君が浮気をするなんて
嗚呼、手が出そうだ。思わずその頬に平手打ちしそうになるのを、私は下唇を噛んでぐっとこらえた。
今私は、目の前で困ったような顔で正座している林檎を見下ろしている。
なんで、そんな顔なんだ。「ミカンが面倒くさいことを言い始めた」とでも言いたそうなその表情に、私の苛立ちはさらに募っていく。悪いのは、どう見たって林檎のほうなのに、まるで反省の色が見えない。本当に、飛び降りてやろうか。
なぜ私がこうして涙を流しながら林檎に対面しているのか。それは、きっと無いだろうと信じていたことが起きてしまったからだ。
――林檎が、浮気をした。
机に、写真が無造作に置かれていた。そこに写っていたのは、他の奴に口づけをしている林檎。
私はすぐに問い詰めたが、当の林檎は困ったように、呆れたように眉を下げてため息をついた。自然と涙が込み上げた。林檎にとって私とはその程度の存在だったのだろうか。恩を着せたいわけではないが、家事はほとんど私は請け負った。林檎のためを思って献立もきちんと考えたり、できるだけ出費を抑えられるようにやりくりもした。
私の素直な想いも、何度も何度も伝えた。身体を重ねたのだって、林檎も同じ気持ちだったからじゃないのか。今まで私を幸福で満たしたあの言葉は、すべて嘘だったのか。
私は、黙ったままの林檎を、黙ってにらみつけた。
◆
さて、ミカンが面倒くさいことを言い始めたぞ。
私は涙交じりに難じてくるミカンの声を右から左へ聞き流しながら、どうしたものかと頭を悩ませる。そもそも、ミカンは今は同居人としての立ち位置が一番当てはまっているのだから、責められる筋合いはないと思うのだが……いや、こうなったミカンに反論しても逆効果だろう。それにしても、相変わらず嫉妬深い狼だ。
いや、確かに私にも非はある。昨夜とある写真をしまい忘れ、それをミカンに見られたのが事の発端だ。私がきちんと隠し通していれば、ミカンを傷つけることもなかっただろう。私がそう謝罪すると、ミカンはさらに顔を歪ませてそうじゃないと私を叱咤した。あーあー、折角の綺麗な顔が台無しだよ。と私はさらに心の中で溜息を吐いた。
だが、決して、断じて、神に誓って、ミカンに飽きたわけではない。今もこれからも、ずっと大好きだ。恩だって感じてる。何度も伝えた想いに、嘘偽りはない。だから、このままギスギスするなんて嫌だ。
……素直に、謝ろう。すぐに許されなくても、何度も謝ろう。私はミカンを見上げた。
「……ごめんなさい」
「許さない」
「もう猫カフェ行かないから……」
「うるさい! そんなの信じれるか!」
根気よく、謝り続けよう。




