君は今のままでいいよ
「あ〜、ダイエットしよっかなぁ」
何気なく、そう呟いただけだった。別にそこまで大きな決断をしたつもりはなく、本当に、なんとなくそう思っただけだ。
だけど――
「反対だ、その必要はない。絶対に!」
険しい形相で、ミカンに止められてしまった。
ソファでだらけていた私はミカンに呼びつけられ、食卓に向かい合って座らせられる。本当になんともなしに呟いただけなのに、まさかこんなに真剣に捉えられてしまうとは。精々、「最近よく間食してるし、いい機会じゃないか?」って軽く流されるくらいだと思ったのに。
そんな私をよそに、ミカンは真剣な面持ちでダイエットの不必要性を
私にとくとくと説き始めた。
「いいか、私はちゃんと普段から林檎の健康状態を把握して適切にバランスを考えて料理をしているつもりだ。その証拠に、ここ暫く太ったりはしてないだろう」
ふん、と鼻を鳴らしながら私の反応を待つミカン。
確かにミカンの言う通りだ。ミカンが用意してくれるご飯のおかげで、長らくこの体型を維持できている。
でも、私は少しだけ思うところがあった。
「一人暮らし始めた頃は、もっと痩せてたもん……」
前はもっとお腹とか腕とか、今よりもっと細かったのだ。ミカンがご飯を作ってくれるようになってから、明らかに体重が増加している。
私がそう言うと、ミカンは「いや」と厳しい目つきで首を横に振った。
「あの頃の林檎の食生活はコンビニ弁当やらビールがほとんどだった上に、食べる量も頻度もまばら、不健康極まりなかった。だから痩せてたんだ。今くらいが標準体型だろ」
ミカンの言うことにぐぅの音も出ず、押し黙るしかなかった。だけど、やはり細くてスタイルの良いモデルさんとかを見ると、憧れの気持ちが出てしまう。
それを素直に伝えると、ミカンは暫し悩ましそうに唸った後、恥ずかしそうに顔を赤らめて呟いた。
「い、今くらいの肉付きの方が、好き、なんだ」
「……え〜〜〜!!」
可愛すぎるその白状に、私は思わずテンションが上がってしまう。
てっきりミカンに体型の好みは特別ないものだと思っていた。私ならどんな体型でも好きだよ、って言いそうなものなのに、ちゃんと明確に好きな体型があったなんて。
そんなの、あまりにも可愛すぎる。
「健康もだけど、この体型が好きだから維持してくれてたの?」
「う……」
「細い私よりこんくらいの方が、ぎゅーした時好きなの?」
「そうだよ! 悪いか!?」
「悪くない、可愛い〜!」
ミカンは勝手にはしゃいでいる私に抱きしめられながら、恥ずかしそうに尻尾を揺らしつつも、向こうからも抱きついてきてくれた。
背に腕を回して胸元に顔を埋めてくるのが可愛すぎて、おでこに優しく唇を落とした。
「可愛いお嫁さんがそう言うなら、ダイエットはやめとこっかな」
「……そうしてくれ」
照れた顔を隠すように俯くミカンを愛しく思いながら、ふと思いついて私は恐る恐る提案してみた。
「あの……日頃のカロリーを減らして、その分ビール飲める日を増やしてもらうことは……?」
「もちろん、却下だ」
「ですよね……」
良い笑顔できっぱり断られ、肩を落とす私だった。




