君の耳に注ぐ慈愛
真っ暗な寝室には、時計の針が時を刻む音が響いている。
胸元の温もりを抱きしめながら、私はぼんやりと目の前のつむじを眺めていた。少し鼻を近づけて息を吸えば、普段よりシャンプーの香りが、そしてミカン自身の匂いも強く感じられた。
何故ならば、先程まで運動をしていたからだ。ベッドの上で。夜の運動を。だから汗をかいているし、その分匂いがむせ返るように漂っている。
不意に、耳でペシペシと顔を叩かれた。
「おい、匂いを嗅ぐな」
「無理なお願いだね……めっちゃミカンの匂いが強いから、嗅いじゃう」
「汗臭いだろ……」
「汗っていうかミカンの匂い。私、シたあとのミカンの匂い大好き」
「……バカ」
そんな他愛もないやり取りをし、不貞腐れたように私の胸に顔を埋めるミカンの頭を慰めるように撫でる。実際は不貞腐れてるフリを私に甘えてるだけなのは、掛け布団の下で暴れている尻尾でバレている。可愛いから黙ってるけども。
ミカンの後頭部を撫でながらも、相変わらず私の顔面へ攻撃を続ける耳に、好奇心からふーっと息を吹きかけてみた。
「ひゃんっ!?」
ミカンの身体がビクリと大きく跳ね、頭頂部が私の顎に直撃し二人で呻き声を上げる。ミカンの可愛らしい声を聴けた嬉しさと、顎の痛み。プラマイゼロ、いや、やや痛みが勝る。
「……ミカン、昔から耳めっちゃ弱いよね」
「分かってるならやるなよ……」
振り絞るようなその叱責をスルーし、私はめげずにミカンの耳を裏側から優しく擽るように撫でる。先程の痛みを上回る可愛さを摂取しなければ釣り合わない。今度はミカンの頭が動かないように片手で抑え、もう片手で耳を可愛がる。
漏れ出る声を押し殺そうとしているのか、ミカンはさらに強く私の胸に顔を押し付けてきた。荒い息がくすぐったい。
「耳、よわよわだねぇ。可愛いねぇ」
「ひぅ、やめ……っ」
震える耳に口を近づけて囁いてみれば、想像通りの声が胸の中に零れた。私はここぞとばかりに、追い打ちをかける。
「息荒いよ、感じてるの?」
「さっきまでシてたもんねぇ、いつもより反応しちゃうねぇ」
「声、我慢できてないよ? 可愛い声出ちゃうね」
「可愛い。大好き。愛してるよ」
だんだん楽しくなってきた私が調子に乗っていると、急に肩をぐいと押しのけられる。そしてそのまま私は仰向けに転がされ、ミカンに押し倒されてしまった。
私を見下ろすその顔は真っ赤で息が荒く、表情に余裕は一切感じられなかった。
「……やめろと言ってやめないなら、やり返されても文句ないよな」
ぐいと近づけられるその愛しい顔に、胸の鼓動が早くなるのを感じる。
「あは、いいよ、ミカンになら好きにされて」
「……あとで泣き言を言うなよ」
耳に歯が当たる。暖かな舌が、艶やかな吐息が私の耳を刺激する。
夜は、まだ長い。




