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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
31/106

君の照れ顔が見たくて

「二名様ご案内しまーす」

 今日は珍しくミカンが外食をしたいと言い出した。たまにカフェでお茶をしたりすることはあれど、普段は私の健康体を維持するために外食には反対していて、その代わり家で絶品かつ健康な食事を毎日作ってくれている。しかし、二か月に一度くらいの頻度で「たまにはな」と言って外食をするのだ。

 ちなみにミカンが外食をあまり好まないのにはもう一つがあって、それはミカンの頭に生えている耳だ。

 当たり前だが、ミカンの耳を他人に知られてしまうと大問題だ。以前は外出時はずっとフードを被っていたが、最近はピアスと一緒に買った帽子を被っている。

「フードずっと被ってると、周りから変な目で見られるんだよな」

 帽子を買う前のミカンはそれが原因で買い物が少し憂鬱だったらしい。しかし帽子を買ってからはそんな悩みもめでたく晴れ、周りから変な視線を浴びることなく買い物できているようだ。我ながらいい買い物をしたなと言ったら、調子に乗るなとデコピンされた。

「ミカン、鞄こっち置くから頂戴」

「ん、ありがとう」

 椅子に腰かけようとしていたミカンから鞄を預かり、私はミカンの向かいのソファ席に二人分の鞄を置き、その隣に座った。そういえば何気にいつも私上座に座ってる気がするけど、まさかミカンは意図的に自ら下座に座っているのだろうか。もしそうだとしたら、一体どこでそういうのを知るんだろうか……。

「……ミカン、上座下座って知ってる?」

「ん? 一般常識だろ、それくらい知ってるさ」

 自慢するそぶりもなくただ淡々と言ったミカン。当然だと言わんばかりのその表情に面食らったが、私はふと思い出した。

「そういえば、就職する前に社会人マナーの本買ったけど、もしかしたらそれ読んだの?」

「そうだが……。というかそれより、早く注文する品を決めろよ」

 どうやら当たりのようだ。自分用に買ったものだったが、思わぬところで二度目の活躍をしていたことに軽く嬉しさを感じた。

 ミカンに急かされるがままに私はメニューを開き、そこに記された数々の料理に目を落とす。ちらと目線を上げると、ミカンも同様にメニューを眺めていた。下を向いているとよく見えるそのまつ毛の長さに羨望していると、不意に顔を上げたミカンとばっちり目が合った。

「な、なんだよ。じっと見て」

「んーん、やっぱりミカンの顔綺麗だなーって」

「はぁ?」

 戸惑ったように少し頬を赤らめたミカンは、メニューを持ち上げて顔を半分隠してしまった。照れ屋なのはいつもだが、今日は外ということもあって五割り増しくらいで照れている。私も性格が悪くなったもので、そんなミカンを見てついつい悪戯心が芽生えてしまった。

「ミカンって肌荒れないし、めっちゃ白くて綺麗だよね」

「……林檎だって肌荒れしてないだろ」

「髪の毛もグレーアッシュで格好良いし」

「も、元の毛色だし……ていうかちょっと待ってくれ……」

「モデルさんみたいな体型しててホント――」

「林檎!」

 突然大声で制され、私はとっさに口を閉じた。付近の他の客も何事かとこちらに視線を向けている。流石にやりすぎたかと怒られることを覚悟したが、ミカンは怒鳴ったりすることなく、またメニューで顔を隠して小さく呟いた。


「は、恥ずかしいから……帰ってからまた、続き聞くから……」


 普段のミカンからは想像もできないような、か弱くて可愛いその声に私は思わず固まってしまった。そして、お互いが赤面したまま沈黙は続き、結局注文したのはそれから暫くした後だった。

 家に帰ってからまたミカンを褒め殺しにしたのは言うまでもない。

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