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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第2章
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君は私のもの

 林檎はよく、唐突な提案をしてくることがある。小さい頃からも突拍子もない発言をしてよく親を困らせていたし、同居してずいぶん経つので私もそれに慣れていた。慣れたつもりでいたのだが……。

「ミカンにキスマーク付けたい」

 流石にこの提案には、咄嗟に言葉を出すことができなかった。


 ◆


 夕食も風呂も終え、あとは寝るだけの二十三時。ベッドの上で私は料理のレシピ本を読み、林檎は私の肩に頭を預ながらスマホをいじっていた。肩に乗っかる温もりに幸せを感じながらレシピを眺めていたら、林檎が唐突に提案してきたのだ。

「ねぇ、ミカン」

「ん、どうした」

「ミカンにキスマーク付けたい」

 真顔で、至って真剣な口調で、林檎はそう言った。キスマーク。キスマークって、あれだよな。

 林檎は私の顔を覗き込みながら、真っすぐにこちらを見つめてくる。普段だったらそのまま見つめ返すか、キスの一つや二つするのだが……今しがたの発言のせいで、私は硬直してしまう。

「キ、キスマークか? どうしたんだ急に」

 なんとか声を振り絞ってそう訊ねると、林檎はスマホに視線を落として理由を述べた。

「キスマークって、自分のものだって証みたいな感じじゃん。だから、ミカンに付けたいなーって」

 純粋な笑顔を浮かべて、林檎はスマホの画面をこちらへ向けてくる。そこには、キスマークを付ける心理などの解説が書かれていた。なるほど、これを見て付けたくなったと。なるほど。

 理由は分かったが、いざ付けたいと言われるとどうにも恥ずかしい。どうしたものかと悩んでいると――


「ちゅぅぅ~」

「あっ、ま、待てっ、ちょ、林檎!」


 私の返答を待たず、林檎が私の首元に顔を埋めてくる。そして、強く私の肌に吸い付いてきた。林檎の唾液で肌が濡れ、より唇と密着する。強く吸われるその感覚に、思わず身震いしてしまう。

 止めようと林檎の肩を掴むも、林檎は頑なに離れようとしない。構わずに私の首元を吸い続けている。

 酷く長い時間が経ったように感じたが、実際には十数秒程度だろう。

 漸く顔を離してくれた林檎は、満足そうに微笑みながら唇をぺろりと舐めた。その仕草に自分の顔が熱くなるのが分かる。


 ベッド脇の手鏡を取って首筋を見ると、それはもうくっきりと痣が出来上がっていた。キスマークというよりも、吸引性皮下出血と言った方がしっくりくるような濃さだ。

「これで、ミカンは私のものだね」

 林檎はにこにこしながら私に抱き着き、そう言った。

 こんなことをしなくても、私はこの先ずっと林檎のものなのに。自分のものだという証を、独占欲の証を付けたいのは、むしろ私の方だ。私には林檎しかいないけど、林檎は、そうじゃないから。

「私は心配ないが、林檎は心配だな。新田苺もいるし、今度昔の友達と会うらしいし」

「……じゃあ、ミカンも証、付ける?」

 身体を離し、両手を広げて私を誘う林檎。その誘惑に誘われるように、私は――


 ◆


「あら、鈴木さん首筋どうしたの?」

 新田先輩に声をかけられ、私は首筋に張った大きめの絆創膏に手を添える。

 寝て起きても消えなかった、くっきり残った、独占欲。思わずにやけそうになるのを堪えながら、私は落ち着いて微笑んで答えた。

 

「飼い犬に噛まれただけですよ」

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飼い犬に噛まれたが本当のことってあるのか……
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