君の眼中に私はいない
「――ご、りんご、林檎! ねぇ話聞いてる!?」
私は自分を呼ぶ声にはっと顔をあげると、向かいの席では友人である春野桃がむすっと頬を膨らませながらお弁当を食べていた。スマホ画面に集中しすぎて桃の声が耳まで届いてなかった。素直に謝ると、桃は拗ねたように頬を膨らませ、唐揚げを口に放り込んだ。
「まったく林檎ってば、何度呼んでも反応しないんだもん。そんな熱心に何を見てるの?」
「ごめんごめん。お母さんからミカンの動画送られてきてさ」
画面にはリビングで昼寝をしているミカンの姿が収められた動画が延々リピートで流れている。桃の話を聞き流しながら五分位ずっとこれを見ていた。桃は私のスマホ画面を覗き込むと、呆れたように溜息を吐いた。
「ミカンって……林檎のペット? ペットなんて家帰れば見れるでしょ、私の話聞いてよ!!」
桃は何やらクラスの中に気になる相手がいるらしく、その相手とどうすれば恋人になれるか相談に乗ってほしいらしい。中学生なのにもう恋人を作ろうとしてるなんて、桃は進んでるなぁ……それとも私が遅れてるのかな?
顔をかすかに赤く染めながら恋語りをする桃、それを聞きながらこっそり私はまた画面の中で寝息を立てるミカンに視線を注いだ。
「でね、その……気になる人はペットのこと大好きで、それはいいんだけど、どの友達よりそのペットの方が好きというか――」
「へぇー、大変だねぇ」
「……ほら、そういうとこ」
「え?」
私の生返事に対するその小さな一言に違和感を感じて顔を上げると、少し悲しそうに眉をひそめた桃が私をじっと見つめていた。今のはどういうことか訊ねようとしたが、桃は廊下から友達に呼ばれて席を立ってしまった。まぁまだお弁当を食べてる途中だからすぐ戻ってくるのだろうけど……。
私はさっきの桃の表情をもう一度頭に思い浮かべてしばらく惚けてから、お弁当を食べる手を再び動かし始めた。
なんで桃はあんなに悲しそうにしていたのだろうか、ミカンの寝顔をガン見してたから話をきちんと聞いていなかった……。いや、だから悲しそうにしていたのか。確かにあれは良くなかった。いくら親友だからと言って無視したり聞き流すのは、親しき中にも礼儀ありというものだ。
(戻ってきたらちゃんと謝んないとな……)
桃が戻ってくるのを待ちながら、私は反省の意を込めてスマホをポケットにしまって弁当を食べ進める。
◆
「――え、鈴木さんまだ気づいてくれないの?」
「うん……ペットのワンちゃんの動画に夢中で聞いてくれない……」
桃は自分を呼んだ友人と廊下で壁に寄りかかりながら話していた。
「あー、鈴木さんのペット愛の異常さは、他クラスでも有名だしね……。男子からも人気高いのに、ペット以外興味なさそうだし……」
友人のその言葉に、桃は俯いてしまう。桃が林檎に想いを寄せて長いが、今のところその想いが伝わったことは一度もない。
桃は深く溜息を吐いて、頭の中に林檎の笑顔を思い浮かべた。
願わくば、いつか、この想いが伝わりますように――。




