君が隣にいることが
行きつけのスーパーマーケットを、夕飯のメニューを考えながら歩き回る。
(今日は野菜が安い日だから、多めに買っておこう。あと調味料も減ってきてるから……)
「苺さん苺さん、今日餃子にしません? 冷凍食品コーナー見てたら食べたくなっちゃいました」
買うものを真剣に考えていた私の元へ歩みより、そう言いながら朗らかな笑顔を浮かべる彼女。その手にはお徳用の冷凍餃子を持っていた。私は数々の野菜から目線を上げ、彼女にわざとらしく溜息を吐いて見せる。
「あのね、今日は野菜が安いから、野菜を使って――」
「じゃあ野菜も買って、今日は餃子にしましょ!」
「……桃って割と頑固よね」
ここ数か月ですっかり私の家に入り浸るようになった彼女―桃とは、もう気を使わない程度の仲になった。というか、なってしまった。
桃はほぼ毎日私の帰宅に合わせて私の家にやってきて、一緒に夕飯を食べ、週末は泊まりさえしている。今日は買い物をしてから帰るとメッセージを送ったら、一緒に行くと言ってスーパーで合流したのだ。
それにしても、きっかけはただ道案内をしただけだというのに、何故こんなにも私に懐いたのだろうか。今までの彼女でさえ、こんなに家に上げてはいない。
そしていつの間にか、そんな彼女を私は拒むことなく受け入れてしまっている。
「ほんと、遠慮がない子ね貴女は」
「えー、ちゃんと夕飯は交代で作ってるし、食費も払ってるじゃないですか」
「そういうことじゃなくてね。大体、今日の当番は私でしょう」
「じゃあ今日は私が作りますよ!」
「作るって、ほとんど餃子を焼くだけじゃない……。分かったわよ、もう」
やったぁ。と桃は無邪気な笑顔で、私の持つ買い物籠に餃子を入れた。彼女は出会った頃とは打って変わって、我が儘をよく言うようになった。遠慮の要らない仲、というより、彼女に気を遣うの必要性を感じなくなってしまったのだ。だから”春野さん”から”桃”と呼び捨てに変えたわけだが、結果的に桃はそれを喜んでいた。
「最近苺さんが優しくしてくれるから嬉しいです。すっかり呼び捨ても定着しましたし」
「優しくしてるんじゃなくて、諦めてるだけ。自惚れないの」
「またまた~照れないでくださいよ」
桃はいつもならここで私の腕を指で突いてくるが、今はお互い買い物袋で手が塞がっているため、軽く肩を私に当ててきた。
桃はよくこうしてちょっかいを出してくる。成人している割には幼い性格だから、もしかしたら私は放っておけないのかもしれない。だから、こうして関係を受け入れてしまっているのではないか。
(実は一緒にいて居心地が良い、っていうのは、調子に乗るから黙っておきましょう)
隣を歩く桃の楽しそうな笑顔を見て、私は自然と頬を緩ませていた。いつも明るくて無邪気な桃が傍にいると、こちらも釣られて元気になってしまう。仕事疲れも、もう薄れてきている。
「あれ、やっぱ苺さん嬉しいんですか? 顔にやけてますよ」
「失礼ね、にやけてなんかないわよ」
私は桃の頭を小突き、彼女はえへへと笑いながら私に肩を当ててくる。
それから、桃が振ってくる下らない話題に付き合いながら、二人肩を並べて夜道を歩いた。




