君で満たされた人生
お久しぶりです
日差しの暖かな昼下がり。私の膝に頭を乗せてうとうとしているミカンの顔を眺めていて、ふと、私の学生時代はミカン一色だったなぁ。と昔の記憶が掘り起こされた。
小学生の頃は、
『林檎ちゃん、皆で放課後公園で遊ぶんだけど、くる?』
『ううん。ミカンと遊ぶ』
『ミカンって誰?』
『ペットのワンちゃん』
『ふーん』
中学生の頃は、
『林檎、明日お出かけしない?』
『んー、いいかな』
『そっか……やっぱりミカンちゃんと遊ぶの?』
『うん! 桃も来る? ミカン可愛いよ!!』
『う、うーん。遠慮しておくよ』
高校時代……、
『鈴木さんってさ、その、好きな人とか……』
『いるよ?』
『っ! だ、誰……?』
『これ! ペットのミカン! 可愛いでしょ!!』
『えぇ……』
大学時代でさえも……
『鈴木さ~ん、今日合コンあるんだけど――』
『ちょっと、鈴木さんそういうの来ない人だから』
『あ、そうなの? ごめんね~』
『ううん、大丈夫~』
いやぁ、我ながら人付き合いを蔑ろにしすぎた学生時代だった……。
ミカンの癖のついた前髪を優しく撫でながら、私は過去の行いを大いに反省する。が、仕方がないことだったとすぐに割り切った。
だって、ミカンが可愛すぎるから!
私に尻尾をブンブン振って甘えてくるミカンが可愛かったから!!
あんなに可愛くて天使なペットがいるのに、遊びになんて行ってらんないもん!!
まぁミカン曰く、私が放課後に友達と一切遊んでなかったせいで、お母さんには心配をかけてたみたいだけど……。
「んん、林檎、そんな変な顔してどうした……」
眠そうな半開きの目を私に向け、緩んだ口調でそう訊ねてくるミカン。その可愛さに胸を撃たれつつも、私はミカンの髪の毛をわしゃわしゃと撫で回しながら答える。
「んーん、今日もミカンが可愛いなぁと思って」
「ふふ、そうか」
と、嬉しそうに頬を緩ませてるミカン。なんだこの可愛い生き物は。
お昼寝モードのミカンはふにゃふにゃしてて、普段と違う表情が見れる。これはまだミカンが狼だった頃から変わらない。
休みの日とか、ミカンがお昼寝するかもしれないから、ずっとミカンの傍にいたかったんだよなぁ。可能な限りミカンの傍にいて、眺めて、可愛がっていたかった。
「ねぇミカン」
「んん……? なんだ?」
私は言葉の代わりにミカンに微笑みかける。すると、ミカンもふにゃりと笑顔を私に向けてくれる。
この稀にしか見れない笑顔が、私は大好きだ。
「今ね、私の人生、ずっとミカンだらけだなぁ。って思ってたの」
唐突にそう打ち明けると、ミカンは少し驚いたように目を見開いたが、すぐにまた閉じて私のお腹に額をぐりぐりと押し付けてくる。そして、
「悪いが、林檎はまだまだだな」
と勝ち誇ったように鼻を鳴らして見せた。私がその謎な態度に首をかしげると、ミカンは得意げに言って見せた。
「林檎は学校やら会社やらがあるが、私には林檎しかいない」
少し前まで寂しそうに言っていたその台詞は、今となっては寂しさをかけらも感じさせなかった。
「だから、私の人生は林檎100%なんだよ」
私を見つめながらそう言い切るミカンだが、私は思わず笑ってしまった。
私が笑い出したのが不服だったのか、ミカンが頭を強く膝に押し付けてくる。なんで笑うんだ、と訊いてくるミカンに、私は素直に説明した。
「だって……りんご100%って、すごいジュースみたいじゃない」
一拍静寂が広がり、顔を見合わせていた私達は、こらえきれずに同時に噴き出した。
「あっはははは! 確かに、ジュース、だな!」
「でしょ! あははは、はぁ、あははは!」
くだらないことだけれど、こうしてミカンと笑って過ごせているだけで、私の人生は大いに幸せだ。
私には会社もあるし人付き合いもしなければいけないけど、それでも、私の心の中はいつでもミカン100%だ。
「あー、面白い。眠気もすっかり飛んでったよ」
「あはは、じゃあお出かけでもする?」
「お、いいな」
「よし、じゃあ支度しよっか!」
これからも絶え間なく、私の人生をミカンで満たしていこう。




