君がこの世で最優先
暖かな陽射しを浴びながら、私は愛しのミカンと手を繋いで街中を歩いている。
普段休日は家でのんびりすることが多いが、たまには身体を動かそうということで、運動がてらお買い物に繰り出したのだ。ミカンはしっかり帽子とロングスカートで耳としっぽを隠し、相も変わらず車道側をしっかりキープしてくれている。
しかしいざ街中に来たものの、特に目的を決めていなかった。私はミカンの肩に頭を寄せ、上目遣いに尋ねる。
「ミカン、何か欲しいものとかある?」
「うーん、日用品は平日中に買ってあるから特には無いな。林檎は?」
「じゃあお洋服でも見に行こ〜!」
そんな感じでゆるりと行き先を決め、繋いだ手を陽気に振りながら私達は歩き始めた。
行きつけのアパレルショップにて、のんびりと店内を散策する。
時折気になった服を手に取っては、お互いに鏡で合わせたりしてこれが似合う、こっちも可愛い、などと二人で服選びを楽しんでいると、不意に私のスマホがヴーッと震えた。
ちらと通知を見ると、会社の同期からのメッセージだった。
「どうした、林檎」
スマホを覗き込んでくるミカンに、手短かに返信を打ちながら答える。
「んー、なんか参考書貸してほしいって」
確かに以前仕事中に、参考書を持っているという話をした気がする。休み明けに持っていく旨を返信して、スマホをポケットにしまい込む。
「ごめん、おまたせ」
「ん」
気を取り直してショッピングを再開するが、心做しかさっきよりもミカンが私の腕に密着している気がする。大方拗ねているんだろうが、そんなところも可愛い。私からもぎゅっと手を強く握り肩を寄せると、分かりやすく表情が明るくなった。
なんて愛おしい同居人なんだろう。
結局お互い3点ずつくらい服を購入して、私達は店を出た。
カフェにでも行ってお茶しようかと歩きながら話していると、またもや私のスマホが小刻みに震え出した。このバイブレーションは、メッセージの通知ではない。ミカンに「ごめんね」と断って繋いでいた手を離し、スマホを取り出すと、先ほどの同期だった。
休みの日に何度もなんなんだ、と内心むかっとしながらも電話に出る。ちらとミカンの顔に目をやると、あからさまに顔をむすっとさせて機嫌が悪そうだ。
「はい、もしもし」
私は電話に応対しながら、ミカンの方に向き直り、荷物を手首に下げて空いた手のひらを差し出す。
「うん、いや、それは今度の月曜に――」
ミカンはその手を取り、退屈そうに手のひらを揉んだり握ったりしてくる。
「え? いや別にお礼とかはいいから――」
中々電話を切ろうとしない同期にヤキモキしていると、ミカンが私の空いている方の肩にぽすんと頭を預けてきた。
そして、子供のように拗ねた顔で私を上目遣いで見つめてくる。そのあまりに愛くるしい表情に、私の胸が撃ち抜かれる音がした。
なおもお礼に今度ご飯行こうだのと話を続けようとする同期に、私は言い切る。
「ごめんね、今デート中だから。また月曜に」
戸惑いの声をあげる同期を無視して通話を切る。ミカンも驚いたように私の肩に顔を乗せたままこちらを見あげている。そっとその頬に唇を落とすと、ミカンは顔を赤くしてそそくさと姿勢を戻した。
「待たせてごめんね。ほら、デート続けよ」
そう言って再び手を差し出すと、ミカンはまだ照れたようにおずおずと握り返してくれる。指と指を絡めて恋人繋ぎにして、ミカンと肩を寄せた。
「……たまに、林檎かっこよくなるよな」
「え!? ミカンの方がずっとかっこいいと思うけど」
「そんなことは……というかいいのか? デートなんて言い切って」
今まで会社では恋人がいるような発言はしていないことをミカンは知っていたから、心配そうに聞いてきた。私は「んー」と少し考えて答える。
「うん、いいかな。ホントのことだもん」
ミカンは私のペットで、同居人で、家族で、恋人だから。
言い切ってしまった方が今後また変に誘われることもないだろうし、ミカンとの時間を遮られるなんてことは少ない方がいい。
ミカンとの時間が何よりも最優先なのだから。
「私にとってこの世で一番大事なのはミカンだもん。デート、邪魔されたくないしね」
「そうか……そうか」
凛々しい顔が緩みきっているミカンを愛おしく思いながら、その手を強くぎゅっと握る。そしてお互いに肩を寄せ合いながら、賑やかな街を再び歩き始めた。




