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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
32/107

君は酒に溺れ、私は君に溺れ

「みかんなんかおつまみつくってぇ~!」

「はいはい、作ってやるからその缶でやめとけ」

 私はソファから腰を上げ、隣の飲んだくれに強く握られた手を引き抜いて台所へ向かった。手を離したことで残念そうな声が林檎から発せられるが、気にせず冷蔵庫からつまみの材料を取り出す。つまみを作れと言っといて席を立ったら寂しがるとはどういうことか、酔っぱらいの考えは分からん。アルコール中毒者と揶揄(からか)おうとしたが、ニコチン中毒者と返されたらぐうの音も出ないのでやめておいた。

 最近互いに酒とタバコへの依存が高まっている気がするから、近いうちに軽く規制した方がいいかもしれない。

 私は今まで一週間にひと箱という制約のもと、基本的に一日一本吸っていたため二週間でひと箱でも十分だった。しかしここ数か月は一日に二、三本吸ってしまっている。成人男性の一日の平均喫煙本数に比べれば大したことはないし、制約も守れてはいるが、私にとっては大きな悩みだ。

 林檎も林檎で、飲酒は金曜日だけという制約があるものの、今日のように五本も飲んでしまってはあまり意味がない気がする。いや、もし飲酒の制限をなしにしようものなら、こいつは毎日のように四、五本飲むだろう。実際、まだ一人と一匹の生活だった頃は毎晩のようにビールを数本飲んでいた。その様子を見ていたからこそ、飲酒は金曜限定という制約を課したのだと、今更ながらに思い出す。


「ほれ、つまみ出来たぞーって……おい」

 私が盆にニンニク風味の揚げパスタを乗せてリビングに戻ると、丁度林檎が六本目の缶ビールのプルタブにその華奢な人差し指をかけたところだった。私の気配に気が付いた林檎は蕩けた笑みを私に向けると、プシュっといい音を立てて六本目を開けた。

「このアルコール中毒め……」

 五本目でやめろと言ったが、酔っぱらいに言葉だけの注意は無意味だったか。私は盆をローテーブルに置くとビールの入った段ボールと冷蔵庫の中の冷えたビールを別の場所へ隠す。あの様子ではこうでもしないと七本目に手を出しそうだからな。

 リビングでは林檎がポリポリと幸せそうに揚げパスタを食べてはちびちびビールを飲んでいた。隣に腰を下ろすと早々に右手を絡めとられる。その手から伝わる体温はすっかり熱を帯びており、見なくても顔が真っ赤になっているのは想像ができた、

「えへへ、みかんもびーるのむぅ?」

「結構です。それ飲んだらもう寝ような」

「んぅ~まだのむぅ……おぇ」

「頼むからここで吐かないでくれ……」

 私は肩にもたれかかってきた林檎の髪の毛を手で整えながら、その朱に染まった顔を眺めた。決して酒には強くないくせして、毎度毎度よく飽きもせず酔い潰れるまで飲めるものだ。酒は呑んでも飲まれるな、というが、是非ともそれを林檎の座右の銘にしていただきたい。

 しかしこんな酔っぱらいでも、たとえ本当に私の真横で吐かれても、強引に酒臭いキスをされても、私は林檎を嫌うことはできないだろう。制約をこっそり破っていても、きっと愛してしまう。

 それは、私自身が林檎への愛に溺れているからだ。

 私は今日も、一晩限りの酒に溺れた同居人と、長い長い夜を過ごす。


「おええええ」

「うわっホントに吐く奴があるか!」

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