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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第1章
20/106

君への本命チョコレート

 ――君の小さな寝言で、私は目を覚ました。

 裸で眠る君は気持ちよさそうに頬を緩めて、「りんご」と、私を夢に見ている。裸で寝ているということは、まぁ事後である。昨晩はお楽しみでした。そう、お楽しみ、でした……。

 昨晩の行為を思い出した私は、顔を両手で覆って腹の底から溜息を吐いた。

(昨日のミカンめっっっっちゃ可愛かったぁぁぁ)

 頬を真っ赤に染めて私を求めるミカンが脳裏に浮かんでくる。それはいつもの営みの何倍も、欲情にまみれた顔つきだった。


 ◆


「そうか、バレンタインか」

 本日の家事を終えたミカンは私にチョコレートを手渡され、数秒遅れて遅れてそのチョコの意味を理解した。

 今日は二月十四日、女性が意中の相手にチョコと想いを届ける日だ。まぁ私の意中の相手は言わずもがなミカンであり、そんなミカンにあげるのだからと、腕によりをかけてチョコレートを作ったのだが……

「林檎が、作ったのか……」

 手の中のチョコレートを眺めるその目には明らかに不安が募っており、なんなら微かに手が震えている。確かに私は料理が絶望的にできないが、流石にチョコレートを劇的な不味さにする技術は持ち合わせていない。なんらチョコを溶かして、ちょっとひと手間加えて、また固めただけである。これで不味くなったらそれは最早才能だ。

「その”ひと手間”が怖いんだよ……。変なもん入れてないだろうな?」

「どんだけ信用ないの私……恋人でしょ、信用してよ」

 恐る恐る。そんな言葉が当てはまるような表情で、ミカンは私の作ったチョコを口に含んだ。咀嚼音だけが、この部屋に音をもたらしている。

 ごくりと飲み込んだミカン。その表情は柔らかく、私はガッツポーズを決めた。

「どうよ、美味しいでしょ」

 疑って悪かった、と謝りながら私の頭を撫でたミカン。その頬は朱に染まっており、暑そうに自分の顔を手で仰いでいる。

「なんか身体が熱いんだが……何か入れたか?」

 隠す気は毛頭ない。私はミカンに小瓶を手渡した。そして素直に、笑顔で、その”ひと手間”をミカンに伝えた。

「お前、これまさか……」

「うんそう媚薬」

「なっ……!」

 チョコレートって元々媚薬効果あるんだって。そこに媚薬を加えたら……ねぇ?

 こちらも照れそうなほど顔を赤くしたミカンの手を取り、寝室へ強引に連れ込む。



「林檎……私……もう……」

 全身を火照らせたミカンは欲情と理性の葛藤の末、私に腕を伸ばした。その身体を抱き、ベッドに押し倒す。

「ミカンの身体が、私へのバレンタインチョコ。ってことで」

「……ばか」

 

 ◆


 媚薬とは恐ろしいものである。言い表すのも躊躇われるほどの激しい営みが、私の頭から離れない。

 まだ目を覚まさないミカンの顔を眺めていると、昨晩のあの火照って欲情のままに私を求めてきたミカンを思い出してしまい、私の興奮がまたぶり返してきた。

(来年はもっとすごいのを入れよう……)

 ミカンの頬にそっとキスをして、私はもう一度目を瞑った。幸せ過ぎるバレンタインデーだった、とあの悦びを噛みしめながら。

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