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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
26/102

君と夢見心地

 口から煙を吐き出し、私はベランダの柵に身を預けながら朝焼けを眺めた。

「良い天気だな……」

 見上げた空には雲ひとつなく、青と茜の混ざった色彩が幻想的な雰囲気を醸し出している。そしてこんな良い天気に吸う煙草も美味い。携帯灰皿に灰を落として振り返ると、静かな居間がただそこに広がっている。

 林檎はまだ夢の中だろう、ついさっきまで裸のまま寝息を立てていたからな。普段なら、営みの次の日に先に目を覚ますのは林檎なのだが、今日は珍しく私が早朝に目を覚ましたのだ。二度寝する気にもなれなかったので、今こうしてベランダで一服している。

 それにしても不思議なものだ。長年ペットとして寄り添ってきた私が、飼い主の林檎と身を重ねる関係になるとは。今更ながらその珍妙な関係に、私は苦笑した。シガレットを咥え、スマートフォンの待ち受け画面を開いて私は頬を緩めた。林檎には恥ずかしいから内緒だが、私の待ち受けに設定してある写真は昔の林檎と私の写真だ。そこに映っている林檎は懐かしい制服を身にまとっている。これは中学の時の制服だ。

 まだ狼の私と中学生の林檎。写真の中で、私は林檎にキスをされていた。確か、林檎が高校に合格した時に母親―檸檬れもんに撮ってもらった写真だったはずだ。以前林檎が持っていた写真データを二人で眺めていた時に見つけ、こっそりとそれを私のスマートフォンに送って待ち受けに設定しておいた。

 今ではキスなんて何度もしているが、未だに慣れというものは来ない。いつも林檎と生活しているだけで、私は幸せで満ち溢れている。そして、林檎も同じ気持ちであるという事実が堪らなく嬉しい。

 灰を携帯灰皿に落とし、火を消すと私はベランダを後にした。そろそろまた眠くなってきたし、ベッドへ戻るとしよう。

 最後に口から吐き出した煙が、そよ風に揺られてそっと消えた。


 ◆


 不意に隣で動く気配を感じ、私は目を覚ました。まだ日が昇っていないのか、部屋全体は薄暗い。

「すまん、起こしたか」

 目が合ったミカンは申し訳なさそうに耳を垂れさせると、私の方へと身をよじって近づいてくる。

「んーん、大丈夫。どうしたの」

「ちょっと煙草吸ってた」

「そっか」

 密着してきたミカンに抱きつき、胸に顔を埋めた。いつもの柔軟剤の香りと、染みついた煙草の匂い。それらとは別に感じるこの落ち着く香りは、ミカンの香りだろう。その匂いが大好きだと率直に伝えると、ミカンは照れたように私の頭を乱暴に撫でまわした。

 しかし、こうして温もりに包まれていると胸の奥が暖かくなるのを感じる。これまで何度も何度もミカンとは身を重ね、抱きしめあっているというのに、未だに幸せは薄れない。

「ねぇミカン」

「なんだ」

 私は顔をあげてミカンの優しい目を見て呟いた。

「ずっと大好きだよ」

 ミカンはそれに狼狽えて目を泳がせたあと、誤魔化すように私を強く抱きしめてきた。少し苦しいが、とても落ち着く。

「私も、大好きだ。ずっと、これからも」

「えへへ、嬉しい」

 私とミカンは見つめあい、それからキスをして、お互いに照れ笑いを浮かべた。ミカンは眠たそうに大きくあくびをすると、再び私をぎゅっと抱きしめた。

「もうちょっとおやすみ、ミカン」

「ん、おやすみ」

 ミカンの胸に顔を埋め、私は目を瞑った。まだ、日は昇らない。

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