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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
35/107

君の帰りが待ち遠しい

「あー……ひまぁー」

 ソファの上で何度も寝返りをうち、傍に置いてあった小説をちらと読んではすぐに放り出し、テレビは点けたものの興味を惹く番組はやっていなかった。何も手に付かない、何をしても満たされない。私は今そんな状況下に置かれていた。

 折角の日曜日なのにもかかわらず何故こんなにも暇を持て余しているのか。その答えは、非常に単純であった。

「ミカン早く帰ってきてよー……」

 愛しの同居人(ペット)が買い物に行ってしまったからである。


 ◆


 朝起きると―いや起きたの十時過ぎだけど。ともかく私が目を覚ましてリビングへ行くと、ミカンはすっかり着替えを済ませて頭には橙色の帽子を被っていた。

「おはよう林檎。私ちょっとスーパーのセールに行ってくるから留守番頼むぞ。朝飯はテーブルの上にあるからそれ食べろ。じゃ、行ってきます」

 口早にそれだけ言い残したミカンは颯爽と玄関を出て行ってしまった。留守番て子供じゃあるまいし、そもそもここの家主私なんだけど。

 私はミカンに言われた通り遅めの朝食を摂ったあと、特に何をするでもなくソファに腰を落ち着けた。スマホを弄り、ぼぉっと惚けたり、そんな風にしている間に、気が付けば私は寝転がって天井をただただ眺めていた。何故か? そう、暇だからである。

 ミカンは普段平日に必要な買い物を済ませるから、休日は基本ずっと家にいる。だから、仕事中以外で私の傍にミカンがいないということは滅多にないのだ。

(ミカンがいないと何もする気が出ない……こんなことならついていけばよかった)

 しかし後悔しても遅い。なんなら今頃買い物を終えて帰路についている頃だろう。だからもう少しの辛抱だと、自分に言い聞かせる。いい加減子供じゃあるまいし、一人が寂しいだなんて恥ずかしいじゃないか。 

 すっかりミカンの匂いが染みついたマカロンのクッションを抱きかかえ、私はミカンの帰りを待った。

 大好きな君の帰りが待ち遠しい。

  

 ◆


「あっつ……」

 私は人目を気にしつつもシャツの襟元を摘み、身体へ風を送った。梅雨が明けたと思ったらこの暑さだ。この気温の落差で林檎が体調を崩さないように気を付けなければ……。

 鋭い直射日光に耐え続け、漸く到着したスーパーマーケットの店内は、極楽と称するに値する涼しさだった。入口付近のかごを手に取り、買い物メモを見ながら各種売り場を回る。生鮮食品のコーナーで品定めをしていたら、近くのアイスコーナーの大きなPOPが視界に入り込んできた。折角だ、予定にはないがアイスでも買っていこう。林檎が嬉しそうにアイスを口に運ぶ様が目に浮かび、思わず頬が緩んでしまう。

 あぁ、早く林檎の待つ家へ帰りたい。店内を回る足を、少し早めた。


 スーパーマーケットの店内を出ることに数秒躊躇ったが、諦めて再び炎天下に我が身を差し出す。家までの道のりは過酷そのものだが、林檎の元へ戻るには歩くしかないのだ。仕方あるまい。

(林檎の自転車借りれればいいんだが、乗ったことないしなぁ……)

 人の形になって随分経つとはいえ、自転車に乗った経験がない私にとってはそれはひどく難しく見えた。だから、林檎が平然と自転車にまたがって会社へ向かう姿に、いつも密かに嘆息している。

 私も乗れたら近場の買い物ももっと楽になるし、少し遠出してショッピングモールでの買い物だってできるはずだ。

 帰ったら、林檎に自転車のコツでも聞いてみるかな。私はずり落ちかけた買い物袋を肩にかけなおし、まっすぐ前を向いて帰路を速足で進んだ。

 早く林檎の顔が見たい。折角の休みの日、林檎がずっと家にいる日なのだ。平日の日中のように、寂しくない幸せな日。セールがなければずっと林檎の傍で一日を過ごしていたはずだ。

 もうとっくに子供じゃないが、決して口にはしないが、林檎がいないと寂しくてたまらないのだ。

 大好きな君の元へ私は駆け出した。

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