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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
36/107

君のことが知りたくて

 今日も変わらず彼女は可愛い。

 私は少し離れた席で熱心に仕事をしている鈴木さんを眺め、キーボードを叩いていた手を止めた。見る限りきちんとしたお化粧をしていないようだが、それであの可愛さはどうなのだろうか。実はそれが原因で、彼女は女子社員たちからの反感を買っていた時期があった。勿論私があの手この手で宥めて、陰湿ないじめなどへの発展は阻止したが。

 手元のパソコンに真剣な視線を送っている鈴木さんから視線を外し、壁に掛けられた時計で時刻を確認する。

 十二時手前、もうじき昼休憩の時間だ。

 私は立ち上がり、鈴木さんの席へと向かった。彼女は近づいてきた私を見つけると、その子犬のような可愛らしい目で私に微笑みかけた。そんな顔されたら勘違いしてしまいそうだ。彼女に同居人がいることはもう明らかだが、その間柄はまだ不明だ。兄弟姉妹か友人ならまだ私にもチャンスはあるが、彼氏だった場合はもう手遅れだ。

 それでも可能性にかけて、私は今日も彼女を昼食に誘う。

「鈴木さん、一緒に食堂行かない?」

「喜んで! 今日は私お弁当なので、先に席取っときますね」

 そう言って嬉しそうに弁当を鞄から取り出す彼女は、鼻歌交じりに「今日はハンバーグ~」と口ずさんでいる。そのハンバーグも、やはり同居人に作ってもらったのだろうか。以前は私と同じく食堂か、もしくはコンビニ弁当だったのだが。

「お弁当嬉しそうね。誰に作ってもらってるの?」

 食堂への道のりで、私は思い切ってそう訊ねてみた。その返答は、眩しい笑顔とともに返ってきた。

「同居人が月水金はお弁当作ってくれるんです。食堂もいいけど栄養管理しやすいからって」

「そうなの、優しい人ね」

 違う、私が聞きたかったのはそうじゃない! その返答では私の中の情報は一切更新されない。その同居人が家族なのか友達なのか、はたまた恋人なのか、私が知りたいのはそういう情報なのだ。

 まぁ仕方がない。鈴木さんにばれないようにこっそり肩をすくめ、暫くすると私たちは食堂へ到着した。


「新田先輩、こっちです!」

 カウンターでA定食を受け取り、食堂内を見回していると、奥の方から私を呼ぶ声がした。見ると、鈴木さんがこちらへ大きく手を振っていた。私が席につく、鈴木さんは礼儀正しく「いただきます」と合掌してから弁当のふたを開けた。

「相変わらず綺麗なお弁当ね」

「えへへ、私料理下手なので、本当に尊敬します」

 幸せそうな微笑みを浮かべてそう言う鈴木さんは、ハンバーグを口に運んでより一層嬉しそうに目を細めた。

「同居人さん、お料理上手なのね」

「はい。私、料理だけじゃなくて家事も苦手なので、本当助けてもらってばかりなんです。だから仕事だけでも……って思ってるのに失敗ばかりで……」

 悲しそうに俯く鈴木さんに、私は慰めの声をかける。

「きっと、そうやって感謝してもらえるだけで同居人さんは嬉しいと思うわ。鈴木さんはその人に大切にされてるのね」

 そう言うと鈴木さんの顔は再び明るくなり、私の大好きな笑顔を見せてくれた。

「ありがとうございます。大切にしてくれるし、料理もうまくて、家事もできて、本当にかっこいいんですよ」

 私はその一言を聞き洩らさなかった。”かっこいい”、か。ということは彼氏の可能性が高いのか……。いや、まだ確定したわけではない。

 チャンスはまだまだある。もっと、鈴木さんのことが知りたい。

 目の前の愛しい後輩と言葉を交わしながら、その笑顔を目に焼き付けた。

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