君の眠り姿につい
なんということでしょう。私は仕事用の鞄を静かにカーペットに下ろすと、目線の先の女神へそっと近づく。
「……んん……」
私が仕事から帰ってくるると、ミカンがソファで気持ちよさそうに寝ていた。いつも通り退勤時の報告をしたにもかかわらず反応が返ってこなかったので急いで帰ってきていたら、ただ寝ていただけのようだ。
ミカンの無事に安堵すると同時に、その愛おしい寝顔で私の幸福度は跳ね上がっていた。
「可愛い……!」
いつもは私が帰ると玄関まで出向いてくれるミカンだけど、今日は眠気に耐えられなくてソファで眠ってしまったのだろう。それでも夕ご飯の支度はきちんと終わっているあたりミカンらしい。
起こすのも悪いし、取りあえず先にお風呂入ってこようかな。そっとグレーアッシュの髪の毛を一撫ですると、私は物音を立てないようにリビングを後にした。
お風呂から上がってリビングを覗くと、ミカンは変わらず気持ち良さそうに寝息を立てていた。傍によると、寝息に合わせて鼻が小さく動いている。それが可愛くて、悪戯心が芽生えた私はそれをちょいと指でつついた。
「んぅ……」
鼻先にくすぐったさを感じたのか、ミカンは顔をしかめて身をよじる。そのせいで、シャツがめくれて白いお腹があらわになってしまう。風邪をひいてしまうといけないので、シャツを直そうとするが、私はその手を思わず止めた。
ミカンのお腹は無駄な肉がなく、引き締まっていて美しい。さらに適度に割れた腹筋は、私の目を釘点けにしてくる。なんて綺麗なお腹なんだろう、と、私はミカンの裸を見るたびに心の中で感嘆していた。しかしミカンは恥ずかしがり屋のため、不用意にお腹を褒めたり触れたりしようものならば、すぐ真っ赤になってそっぽを向いてしまうだろう。だから今まで心の奥底に秘めていたのだ。
だけど、今ならば。
「ミカン……」
私はそっと、白く美しいお腹に手を伸ばす――。
「……なにしてるんだ」
「ひゃいっ、ごめんなさい!!」
不意に開かれたその口に私は思わず飛び上がった。少し頬を赤く染めたミカンは身体を起こし、こちらを怪訝そうにじっと見つめてくる。お腹周りには手があてがわれ、しっかりとガードされてしまった。
私に注がれる猜疑の視線から逃れるように、私は冷や汗を流しながら寝室へと逃げ出した。
「まさか寝込みを襲うほど欲求不満だったとは……」
「だからごめんって! 別に欲求不満なわけでもないし!」
怒ってるのか恥ずかしいのか、こちらを決して振り返らずに料理を温めなおしているミカンに、何度目か分からない謝罪をする。いい加減に機嫌を直して欲しいが、非があるのは私なので大人しく待つしかない。
ミカンが漸く振り返ったときには頬の赤身は消えており、湯気の立つおいしそうな料理が食卓に並べられた。
「ほら、早く食べるぞ欲求不満」
「あれ、まだ怒ってる!? あと欲求不満じゃないって!」
私は強めにそう否定したが、ミカンは「へぇ」と言って私に顔をぐいと近づけてきた。
「折角お前の好きな腹触らせてやろうと思ったのにな」
その意地悪な笑みに、私の意志は脆く崩れ落ちた。
「……欲求不満なので、触らせてください」
「ん。じゃあ、夜に、な」
その日の夜は普段の五割増しくらいで触った。




