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異世界送りに遭ったらしい


初めましての方もいつもありがとうございますの方もこんにちは。

新連載です。ゴリゴリ異世界ファンタジーです。


よろしくお願いいたします。




俺が【異世界送り】という憂き目にあったのは日本の暦で半年前のことだ。



そんなものがあるらしい、とかいう話はすごく眉唾ものでネットでまことしやかに囁かれる都市伝説みたいなもの。



自称、【異世界帰り】の者も続々と現れたりしたが、ことごとく偽物らしくって胡散臭かった。

実際に帰ってきた人は確認されていないし、そもそも【異世界送り】が実際にある事なのか、どうかすら怪しい。


けれど、不思議と消えることなく存在感を放つそれは俺の生きる社会で確かに受け入れられていた。






まさか、自分が実際にそれを経験するなんて、夢にも思わなかったけれどーーーーー。





ーーーーーーーーーー






「サク!料理!運んでくれ」


「あいよ!」



むさい男でいっぱいの酒場で、乱雑に並べられた机と点在する人を縫うように交わして俺はカウンターへと身を翻した。

片手で樽杯を3つひっつかんで、片手に鉄板に乗ったジュージュー音を立てる肉料理を持つ。オヤジが怪我すんなよ!とカウンター越しに怒鳴った声に笑顔で返した。





俺の名前は(カケイ) 咲良(サクラ)。名前は女っぽくってあまり好きではないから、友人達はカケイとか、サクとかそう呼んでくれていた。

年は23歳。ごりごり教育ママの母親といやに優秀な1つ上の姉のせいで中学受験をして、わざわざエスカレーター式の全寮制の男子校付属中学に入った。

今どき珍しいそこにわざわざ入ったのは、姉と比べられるのに嫌気がさしていたから。

数字でしか俺の存在を認識出来ない母親にもうんざりしていた俺にとって、勝ち得たその居場所は初めて息をすることができるような、そんな自由な場所だった。


その後、順調に名門男子校に進学したにも関わらず、大学には行かず、激怒した親には勘当同然で放逐され、昼は飲食店、夜は居酒屋でバイトをしてそこそこの金を稼いで食いつなぐ日々。

女性と関わることはもちろんほとんど無くて、彼女もこの歳までできなかったけれど。俺は自分の人生に満足していた。

どこかで多分、親からの期待とか重圧を無視した開放感とか復讐心とかそういうのに酔いしれていた。




そして、ある日、きっかけはよく分からない。気がついたらこの世界にいた。






ーーーーーーーーーー



「お待ちどうさま、ミディルのステーキね、こっちはロウト酒、ごゆっくり!」



ドン、とテーブルに料理と酒を置くと笑顔を浮かべてカウンターに急ぐ。このオヤジの酒場はいつも大繁盛でいつも忙しい。

幸い仕事は日本でやっていたことと似通っているから助かる。


この世界は多分、俺の推測だけど異世界ってやつで、俺はあの噂の【異世界送り】ってやつに遭ったんだと思っている。

それがどんな条件でどういう時に、なんのためにそうなるのかは分からないけど、まあ、まずわかった所でどうしようもないのだ。



ネットで推測されていたようなチート能力とか、スキルとか、特別な装備とか、そんなものは一切なかった。

唯一助かったことは言葉が通じることだけ。それだけ。


ただ、知らないところにわけも分からず放り出されただけ。それに尽きる。


加えてこの世界エデンは、ネットで噂されていたように甘い世界ではなかった。


剣と魔法の世界。


そう言えば聞こえはいい。俺も男だからワクワクするものがある。昔ながらのRPGみたいで、冒険心がくすぐられる。


けれど、現実はゲームのようには行かない。


剣と魔法の世界。


裏を返せば、剣と魔法が必要な世界、である。


魔物は普通に居るし、魔物に襲われれば普通に死ぬ。そこら辺の人が普通に武器を所持しているのは、単に自衛にそれが必要だからだ。 そして、武器はその見た目に相応しい重量と機構を兼ね備えている。

つまり、ゲームやアニメのようにクソでかい剣を日本の平均体型の俺が振り回せるわけもないし、ゴテゴテとしたかっこいい銃は装備して走ることすら体力を大いに削る。有り体に言って俺には無理だ。

ついでに言えば、そのどちらもバカ高い。


病気にもかかるし、日本ほど法律や医学は発達していない。

風邪や飢えや、魔物から受けた傷で死ぬことも当然ありえる。

セーブポイントはないし、やり直しは効かない。死んだことがないのでタイムリープとかそういうのがあるのかは分からないけれど見込みは薄い。


当然腹はすくが、金は1円(こちらの世界では1ゼルというが)も持っていないから何も出来ない。




なんというか甘くない。


ここに来て数日で思ったのはこれだ。



そんな時に行き倒れた俺を担いで連れ帰ってくれて、ついでにいろいろと世話をして雇ってまでくれたオヤジには本当に感謝が尽きない。


俺の幸運はなにより、オヤジに出逢えたことで、それがなければとっくに、わけも分からず死んでいただろう。




「サク!」


「はーーい!」


「これ、3番テーブルにな!」


「あいよー」



というわけで俺は【異世界送り】にあって、相も変わらず酒場でバイトをしていた。



俺がこの世界にきた理由は未だ不明である。






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