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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第2章
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君を魅了するもの

 窓から見える星空に得も言われぬ魅力を感じ、心を奪われてしまう。

 私はベッドに横になったまま、手にしていた本を閉じて暫くその星空を眺め続けた。何故だろう。綺麗なようで、どこか寂しさも感じる。そんな星空に、私の視線は釘づけだった。

「林檎お待たせ。電気消すぞ――って、どうした。ぼうっとして」

 寝室にやってきたミカンに声を掛けられて、私は漸く星空から意識を外し、不思議そうに首をかしげるミカンに顔を向けた。普段は髪を後ろで一つに結っているミカンだが、寝るときは結わずに下ろしている。肩辺りまで伸びたグレーアッシュの髪の毛を揺らしながら、私の隣に寝転がりこんできた。

「んーん、星空が綺麗で眺めてただけだよ」

「あぁ、確かに綺麗だな」

 私の返事で窓へ視線を向けたミカンも、納得したように優しい微笑みを浮かべた。

 消すぞ。と言って、ミカンはリモコンで部屋の照明を豆電球に切り替えた。薄暗くなったベッドの上で、ミカンの体温を真横に感じながら、私はもう一度窓の外へ想いを馳せる。


「……ねぇ、ミカン」

「なんだ」

 寝返りを打ってこちらへ顔を向けたミカンは、眠そうに一つ大きなあくびをした。

「今日は豆電球じゃなくて、真っ暗にしてもいい?」

「いいけど、林檎は真っ暗じゃ怖くて寝れないんじゃないか?」

「それ何年前の話? もう大丈夫ですー」

 ミカンは反論する私をまるで子供をあやすように、分かった分かった。と頭を撫でて微笑みを浮かべた。小学生の頃からずっと一緒に居るからか、ミカンからすると私はまだ少し子供っぽく見えているようだ。おじいちゃんが高校生の孫に対して、小学生を相手しているように接するような、そんな感じ。

「林檎ももう、すっかり大人だもんな」

 だからミカンは、私が大人であることを主張する時、いつも子供を見るような目で微笑むのだ。

 豆電球を消すと、隣のミカンの表情でさえ曖昧になり、私は布団の中でミカンの手をぎゅっと握った。

「ふふ、やっぱり怖いのか」

「違います、手繋ぎたくなっただけです」

「そういうことにしといてやる」

 違う。と言っているのに、ミカンは私が怖がっていると思い込んで、クスクスと笑いながら頭をぽんぽんと撫でてくる。

「なんで、真っ暗にしたかったんだ?」

 ミカンに胸元に顔を埋め、されるがままに頭を撫でられていると、そう静かに訪ねられる。私は顔を上げ、暫く窓の外に目をやってから答えた。

「真っ暗にした方が星空が綺麗に見えるかと思って」

 再びミカンに抱き着いて身体を密着させる。ミカンの鼓動が直に伝わり、胸元に顔を埋めてそのリズムに身を委ねる。

 いつも使っている、我が家のボディソープの甘い匂い。電子煙草に変えてからやや薄れた、ミカンの煙草の匂い。胸いっぱいに香りを吸い込むと、深い安心感に包まれる。

「で、星空は眺めなくていいのか」

 ミカンにそう言われもう一度星空を眺めてから、やはりミカンの胸元に顔を戻す。

「星空よりも隣の同居人の方が、私を夢中にさせるみたい」

「当たり前だろ。私がどれだけお前の事を大事にしてると思ってるんだ。たかが星なんかに負けてたまるか」

「えへへ、大好きだよミカン。いつもありがと」

 暗闇の中で隣のミカンの表情は見えないけど、私が大好きないつもの笑顔を浮かべた気がした。

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