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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第4章
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君にご主人様と呼ばれたい

 昼下がりのリビングに、カシャカシャとカメラのシャッター音が絶えず鳴り続けている。

 しゃがんだり、うつ伏せたり、はたまた横にずれたりと、体勢を変えながら色んな角度でスマホを構え、シャッターを延々と切る私。そのレンズの向こう側には、照れくさそうな顔でソファに座っているミカン。

 そして、そのミカンはメイド服を身に纏っていた。


 ◆


 今日は何も予定がないからとと二人でダラダラ寛いでいたら、身に覚えのない荷物が届いた。本当に何も頼んだ記憶がなくて、二人で首を傾げながら段ボールを開けると……

「メイド服?」

 コスプレ用の、フリルやレースが盛りだくさんのメイド服が入っていた。

 それを手に取って広げ、しげしげと見つめているミカンを眺めていたら、うっすらと記憶が戻ってきた。

 私は額に手を当てながら、素直に白状する。

「先週末、酔っ払ってポチった……かも」

「林檎が着る用か?」

「や……ミカンに着て欲しくて、だと、思います……」

 尻すぼみに答える私に、ミカンは「ふーん」と呟きながら、メイド服から目を離さない。

 流石に引かれたかな……と反省しつつ、申し訳なさが込み上げてくる。

「ごめん、返品するから、忘れて」

 そう言いながら私がミカンの手からメイド服を取ろうとすると、


「別にいいぞ、着ても」


 意外すぎる返事をもらい、私は目をパチクリとさせてしまった。


 ◆


 そんな訳で、メイド服に着替えたミカンが目の前に居るのだけれど……

「この角度も……ちょっと次横向いて!」

「り、林檎、撮りすぎじゃないか?」

 あまりにも似合いすぎるそのメイド服姿に興奮して、私はシャッターを押す指を抑えることができなくなってしまった。

 元々色白の素肌にグレーアッシュの髪の毛を持つミカン。それがモノトーン調のメイド服と相まって、全体的に彩度が低く、クールで無機質な雰囲気というか、得も言われぬ美しさがある。

 おまけに、背景のなんてことないリビングによって、より本人の彩度の低さが強調されて、ただソファに座ってるだけなのに最高の写真が撮れてしまう。


 興奮しすぎて「はぁ、はぁ」と息切れしてしまい、私は一旦スマホを下ろして立ち上がる。

「あ、そろそろ満足か?」

 ミカンがやや安堵した様な表情を浮かべたので、私はこの機会を逃すまいと、とっさにお願いをした。

 メイド服を頼んだ時の泥酔していた私も、同じことを考えていたはずだ。

「あの……煙草を、吸ってもらえると……」

「えぇ……」

 引いたような、呆れたような声を漏らすミカンに、私は「えへ」と笑うしか無かった。

 

 煙草を吸うなら、と立ち上がったミカンに着いて行き、台所に移動する。

 ミカンはメイド服のまま、馴れた手つきで換気扇の下に折りたたみ式の椅子を広げた。そして灰皿を手元に引き寄せると、シガレットに火をつけて吸い始める。

 スムーズなその喫煙動作に、わたしは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

「かっっこいい〜〜」

 メイド服のフォーマルかつガーリーな雰囲気と、煙草のアウトロー感のアンマッチが最高のギャップ萌えを生み出している。

 ただでさえ格好良くて煙草も似合うのに、さらにメイド服、そしてギャップ萌えも追加だなんて、供給過多にも程がある。私の嫁が今日も目の保養すぎる。

「なんか林檎、変な語彙が覚醒してるぞ……」

 ぶつぶつと賞賛の言葉を呟きながら撮影しまくる私を、ミカンは軽く怯えた目で見ていた。

「煙草咥えながらの蔑んだ目、良いね……」

「うわぁ……」

 ミカンの困惑を無視しながら撮影を続けていたら、気が付けば写真フォルダには200枚超えの写真が追加されていた。

 満足げにそれを眺めていると、段々とテンションが落ち着いてくる。そして先ほどまでの自分を客観視して、顔から血の気が引いていった。

 ちら、とミカンの顔に目をやる。

 苦笑いと照れ笑いを混ぜたような、そんな表情をされて私は、その場で土下座を繰り出した。


 ◆


「別にいいんだけど、後半は流石にちょっと怖かったぞ……」

 いつもの黒いジャージに着替えたミカンは、苦笑いを浮かべながらもリラックスしたようにソファに腰を下ろした。

 メイド服のミカンも相当に素晴らしかったが、その後にこうして普段着を見ると、やはりこちらの方が安心する。どちらが好きかと言われたら、間違いなくいつものミカンだ。

 私は反省しながら普段着のミカンを眺めていると……ふと、一つ後悔の念が浮かんでしまった。

「折角だから、ご主人様って呼んで貰えばよかった……」

 そう言って項垂れていると、不意に右手を掬い取られる。そのまま、ミカンは私の手の甲に恭しく口付けをしてくれた。

 そしてこちらを見上げながら、微笑みを向けてくる。


「お望みならば、いつでもどうぞ。ご主人様」


 その後のことは、鼻血を出して倒れたところまでしか覚えていない。

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