君と赤面と火照る身体
身体が熱い。火照って仕方がない。
「ん、はぁ……」
そんな私を、ミカンは悪戯っぽい微笑みを浮かべて眺めている。
「んんっ……!」
慣れない体感に、私は悶えている。
「ミカン……私……っ」
声が、吐息が震える。視界が滲む。涙が一滴頬を伝った。
「私っ、もっ、無理……」
熱を抑えきれない自分の身体を抱き、私はミカンに訴える。ミカンは柔和な笑みを浮かべて、その綺麗な手を私に伸ばした――。
「だからやめとけって言ったんだ」
「だって美味しそうだったんだもん、この担々麺!!」
コップに注いだ冷たい緑茶を一気に飲み干し、私はからかうように笑っているミカンに抗議した。
◆
今日は久しぶりに外食しようかとミカンに提案された私は、たまにはカップ麺を食べたいと思いスーパーに向かった。
「カップ麺久しぶりだなー、何にしよう」
「随分嬉しそうだな」
私が鼻歌交じりに棚を眺めていると、隣のミカンが少し不服そうに私の頬を指で突いくる。カップ麺にまで嫉妬するとは……まぁそこも可愛くて好きだけど。
「勿論ミカンの手料理の方が好きだけど、やっぱりたまにはこういうジャンキーなのも食べたいんだよ」
だから落ち込まないで、と背伸びをしてミカンの頭を帽子の上から撫でてあげると、ミカンは照れてすぐにそっぽを向いてしまう。相変わらずの照れ屋だ。なんて可愛いんだろうか。
そんなミカンの機嫌を取るために手を繋ぎつつ、改めて棚一面のカップ麺の中からお昼に食べる品を選ぶ。
どれも美味しそうだが、その中でも特に私の目を惹いたのは――
「これにしよっ!」
「それは……担々麺か」
私の手元を覗き込んだミカンは意外そうに呟き、少し考えてから
「林檎、小さい頃から辛いの得意じゃないだろう。やめといた方が良いんじゃか?」
と心配そうに眉をひそめた。
「大丈夫だよ、私もう大人だし!」
自信満々に答えた私は、得意げな顔をしながら買い物かごに担々麺を入れた。
そう、私も立派な社会人になったのだ。辛いラーメンくらい朝飯前だ、多分。これ、お昼ご飯だけど。
◆
「”大丈夫だよ、私もう大人だし”」
「ねぇ真似しないでよ!」
ミカンはスーパーでの私の言動をわざとらしく真似、くすくすと笑う。私は恥ずかしくて赤くなった顔を隠すように、ミカンと交換してもらった塩ラーメンを啜った。
それにしても、ミカンはよく平気で食べられるなぁ……。目の前で涼しい顔をしながら担々麺を淡々と食べるミカンをじっと眺め、感心する。辛いものを平然と食べるその様は私の目に格好よく映り、思わず箸を動かす手が止まってしまう。
「……なんださっきから。こっちじっと見て」
ミカンは私の方を怪訝そうに見遣ると、すぐにまた麺を啜り始める。
「んーん。やっぱりミカン格好いいなって思ってただけ」
「っぐ!?」
次の瞬間ミカンがむせてしまう。顔も真っ赤だ。私はそれが可笑しくって、さっきの仕返しのつもりで悪戯っぽく尋ねてみる。
「それは辛いの? 恥ずかしいの?」
「……今日の夕飯覚悟してろよ」
結局、その日の夜は激辛麻婆豆腐がたっぷり食卓に並んだ。