君が格好良くないわけがない
「なぁいいじゃんちょっとだけ! な、俺らとあそぼーぜ?」
「あ、あのだから……」
「マジでおすすめのとこあんだって!」
「いい加減しつこいぞ」
通行人たちは私たちの周りを避け、少し大回りで通り過ぎていく。ミカンと久しぶりにランチして折角いい気分だったのに、帰り際に大変面倒くさいことになった。
突然声をかけてきたのは金髪にグラサンという、いかにも「輩」といった男性だ。
「ねぇ君たち可愛いね!」
そう声をかけられ、そのまましつこく誘われ続けて帰ろうにも引き留められてしまう。最初の方は適当に流して竹ど、流石にそろそろ鬱陶しい。もうかれこれ十分は経過している。ミカンに至っては身体の後ろで中指を立て始めた。
周りの人たちは面倒くさいことに関わりたくないのか、それともこの男性のチャラさが近寄りがたいのか分からないが、助けてくれる見込みはなさそうだ。
「お茶するだけでいーからさー、ね?」
「あの、本当に迷惑なので……」
「いい加減迷惑だからさっさと帰れ」
私がやんわりと断ろうとするも、遮るようにミカンが強い口調を男性に投げつけた。相当イラついてるみたいだ。男性はそのミカンの言い方に腹を立てたのか、露骨に態度を悪くし始めた。
「んだよ折角誘ってやってんのによ? これだから馬鹿な女はよォ」
私は目線を下げ、ずっと口を結んでいた。男性が怖いからではない。怖いのは私の隣、ミカンだ。 悪態をつく男性に、今にも殺しそうなくらいのガンを飛ばしている。気が付いたら背後で立てた中指が両手になっていた。
男性ははぁと溜息を吐き、私たちを睨み付けて方向転換した。漸く諦めてくれたかと安堵したが、最後に吐き捨てたその言葉に私は激しい怒りを覚えた。
「ちっ、いいよもう。このブスどもがよ」
気が付けば私とミカンは男性を捕まえ、私は詰め寄り、ミカンは胸倉に掴みかかって同時に叫んだ。
「ミカンがブスなわけないじゃん謝ってよ!」
「おい今林檎に何て言った、訂正しないと殺すぞ」
私たちの―主にミカンの―気迫にたじろいだ男性は、舌打ちをして逃げるように走り去っていった。その後ろ姿が見えなくなると、私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「あの人たち最低だね、ミカンこんなにかっこいいのに」
我が家へと向かいながら、先ほどの男性のことを口にする。本当、ミカンのどこを見てブスなんて言ったんだろ。目無いのかな。ミカンは嬉しそうに目を細め、私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「そうだな、林檎も可愛すぎるくらいなのにな」
「えへへ、ありがとっ」
互いに照れ笑いを浮かべながら、私たちはぎゅっと手を繋いだ。誰が何と言おうと、今日も私の同居人は世界一かっこいい。
……まぁ夜は世界一可愛くなるんだけど。