった。


 エドガーは責任を持って彼らの様子を見守りつつ、自身も職員室に戻る準備を完了させる。

 荷物を持って教室から出て、教室の戸締まりをする。


「ふう……」

「──先生、めちゃくちゃモテててましたね。羨ましいです」

「なにっ!?」


 突然声が聞こえてきたので、エドガーはその方向を振り向く。

 そこには彼の教え子であるマルクが立っていた。


「いいなー、初日から2人の女子に言い寄られてるんですから。しかもランチまで一緒だったみたいですし」

「それってアリスとルイーズのことか? だとしたら誤解だよ」

「どういうことですか?」

「アリスは以前から知り合いだったし、ルイーズは──ちょっと一悶着あったからな」

「あー……でもいいじゃないですか。俺がルイーズ様に話しかけられることなんて絶対ないですし。アリスさんも男子とか苦手そうですし」

「そんなもんかな?」

「そんなもんなんです」


 マルクはどうやら、心底エドガーを羨ましがっているようだった。

 エドガーの弁を、彼は若干ムキになりつつ反論している。


「──先生、今気づきました。『異端審問官として魔女と死闘を繰り広げてた』って言ってましたよね?」

「そうだな。奴らを仕留めるには一苦労──」

「それって、たくさんの女の子と付き合った──いえ、突き合ったってことですよね?」


 な、何を言っているんだ……このエロ男子は?

 エドガーはマルクの発言に対し、少しばかりドン引きしていた。


 そもそも教会が掲げる《魔女》という概念は、女性だけに限った話ではない。

 そこには当然、男性も含まれるわけで──


「あっ、もしかして図星ですか? 異端審問官としてナニの《裁判》と《処刑》を──」

「やめろ、それ以上言うな! 女子に聞かれたら人生終わるぞ!」

「──マルクくん、何の裁判をするのですか? 誰を処刑するのですか? 無知な(わたくし)めに教えて下さいな。うふふ……」

「あっ……」


 エドガーとマルクの背後には、いつの間にか王女ルイーズが立っていた。

 何故彼女がこの場にいるのか分からなかったが、神出鬼没とはこのことだ。


 ルイーズは満面の笑みで、マルクを見つめている。

 彼女が今何をしようとしているのか、エドガーには手に取るようにわかった。


 だから──


「うぐっ、ぐああっ! ああああっ! 右腕が(うず)く……《漆黒の闇》が暴走するッ!」

「──え?」

「更衣室の時は《封印されし邪竜》とかって言ってたのに……」


 エドガーは叫び声を上げながら、右腕を左手で押さえつける。

 マルクとルイーズは彼を、ただ呆然と見守っていた。


「先生、頭の治療しま──」

「は、早く逃げろ《漆黒の勇者》マルク! この俺を侵食している《闇》は、《王家の血を継ぎし光の巫女》でなければ相手にならない! 《闇》を司る君では、決して太刀打ちできない相手だッ!」

「──あっ、そういうことか! 先生……このご恩は一生忘れません! ご武運を!」

「あ……ちょっと、待ちなさい!」


 マルクを必死になって逃がそうとするエドガー。

 エドガーの意思を汲み取ったマルクは、廊下を全力疾走してこの場から離脱した。


 《王家の血を継ぎし光の巫女》ルイーズは初動が遅れたため、彼を追いかけることが出来なかった。


「ふう、治まったか……ルイーズ、今回ばかりは許してあげてくれないか? 男が二人っきりで下ネタを言い合うことの、何処が悪いんだ?」

「そう、ね。確かにそのとおりかもしれないわ」


 ルイーズは少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 エドガーは安堵の溜息を漏らしていた。


「あ、そうだ! 先生、右手を出して? 《王家の血を継ぎし光の巫女》じゃないと、《漆黒の闇》を抑えられないんでしょう? 私が治してあげる」

「──あっ、いえ結構です。もう治ってますので」

「私、先生のことが心配です。先生の内に秘めたる《闇》を浄化してあげたいの──ね?」


 王女ルイーズは聖女のような優しい声で語りかけ、エドガーの右手をギュッと握る。

 エドガーは女の子の体温を──火傷しそうなほどの愛情を受け、そのあと暖かく慈悲深い回復魔術を施された。

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