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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第3章
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君と私の新婚旅行②

 旅館周りの散策から戻った頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。

 こんな自然の中を歩く機会がなかなかないので、私もミカンも随分歩き続けてしまったのだ。慣れない山道で少し足が痛いが、それでも楽しさの方が圧倒的に勝っている。


「はー、楽しかったねぇ」

「そうだな。空気が美味しいし、景色は綺麗だし。明日も時間あったら歩こうか」

 部屋に戻って一息つきながら談笑していると、廊下から足音が聞こえてきた。時計を見ると、そろそろ女将さんが夕飯を持ってくると言っていた時刻だ。私が目配せをすると、ミカンは広縁の椅子に移動する。わざわざ覗き込まれない限りは、襖の影になって見えないはずだ。

 ミカンが広縁に消えると同時に、女将さんの声がかかる。襖を開けて通すと、早速配膳を始めてくれた。

「わぁ、全部美味しそう……!」

 並べられていく豪華な料理の数々に思わず私が声を漏らすと、女将さんは嬉しそうに微笑みをむけてくれる。

「ありがとうございます。お酒もありますから、どうぞゆっくり召し上がってくださいね」

 そう言って置かれた瓶ビールに、私は一層目を輝かせる。懐石料理を食べながらのビールなんて、絶対に美味しいに決まってるじゃないか。


 一通り配膳を終えた頃、女将さんは少し不思議そうに部屋を見渡して尋ねてくる。

「あら、お連れ様は?」

「あぁ、奥で寛いでるので、お気になさらず」

 にこりと笑いながら答えると、女将さんも「左様でしたか」とそれ以上深入りしてくることはなかった。

「この時期にいらっしゃる方はなかなか珍しいのでね。本日はお友達でご旅行ですか?」

 手際よく作業しながら、機嫌良さそうにそう尋ねる女将さん。私はいつものように「そうですね」と答えようとして、一度口を噤んだ。

 そして、首を振ってから答える。


「いえ、新婚旅行です」


 広縁の方で、小さく物音がする。女将さんは驚いたように目を丸くしていたけれど、すぐに目を細めてにこりと微笑んでくれた。

「左様ですか。そんな大事な旅行の行き先に選んでいただいて光栄です。どうか、今後ともお幸せに」

「はい、ありがとうございます」


 配膳を終えて出ていく女将さんにお礼をいい、足音が聞こえなくなってから、私は広縁に向かって声をかける。

「ミカン、もう出てきて大丈夫だよ。ご飯食べよ」

 すると、ミカンが恐る恐る広縁から顔を覗かせた。頭にタオルをかぶって、端を握りしめている。万が一に備えて耳を隠していたのだろうが、あまりにもポーズが可愛すぎる。無言でスマホを向けてパシャリと撮ると、おいと短く怒られた。

 なんだか顔が赤いミカンに「どうしたの?」と聞いても、「なんでもない」と誤魔化されてしまい、私は肩をすくめながら料理の前に腰を下ろした。向かい合って座るミカンはまだぶつぶつと、「なんであんな、ストレートに……」と文句を言うように呟いている。

「もー、ほら食べよ食べよ」

「むぅ……そうだな、頂こうか」

 ミカンを促して、「いただきます」と手を合わせてから、私たちは箸を手に取った。どれから食べようか散々迷ってから、私は素敵な照りを放つ煮付けから食べることにした。

「ん、このお魚の煮付け美味しいねぇ!」

「これか? ……おぉ、確かに美味いな。今度家でも作ってみようか」

「やったー! 楽しみにしてるね!」

 色んな品を食べる度にそんな会話をしながら、私たちはあっという間に平らげていった。


 結構量があったのに、全部食べてしまった。丸くなったお腹をさすりながら、座椅子に背を預けて寛ぐ。お膳ももう下げてもらったし、あとはのんびりするだけだ。ミカンも私の肩に頭を預けてぼぅっとしている。

 窓の外に目を向けると、もうすっかり暗くなっている。ちらりと見える星空に、胸が高鳴った。

 私は「よし」と声を出しながら座椅子から立ち上がる。ミカンは頭を持ち上げて、少し眠たそうな目で私を見上げた。お疲れのようだけれど、メインイベントはこれからなのだ。

 ミカンに手を差し伸ばして私は言った。

「本物の温泉、入りにいこっか」

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