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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第3章
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君が構ってくれないから

 ――つまらない!

 私はソファの肘掛に頭を預けて横になり、リビングの天井を仰いでいた。

 昼食の後片付けも終わったし、買い物や掃除は午前中に済ませてしまった。この前買った小説もつい昨日読み切ってしまったし、何かテレビや動画を見る気分でもない。

 なにより、林檎がまったく構ってくれない!


 私の足を避けるようにソファの端に座っている林檎は、私が視線を送っても気づきやしない。試しに爪先で林檎の太ももをえいとつついてみたが、やはりなんの反応も返ってこない。

 こうなっている理由は分かっている。読書に集中しているからだ。

 私が昼食の後片付けを終えてソファに来た頃には、もう既に本の世界に没入しているようだった。私がこうしてちょっかいを出しても反応してくれないまま、小一時間は経過している。

 勿論、林檎にだって自分の時間は必要だ。私に構わず読書に集中することは別に責められたことではない。そのくらい分かってはいる。

 それでも私がこうして不満を顕にしているのは、林檎が熟読しているそれを書いたのが、あの春野桃だからだ。

 春野桃は学生時代からの親友らしいが、今は新進気鋭の小説家として活躍していて、その最新作が最近発売されたらしい。

 親友の活躍が喜ばしいのは結構だが、以前春野桃より私の事の方がずっと大切だと言っていたくせに、私を無視してまで集中しているのは気に食わない。

 そんな恨みを込めながら、延々と林檎の太ももを足裏でこねくり回していた。それでも、林檎が私に構ってくれることは無い……。


 と思っていたが、私はふと気がついた。

 いつの間にか林檎は本を顔の高さまで上げ、顔を隠すように覆っていた。心做しか肩も小刻みに震えている。まるで、笑いを堪えているように。

「……もしかして、わざと無視してたな!?」

 私がそう叫ぶと、林檎は堰が切れたように笑いだした。

「ごめんごめん、ミカンの構ってちゃんアピールが可愛いんだもん」

 林檎は笑っているが私は面白くない。まさか林檎が私のことをわざと無視するなんて……全くもって面白くない!

 私はクッションを抱き寄せ、顔を覆うように抱きしめる。もう知らない、このまま不貞寝してやる。

 そう思っていた矢先、膝あたりに優しく手が添えられた。ちらとクッションの端から覗き見ると、林檎が眉尻を下げて微笑んでいた。

「ごめんってミカン。ほら、構ってあげるから。おいで」

 そう言って私に向かって両腕をこちらへ広げてくる。やっと私を見てくれて嬉しい気持ちと、まだ許したくない気持ちがせめぎ合うが……構ってほしさが勝ってしまった。

 我ながら単純すぎて、少し恥ずかしくなる。

「……そんな簡単に機嫌を直すと思うなよ」

 素直になりきれずそんな風に不貞腐れた振りをしながらも、私は勢いよくその大好きな腕の中へ飛び込むのだった。

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